最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】26日目 その2

「おはよう! 拓海クン! 気分はどうかな!」

 

 3度寝から起床して食堂に向かった時のことである。既に待機していた蒼月は朝食を取っていた。

 

「大分スッキリした。昨日はありがとな」

「お安い御用さ!」

 

 キラリと白い歯を光らせていた。拓海も驚く位の滅私奉公ぶりだし、彼の功を労える物なら労いたい気持ちはあったが。

 

「す~みの~!」

 

 川奈がブンブンと手を振っていた。気さくな挨拶をしているが、注視してみれば目が血走っていることに気付くだろう。

 絶対ロクでもないことが起きるパターンだ。と、拓海は確信にも近い何かを感じていたが、相手にしない訳にもいかない。

 

「お、おぅ! 川奈。おはよう! どうした、寝不足か?」

「うん! ちょっと色々と考えることがあって眠れなくてさ。相談に乗って貰って良いかな?」

 

 本能が警鐘を鳴らしていた。ここで頷くことは鴨がネギと鍋をしょって鍋の素を携えて、おまけに〆のうどんまで装着して向かう様なモンだぞと。

 だが、川奈も大切な仲間だ。もしかしたら、本当に最終防衛学園や自分達の未来を案じているのかもしれない。

 

「つばささん。あまり本調子じゃない状態で一緒に過ごしても楽しめないと思うかな。まずは体調を回復させよう?」

「その回復に付き合ってくれると嬉しいかなって」

 

 RPGのループする選択の様に。何を提案しても最終的には、そこに回帰するタイプのパターンの様に思えた。

 

「いいぞ。オレに出来ることがあれば、出来る限りはやるぞ!」

「うん? 今、何でもするって?」

「言っていないよ」

 

 予防線を引いたのに、都合よくその部分だけ聞き取っていないことにしようとしたが、蒼月にインターセプトを食らっていた。

 で、早速川奈に手招きされて、彼女と隣同士の席に座った。見れば彼女のプレートにはハンバーガーやポテト等、ファストフード類が置かれていた。

 

「澄野に食べさせて欲しいな~?」

「だったら、手づかみ系の奴じゃなくてもっと食いやすい物を選んで欲しかったんだけど」

 

 朝食からロクでもない目に遭うことが確定した。まず、ハンバーガーを差し出した。ハンバーグ、レタス、トマト、チーズが挟まれたオーソドックスな物で、中にはケチャップとマスタードがべっちょり。

 これを齧った際に起きる弊害は直ぐに予想できた。拓海包み紙を用意しようとしたが、既に時は遅し。川奈が齧りつくと同時にソースがこぼれ出て、拓海の指に掛った。

 

「あ、ごめん」

 

 いいよ、拭くから。というよりも先に、川奈の舌が指を張っていた。ソースを舐め取っていた。朝からレベルが高かった。

 なので、拓海はソースをこぼれさせないように絶妙に位置を変えつつ食わせるという、奇妙な攻防を繰り広げていた。バーガー自体が大きくなかったので、割とすぐに食い終えたが、ポテトが残っている。もはや何が起きるかは分かり切っていた。が、拓海の予防は早かった。

 

「ちょっと待ってくれ。フォークを取って来るよ」

 

 このままではポテトを掴んだ指ごとしゃぶられかねないと判断して、フォークを取りに行こうとしたが、蒼月が首を横に振っていた。

 

「駄目だ。どういう訳か、食器洗浄中だって」

「洗浄中ならしょうがないよね」

 

 なら、誰かに譲って貰おうかと思ったが、こんな日に限って皆はピザやらホットドッグやら、おにぎりやら。箸やら何やらを使わない物ばっかりだった。

 諦めて、ポテトを指でつかんだ。油でギトギトしている時点で嫌だったが、塩迄ふんだんに塗されていたので、当然手が汚れる。

 

「(そう言えば、カルアとこんな風に一緒にファストフードで飯食ったこともあったよな……)」

 

 あの時は、微笑ましいやりとりがあったなぁ。目の前で、油と塩で汚れた自分の指を咥えて、舐め取っている川奈が居た。もう現実逃避するしかない。

 ならばと拓海もヤケクソになった。少しでもこんなことをされるのを防ぐ為に、川奈が取って来たポテトを自分で処理し始めた。これ以上、食う物がなければどうにもならないだろという考えだ。

 

「いや、普通に追加で取って来られるだけでは?」

 

 と、蒼月から当たり前の回答をされていた。

 だが、川奈は違った。澄野の行動を咎める様にして、彼の口に食らいついた。そして、口中で咀嚼途中のポテトを舌で掬い取り、あるいは吸い上げていく。朝っぱからポテトディープキスに発展していた。そんな光景に堪り兼ねたのか、ついに厄師寺が歩み寄って来た。

 

「ここは! 公共スペースなんだよ! やるんなら、他所でやれ!」

「チェッ。分かったよ」

 

 あまりに真っ当で常識的な注意だった。川奈が不機嫌さを隠しもせず、拓海の腕を引いて食堂から出て行った。そんな二人を見ている厄師寺に蒼月が声を掛けた。

 

「拓海クンのことが心配?」

「そりゃな。あの女は特にイカれているからよ」

 

 自分よりも遥かに強大な暴力の持ち主であり、なおかつ画期的な発明品も作り出せると。エンジニアキャラにあるまじき万能ぶりの代償に、拓海への執着は誰よりもヤバい女。厄師寺が警戒しない訳が無かった。

 

「よし、じゃあ。皆で彼女の様子をモニタリングしよう」

 

 蒼月は何処からかタブレットを取り出した。画面には、先程出て行ったばかりの拓海と川奈が映し出されていた。厄師寺以外のメンバーも集まり始めていた。

 

――

 

 拓海達が向かった先は、川奈のホームベースとも言えるガレージだった。部屋の隅にはよく分からない発明品が並んでいる。

 

「なぁ、川奈。これは?」

「それは『あいつはいてないぜ』だね。説明するよりも使ってみてよ」

 

 ポンと拓海は装置を渡された。よく分からないが、発明者である彼女が使っても良いというのなら使ってみるとして。ボタンを押した。数秒ほど後、自分の手にはスッケスッケのパンツが握られていた。

 

「うわ!?」

「それ、上げるね」

「いらないよ!!」

 

 言い方からして、多分。彼女のだろうか? しかも微妙に温いので、今まで履いていたんだろうか。一体、どんなテクノロジーを使っているんだかと、彼女の才能の無駄遣いぶりに戦慄していた。あまり発明品には触れないでおこう。

 前にもガレージに来て整理やら何やらを手伝いつつ、セクハラをされた覚えはあるが、今回は何をするというのだろうか。

 

「えっとね。じゃあ、澄野にはこの激イキ改造ベッドに寝て貰って」

「よし。オレは部屋に戻るからな」

 

 なんか怪しいアームが大量に取り付けられたベッドを紹介されたので、拓海は直ぐに引き返した。だが、ガレージの扉は自動的に閉まった。勿論、開くことはない。

 

「冗談だって~。もしも、頷いてくれたら澄野が私以外の誰を相手にしても不感症になるだけで!」

「オレの性感帯には不干渉でお願いします!!」

 

 冗談で済ませて良い範囲ではない。だが、部屋に閉じ込められたのはマジだった。川奈がジリジリと近付いて来る。

 

「この学園に居たら澄野の貞操が大変なことになるから、私が守らないと。って、ずっと思っていたんだ。もう、ボロボロだけど」

 

 既に男ともやっているし、女ともやっている手前。今更、貞操という響きは空しく感じるが、それでも言っておくべきことはあった。

 

「全部同意の上だ。そこは川奈が気に病むことじゃない」

「病むの! 私の!! 澄野が!!! 穢されているんだよ!!!!」

 

 急に叫ばれたので拓海の頭にキーンと響いていた。あまりの熱量に困惑するしかない。

 

「そ、そこまで?」

「澄野はね。皆の【偶像】と言っても良い程の存在なんだよ。私達の心の寄る辺なの。だから、誰にでも公平にいる中……私だけ特別扱いじゃなきゃヤダ!」

「寄る辺って。そんなにオレってなんかやったっけ?」

 

 リーダーシップという面では雫原の方が上だし、気配りや思い切りの良さなら面影の方が上だし、強さで行くなら川奈の横に並び立つ者の方が少ない。

 現在の自分は情報面や戦闘面においても何一つ秀でた所はない。例え、周回を積み重ねたとしても、皆の寄る辺になる程ではないと思っていたのだが。

 

「うん。不思議だけど、澄野には皆を惹き付ける何かがあって。私もね、色々なTLで助けられて、その。えへへへ……」

 

 はにゃぁと、川奈は頬を緩めていた。その綻んだ表情に拓海はきゅんとしていたが、話を聞く方を優先するべきだと判断した。

 

「何があって?」

「例えば、侵攻生ハントをする【デスゲ】TLじゃ、自分の手が汚れてでも助けてくれた澄野に惹かれて、私は恋人になったし、【恋しちゃったんだ】TLでも恋人になったし、【TS】TLでもね……」

「いや。【TS】TLは蒼月と結ばれたって聞いたけれど」

「アレは皆が勝手に言っているだけだから。私が知っている【TS】TLは女子になった澄野が私と結ばれるって話だから」

 

 果たして彼女の強がりか、本当にそう言う【TS】のTLがあったのかは判断しづらい所ではあった。彼女が擦り寄って来た。

 

「正直、人類もフトゥールムもどうでも良いの。私は澄野と一緒にいる時間が全部だし、それ以外は要らない……」

 

 重い。愛が兎に角重い。一体、何が彼女にそこまで言わせているのだろうか。いや、彼女にはちゃんと人工天体に帰りたいと思う理由があったはずだ。

 

「いやいや。川奈のお爺さんが持っている工場はどうなるんだよ?」

「それはもう、どうでも良いんだよ。大事なのは今ある物でしょ?」

 

 彼女が奮い立ち、戦う理由にもなった程の場所をどうでも良い、と。

 特防隊のメンバー同士のいざこざなら分かるが、人工天体の中に在るハズの大切な物を簡単に切って捨てるなんて、何があったのか。

 

「どうでもよくないだろ。そんな簡単に切り捨てられる物なのか?」

「その内、話してあげるよ」

 

 大事な部分をはぐらかされてしまった。もう少し突っ込んで聞きたい所だが、彼女の手にはVRゴーグルが握られていた。

 

「代わりに、別TLを体験させてあげるから」

「そんなことが?」

「うん。記憶領域の一部をコピーして映像化する技術も覚えたからね。ただ、完璧って訳じゃないから、思った物が見れるとは限らないけれど」

「それでも見たい」

 

 自分が知っている1周目のTL以外にどんな世界があるのだろうか。左側VRゴーグルを装着して映像を再生してみた。

 

――

 

「この化け物共がぁあああああ!」

 

 アダムキューが叫んで突っ込んで来たが、残念ながら恥じ返されていた。何故なら、銀崎が操るガオガイガー型学生兵器(クラスウェポン)があったからだ。

 よく見れば、特防隊のメンバーの殆どが180cm以上の身長を有しており、学生兵器(クラスウェポン)も物騒な物ばっかりだった。

 

「うぬらが悪党ならば払いのけるまでよ!!」

 

筋骨隆々となって、2m超えの身長を手に入れた凶鳥は斬馬刀の様な刀を振るって、侵攻生物達諸共アダムキューを切り飛ばしていた。

一緒に来ていたパクロンも逃げ出そうとしたが、残念ながら黒王号みたいなバイクに乗っていた厄師寺に阻まれていた。

 

「はわ。はわわ」

「テメーは不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったんだぜ……」

 

 !!?という吹き出しが出てきた気がしたが、厄師寺が手にしていた電柱みたいなバットで吹き飛ばされていた。

 

――

 

「何が見えた?」

「なんか。皆がムキムキになっているTLが見えた。確か、前に喪白から聞いたけれど【筋肉】TLだっけ?」

「そうそう。じゃあ、とりあえず目当てのTLが見えるまで総当たりしていこうか!」

 

 かくして、川奈発明の追走型VRゴーグルによって、皆が体験して来たTLの片鱗を見せられることになった拓海だが、ガレージには悲鳴が木霊していた。

 

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