「おい! イヴァー! 何時まで、あの女を飼っているんだ!」
イライラした様子でイヴァーに詰め寄っているのはアダムキューだ。未だに反攻の機会が巡って来ないことから、本人もイライラしているのだろう。
「澄野が来るまでよ。もしも、この娘を殺したら、私達全員吸収されると思う」
アダムキューは歯ぎしりする外無かった。認めたくはないが、あの特防隊の面々は自分達より強い奴ばっかりだ。
むしろ、ヴェシネスやイヴァー。敬愛して止まないダルシャーの様に対抗できる部隊長達の方が珍しい。で、そんな彼はというと。
「あ、あの。ダルシャー様。これは一体?」
ゼンタは調和の能力を使って拓海に変身していた。とは言え、本人から記憶を吸い上げた訳では無いので、見た目と声位しか再現できていないのだが。
「違う、違う。そこは父さんと呼んでおくれ」
「と、父さん……」
「ウム!」
何が『ウム!』だバカ野郎。かつて、尊敬していた大将の変わり果てた姿にアダムキューは顔を覆う外無かった。しかも、こんなスタンスでいる連中に限って強いんだから、間違っている。
「フヒヒヒ。キューもハマりなよ。スミノ沼」
クェンゼーレがマスクの下で浮かべているであろうねっとり笑顔が貫通して来そうな物言いに、キューは首を振っていた。
「うるせぇ! 俺はパクロン一筋なんだよ!」
「うんうん。それもまた、愛だね」
アダムキューの惚気に一般通過パーミスが頷いていた。そんな微笑ましい愛がある一方で、笑えないタイプの奴もあった。
「私、防衛学園に帰る……」
「目を覚ませシャンシン!! お前は部隊長なんだ! 俺達の尽力を無駄にする気か!!」
「いやぁあああ! お腹空いたのよぉおおおおお!!」
捕虜としての生活に慣れ過ぎた為、部隊長としての資格を著しく欠いてしまったシャンシンをバラガルーゾが必死に宥めていた。
「もう、管理するのが面倒臭くなったらあの学園に放り込まない? 向こうだったら、餌貰えるし」
「チュラームタミー。今はこうなっていますが、シャンシンも我々の仲間です。あまり粗雑に扱いませんように。……我々が粗食なのは否めませんが」
折角、全員揃ったって言うのにあんまりにあんまりな光景だった。コレにはムヴヴムも溜息を吐いていた。
「もしかして、僕達。向こうに居た方が平穏だった?」
「何を言っているんですか。折角、イヴァー達が助けて下さったのに」
パクロンとしては生還出来ただけでも良しとしている所なのにと考えていると、ドンと。ヴェシネスが勢いよく大剣で地面を叩いていた。
「どいつもこいつも。英雄としての自覚を欠いた愚物ばかり。フトゥールムの未来が、我々の双肩に掛かっている自覚はないのか?」
彼女の言う通り。100日目までに決着を付けられなかったら、フトゥールムの生命は根こそぎ奪われることになる。自分達は、この惑星を背負っている英雄なのだ。
「じゃあ、どうすんだよ。また、攻め込むってのか?」
アダムキューが皮肉気に言った。攻め込んだ所で碌な成果も上げられないことは分かっている。返り討ちに合うのが関の山だろう。すると、チュラームタミーが手を挙げていた。
「はいはーい! 私に提案があります!! あの、捕虜の協力も必要ですけど」
「話してみろ」
ヴェシネスに言われ、チュラームタミーは背筋に怖気が走る提案を述べた。これに反対意見を述べたのはイヴァーだった。
「希を変なことに使うならブッコロシます」
「我が妹が言うなら無理だなぁ。よし、ゼンタ。お前がノゾミに変身しろ」
「私がですか……」
元の姿に戻っていたゼンタはマスクの下で本当に嫌そうな顔をしていた。どうにも調和の能力をロクでもないことに使う人間が多い。
「相手はクェンゼーレにしておこう」
「い、嫌だ!! スミノに嫌われる役はやりたくない!!」
普段はボソボソ声でしゃべる彼が、この上ない声量で抗議していた。本気で嫌らしい。同じ様にムヴヴムも嫌そうにしていたし、ダルシャーも庇い立てていた。
「ヴェシネス。お前なら分かるだろう。嫌われるのはしんどいと」
「だが、この作戦は必然的にそういう役が必要になるのだ」
「ならば、アダムキューがやってくれるさ」
敬愛する上司だった奴になんか言われた。憎悪の化神として抗議せずにはいられなかった。
「ふざけんな! 俺にはパクロンが居るのに、なんでそんなことしなきゃいけねーんだよ!! クェンゼーレで良いだろ!!」
「何を言うか。我が愛息にそんなことはさせられんし、クェンゼーレはお前を救出する為の偵察任務に行って捕縛された。だったら、貴様が恩を返す為に動くのは当然だろう」
一応、筋は通って……。いや、通っていない。サラリと自分の子を除外している辺り、身内びいきが酷過ぎる。
だが、他の部隊長から一心に注目を集めていた。確かに、自分にはうっかり出て行って捕縛された過失はあるが。
「ちょっと待て。まさか、マジで?」
「うむ。バラガルーゾもヌガンクもお前達を助けるために出張ったのだから。今度は、お前が身を張る番だ。パクロン、辛いかもしれんが納得してくれ」
「……キュー。私なら大丈夫だから」
なんか悲壮な覚悟と共に送り出された。ゼンタもクッソ嫌そうな顔をしていたが、やるしかない。……果たして、効果がどれほどの物かは知らないが。
「やってやるよ! やってやりゃ良いんだろ!!」
キレ過ぎて本人も自分が何をしようか理解できずにいた。かくして、発案者:チュラームタミーによる、恐るべき作戦は実行されようとしていた。
~~
『ごきげんよう。マヌケな負け犬な諸君』
食堂では、ヴェシネスによる嫌がらせモーニングビデオレターが流れていたが、校内放送で掛かっている校長の挨拶くらいのBGMで聞き流されていた。
「澄野。昨日は色々見て疲れただろうから、たくさん食べて元気出して!」
ニッコニッコの川奈に用意された精力増強メニューに箸を付けながら、拓海はぼんやりとした頭でビデオレターの方を見ていた。
『貴様らがいつまでたっても人質を迎えに来んからな。我々がいつまでも大人しくしていると思ったら、大間違いだ』
画面に出てきたのはカルアの姿をした霧藤。そして、いつぞやに見た素顔のアダムキューだった。彼は何かしら変なクスリでもやっているのか、異常な位にハイテンションだった。
『イェ~イ! スミノくん見ている~! 今から、カルアちゃんに手を出しちゃいま―す!!』
『い、イヤー』
拓海は呆然としていたが、他の面々は一瞬で何かを察したのだろう。必死に笑いを堪えていた。口に味噌汁を含んでいた凶鳥は、飲み干そうにも嚥下困難な状況になっていた。
『テメェのパンツは何色だ!』
『ギャー!!!』
棒読みの悲鳴からガチ目の悲鳴に変わった。飾り気のないクマさんパンツだった。だが、彼女の抵抗を鬱陶しく思ったのか、アダムキューは彼女をひっぱたいていた。
『なめるなー! メスガキィー! 本当はファックしたいんだろうが!!』
『オフッ!!』
結構真面目に転がされて、服を脱がされようとした瞬間。背面の扉が開いた。もしや、イヴァーが助けに来たのかと思っていたら。
『どけ、アダムキュー。俺が最初に頂く』
『え?』
『ククク。ありがたく思いな。そのウス汚ねぇ異血を俺のご機嫌な子種を混ぜ込んでやるぜ』
突如として現れたレイパーBことバラガルーゾはパンツ一丁だった。ついに我慢できず、凶鳥は鼻の穴から味噌汁を噴き出していた。
「そんな!! カルアが!!!」
そして、視野が狭くなっている拓海だけが本気で心配していたので、皆が口に含んでいる物を喉に詰まらせたり、嚥下途中の物が変な所に入り込んだりして、苦悶の表情を浮かべることになった。
『ここから先は貴様らの様なガキには到底見せられない光景が続くからな。ハハハハ! これ以上、傷物になる前に迎えに来るんだな!』
ヴェシネスは哄笑を上げた。コレでビデオレターが終わったと判断したのか、背後ではバラガルーゾが上着を羽織っていた。
『あ~、さっむ』
『ちょっと、キュー! 結構本気で引っ叩いたでしょ!! 痛かったのよ!!』
『おい、ちょっと待て! ビデオ、未だ回ってんぞ! 早く切れ!』
『あ。本当だ』
ブツっと切れた。特防隊のメンバーは朝から腹筋と気管辺りに大ダメージを受けていた。唯一、拓海だけがマジで混乱していた。
「クッソ!! カルアが!! 早く助けに行かないと!!」
「落ち着いて! あの子はカルアじゃなくてゼンタ……でなくて、希ちゃんよ!」
比較的早めに回復した喪白が拓海を落ち着かせていた。むしろ、あの映像を真面目に取り扱えるピュアさに皆は微笑んでいた。
「実は怠美達って、そう言うコント的な番組に放り込まれている。ってオチじゃないよね?」
「コント的番組にしては、ターゲット層がアダルト向け過ぎでござるな。後、もしかして。向こうにもマネモブがいる感じで?」
凶鳥の鼻の穴からワカメが飛び出ていた。ようやく復帰した蒼月が言った。
「拓海クン。そろそろ、僕らの傷も癒えた頃だ。明日にでも向かおう。でも、その前に。その……恥ずかしながら、僕のことも応援して貰えると嬉しいな」
「勿論だ!! オレが出来ることなら何でもするよ!」
囚われた幼馴染を救い出す決意を胸にかけて、胸に。拓海は蒼月に大胆な報告をしていた。
「そう! じゃあ、僕らも対抗しよう! 連中の野蛮下劣なビデオレターに対する最高のカウンターを!! つばささん!」
「嫌だけど? 撮影するなら、私と澄野でやるべきだと思うな」
「落ち着いて。ここは前にも皆のビデオレターぶっぱをしたし、蒼月と川奈の収録をして送るべきよ」
雫原の提案も無くはないかと思ったが、その為にAV撮影を奨励するのはどうなんだろうと思った。
「うむ、これぞ古式ゆかしい『AV撮るわよ!』でござるな」
「あんな、コント見たいなビデオレターなんかに負けない! じゃあ、午前中は私と澄野で! 午後からは蒼月とって感じで!」
「それで行こう。僕達本物のNTRレターを見せてやる!!」
霧藤の奪還よりも明らかにやる気があるのは兎も角として、1日を掛けて二人分のNTRレターを取るという蛮行がなされようとしていた。
「もしかして、怠美達より部隊長達の方がマトモなんじゃね?」
「言うなよ……」
傍から見ていた飴宮と厄師寺は、改めてこの特防隊のイカレぶりに辟易する外無かった。