「なんでも! するとは言ったけれど! ここまでやるとは聞いていない!」
リラックスルームのシャワーを浴びた後、拓海は泣きながら愚痴を漏らしていた。流石にゲロ交換からのホモセ未遂はレベルが高すぎる。喪白が彼の背中を摩っていた。
「もう限界ね。これ以上、事態が発展したら澄野君の身が持たない。希ちゃんの救出に向かいましょう」
「まさか、身内のせいで急がされるパターンというのは予想もしていなかったでござるな。拙者の変態ぶりが霞んでしまうのでござるな」
「アンタも正気に戻るレベルなのね」
いつの間にか、メンバーに大鈴木が加わっていた。拓海の記憶の中にある2人は割と下ネタによる掛け合いも多かったが、戻って来てからはマトモな所しか見ていない気がする。本物の前では正気に戻らざるを得ないと言うことか。
「拓海。流石に、今回の件は怠美も看過できない。暫くは、ここにいる誰かと行動しよう」
常にテンションの低い彼女が、真面目に怒っていた。厄師寺を始め他の面々もコレには賛同していた。
「澄野が良いっつんなら、我慢していたけれどよ。もう無理だ。これ以上、好意を盾に好き勝手にするんなら許せねぇよ!!」
「うむ。そも、誰もが何をするにも飛躍し過ぎでござるよ!」
「そうね。特に今回の件!! 希ちゃんを利用するのは許せない!」
「これ以上、澄野を変態共の狼藉に付き合わせる気はないんだから!」
自分の為に怒ってくれるのは素直に嬉しかった。だが、1つだけ断りを入れておくというのなら。
「今回の件はアレだっただけど、他の件はオレも同意しているから……」
蒼月と川奈については保留するにして、他の皆を責めたり遠ざけたりすることは止めて欲しい。という、彼お願いに渋々と言った具合で頷いていた。
どちらにせよ。ビデオレターの件と言い、あまりモタモタしている時間も無くなっていた。その焦りが、拓海に無茶をさせたのだが。
「して。ビデオレターでは澄野殿は何時でも歓迎という風に言っていたが、何か行き方などは聞いているのでござるか?」
「いや、何も……」
部屋を調べてみたが、それらしい物は何も無かった。
どうやって自分を向かわせるつもりだったのだろうかと首を傾げていると、彼らの前にフヨフヨとドローンが降りてきた。かと思えば、映像が投射された。
『話は聞かせて貰った』
「お。カミュン殿」
投射された映像に映し出されたのは、自分達より頭一つ分位小さい少女だった。拓海の記憶には無い人物だが、凶鳥達は何か知っている様だった。
『そうか。この拓海とは始めてになるのか。わらわはカミュン。イヴァーの娘じゃ』
「……娘?」
『なんか、変なことを考えておるかもしれんが。安心せよ。わらわは養子じゃ。母上が貞操を放り捨てた訳ではないぞ』
ちょっと、ホッとした。飴宮や喪白から若干白い目で見られていたので、拓海はワザとらしく咳払いをした。
「それで。接触を図って来たのは?」
『うむ。拓海の様子は数日間モニタリングさせて貰っておったが』
数日間。というと、霧藤が攫われてから様子を見られていたという訳で。
丸子に奉仕したり、雫原とあつ~い一時を過ごして、ゲロ交換していたのも見られていたと言うことだろうか。
「もしかして、イヴァーや部隊長達も見ていたってことか?」
『母上が言っておったぞ。川奈と蒼月は異血吸収すると』
つまり、本気でブチギレているということらしい。あんなことをやられたが、それでも、仲間が殺されるのは、拓海としても望むところではなかった。
「それだけはやめてくれ。死んだら、謝罪もやり直しも出来ないんだ」
『だったら、やはり母上達の機嫌を取る他あるまい。付いて来るが良い』
ふよふよとドローンが向かった先には、大量のタレットが配備された駐車場があった。唯一、大鈴木が残した出入口だろうが、侵攻生物が押し寄せてきたとしてもミンチになって転がることだろう。
拠点まではそれなりに遠いだろうから、第2防衛学園の面々が使っていたバスを使うしかないのだが。
「タイヤが取り外されている……」
拓海が困惑していた。まるで、自分達が外に向かおうとするのを予測していたかのような周到さだった。だが、カミュンに慌てた様子はない。
『これ位はするじゃろうな。ちょいと待て』
ドローンから飛び出したアームが、近くに立てかけていたタイヤを掴み取ってはバスへとはめ込んでいく。ついでに、バスにアクセスしてエンジンまで掛けていた。
『よし。コレで出発できるぞ。早く乗れ。監視カメラを誤魔化して、発信機も切ったが、どうせすぐに異常はバレる』
「うっし。そんじゃあ、直ぐに向かおうぜ」
拓海達は次々とバスへと乗り込んで、最終防衛学園から出て行った。目指すは指定した場所に。と言うことだが。
~~
「おかしい……」
案の定というか。拓海達が出て言ってから数十分後。直ぐに、川奈は異常に気付いた。監視カメラから送られてくる映像は問題なく、学園に侵入者が出入りしたというログも残っていないのだが。
「つばさちゃん。どうかしたの?」
「うん。監視カメラの映像も、出入りの反応も無いけれど。幾らなんでも映像が普通過ぎる」
川奈のモニタには澄野達が映し出されているが、先程の出来事でショックを受けて、飴宮達に慰めて貰った後に部屋に戻って、そのまま寝静まっているという物だったが、コレには傍で見ていた面影も違和感を覚えていた。
「暢気すぎる。厄師寺君や怠美ちゃん達なら、何かしらアクションはあってもいいはずだ。こんな穏便に済ませる訳がない。送られてくる映像が偽装された物である可能性は?」
「そんなのより。こんなことが出来る奴は『カミュン』しかいない。なら、やることは1つ」
川奈と面影が向かったのは駐車場だった。そこにはあるべきはずの物がなかった。つまり、彼らはコッソリと連れ出されたと言うことだ。
「やられた。と言うことだね」
「面影!! 皆を招集して!! 澄野達を捕まえに行くよ!!」
校内放送を掛け、全員を作戦室に集めた川奈だったが、集合したメンバーからは批難轟々だった。
「オメーがいらねぇことするから澄野が出て行ったんだろうが!!」
「もう、本当に。死ね。って言葉以外、何も思い浮かばないっす」
丸子と今馬から容赦ない罵声が浴びせられ、逆に銀崎はニコニコとしていた。
「川奈さん! 僕と同じ、ヒエラルキー最下層のゴミになりに来たんですか?」
「ゴミ? コイツはゲロブタだよ!!」
「テメーも同類だよ! カス!!!」
「じゃあ、君はマゾ豚だ!!」
未だに怒りが収まらない蒼月がトップギアで暴言を吐いていた。そんな蒼月に丸子が暴言を浴びせ、暴言カウンターが入るという、ウロボロスめいた様相が繰り広げられていた。
その一方で、雫原は氷点下の視線を浴びせていた。過子がオロオロとしていた。
「雫原先輩?」
「私ね、豚の言葉は分からないのよ。だから、掛ける言葉もないってだけ」
全員からシュプレヒコールを食らっていた。理不尽でもなく当然の仕打ちだが、彼女がここでヘコたれる訳がない。
「文句があるなら、私のバス2号機に乗らなくて良いんだけれど!! そのまま、澄野がイヴァーや部隊長達に寝取られても良いなら、置いて行くけれど!!」
「テメェ! 汚ぇぞ!!!」
川奈に対する不満はあれど、ヴェシネスや部隊長達に取られるのはもっと嫌だった。少なくとも、構えている矛を一旦直す位には。
「あの。なんか、皆が集まっているから来てみたけれど。何? どうしたの?」
「あ、NIGOU。私達全員で最終防衛学園を開けるからよろしく」
「は!!?」
一般通過NIGOUが、面影から突如としてボイコット宣言を食らって呆けている間に、全員が駐車場へと向かった。
川奈が壁面のパネルを操作すると、床が開いて2号機が出てきた。引き留めに来たNIGOUも愕然としていた。
「なにこれ!?」
「こんなこともあろうと作っていたのよ!! さぁ、飛ばすよ!!」
全員がバスに乗り込み、迷うことなく最終防衛学園から2号機が飛び出して行った。残されたNIGOUとボゥっと出現したシオンが呟いた。
「僕らだけで守れるかな?」
「い、いざという時はくららちゃんが残して行った迎撃兵器を使うから……」
可哀想なことに。NIGOUは単身で本拠地の防衛を任されることになった。
最も、最終防衛学園側の面々は知らないのだが、21日に行われた大戦争の影響で、侵攻生物はほぼ限界まで出尽くしていた為、攻めて来ることなんて出来ない状態だったのだが。かくして、1本のビデオレターによって大惨事の幕が開けようとしていた。