「澄野君達がここに?」
「うむ。わらわの案内でここに向かっておる。母上達にも言っておるから、ひとまずドンパチは避けられると思うのじゃが」
問題は、カミュンが運転する一号車の後を付けて来ている連中のことである。
拓海と同乗している者達ならギリギリセーフなのだが、後続車に乗っている連中は漏れなく処罰対象である。そもそもの話、拠点がバレること自体望ましいことではない。
「ど、どうしよう。厄師寺君、怠美ちゃん、過子ちゃん以外の最終防衛学園の人達が気持ち悪くても、死んで欲しいとまでは思っていないよ」
「お主、結構言うな……」
霧藤も思うことはあったらしい。だからと言って、あんまりにあんまりな物言いだが。しかし、このまま後続車も来てしまえば、ヴェシネスとイヴァーの最強姉妹が暴れ散らかして、死屍累々と言った光景が繰り広げられるだろう。
「そうだ! 後続車バスを走行停止させようよ! そして、帰りに合流するの。もしくは帰りに修理する感じで!」
「もしや、おぬし。わらわ達側の人間か?」
品行方正な様に見えて、キッチリと助けたい人間を選別する辺り、彼女も普通の人間だった。とは言え、アイデア的に悪い物ではなかった。
「ほら。こうスパイクみたいなのを使って、タイヤをパンクさせるとか」
「無駄じゃ。向こうには川奈がおる。ハードウェアの故障ならどうにでもされる」
戦力と技術力を兼ね備えて、パーソナリティで大きく引き算される。それが『川奈つばさ』という人物だった。
「ソフトウェア方面は?」
「その面で行くか。夜間の自動走行、盗聴器、ナビゲーションシステム。わらわの叡智で叩いてやるか」
ハードウェア面での開発力は川奈に分があるが、ソフトウェア方面ではカミュンの方が強かった。彼女は直ぐにドローンを介しての工作を始めた。
――
さて、このスクールバス。便利な移動手段であるが、運転できる人間は限られている。SIREIやNIGOU。カミュンの様な特殊技能の持ち主以外に運転が出来る人間と言えば、川奈と数人しかいない。
バスを長距離運行させる場合、基本的にドライバーは交代制である。なので、川奈が休憩をとる場合、自動運転に切り替わるのだが。
「うー……」
過子が頭を押さえていた。彼女は断片的にではあるが、未来を見ることが出来る。そんな彼女が唸り声を上げているのだから、今馬も冷や汗を流した。
「過子。何が見えた?」
「バスが立ち往生する光景が見えた」
直ぐに、川奈はシステムをチェックしたが異常は見当たらない。相手がカミュンなら異常を悟られる様な真似はしないだろう。
「不味い、一号車をマーキングできなかったら見失っちゃう」
「おい、どうにか出来ないのかよ!」
丸子がヒステリーに喚き立てていたが、川奈が対処できない時点で他の誰にも対処できる訳がない。と考えていたのだが。
「僕の出番、来ましたね」
ここに来て、銀崎がドヤ顔をしていた。もしも、この場に拓海が居たら彼がそんな表情をしていたことに驚くことだろう。蒼月が怪訝な顔をして尋ねた。
「晶馬クン。君にはプログラミングの知識が?」
「いいえ、1つもありません。僕の中にあるのは澄野さんへの熱い想い。それと、心の師匠であるINM語録とAIタクヤですかね」
逞しくなったのか、人間としての底辺を往くことにしたのか。卑屈ではなくなったが、品性を疑う様な趣味を公言しつつ、彼は懐から取り出した我駆力刀を自らの胸に突き刺した。
彼の学生兵器(クラスウェポン)であるロボットが二号車の屋根に取り付いたかと思えば、機体が変形して車体の上部を覆い尽くしていた。
「そうか。クラックは攻撃だから、銀崎君の学生兵器(クラスウェポン)で妨害できるってことか」
面影が納得していた。果たして効果は如何ほどの物か。カミュンの叡智も異血による物なので、ある程度は機能しそうだったが……。
~~
一号車。皆で、菓子袋を広げて歓談に興じる姿は学生らしい物であったが、不思議と最終防衛学園では見られない光景だった。
「やっぱりね。怠美としてもメジャーや一般向けって言うのは否定しないけれどさ。それだけがサブカルチャーの価値だとは思いたくないんだよね。時に、世間受けを外した仄暗い物もあって良い。って言うのが、作品だと思うんだよ」
「しかし、スパイファミリーの遠藤先生も前作は早期に終了していただけに。作品というのが、商業的価値観に偏重し過ぎているというのも思う所ではあるのでござるな」
「だけど、それを世間が認めないから。と言って、捻くれるのも違うと思うのよね。ウケ無い物を、自分の力で認めさせる! 大鈴木の家訓にも通じる物があるわ」
この車中の会話を通して、飴宮、凶鳥、大鈴木はスッカリと意気投合していた。
サブカルチャーにあまり詳しくない拓海と厄師寺は菓子を摘まみながら、微笑んでいた。元気そうで何よりだと。
「くららちゃんや狂死香ちゃんが楽しそうで、アタイも嬉しいわ!」
「そうだな。聞いているだけで、楽しいし……ふぁああ」
あくびが出た。退屈することは無かったが、それでも外は真っ暗だ。普段ならベッドに入っている時間だが、皆との交流が楽しくて長起きしていたらしい。
「俺も眠ぃから先に寝るわ。カミュン、お前は寝なくて良いのか?」
『わらわも寝る。このバス運転は自動運転に切り替える故、気にせんでいい』
座席ごとにライトも付いてある為、夜更かしをしたい者達は続ければ良いし、寝る者は寝たら良いという親切仕様だった。後方を調べれば、ブランケットやアイマスクなども完備されていた。
「本当に、つばさちゃん。あのがっつき具合さえなければ完璧なんだからぁ」
喪白がアイマスクを付け、ブランケットを掛けて遮光カーテンを引いた。
厄師寺はカーテンだけ引いて寝ていたが、拓海はブランケットだけを羽織って寝る……前に。外の景色を見た。
「(そう言えば、戻って来てからマトモに外に出たのはこれが初めてになるのか)」
1回目はヴェシネスに拉致られ、奪還された時くらいで。あの時のバスはこんなに快適じゃなかった。そう考えると、川奈のお節介に感謝する外無いのだが、いかんせん。マイナスがあまりにデカかった。
倒壊した建物が並び、かつての文明痕が見える位で。荒涼とした景色が広がっている。
「(フトゥールムか。この惑星って、どんな場所だったんだろうか?)」
地球と違う。と言うことは世界死の影響で荒廃した訳ではない。原因があるとすれば、自分達だろう。
「(人工天体の奴らと戦争したから荒廃したんだよな)」
少なくとも、学園にミサイルを配備できるような技術力は持っているハズで。だとしたら、気になることがあった。
「(でも、惑星を荒廃させる位の兵器を持っているなら、なんでヴェシネス達を相手にこんなに苦戦しているんだ?)」
拓海は軍事兵器に詳しい訳ではないのだが、普通の人間はミサイルやら兵器で攻撃されたら死ぬ。拓海達もナイフで刺されたら血が出るし、爆破されたら死ぬ。その事を踏まえれば、戦争は直ぐにでも終わりそうな気がするが。
「なぁ、大鈴木。ちょっと良いか?」
「あら、どうしたの?」
軍事兵器などに詳しい大鈴木に聞けば何か分かるだろうと言うことで、拓海は先程思いついた疑問を打ち明けてみたが。
「ふん。軍事兵器使えば終わるって言うんなら、この戦争で大鈴木は最強の財閥になっているわ。答えを言うと、部隊長達には普通の化学兵器は通用しないのよ。アイツらを倒せるのは我駆力による攻撃だけよ」
「そうなのか? でも、お前。学園に色々とタレットとかを仕掛けているんじゃ」
「アレは弾頭や弾丸を我駆力で形成している特殊仕様なのよ。普段、我駆力使って戦っているから、アタシ達には関係の無い話だけれどね」
なるほど。だとしたら、人類が自分達を尖兵に選んだのが分かる。
だが、そうすると根源的な疑問が湧き上がって来る。どうして、自分達は我駆力なんかを使えるんだろうかと。
「なぁ、大鈴木。どうしてオレ達は我駆力を……」
「あー! アンタは早く寝なさい! ここからはアタシ達の時間なんだから!」
シッシと払われたので、素直に彼女の言葉に従い寝ることにした。
果たして、映像で見た彼女はカルアだったが霧藤との関係は。思うことは色々とあったが、眠気も来ていたので目を閉じて、夢の世界に行くことにした。
――
静にかなりつつある一号車とは対照的に二号車は激戦を繰り広げていた。
案の定というべきか、カミュンのクラックが入り自動運転システムが黙らされ、盗聴機能も潰されていたが、何としてでも守り抜かねばならない物があった。
「マーキングさえ何とかなれば、こっちのモンっすよ!!」
長時間運転をしていた川奈は座席に移動して休憩を取っている間、代りの運転は今馬が務めていた。兄妹で暮らしていく為に取った杵柄がこんな所で活きて来るとは思わなかった。
ソフトウェア方面の知識はからっきしであるが、攻撃に対して強い特防隊メンバー銀崎はカミュンのクラック攻撃を防いでいたのだが、彼の全身には痛みとして伝わっていた。
「あーいったい! いったい!! 痛いんですよぉおおおおおおお!!」
「うるせぇよ!!」
銀崎のシャウトに堪らず丸子が抗議していた。頑張ってくれていることは分かるが、それを抜きにしてもウザイことはに変わりない。ひでー話だが、同乗者達から浴びせられる視線は冷たい物だった。
「そう思って、耳栓を持ってきておいたよ」
「サンキュー、歪クン」
蒼月はさっさと耳栓をして、アイマスクをして、カーテンを引いて睡眠モードに突入していた。雫原や丸子も同じ様にしていたが、過子だけは首を横に振った。
「今馬が頑張っているし、私も起きている」
「そうかい。じゃあ、ココアを淹れて上げよう」
拓海さえ絡まなければ、最終防衛学園きっての人格者である面影は過子と今馬にココアを淹れていた。銀崎の分は無かった。
「あの。銀崎先輩の分は?」
「安心すると寝ちゃうからね」
「ダイナマイッ!!」
特段厳しい攻撃が来たのか、銀崎の体が撥ねていた。
始めて会った時はウザい位に卑屈だったのに、前向きになれたのは良かったのだろうか。良かったのかな? と、過子は疑問に思っていた。
日付を跨いで、2台のバスは目的地へと向かう。果たして、カミュンが根負けするか、銀崎が負けるかという熾烈なデッドヒートが繰り広げられていたが、大抵の奴は夢の中に居た。