最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】30日目

 バスの中とは言え、潜伏を始めとした余計なことに気を遣う必要が無いので、快適な睡眠がとれた。

 周りを見れば、厄師寺や喪白は既に目を覚ましており、車中で出来るストレッチなどをして、身体をほぐしていた。2人はコチラに気付くと声を掛けて来た。

 

「おはよう。澄野君!」

「おぅ、澄野。目ェ覚めたか?」

「あぁ。なんか思ったより快適に寝れたな。そうだ、カミュンは?」

『わらわも起きておる』

 

 ドローンはアームを伸ばしてハンドルを操作していた。どうやら、有人操作に切り替わっているらしい。

 周りの景色は荒涼とした物から、木々が鬱蒼と生い茂る物へと変わっていた。寝ている間にかなり進んでいたのだろうか。

 

『そろそろ着く。寝ている者達も起こして準備をさせい』

 

 遅くまで話していたのだろうか。飴宮、凶鳥、大鈴木の3人が寝ていた。ふと、最近は思いつきもしなかった選択肢が浮かんで来た。誰を起こそうか。

 『大鈴木』は……普段の様子がアレなだけに寝起きに何を言われるか分かった物じゃない。案外可愛いかもしれないが。

 『凶鳥』は………基本、生活自体は規則正しいので寝起きだからと言って変なことはしてこないハズだ。

 『飴宮』は……・・分からない。生活リズムが不規則すぎる。ただ、朝方の彼女は基本的にテンションが低いので、何かをして来ることは無さそうだ。

 

「よし。じゃあ、オレは飴宮を起こすよ。喪白。後の2人を頼む」

「了解! バシバシ起こしちゃうからね!」

 

 第2防衛学園の2人は、同じ学園出身の喪白に任すとして。飴宮は自分が起こすことにした。3人とも喪白に任せればいいのでは? というのは無しとする。

 

「おい、飴宮。起きろ」

「んんぁー」

 

 実は寝起きが可愛らしいなんてことはない。低血圧気味なのか、滅茶苦茶人相が悪い。口の端からは涎を垂らしていたので、拓海はポケットから取り出したハンカチでふき取っていた。

 

「すごい顔しているぞ。顔洗ってこい」

「あーった」

 

 フラフラとした足取りで飴宮はトイレに向かった。凶鳥と大鈴木は寝起きが良いのか、直ぐに調子を取り戻していた。

 

「昨夜はつい、盛り上がってしまったでござるな」

「希やもこと違うベクトルで話すのも面白いわね」

「えー! 何話していたの? アタイにも教えて! 教えて!」

「ウム。まず、漫☆画太郎先生の名作『地獄甲子園』の実写化の話からでござるな。アレは……」

「あ、やっぱいいわ」

「なんで!?」

 

 自分から興味を出しておきながら、一瞬で引っ込めた。地獄甲子園なんてタイトルの実写化を見たいかと言われて頷く人間は、あまり多くないだろう。

 

「今度、澄野と狂死香。それに、希とも一緒に見るつもりよ」

「地獄への道連れね! 澄野君! ファイトっ☆」

「オレは良いけれど、霧藤は嫌がるんじゃないかな……」

「心配ご無用よ! 今回助けに行ったお礼として一緒に見て貰うから!」

 

 流石、軍需産業のビズにより一財を築いた大鈴木の令嬢らしい巧みな交渉術であるが、乗っかるかどうかは別問題である。

 

『ちなみに、隣におる希からの返信じゃが。『嫌だ』と言うことじゃ。それより、ダンガンロンパ見よう! って』

「は? そんないかにも名作って分かっている物見ても満足するだけじゃない!」

「それは駄目なのか?」

 

 厄師寺から素朴な疑問が出ていたが、これが甚く大鈴木を刺激したらしい。

 

「誰もが面白いと思っている物を見ても。面白いって感想以外出て来ないでしょ! いい? 軍事兵器という点でもね。こまごまとした改良でせこせこ稼ぐよりも、誰も見果てぬ大海に出てこそよ! そうして大鈴木は栄光を勝ち取って来たのよ!!」

「お見事です。クララボー。やはり、拙者の見込んだ通りでござるな」

 

 寝起きからなんかキメてんじゃないかという位にテンションが高い大鈴木の語りに、凶鳥が感銘を受けていた。面倒臭くなったのか、カミュンは話題を無理矢理戻すことにした。

 

『そろそろ、着くから準備はしておくように。まぁ、おぬしらなら変なことはせんと思うが。念の為』

 

 何があっても動けるように、軽食を腹の中に入れて、気を落ち着かせバスは走る。走る……。

 

~~

 

 到着した基地では侵攻生物達が哨戒していたが、随分と少なかった。

 駐車場と思しきスペースに停まると。迎えに来たのは、ムヴヴムとクェンゼーレだった。

 

「ようこそ。歓迎するよ、スミノとその他」

「うっわ。分かりやすい位に疎んじられている」

「そりゃ、あんなビデオレター寄こされたらこうもなるよ……」

 

 そう言われたら、飴宮も言葉を引っ込めるしかない。ムヴヴムからは情熱的な、クェンゼーレからはジメっとした視線を受けながら、拓海は尋ねた。

 

「本当にカル……霧藤は返して貰えるんだろうな?」

「奥でヴェシネスに聞いて欲しい。……悔しいけれど、僕らに権限はないからさ」

 

 ムヴヴムが悔しそうに言った。部隊長の中でもヴェシネスとイヴァーが持つ力は別格であり、彼女達に及ばぬ者は意見できずに居た。

 

「分かった。それと……オレの仲間や友人達を手に掛けなかったこと。礼を言う」

「したら、スミノが悲しむだろうと思って。ギンザキだけはボコボコにしたけれど」

「で、でも……アイツ、硬すぎて蹴っている足の方が痛かった……」

 

 これに関しては同じ空間で戦っていた厄師寺や飴宮も非難することは無かった。それだけのことをしていたからだ。

 基地内を案内された殆ど人間とは出くわさない。侵攻生物らしきものがポテポテと歩き回っている位だ。

 

「なんで、この基地は人間が居ないんだ?」

「長くに続く戦いで、前に出られる人間が居なくなったんだ。今は、侵攻生物達で何とかしている」

 

 侵攻生物。拓海達がもっと撃破して来た兵隊であり、色々なバリエーションがあることは知っているし、意思らしき物があることも知っている。

 

「コイツらって一体?」

「スミノには説明していないのか?」

 

 ムヴヴムが難色を示しつつ、大鈴木達に尋ねていた。彼女達も難しい顔をしていたが、急にショッキングな話をされるよりは。と言うことで、大鈴木が頷いた。

 

「説明は任せたわ。アタシ達よりアンタ達の方が説明すべき側だと思うしね」

「そうか。……スミノ、先に言っておく。君達が撃破して来た侵攻生物は、君達が来るよりも前に作られていた奴だ。だから、気に病む必要はない」

 

 こんなに仰々しい前置をされた時点で薄っすらと予想は着いていた。なので、自分の予想を言った。

 

「まさか、人間?」

「素体がね。元々はフトゥールムの傷痍軍人や人類側の捕虜とかを使っている。一度変貌させられたら、元には戻せない」

 

 ムヴヴムが告げた。つまり、自分達は化け物ではなく『人間』を殺して来た訳で。戦争だから仕方がないと割り切れるはずも無かった。

 

「む、ムヴヴム。言ってよかったの?」

 

 クェンゼーレが心配そうにしていた。タクミがショックを受けていることを思ってのことだが、ムヴヴムは頷いていた。

 

「僕らの好意とは別に、犠牲になった者達も知って欲しいだろうと思う。それに、下手に誤魔化して、傷が大きくなるよりかはね」

 

 結局、何処かで真実を知るときは来てしまう。ならば、受け止められるときに知らせておいて、本人がどう向き合うべきかを委ねる。正に『秩序の化神』に相応しい、采配であった。だが、ショックを受けているのは拓海だけではない。

 

「マジかよ。アイツらが……」

「まぁ、あるあるだよね」

 

 厄師寺が愕然とし、飴宮も飄々としている様に見えて妙に落ち着いていた。そんな彼らに向けて、大鈴木は言った。

 

「言っておくけれど。気に病む必要はないからね。だって、やらないとやられるんだから」

「くらら殿。そんな簡単に割り切れる物ではござらんよ」

 

 凶鳥がフォローを入れたが、一行の空気は微妙な物になっている間に、仰々しい大扉の前にやって来た。ムヴヴムとクェンゼーレが足を止めた。

 

「この先に、ヴェシネスとイヴァー。それと、キリフジ? が居る。僕達の案内はここまでだ」

「その、スミノは大丈夫だと思うけれど。他はどうなるかはちょっと」

「分かった。案内、助かったよ。ムヴヴム、クェンゼーレ」

 

 イヴァーとヴェシネス以外の部隊長の名を呼んでみたが、思ったよりもしっくりと来た。きっと、何処かのTLでは彼らと懇意だった時もあったのだろう。

 扉を潜る。一番奥、玉座と思しき場所にヴェシネスが腰掛け、傍にはイヴァーとカミュン。そして、カルアの装いをした霧藤が居た。

 

「カル……」

「スミノ。よく、来たな。偉大なる私の招待を拒まなかった、自らの賢さに感謝するがいい。余計な物も付いて来ているようだが」

 

 ヴェシネスは拓海以外のメンバーに対してゴミでも見るような視線を送っていた。そして、散々溜め込んでいたことがあったのか一気に吐き出した。

 

「もしも、スミノが来なければ、偉大なる私が直々に制裁に出向くつもりだったが、良しとしよう。さて、用件を切り出そう。やはりお前達の様な野蛮下劣な性欲猿共にスミノを預ける訳にはいかん」

「なんですってェ……」

 

 珍しいことだが、大鈴木にしては引け腰だった。単純に戦力比的なこともあるかもしれないが、ヴェシネスの言葉を否定しきれないのも大きかった。

 

「お前らのスカスカな脳みそで考えてみろ。好意を寄せている相手にあんな布切れみたいな衣服を着せて、吐瀉物を浴びせ、飲ませ、弱った所で襲い掛かる様な連中が、マトモであるはずがないだろう」

「凄いよね。真っ当な正論を吐くだけで、こっちがレスバ勝てなくなるんだから」

 

 飴宮もお手上げだった。あまりにヴェシネスが言うことが正論だった。コレには、この場にいた全員が頷く外なかった。

 

「しかし、自分の非を認めることが出来ない猿以下の知能な持ち主であるお前らに暴れられては迷惑なのだ。何の呵責も無ければ皆殺しにするところだが、スミノが心を痛めるのは、私としても本望ではない」

 

 唯我独尊を地で行く様な女が、ここまで譲歩するんだからどれだけ惚れているかが手に取るように分かった。

 

「そこで私は考えた。お前達は生き残り、この戦争は終わり、フトゥールムに祝砲が鳴り響く様な画期的なアイデアが」

「それは一体?」

 

 もしも、そんな方法があるなら拓海としては願ってもいないことだが、あまりに話しが美味すぎる。

 

「それは私とお前が結婚することだ」

 

 長らくの沈黙が場を支配した。ヴェシネスは絶対の自信に溢れているし、イヴァーはニコニコとしているし、カミュンも腕を組んで鼻を鳴らしている。

 ただ、特防隊のメンバーは全員が宇宙猫状態になっていた。一番早くに正気を取り戻した、拓海が声を荒げた。

 

「け、結婚!?」

「何も変な話ではあるまい。国家間を取り持つ為に婚姻を使うのは往々にしてある話だろう?」

「まぁ、確かに変な話ではござらんが」

 

 歴史系の漫画にも目を通している凶鳥としても頷けるところだったし、結婚が政治的な意味を持つ。と言うこと位、拓海達でも分かることだったが。

 

「(でも、それで戦いが終わるなら)」

 

 願ってもいないことではないか? それに先の話もある。侵攻生物の中身が人間であるというのなら、彼らの命を散らして良いハズが無い。特防隊メンバーは特に気にせず虐殺しているが。

 拓海が一考していると、いつの間にか玉座から降りてきたヴェシネスが目の前にいた。改めて、近くで見るとゾッとする程に綺麗だった。

 

「それに。私なら、あんな倒錯した真似はしない」

 

 顎を持ち上げられる。彼女に引き寄せられるように、拓海も前のめりになった所で、ソレは聞こえてきた。

 

「うぉおおおおおおおおおおお! いっけぇえええええええええ!」

 

 バサバサバサ!! と喧しく、学生兵器(クラスウェポン)の翼を羽搏かせて来た今馬の両腕に掴まっていたのは川奈だった。カミュンが目を見開いていた。

 

「バカな!? マーキングの機能まで全部潰したハズじゃぞ!?」

「メカニックなめんなぁああああ!」

 

 今馬から投下された川奈は拓海を厄師寺達の方に向けて蹴り飛ばした。だが、ヴェシネスの動きが止まることなく、そのまま川奈と口付けする羽目になった。

 

「おぉ! ナルトとサスケ殿を思い出すでござるな! オレオ!!」

 

 凶鳥は燥いでいたが、当事者の2人の顔色は凄いことになっていた。

 全TLの経験から、この世で一番嫌いな女とキスする羽目になった挙句、拓海を取り上げられた怒りから、ヴェシネスは顔面に血管が浮かび上がる程に切れていた。

 一方の川奈もまた。この世で最も仲良くしたくない女と不幸せなキスをしたことによる生理的嫌悪感から顔面が真っ青になっていた。こうなったら、訪れる未来は1つだった。

 

「オェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」

 

 大嫌いな女から吐瀉物を口中に吐かれ、顔面に浴びせられた。ヴェシネスを始め、誰もが言葉を失っていた。一瞬先に訪れる未来については、皆が想像したくなかった。

 

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