最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】30日目 その3

 来た道を戻ると言うことで、霧藤は一号車に。イヴァーは二号車に分乗することになったのだが、拓海は蒼月に聞いた。

 

「お前ら、車中で喧嘩するなよ?」

「流石に蘇生マシーンが無い状態で死んだら、本当に死ぬからやらないよ」

 

 それもそうだ。と思ったが、それならヴェシネスにぶちかまされた川奈は大丈夫だろうかと思っていたが。

 

「痛てててて……」

 

 背中を摩っていた。あの様子なら、打撲すら出来て無さそうだった。

 心配そうにしている拓海を安心させるようにして、イヴァーが背後から抱きしめて来た。良い匂いがした。

 

「大丈夫よ、拓海。本当に私が皆をブッコロすつもりなら、ここには黒いミイラが転がっているから」

「……やっぱり、オレ達の方に乗った方が良いんじゃ」

「拓海クン。それはできない相談だ。それをしたら彼女が君を拉致してUターンする可能性がある」

 

 実力的なことを考えれば出来ないことではない。加えて、言い辛いことだが1号車に乗っている特防隊メンバーはあまり強くない。

 なので、この決定が個人的な感情によるものでないことは十分に理解できた。ただ、二号車のことを考えれば心配で仕方がない。

 

「喧嘩をするな。とは言わないが、手は出すなよ。それだけは守ってくれ」

「お安い御用さ!」

 

 キラリと蒼月が笑顔になったのは、拓海に頼まれたということをうれしく思っているのか、あるいは『手を出さなければいい』という言質を取ったからなのか。

 

「澄野。あんまり、話し込んでいると遅くなるからさっさとバスに乗って。今、最終防衛学園にはシオンとNIGOUしかいないんだから」

「もう、占領し放題だな……」

 

 雫原に促されてバスに乗ったが、改めて考えればあり得ないことをしている。

 勝手に最終防衛学園から出てきた自分達にも責任があるにしても、まさか全員で追って来るとは思っていなかった。帰ってみれば、自分達の拠点が落ちているなんてこともあり得そうだったが。

 

「(でも、部隊長クラスじゃなければ、大鈴木の設置兵器は突破できないだろうし、何とかなるか? そもそもの話。消えない炎が囲んでいるしな)」

 

 そもそも、イヴァーを同行させている時点で学園を落とすつもりはないだろう。実は帰還したら、彼女に統率させるつもりだったとかなら話は別だが。

 考えすぎても仕方がない。どの席に座ろうかと考えていると、後部座席の方では第2防衛学園メンバーによる女子会が行われていた。

 

「希殿! 変なことはされていなかったでござるか!? 性奴隷とか!」

「デリカシーがマイナスに振り切れているじゃない! このボケ! 変態!」

「アハハハ……。私は大丈夫だよ。強いて言うなら、あまり動き回れなかったから、ちょっと錆びついているかも」

「なら、アタイと一緒に帰ったら特訓よ! メニューまで任せて!」

 

 帰還した霧藤を全力で心配してくれている彼女達を見て、拓海はほっと胸を撫で下ろしていた。すると、先に席についている飴宮に手招きされた。近くには厄師寺も座っている。

 

「拓海。今から、猛丸と一緒に動画見るんだけど、一緒に見よ~!」

「お、良いぞ。何、見るんだ?」

「『ザンキゼロ』って奴。拓海は『イルブリード』見たでしょ? なら、ダンガンロンパは取っておいて、ダークホースから先に行ってみようと思って!」

「偶には、こういう絡みも悪くねぇしな」

 

 イルブリード、ダンガンロンパと並列されていたが、内容については知らないのでいい機会だと思った。少なくとも、二号車で起きていることを気に揉むよりもずっといいだろう。飴宮が再生のボタンを押した。

 

――

 

 さて、問題の二号車である。当然の如く、車中は緊張に包まれていた。

 イヴァーが何かしらアクションを起こしても対応できるように前方は雫原、後方は蒼月で固めていた。

 

「で、こうして堂々と学園に入り込むために、霧藤を切符に使ったの?」

「切符だなんて人聞きが悪い。私は希のことも大事に思っているのよ? どうせ、貴方達のことだから除け者にしていたのでしょうけど」

 

 雫原とイヴァーの間に散っている火花が見えるようだった。他のメンバーが様子見を続けている中、会話は続く。

 

「彼女に事情を話しても碌なことになった試しがないから、遠ざける方が良いと判断したまでよ。霧藤は澄野をも危険に導くからね」

「そのせいで、あの娘が疎外感を覚えていたとしても?」

「道連れにする連帯感ならいらない」

 

 再び、沈黙。どういう形であれ、お互いに霧藤のことを想っているなら、そこが妥協点だと考えたのだろう。会話を打ち切っていた。

 車中が重苦しい沈黙に包まれていた。この空気に耐え切れず、過子が声を上げた。

 

「あの。イヴァーさん、聞きたいことがあるんですけれど。良いですか?」

「なに?」

 

 この車両に乗っているメンバーの中で唯一確執が無いか、薄い相手であった為、イヴァーの表情は幾らか柔らかな物になっていた。過子は他のメンバーに聞こえない様に耳打ちをした。

 

「澄野先輩との初夜ってどんな感じでした?」

 

 今馬の監視に加えて、比較的正気を保っている彼女はイマイチ振り切れない。

 故に、こうして他人の恋愛事情に組を突っ込みまくるという、年頃のムーヴをかましていた。これがイヴァーには微笑ましく映ったのか、小さく笑っていた。

 

「それはもう、初々しくてね。姉さんと一緒に……」

 

 声量は絞っているが、皆に視線を送りまくっていた。拓海の初めての相手は私達だったと言わんばかりの視線だった。

 雫原も気配を感じ取ったのか、イヴァーの方をガン見していた。そして、当然の権利と言わんばかりに、各座席のシートに取り付けられているマイクから盗み聞きしていた川奈の顔面には血管が浮かび上がっていた。

 

『最初は結構抵抗して来たのよ。『オレには心に決めた人がいるとか』『まだ学生だし、敵同士だし……』とかね。でも、ちょっと口を塞いだだけで後はもう、自分から……』

 

 川奈がパネルを操作すると、イヴァーが座っているシートの天井が開いた。と、同時に彼女の席が跳ねて、バスから叩き出されるかと思いきや、彼女は一瞬でシートから跳び出して、川奈の背後に着地していた。

 

「ツバサ。手は出さない約束だったけれど?」

「え? そう? ごめんね。さっき、貴方のお姉さんにやられた一撃が原因でちょっとフラフラしているからさ」

「そう言う、自分勝手なことをするから澄野にも引かれるんでしょうが」

 

 吐き捨てる様に言って、席に戻った。言われた彼女はブチギレ寸前だが、過子に続きを話すイヴァーは実に楽しそうだった。

 恋愛トークだけではなく、事情聴取も兼ねた会話は、まるで探偵の如き交渉術の様に思えたが、この会話に我慢ならない奴が居た。

 

「おい、銀崎。なんとかしてくれ。このまま純愛トークされたら、俺の脳が破壊されちまう」

 

 丸子である。昨日、カミュンのクラックを防いでいた彼に暴言を吐いていた癖に、ここぞという時に頼る有様は厚顔無恥という外無いが、銀崎は頷いていた。

 

「手を出してはいけないんですよね?」

 

 スッと、銀崎はリュックからタブレットを取り出していた。迷いのない手つきで動画ファイルを開いた。すると、拓海とは比べるべくもない汚らしい男が、全裸で、便器の中ブタに中腰で座っている絵面が出てきた。

 

「汚ェモン見せんな!」

 

 丸子は銀崎を殴っていたが、もう動き出した物は止まらんよ。御大層な電子端末のスピーカーから響いたのは、男性の排泄音だった。

 勢いよく放りだした音が響いた後、ポチャンと水に落ちる音がリアルな排泄を想像させて、凄まじい不快感が湧き上がって来た。こうなったらもう恋愛トークとかしている場合じゃない。

 

「手を出す代わりに、クソを出させて貰いましたよ。僕は動画を見ていただけですので」

 

 本当に彼は卑屈から卒業しても良かったのだろうか。あの頃のままの方が良かったのではないかという物議を醸しだしそうな位に誇らしい顔をしていた。

 イヴァーも手を出すことは出来ないのでどうした物かと迷っていると、銀崎が座っていたシートが勢いよく跳ねた。そして、彼の頭部が天井に激突していた。

 

「何をするんですか!?」

 

 常人なら死ぬか大けがをするかレベルの仕打ちだったが、銀崎はタンコブが出来ているだけだった。そして、勢いよく跳ねた際にタブレットも落としてしまったのか、電源が入らなくなっていった。

 

「黙っていてくれない? 私、今。機嫌が悪いの」

 

 川奈としても不快だったらしい。一度、中断された恋愛トークを再開する気にもならなかったのか、イヴァーと過子は出来るだけ銀崎達から離れた席へと移動して、別の話題に興じることになった。

 

「どうですか?」

「お前、すげぇよ。いや、マジで」

 

 心臓に毛が生えているなんてレベルじゃない。今まで、バカにして来た銀崎をほんの少しだけ見直しながら、丸子も席を移動していた。

 

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