最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】31日目

 日が暮れて、周囲が暗くなって、星空が出て来てもバスは進む。帰りの方が早く感じるのは気のせいではなく、実際にバスの速度を上げている為だとか。理由をカミュンに聞いてみた所。

 

『二号車を撒くことに加えて、速度を出すと揺れて乗り心地が悪くなるからじゃ。もしものことがあった時を考えて、コンディションを崩さない様にする為に安全運転を心がけておったが、帰るだけなら速度を出しても構うまい』

 

 と言うことで、二号車も追従する形で速度を上げている。来るまでに三日ほど掛ったが、この調子ならかなり早く帰れそうだ。

 『ザンキゼロ』の視聴会で飴宮も厄師寺も寝こけていて、姦しく騒いでいた第2防衛学園女子グループも寝息を立てている中、拓海の席に足を運んで来る者が1人。霧藤だ。

 

「澄野君。今、大丈夫?」

「あ、あぁ。大丈夫。ちょうど、眠れなかったし」

 

 寝ている者達を起こさない様に、2人だけで前方の席に移動した。

 バスも自動運転のモードに切り替わっているらしく、カミュンに聞かれることも無い。……こうして、2人だけで話すのはひょっとして始めてじゃないだろうか。

 

「(仕方ないとは思うけれど)」

 

 1周目でも大鈴木に言われた様に。自分が霧藤に向ける視線というのは、普通の物ではないのだろう。加えて、学園での爛れた生活

 飴宮や厄師寺が間に入ってくれているならいけるが、こうして二人きりになるのは初めてじゃないだろうか?

 

「あのね。カミュンから聞いたんだ。澄野君、私を助けるために皆の無茶な要求に応えていたって」

「あんまり思い出したくない……」

 

 雫原との一夜みたいな甘い思い出なら良いが、川奈のゲロ交換や野獣と化した蒼月! みたいな出来事は、拓海としてもリフレインしたくない類だった。

 ただ、その甲斐もあって。霧藤が犠牲になることも無く、監視員という形であるがイヴァーも来てくれたので、結果オーライとは言えるのではないだろうか。

 

「澄野君が私を助けようとしてくれているのは、カルアさんを重ねているから?」

 

 その面が無いとは言い切れない。ビデオレターで見た、カルアに扮した霧藤は本当に瓜二つ、いや。本人だと錯覚する程だった。

 何よりも忘れられないのが、1周目の世界での今際の言葉。あの呼び方は、自分が知る幼馴染以外には知らないハズだ。

 

「…………正直、それもある。霧藤は霧藤であって、カルアじゃない。分かっているつもりだけれど、納得しきれなくて。それに、二度も君を失いたくない」

 

 割り切れなかった。本人を前に失礼だという自覚はあったが、偽らざる気持ちを打ち明けた。

 もしかしたら、引かれるだろうか。と、拓海の心配も他所に霧藤は真剣な表情をしていた。

 

「澄野君。私ね。向こうで、カミュンから色々と周回の話を聞いたんだ。皆の出生やカルアさんのことについても」

 

 それは拓海さえ知り得ないことだった。他の皆は知っているようだが、雫原に聞いてみてもはぐらかされるばかりで真実を教えて貰うことは出来なかった。

 自分の出生というのも大分怪しい気はしていた。皆の話からして、人工天体という存在が非常にあやふやな物で、バックボーンすら怪しいのだから。もしかして……という可能性は考えていた。

 

「聞いても良いのか?」

「出生については、私からは言えない。こればっかりは澄野君が皆から聞いて欲しい。でも、カルアさんのことだけは教えられる」

 

 カルアは存在するのか。自分が命を賭しても守りたいと思った少女は実在しているのか。それは、目の前の彼女なのか。堪らず、聞いた。

 

「教えてくれ。霧藤は『柏宮カルア』なのか?」

「ううん。私はカルアさんじゃない。そもそも『柏宮カルア』という人物は何処にも存在していない。澄野君は不思議に思わなかった? どうして、皆があんなに東京団地に固執していないかって」

 

 どうして、祖父の工場を大事にしていた川奈が帰る気も無かったのか。

 どうして、多数の兄弟を待たせている丸子が心配する素振りも見せないのか。

 どうして、銀崎が残して来た飼い犬のことを話題にも出さないのか。

 

「もしかしてだけど。オレ達は、東京団地になんていなかったんじゃないのか?」

 

 そう考えると、あまりに納得できることが多い。皆が残して来た物を気にしないのは、そんな物は最初から無いからだ。皆が自分に執着するのは、それ以外に寄る辺が何も無いからだ。

 外れて欲しい。荒唐無稽な回答だと突っぱねて欲しかった。だが、霧藤は首を縦に振っていた。

 

「そうなの。皆は東京団地に居たことなんてなくて、人工天体の人達が自分を守らせる為に、都合のいい記憶を植え付けられた人間だって」

 

 根幹が揺らぐ。自分の帰りを待つ母は、自分が過ごして来た十数年も何もかもが嘘だったというのか。では、何の為に自分は戦う決意をしたというのか。

 

「どうして、霧藤はあの呼び方を知っているんだ?」

「たっくん、だよね。柏宮カルアはいないけれど、元になった人物ならいるの。装置に繋がれていた君に、一方的に話をしていた女の子が」

 

 カチリとピースがハマって行く。彼女は親の実験に付き合って、とある病院に居た。もしも、自分達がその病院で作られていたとしたら、偶々彼女が遭遇することだってあったハズで。

 

「それが、霧藤だったのか?」

「うん。私が装置に紛れ込んだ時点で記憶操作されていたから思い出せなかったけれど、カミュンに処置を受けて思い出したの」

 

 雫原が言っていたことを思い出していた。はぐらかされているのかと思っていたが、彼女の言い様は正しかった。

 霧藤とカルアは別人だが、別存在という訳ではなかった。……真実を知ると同時に、1つ。分かってしまったことがあった。

 

「オレはもう。カルアと会えないのか」

 

 だって、この世に存在していないのだから。だとしたら、自分は何の為に戦っているのだろうか? ……いや。それよりも気になったことがあった。

 

「どうして、オレに打ち明けたんだ?」

 

 秘密を保ったままにしておけば、自分を上手いこと使うことも出来たはずだ。いや、あのまま部隊長達の所に居続けることで距離も取れたはずだ。

 真相を話してしまえば、最終防衛学園という場所は霧藤にとっては針の筵でしかない。だというのに、どうして話したのか。

 

「私も最初は向こうに居続けようかと思った。……本当を言うと、皆が来なければ良いと思っていた。でも、澄野君やもこちゃん達は来てくれた」

「当たり前だろ。仲間を見捨てる訳無いだろ」

 

 きっと、囚われていたのが霧藤じゃなくても……いや。霧藤以外なら自力で脱出して来そうな気がしたが、それはさておき。

 

「私ね。本当は澄野君のことあんまり好きじゃないって言うか、その。正直、私が攫われた後に、雫原さんとシていたのを見て引いていたけれど」

「ぷ、プライバシー」

 

 勝手に盗み見しておいて散々な物言いだ。相手が霧藤じゃなくて、丸子か銀崎辺りなら手が出ていた所だ。

 

「でも。私を迎えに来てくれた時、本当に嬉しかったんだ。澄野君や皆に酷い態度を取ったのに、まだ、皆と一緒に居ても良いんだって。そうしたら、いつまでも黙っていることが出来なくなって」

 

 霧藤は顔を覆っていた。声が潜もっているのを聞くに、恐らくは泣いている。

 カミュン達から真実を教えられたとしても、彼女は自分達と一緒に来ることを選んでくれた。

 例え、彼女がカルアじゃなかったとしても。どうして、その誠実さを非難できようか。拓海はポケットからハンカチを取り出した。

 

「霧藤。話してくれて、ありがとうな」

「ううん。私、澄野君なら許してくれると思って話しているの。本当を言うと、攻められる覚悟も出来ていない」

「良いんだよ。霧藤のせいじゃない。それに……オレの貞操がアレなのは事実だしな!」

 

 あそこまでやった挙句、流されたから。で、済ますつもりも無かった。自虐を含めて笑い飛ばそうとしたが、霧藤がゆっくりと顔を上げた。

 それで、嫌そうな顔をしていたり、ドン引きしている様子ならば、この雰囲気も何とかなりそうなのだが、彼女の潤んだ瞳がコチラを見ていた。

 

「じゃあ、今日は一緒に寝て欲しい」

 

 このバスの座席は個別に区切られているが、多少の操作でくっ付けることが出来る。それは、飴宮達と映画鑑賞をしていた時にも使っていた。

 

「……良いのか?」

 

 小さく頷いていた。やましいことは一切ない。幼い少年少女が添い寝する様に、2人は互いに寄り添って、小さな寝息を立て始めていた。

 抱えていた不安の種に身を引き裂かれた思いがした。それでも、自分には何もない訳ではない。不器用ながらも歩み寄ってくれる存在がいると、分かると。心が和らぐような気がして、拓海も眠りに落ちて行った。

 

~~

 

 そんな、少年少女の蟠りが解消されてようとしている中。当然の様に盗聴していた二号車のメンバー共はと言えば。

 

「うぅうううぅうう! 澄野君と希ちゃんが打ち解けて嬉しいよ!」

 

 面影の席にはカーテンが降りていたが、どういう訳か。足下には衣服が落ちていた。しかも、手を上下に動かしている。ナニをしているんだろうか。

 

「便所でやれ!!」

 

 丸子も抗議していたが、そういう彼もズボンの前張りが凄いことになっている。何日もバスに居たら、そうもなる。喚き立てる彼を銀崎は鼻で笑っていた。

 

「溜まってんじゃん。アゼルバイジャン。丸子さんもまだまだですねぇ」

「何、余裕ぶってんだ!!」

「僕は最強の防御力を持ちますのでね。性欲程度に操られる訳がないでしょう。ほら、このASMRでも聞いて萎えて下さい」

 

 スポッと銀崎が丸子の耳にワイヤレスイヤホンを挿入した。

 すると、耳が割れんばかりの勢いで、AV男優のシャウトが響いたので、堪らず銀崎をぶん殴っていた。

 

「死ね!!」

「お、大丈夫ですか。大丈夫ですか」

 

 殴った丸子の手の方が傷んでいた。銀崎の挑発をスルーして、彼もトイレに入ったので、そう言うことだろう。

 他のメンバーはどうかと言えば、雫原と蒼月はかなり早い段階で寝ており、今馬が運転を替わっている中、川奈は後部座席から酒を引っ張り出していた。

 

「も、戻ったら、傷心している澄野と……」

 

 発情しているのか、彼女の周囲からはちょっと異臭が漂っていた。それを誤魔化す様に、彼女は酒を開けて早いペースで飲み干して気絶する様に寝ていた。暗澹たる車中の様子を見て、過子とイヴァーは慎ましく女子会をしていた。

 

「車中が臭うよ……」

「鼻が曲がりそう。よくも拓海はコイツらに絡まれて無事でいられるわね」

「本当っすよ。先輩の恋人は自分だってのに」

 

 今馬が運転をしながらプリプリと怒っていた。この車中でマトモな奴は居ないんじゃないか。そう思いながら、イヴァーはグミを摘まんでいた。

 

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