川奈に誘われ、ガレージに連れ込まれた澄野が部屋の掃除やら片付けを手伝わされた挙句、後半は電動歯ブラシやら電動マッサージ機などの感想を求められ、開発の疲れを癒す為と肩揉み等を申し込まれ1日が潰れた。
結局、どうして自分の部屋の様子が分かったのか。恐らく、盗撮カメラ的な物が仕掛けられていることを問い質すことが出来ないまま、一緒に食堂へとやって来たのだが、彼らを迎えたのは滅茶苦茶不機嫌な雫原だった。
「(き、昨日行けなかったんだ。謝らないと……)」
と、拓海が彼女に謝罪しようとした所で、スッと面影が止めに入った。そして、耳打ちをした。
「(今、その話をすると彼女も取り扱わざるを得なくなる。謝罪は、朝食を終えた後にした方が良い)」
ハッと気づいた。申し訳なさから直ぐに謝ろうとしていたが、そんなことをすれば食堂での雰囲気が悪くなる。雫原の視線がこちらに向けられていたことからも、何となく事情は察してくれたらしい。
「澄野、朝ごはんはピザで良い?」
朝からよく食うな。と言いかけて、呑み込んだ。女子相手にデリカシーの無い発言はいただけない。幼馴染との会話を通して学んでいることだった。
ただ、蒼月にやられたことも思い出して、出来るだけシェアする系の料理は控えたかったが、抗議する間もなく持って来られた。勿論、あっつあっつ。
「つばさちゃん。私も同席しても良いかな? ちょうど、ピザが欲しかったんだけど、そんなに食べられないから」
「良いよ。じゃあ、飲み物取って来て貰える?」
「お安い御用だよ」
面影が席を立ったところで川奈がピザを切り分けていた。朝食用に味付けは重くしていないタイプのピザでもキツイ。
その内の1ピースを取って齧った。やっぱり熱いので、1回では全部食いきれない。一旦、置いた。当然の様に食い掛けのピースを川奈が食っていた。
「どうしたの?」
これも皆の為だ。若干17歳の少年が浮かべる微笑みにしては、あまりに凄絶だった。そんな彼を見かねたのか、面影が3人分の飲み物を持って来ていた。
「イチゴ・オレを入れて来たよ。どうぞ、澄野君」
「助かるよ」
受け取ったイチゴ・オレをグイっと煽った。一瞬、違和感を覚えた。ちょっと、鉄臭い味がしたが、口に広がる香料と甘味で全て掻き消された。朝からデブ活を決めていると、澄野の周りにゾロゾロと人が集まり始めていた。
「なぁ、澄野。お前が見て来た100日じゃ俺とお前ってどんな感じだった? やっぱり、盟友か?」
「澄野殿。拙者はどうでござったか? ナルトとサスケ? それとも、トリコと小松の様な関係でござるか?」
丸子や凶鳥を始めとして、質問攻めを食らっていた。どれから答えた物かと迷っている最中、それは突然やって来た。
ファーン、ファーン。と警報音が鳴り響き、無機質なシステムメッセージが告げられた。
『敵勢力侵入、敵勢力侵入。当区域に敵勢力からの攻撃を感知。ただちに、防衛モードを展開します。至急、防衛線の準備に取り掛かって下さい』
「バカな!? まだ、5日目だぞ!?」
拓海が叫んだ。次回の襲撃は2日後なハズだ。敵側の動きが予想以上に変わっていることに困惑していた。同じ様に食堂に集まったメンバーにも動揺が走っているかと思われたが。
「よっしゃあ! 皆! 早く、連中を八つ裂きにするよ!」
「嬉しいなぁ! こんなにも早く、ご褒美チャンスが巡って来るなんて!」
川奈と蒼月がノリノリで食堂から出て行った。恐らく、作戦室に向かったのだろう。澄野への質問攻めに参加していたメンバーも次々と向かう中、当の本人と飴宮、厄師寺、霧藤の4人は置いてけぼりを食らっていた。
「とりあえず、一緒に作戦室に行こっか?」
控え目に言う霧藤に頷き、残った4人も作戦室へと向かった。
果たして、戻って来た世界は何処まで変容しているのか。既に仲間達の変貌が酷いことになっているだけに、敵側だけは真っ当に敵をしてくれることを祈りつつ、拓海達は作戦室に向かった。
~~
「SIREIが居ないから、本官が代わりに指揮を務めるけれど……」
誰が見ても分かる位にNIGOUはガチガチに緊張していた。ロボからぬ有機的な仕草だが、不安が伝播するので止めて欲しかった。
それでもキッチリ役割はこなしてくれるらしく、現状を把握する為にモニタで敵側の情報を見せてくれた。
「多くね?」
飴宮が率直な感想を述べた。1日目は少数で攻めて来ていたが、今回はその時の3倍位の侵攻生がやって来ていた。
「ひょっとしたら、私達が第2防衛学園を空けたことが向こうにも伝わったのかもね。その分の戦力が向けられているのかも」
「面影の言う通りかもしれないな。皆、作戦の準備を!」
拓海が懐から短刀『我駆力刀』を取り出した。自らの心臓に突き立てることで、全身の血液を我駆力へと変換し、超常的な力を得ることが出来る。これは適合者である彼ら『特防隊』にしか出来ないことだった。
あふれ出た血液が身に纏わりつき、さながら学ランの様な形を取っていた。手には、それぞれの得物である学生兵器(クラスウェポン)が握られており、特異な物であればジープやロボットなどもあった。
「希ちゃん! コレを!」
NIGOUがコンソールを弄ると、希に外付けのアーマー『学生鎧』が装着されて行く。彼女は我駆力が低い為、他のメンバー達の様に我駆力刀による変身が行えない為である。
戦う準備を終えた一同は、作戦室にあるロイター式踏切板を模したカタパルトに乗り、学園を覆っているバリアを突き抜けて、校庭へと出撃していった。
~~
最終防衛学園こと特防隊と侵攻生の熾烈な戦いが始まるかと思いきや、いざ戦闘が始まってみれば、どんな光景が繰り広げられていたかと言うと。
「殺っちゃうよぉおおおおお!!」
川奈が駆る銃座付きのジープ型学生兵器(クラスウェポン)が暴れ狂っていた。どうやら運転席からでも銃座の操作が出来るらしく、校庭を爆走しながら侵攻生を蜂の巣にしていた。
あちらこちらか悲鳴が引っ切り無しに上がり、校庭は侵攻生の死体、臓物、体液が積み重なり阿鼻叫喚めいた光景が広がっていた。
「もう、全部。川奈殿、1人で十分でござらんか?」
他のメンバーもそれぞれが得物となる学生兵器を持っていたが、それを操るのは特段訓練を積んだわけでもない少年少女である。
動いて、殴っていれば疲れるので、そんなずっと爆走できる訳もない。こればかりは、川奈しか出来ない動きだった。
「アイツ。あんなに強かったっけかな……」
思い出す。拓海の記憶の中に在る川奈は機動力こそ高いが、バフを撒く補助要員であり、硬めの侵攻生を相手にすると引かざるを得なかった。でも、今の彼女は特に問題なく硬めの奴も含めて血祭りにあげていた。
可哀想な侵攻生達が全員死んだ頃、特にやることも無く後ろの方で待機していた飴宮が明後日の方向を指差した。
「あ! あっちに変な奴がいる!」
「部隊長か!?」
拓海が振り向いた先には、鎧を身に着け、黒のマントを羽織った女性が居た。
だが、部隊長の象徴とも言えるマスクは被っていない。赤と青の相貌は真っすぐに自分を見据えている。腰まで伸びた銀髪を揺らしながら近付いて来る。
「おい、澄野! アイツが部隊長なのか!? 人間にしか見えねぇぞ!」
厄師寺が叫んでいたが、拓海は硬直していた。どうして、コイツがここにいるんだと。事態が処理しきれずにいた。
「スミノ タクミ。迎えに来たぞ」
「ヴェシネス!! どうして!?」
「え? 知り合い?」
飴宮の疑問に答えるより先に、厄師寺、飴宮、霧藤を除くメンバーが一斉にヴェネシスと呼ばれた女性に襲い掛かった。
蒼月、雫原、喪白の重量級の一撃を軽く流しつつ、丸子、川奈、過子の銃撃は彼女を捉えるに至らない。大鈴木が設置した罠で機動性を削がれた所に、面影、凶鳥ら技巧派の攻撃が入るが、力で吹っ飛ばされていた。今馬が舌打ちをしていた。
「ッチ。何処までも鬱陶しい……」
「スミノ タクミ、コイツらを殺されたくなければ、偉大なる私に付いて来るがいい」
先程までの蹂躙劇が一転、今度はこちらが蹂躙される側になっていた。
1周目では侵攻生が話す言葉は何一つ分からなかったが、今では理解できている。理由はさておき、拓海の関心を引いたのはヴェシネスからの提案だった。
「俺を拉致して、吸収するつもりか?」
「吸収するつもりならば、ここにいる奴らから吸い取ればいい。私は貴様に興味があるんだ。あぁ、理由は後でじっくりと話してやる。とりあえず来い。そうすれば、私は手を引いてやろう」
「澄野君……」
動けずにいた霧藤は何かを言い掛けて呑み込んだ。自分の友達は助けたいが、だからと言って拓海を死地へと向かわせる訳にはいかない。だが、事態を打開するだけの力はない。
厄師寺も踏み出せずにいた。喧嘩は根性だと言っている彼でも、どうしようもない位の実力差は理解できてしまうらしい。
拓海が答えを出し渋っているとと、ヴェシネスは倒れている雫原を持ち上げ、手にしている大剣の切っ先を向けた。迷いは消えた。
「止めろ!! お前に付いて行く!! だから、雫原から手を放せ!!」
拓海の叫びは校庭に響き渡った。雫原は乱暴に投げ捨てられ、ヴェシネスは喜色を隠しもせずに拓海へと歩み寄って来た。
「そうだ。お前は、元々我々の同胞ではないか。悪いようにはしない。イヴァーもお前を待っている」
武装を解除するや、拓海はヴェシネスに抱えられた。平伏した特防隊は忌々し気に彼女を睨んでいたが、負け犬の遠吠えにもならない行為は意にも介さず、彼女は、学園を取り囲む炎の壁を抜けて学園から去って行った。すると、入れ替わる様にして別の部隊長が入って来た。
「じゃあ、次は僕の相手をして貰おうか」
ヴェシネスとは違い、マスクを被っていたので素顔は分からないが、青年と思しき声色をしていた。厄師寺が声を上げた。
「テメェ! 澄野がそっちに行けば手を引くっつって!」
「それはヴェシネスの話だ。スミノタクミはこちら側にいるべき存在だ。貴様ら、侵略者に相応しくない」
「敵まで攻略済みってどういうこと???」
敵側からの好感度もバチクソ高かったので、飴宮も困惑していた。ただ、状況は何も良くない。先程、ヴェシネスと呼ばれた女に全員がボコボコにされたので、後はトドメを刺されるだけで。
「あの女ァ!」
「許せません。澄野さんを拉致するなんて!!」
大鈴木を始め、銀崎も立ち上がっていた。決してダメージが回復した訳ではないというのに、気合だけははちきれんばかりに漲っていた。
「死ね!! 淫獣共が! ∞態!!」
目の前の部隊長は自らの首を掻っ切った。あふれ出した血液が彼の全身を覆い、人型の龍を彷彿とさせる巨体が出現していた。外皮は黒く染まっており、全身には目玉の様な赤い模様が浮かび上がっている。
「僕は秩序の化神! ムヴヴム! 風紀と治安を乱す獣共め! この僕がしつけてくれるわ!!」
彼の号令と共にお替りの侵攻生が現れた。立ち上がった面々はこれらを蹴散らしながら、ムヴヴムと盛大な殴り合いを始めたのだが。
「……ねぇ。コレ、怠美たち。いる?」
異常に戦い慣れている連中と比べて、特に何が出来る訳でもない3人は、私欲と憤怒が入り混じる光景を標榜するしかなかった。