最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】34日目

 夢を見る。というのは睡眠が浅いと言うことだ。拓海がしょっちゅう夢を見るのは、それだけ彼が熟睡できていないことの証だった。

 100日間防衛できるかという不安に駆られている。という訳ではなく、部屋中に設置された監視カメラ。施錠したはずなのにガタガタと揺れるドア、聞こえる足音、ガサゴソ物色される音。プライバシーもクソも無い環境に晒されたら、眠りも浅くなるに決まっている。

 

「Zzzzz……」

 

 だが、今日の彼は熟睡していた。時計の短針が9を指しても起きようともしない位にぐっすりと寝ていた。

 ここ1週間ほどバスに揺られていた疲れもあっただろうが、昨晩の霧藤との会話で安寧を覚えたのか。彼の寝顔は穏やかな物だった。

 今日は拓海にとっても素晴らしく穏やかな1日になるかと思われたが、あっさりと彼の部屋の施錠は破られた。入って来たのはイヴァーだ。

 

「拓海。もう、9時だよ? 早く起きないと」

 

 と、耳元で囁くように言っていたが起きる気配はない。当の本人は鼻提灯を作って、スヤスヤと寝息を立てている。

 布団を捲って起こそうとした所で、ズボンがテントを張っていた。朝立ちぬ。今度はズボンを捲ろうとした所で、背後に気配。霧藤と川奈だ。

 

「イヴァー?」

「ほら、見なさい。霧藤さん。コイツも雌臭い獣なのよ」

 

 霧藤は困惑して、川奈は呆れていた。だが、イヴァーは慌てない。拓海のズボンを元の位置まで上げていた。

 

「私は何もしていないけれど?」

「もうちょっと待ってから入れば良かったかもね。ほら、澄野。起きなよ」

 

 川奈が乱暴に拓海を揺さぶった。すると、彼は上体を起こした。呆けた顔で周囲を見回して、もう一度夢の世界に行こうとしたので、霧藤が引き留めた。

 

「色々と話したいことがあるから。まず、食堂に来よう。ね?」

「……あい」

 

 半ば睡眠状態の拓海の手を引いて、一同は食堂へと向かった。

 

~~

 

「とりあえず、このままプロレスを続けるにしても。僕達が解決しないといけない問題は人工天体をどうするかだよね」

 

 蒼月が拓海にガーリックトーストを食わせながら議題を上げていた。口元に持って来られたトーストをモゴモゴと食べていく様子は、人参スティックを齧って行くウサギを彷彿とさせた。

 

「正直に言うと、誰も帰りを待っている人なんていないんだからミサイル使って滅亡させても良いんだけれど」

 

 反対側からは川奈が剥いたバナナを差し出していた。これまた拓海がモゴモゴと食い進んでいた。王様もかくたるやと言わんばかりの様相だ。

 

「ちょっと待てよ!! そりゃ、俺達にはいねぇかもしれないけれど。あそこには人が住んでいるんだろ!?」

 

 これに異議を申し立てたのは厄師寺だった。彼も一通りの事情を聴いたのだが、やはり川奈の提案は呑み込めなかった。

 自分達の帰りを待つ者達がいないことは分かったが、だとしても。あの人工天体に住んでいる者達の大半は、特防隊のことも戦争のことも知らない者達だ。

 

「つばさ。それ、本気で言っている?」

 

 飴宮もかつてない程、キツイ口調で詰問していた。ただ、川奈は慌てる素振りも無ければ、気圧される風も無かった。

 

「な、なんで。急にそんな話を?」

 

 霧藤もまた困惑して、凶鳥や大鈴木達を見たが、彼女達もあまり反対している様には見えなかった。

 

「彼女の意見は極端にしても。現状、部隊長達と上手く関係を築けているから、そっちを気にする余裕があるんだよ。この間、ヴェシネスにアレだけの無礼を働いたのに、全員が生きて帰れている時点で相当に上手く行っている」

 

 蒼月が言うのは、川奈がやった不幸せなキスのことだろう。口直しに拓海に激しいキスがされていたが。

 

「いや、殺さずにいてやるだけ有難く思えって言われていた様な……」

 

 あの時のヴェシネスのブチギレ方は本物だった。霧藤には周回の記憶がある訳ではないが、アレは特に含みとかも無いマジモンのブチギレだった。

 

「我慢してくれているんだよね。凄くない?」

 

 そういう次元での話であるらしい。コレで上手く行っているというのだから、他のTLでは殺し合う位の関係しかないのだろう。

 そういった意味では、まさしく拓海は立役者なのだが。半分睡眠状態で蒼月と川奈から差し出される料理を食べている彼には、そんな威厳は微塵も見当たらない。

 

「狂死香ちゃん。他のTLではどんな感じだった?」

「色々としか言いようが無いでござる。皆殺しにしたこともあれば、返り討ちにされたこともあったでござる。ただ、人工天体では我駆力が使えないから、難易度は高いのでござるな」

「だから、フトゥールムから攻撃した方が勝率は高いんだよね。その場合、人工天体が持っているリソースは全部失われるけれど」

 

 川奈の追加補足によれば、フトゥールムから離れたら異血の力は弱まると言うことらしく、彼女が人工天体を破壊しようとするのは最も成功率が高いからと言うことなのだが、やはり賛同しかねる所はあった。

 

「現状、何もしてこないし。放置で良いんじゃねぇか?」

「現状はね。でも、これから何をして来るかは分からない。別のTLじゃミサイルも発射されない、脱出ポッドも出て来ないってことで最終防衛学園ごと爆破されたこともあったからね。これ【爆殺】TLって言うんだけれど」

 

 蒼月の説明に厄師寺が顔をしかめた。部隊長達は未だ話が出来るが、未だに人工天体にいるメンバーとは交流も取れないのだから、非人道的なイメージばかりが固まって行く。

 

「拓海はどうしたいの? ……って」

「Zzz……」

 

 飴宮の質問も聞こえていないのか。というか、完全に机に突っ伏していた。どう見ても、連れて来て良い状態ではなかった。

 

「拓海クンには後で説明しておくよ。多分、彼のことだから人工天体を滅ぼすって、選択はしないと思うけれど」

 

 ヨイショと拓海を抱え上げた。この様子なら、彼は多分。昼になっても起きて来ないだろう。そんなに寝不足になる程、頑張っていたと言うこともあれば、霧藤達も強く言う訳にはいかないのだが。

 

「でも、怠美達も拓海と一緒に行動していたのにピンピンしているよ?」

「怠美ちゃん。そもそも、澄野君は普段の睡眠負債が凄いことになっているんだよ。夜中に前後したり、部屋に侵入されたりと気が休まらない日々が続く中。ふと、安心しちゃったから、反動が来たんだろうね」

 

 面影がしたり顔で語っていたが、彼もまた睡眠負債積み立て要員なので、飴宮は渋い顔をしていた。

 

「なら、今日はもう寝かせておいてやろうぜ」

 

 厄師寺も仏心を出して提案する中、皆はニッコリと頷いていた。そうだね。寝かせておいてあげようね、と。

 

「ちなみに。侵入して、好き勝手をやろうというなら私がブッコロします」

 

 イヴァーも同じ様に笑っていたが、威圧感はバッチリだった。

 現在、特防隊メンバー最強である川奈すらも上回る戦闘力を持つので、彼女の目を搔い潜ってという気概がある者はいない。だが、意見する者はいた。

 

「ちょっと待って。イヴァーは今朝方、澄野に手を出そうとしていたのよ? 力で脅して、独り占めされたら堪ったモンじゃないけれど」

 

 川奈だ。彼女も言う通り、力ずくで独占というのは確実に禍根を残す。

 ひいては、今後の人工天体の対処についても影響を及ぼして来そうなので、飲み込めないと言った具合だったが、面影が手を挙げていた。

 

「なら、希ちゃんと一緒に監視して貰おう。流石に娘同然である彼女の前で『女』を見せる程、はしたなくはないよね?」

 

 押してもダメなら引いてみろ。と言わんばかりに条件を付け加えた。そこにはイヴァーの動きを牽制するだけではなく、交友を深め始めた霧藤への気遣いもあったのだろう。

 

「希も良い?」

「うん。任せて!」

 

 霧藤は力強く返事したが、納得している者ばかりという訳では無さそうだった。丸子が銀崎に耳打ちをしていた。

 

「なぁ、昨日から霧藤の奴。澄野と距離が近すぎないか?」

「NTR(寝取られ)もまた性癖の一つでしょう。見て下さいよ、僕の澄野さんを」

 

 あまりに泰然としていたので、今ばかりは銀崎のタフさが羨ましくあった。他にこの思いを共感できる相手を探した。今馬はと言えば。

 

「……ッチ」

 

 ストローを嚙み千切らんばかりに噛み締めていた。隣では、過子が不安そうな表情を浮かべている。

 雫原も表面上は穏やかそうに見えるが、内心はどんな物か。彼女の机の上には砕かれたクルミの殻が散乱していた。

 

「(どいつもこいつも話し掛けられる状態じゃないな)」

 

 人工天体云々よりも。自分達の方が危ういのではないか。と、ビビりの丸子の中には一種の不安が浮かび上がっていた。現在34日目、100日目を目指す上で。ようやく1/3を過ぎた頃だ。

 

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