最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】35日目 その2

 川奈から謝罪を受けた後、2人は無言だった。やはり謝った直後は恥ずかしいし、拓海も自らが吐いたセリフがクサいと思っていたのか、何とも言えなくなっていた。ただ、この沈黙は気まずいと言うことは無かった。

 

「(なんか。こう、真っ当になったら普通に意識するというか)」

 

 特防隊メンバーの女子陣と言えば、第2防衛学園は霧藤を除いて愉快な仲間位の印象だし、最終防衛学園のメンバーで言えば過子は可愛い妹分で飴宮は仲の良い同級生。

 今の所、異性として意識しているのは雫原位だったが、暴走車気味な所が鳴りを潜めてくれたら、川奈も魅力的だった。

 健康的に焼けた小麦色の肌、長く伸びたブロンドヘアーにほんのりと機械油の混じった臭い。そして、解放的な衣服から見える臍や胸元……。

 

「(今更だけど、凄い普段着だな)」

 

 ズボン部分を見ればツナギっぽく見えるのに、上半身の服はとんでもないことになっている。とは言え、彼女の胸元をジロジロと見ていることには直ぐに勘付かれたらしい。

 

「そろそろ、男を相手にするのも飽きて来たんじゃない?」

 

 川奈は拓海の手を掴んで、胸元へと持って行く。このまま仲直りックスへと発展してしまうのか。だが、和解直後にというのはあまりに節操がないのではないか? 欲望が有利すぎる状態でせめぎ合いが始まった。

 

『俺なんて仲直り直後に合体する芸を見せてやるよ』

『やめろッ。最終防衛学園の風紀が乱れているじゃないか。服を着なさい』

 

 理性も欲望もあまり品性を感じない野蛮人みたいな姿をしていたが、制止を掛けた理性は瞬く間に2人組の欲望にボコられていた。どうやら、欲望としては精子を掛けたいらしい。

 

「川奈……」

 

 スーッと2人の距離が詰まって行く。片を抱き寄せて、顔を近づけ、正に唇と唇が触れようとした直後。勢いよく、拓海の部屋の扉が開かれた。

 

「たっくん?」

 

 傍にイヴァーを控えさせた霧藤だった。髪を下ろして、白い制服を着ているので、『柏宮カルア』の姿まんまだった。拓海は慌てて後ずさっていた。

 

「か、カルア!? じゃなかった。霧藤!? なんで、ここに……」

「午後から一緒に過ごそうと思って誘いに来たんだけれど」

 

 ジロリと彼女の視線が川奈へと向けられていた。対する彼女は霧藤の隣にいるイヴァーを見て、小さく舌打ちをしていた。

 

「私と澄野の用事が終わった後で良い? 午後の予定も使うと思うけど」

「用事って何?」

 

 以前の彼女なら身を引いていた所だが、今の霧藤は攻撃的だった。

 拓海も何を言うべきか迷った。今から、合体する所だったんだ。なんて、口が裂けても言えない。

 

「川奈から今までのことを謝りたいって言われて」

「そうなんだ。ちゃんと、悪いと思っていたんだね」

 

 認める様に見えて、煽り立てる様な物言いだった。コレには川奈もカチンと来たらしい。

 

「先日まで澄野から距離を取っていたくせに、ちょっと助けられただけでヒロイン気取りって。随分、尻が軽いんだね?」

「でも、私には節操も常識もあるから。人にゲロはいたりとかしないしね」

 

 ギスギスだ。今までは、協定とか言うのがあったので積極的な対立というのは無かったが、霧藤には関係の無いことだった。川奈との間にバチバチと火花が散っている。

 

「あの。2人共、落ち着こう。な?」

「たっくん。私、落ち着いているよ? キレているのは川奈さんだけでしょ?」

「澄野の幼馴染のガワ借りて、喧嘩売って来る奴よりはマシだけどね」

 

 焼け石に水所か、火に油を注ぐだけだった。拓海は子犬の様な視線をイヴァーに向けたが、彼女は微笑んでいるだけだった。仲裁に入る気は無さそうだ。

 

「で、たっくん。川奈さんは謝ったの?」

「それは間違いない。ちゃんと謝っていたよ」

 

 彼女が自分の行いを反省して謝罪をしていたのは本当だ。ここら辺は誤魔化す必要も無いのだが、霧藤はニッコリとしていた。

 

「じゃあ、川奈さんの用事はもう終えているよね。午後からは私に付き合って欲しいな」

「まだ、全部の用事が終えたなんて言っていないんだけれど? 澄野はどっちを優先するの?」

 

 川奈が自分の体を押し付けながら言った。当の拓海はと言えば、生まれたての小鹿の様に震えていた。ここに来て、久々の選択肢だ。一緒に過ごすのは?

 『霧藤』。先日の一件以来、彼女との距離が詰まって来ているのは嬉しい。でも、それにしては積極的すぎるというか。そもそも、彼女はこんなにトゲトゲしかったか? 護衛の様に控えているイヴァーのことも気になる。

 『川奈』。今までは、好意が暴走気味だったけれど、抑えてくれた彼女はとても魅力的だ。……そんな彼女に下心が無い訳ではない。我ながら最悪なスタンスだとは思うが。

 『両方』。特防隊のリーダーとして、メンバーが抱える不和の解消には積極的になるべきである。2人の仲を取り持つのもまた役目のハズだ。

 

「(そうだ。それに両方を選んだとして)」

 

 きっと、優柔不断な自分に対して2人は憤りを見せるだろう。そして、自分は張り倒され、2人は部屋を去っていく。これが良いんじゃないんだろうか?

 上手く行けば2人の不和を解消できるだろうし、失敗しても自分が痛い目に遭うだけで、彼女達の溜飲も少しは下がるのではないか? と、このギスギスした空気から逃げ出したい一心が先走っていた。

 

「じゃあ、皆で一緒に過ごす。ってのはどうかな? 3人が良ければだけど」

 

 睨み合っていた2人がスンと黙った。お、これは。自分を張り倒して2人で『最低っ!』となって、何処かに行くパターンだろうか? と、拓海が期待した時のことである。

 

「よし! そうしよう! まず、私の用事からね!」

 

 ガバーっと! 川奈は拓海のパーカーを脱がした。あまりの早業に何をされたか分からなかったが、自分が全裸にされたことだけは理解した。

 

「川奈!?」

「澄野も過ごし方は言っていないからね!!」

 

 どうやら、川奈はやりたい子とやったモン勝ちスタイルを敢行することにしたらしい。青春でも許されない。

 霧藤が気恥ずかしさで両手を覆った瞬間を見計らって、川奈は拓海の腕を掴んで飛び出したが、コレをイヴァーが阻んだ。

 

「澄野を置いてけ色ボケが」

「食らえっ」

 

 何処に隠していたのか。川奈はポケットから非常に強い光源を発するライトをイヴァーの顔に向けた。

 実力では圧倒していても、突然の奇襲にはイヴァーも対応できなかったのか硬直した。しかし、川奈の好きにはさせまいと組み付いていた。

 

「うぉおおおおお!?」

 

 自室で暴れ始められたら拓海としても逃げるしかない。誰かの部屋にかくまって貰おうか。だが、待って欲しい。全裸の男性が駆けこんで来たら、どう思われるだろうか?

 

「(ど、どうしてこんなことに)」

 

 自分は川奈の謝罪を聞いて、彼女との仲を修復するつもりだった。

 それをあんな曖昧な答えをしたゆえに、彼女達を焚き付けてしまった。この全裸は自分の罪だとも言えよう。

 

「(まず、服だ。服を入手しないと)」

 

 とりあえず、娯楽室にあるプレゼントマシーンで服を作ろうとしたが、先客がいた。大鈴木を始めとした第2防衛学園女子陣に飴宮、過子、厄師寺もいる。

 

「希の奴遅いわね~。折角、皆でダンガンロンパ視聴会をしようと思ったのに」

「折角、コーラとか色々と用意したのでござるがな」

 

 恐らく、霧藤は自分をこの映画鑑賞会に誘いに来てくれたのだろう。

 もしも、自分がどちらかをキチンと選べば、こんなことにはならなかったハズだ。拓海は自らの愚を嘆いていた。

 

「(皆。ゴメン……)」

 

 だが、全裸で出て行く訳にはいかない。どうにかして服を入手する方法を考えたが思い浮かばない。ほとぼりが冷めるまでトイレに籠ることにした。

 ……この時の拓海は冷静と言い難かった。本当に冷静ならば、リラックスルームなどで水着を入手するという方法も考えられたが、全裸で徘徊する羽目になるとは思わなかったので、頭が回らなかった。そして、焦った時の行動というのは大抵が裏目に出る物である。

 

――

 

「あ」

 

 トイレには先客がいた。面影だ。彼は全裸の拓海を見ても騒ぎ立てる真似はしなかった。それ所か満面の笑顔を浮かべていた。

 

「なんだ。澄野君も全裸に興味があったのかい。服は虚飾だって言うのが分かった?」

「知らねぇよ!!」

「冗談だよ。大方、つばさちゃん辺りに服をはぎ取られとか?」

 

 相変わらず常識は無いが気遣いが出来る男。というか、ここまで来ると半ばエスパーめいている物があるが。だが、運が良かった。

 

「そうなんだよ。だから、その。面影、悪いけれど。オレの服を取って来て貰えないか? もしくは、今着ている服の一部を借りられないか?」

「お安い御用さ」

 

 すると、面影はするりと服を脱ぎだした。コレで何とか全裸は免れる。と、拓海が安堵したのもつかの間。同じく全裸になった面影は、自分が着ていた衣服をトイレの窓から投げ捨てていた。

 

「おぉおおい!!?」

「服、無くなっちゃったね……」

 

 電車、無くなっちゃったね。みたいなノリで言わないで欲しい。こうして、男子トイレには全裸モンスター2人が存在することになった。

 

「なんで、捨ててんの!?」

「折角、澄野君も全裸になってくれたんだから。一緒に全裸で過ごしたくてね」

「なりたくて、なった訳じゃない!!!」

 

 男子トイレ。全裸2人、何も起きない訳が無く。いや、既に何かが起きているから、こんな素っ頓狂なことになっているのだが。

 

「さぁ、澄野君。一緒に外に出よう。大丈夫。僕らは皆兄弟。何を恥ずかしがることがあるのさ」

「全てだよ!!」

 

 かくして、籠城を止めた2人はトイレを出た。すると、遠目に喪白と凶鳥の姿を見かけた。2人共、何かを探している様だ。

 

「まさか……」

 

 2人は映画鑑賞会の準備をしていたハズだ。もしかして、霧藤が帰って来ないか、彼女から事情を聴いて自分を探しているのだろうか。

 

「やっぱり、全裸徘徊は誰かに見られてこそ輝くよね」

「屋上に! 向かうぞ!!」

 

 自分の部屋に戻って良いか分からないにせよ、少なくとも面影の部屋に向かえば着る物位は見つかるだろう。

 かくして。思ってもいなかった未来へとアクセスしてしまった拓海は、自らの尊厳を取り戻すべく、かつてない程の危機に挑む羽目になった。

 

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