食堂。澄野を中心としたメンバーは和気藹々と朝食を取っていた。
昨日、皆で見たダンガンロンパの話題で盛り上がっているらしく、この学園では珍しい位に真っ当に学生らしい光景が繰り広げられていた。それを遠目に眺めるのは、昨日も集まっていたブービー共だった。
「どうして、私はあんなことを……」
「なんか。ヤバい物患ってそう! 一緒に保健室に行きましょうよ!」
今更過ぎるが、川奈は自分がしでかした蛮行を後悔して、机に突っ伏していた。そんな彼女に銀崎が気遣いなんだか、トドメなんだかよく分からない言葉を掛けていた。丸子も呆れるしかない。
「なんで『澄野は皆と楽しんで来て』って言えねぇんだよ!」
敢えて一歩引くことで、より距離を詰めることが出来たはずで。彼女は自らチャンスを放り投げたのだ。
死人同然の面でシリアルをモソモソと食べながら、川奈は自身の犯した愚行を振り返っていた。
「だ、だって。私。色々なTLで澄野と結ばれていたから、他の女に取られるのが許せなくて」
どういう訳か、この100日周回において彼女は異常な位に生存能力が高く、同じ様にして生き残り易い澄野と結ばれたTLは非常に多かった。
【デスゲーム】だの【ハント】だの言われているTLは勿論。【好きになっちゃったんだ】とか言う、恋愛リアリティーショーみたいなTLでも結ばれたし、【TS】でも結ばれたとか言っていた。
「でも、お前。別のTLじゃ『アダムキュー』とか『シオン』とくっ付いていたし。【百合】TLじゃ、霧藤とか飴宮とくっ付いていたし……」
「今の私は澄野が好きだから、別TLの結末はノーカンで」
こんなんだから人間関係が複雑骨折しかねない空間が出来上がっているのだが、それはさておき。彼女達の会話が聞こえたのか、こっちの卓にもゾロゾロと人が集まって来た。
「つばさちゃん。朝から死にかけているね。私は楽しかったけれど」
「自分も楽しかったっすね。でも、不思議っすよ。なんで、好意を抱いている相手にここまで狼藉を働けるか、自分にはまるで分らないっす」
ニッコニッコの面影に礼を言われ、今馬には罵声を浴びせられる。朝から沈んだ気持ちが更に沈む中、蒼月がコチラの顔を覗き込んで来た。
「君のせいで僕達まで変態扱いされるのは困るんだよね」
「アンタにだけは言われたくない」
川奈としても心外だった。そうして、皆が川奈を責めている様子を見て、雫原がクソデカ溜息を吐いていた。
「過ぎてしまったことを責めても仕方ない。問題は、この現状よ」
彼女が視線を送った先。そこにはセクハラも何も受けず、同級生達と仲良くしている拓海がいた。
困惑顔がデフォルトだったハズの彼が笑顔になっているのは、隣にいる霧藤の存在も大きいだろう。
「じゃあ、今日も皆で一緒に映画を見よう! 過子。ダンガンロンパっていっぱいあるんだよな?」
「うん! 前日譚の『ダンガンロンパ3絶望編』から、そのまま続編になる『ダンガンロンパゼロ』。霧切さんの過去を描いた『ダンガンロンパ霧切』とかね。ナンバリング的にも『ダンガンロンパ2』も良いかも!」
サラリと拓海側の方に着いた過子からの提案もあり、今日も彼らは映画観賞会を行いそうだが、これは由々しき事態だった。
「このままじゃ拓海クンが僕達と一緒に過ごす時間が無くなるじゃないか……!」
蒼月が腹の底から響く様な声で言った。ここにいる様子がおかしい組は独占欲が非常に強い為、出来ることなら独り占めしたいと思っているのだが、こんな風にシェアされる環境が整ってしまったら、叶わなくなる。
「私としてもね。偶に皆と仲良くしている澄野君を遠目に見るのは良いけれど、ずっと同じ様な状況が続くのは困る」
比較的おとなしい面影ですら眉間に皺を寄せていた。自分達が独占できる時間が減るのも問題だったが、最も避けねばならない状況というのがあった。
「このまま澄野先輩が、あの青春一直線の中でマトモになって。自分達との関係の健全化が図られたら、それこそ問題っすよ」
今馬が言うことに皆が頷いた。今の拓海は学生らしい過ごし方をしているし、傍から見ても健全という外無い。
だが、ここにいる様子のおかしい組は理解している。日ごとに体を重ねる相手を変える様な状況が真っ当であるはずがないと。
「誰のせいでこんなことになったんだろうね」
余程、強い殺意が込められていたのだろう。蒼月が霧切に視線を向けた時、彼女の傍に立っていたイヴァーに睨み返された。
「普通の関係か……」
コレには丸子も眉間に皺を寄せた。このまま澄野が真っ当に過ごして行けば、誰と結ばれるかは想像がつく。その為に、自分達との関係が清算されかねない。
「じゃあ、どうする? 私達も映画観賞会に混じる?」
半ば自棄気味に川奈が言った。誰も頷かなかった。
日常の中に拓海がいるだけで良いという状況で満足する段階は当に過ぎている。今では、離反した様に見える第2防衛学園女子陣も本心では何を考えていることか。
「イヴァーがいるから、霧藤さんをどうにかすることは出来ない。だとしたら」
「澄野先輩の方をどうにかするしかないっすよね」
蒼月と今馬の視線が拓海に向けられた。当の本人は周りと話すことに夢中で、彼らの視線には気付いていなかった。
~~
「(なんだか、霧藤が戻って来てから。毎日が楽しいな)」
拓海は上機嫌だった。昨日は川奈が謝罪してくれたし、霧藤達と一緒に面白い映画も見られた。部隊長達とは殺し合わなくても良いし、奇妙な話だが。現在は非常に平和で文化的な生活が送れていた。
今日も午後から映画鑑賞会をすると言うことで、拓海は自室のベッドで横になっていたのだが、チャイムが鳴った。ドアを開けると今馬がいた。手にはバッグが握られている。
「ちわーっす」
「お、今馬かどうしたんだ?」
昨日の出来事がサッパリ抜け落ちているかのような素面さに多少の違和感はあったが、今馬は気にせず拓海の隣に腰掛けた。
「先輩。最近楽しそうっすね」
「まぁな。昨日は皆で映画鑑賞会をしてさ。過子も来ていたし……」
お前も一緒に来ないか? と勧誘を掛けるよりも先に、今馬が距離を詰めて、拓海の膝に乗っていた。
「澄野先輩は霧藤先輩のことが好きなんっすか?」
「えっと……好きかどうかって言われたら好きだとは思うけれど、恋愛とかそう言う感じかどうかはまだ分からなくて」
気恥ずかしさから頬を掻いていた。クルリと今馬がコチラを向いて、対面座位の様な体勢になっていた。
「それで。霧藤先輩と恋人にでもなったら。自分達とはどう接するつもりで?」
「どうって。そりゃ、友人として」
と、言い掛けた所で口を塞がれていた。いい加減、この感覚にもなれて来た物で、直ぐにキスされたのだと分かった。と言っても、唇が触れる程度の軽い物で、舌が入って来たりはしなかったが。
「先輩は、恋人もいるのに同性の友人とキスしたりするんですか?」
言葉に詰まった。もしも、自分が霧藤とそういう関係になったとしたら。今まで、身体を重ねて来た相手との関係はどうなるのか。
「(言えない)」
彼らが自分のことを想ってくれていることも、これが彼らの愛情表現だと知っているから、こんなことはもう止めないか。とは言えなかった。だからと言って、不特定多数の相手と関係を持つことも引っ掛かる。
「自分ね。澄野先輩に普通になって欲しくないんですよ。ちょっと押せば、後輩にも興奮する様な……。それ位、だらしない存在でいて欲しいんですよ」
背中に手を回された。もしも、以前までの拓海ならばそのまま行為に移行していただろう。
「(待て。待つんだ)」
時間的に間に合うだろうか。そもそも、後輩を抱いて来た後で何食わぬ顔で一緒に映画を見ている自分を皆や霧藤はどう思うだろうか?
誰かに関心を持つ。と言うことは、その誰かにどう見られるかということまで気にする訳で。霧藤によく見られたい、と思うのは実に普通な考え方だった。
「(どうするべきだ)」
拓海の中に選択肢が出て来た。昨日に引き続き、最近は事態がよく動く。
『抱く』。今まで通りの選択だ。1ヶ月ほどの間で染まり切った感情と欲望に従うべきか。今馬が持って来たバッグも気になる。
『しない』。そんなことをしていたら間に合わないかもしれないし、夜にでも時間をずらして貰えば良い。……それをさせない為に、この時間に来たのだろうが。
「(オレが選ぶべきは)」
霧藤や普通の人達と一緒にいる普通の学園生活か。それとも、自分と一緒に居て欲しい彼らと共に在るべきか。これまでの積み重ねとこれからのどちらかを選ばされている様にも思えた。