ヴェシネスに拉致された拓海が目を覚ました時、自分がベッドに寝かされていることに気付いた。傍には人の気配があった。
「澄野、大丈夫?」
ヴェシネスの様な威圧的な声ではなく、かと言って特防隊の誰とも違う。包み込むような慈しみに満ちた声だった。
「君は……」
声の主は女性だった。彼女の顔には見覚えがある。1周目の世界で捕虜として投降して来たが、脱獄した後は何時の間にか死んでいた。
「イヴァー。澄野、私のこと。憶えている?」
奇妙な質問だった。この世界で彼女と出会うのは初めてだというのに、既に自分のことを知っているかのような聞き方だった。
「えっと。オレ達、何処かで会ったっけ?」
「そっか……」
拓海の返事を聞くと、彼女は悲しそうに目を伏せた。
不思議な感覚だった。目の前にいる女性は名前しか知らないハズだというのに、どうしてか。その悲しそうな顔をどうにかしたくて手を伸ばした時、乱暴にドアが開かれた。
「起きたか。スミノ」
「ヴェシネス……!」
先程とは打って変わって、部屋内が緊張に包まれた。質問したいことは大量にあったが、今の自分にはどうすることも出来なかった。
「付いて来い。他の者達にも事情を説明してやらねばならんからな。お前も聞きたいだろう?」
「その前に確認させろ。特防隊の皆に手を出してはいないだろうな?」
「慌てるな。直ぐに分かるさ。イヴァー、お前も付いて来い」
ヴェシネスとイヴァーに挟まれた拓海は何処とも分からない場所を歩かされた。人の気配は殆ど無かった。辿り着いた先で、ようやく人影らしい物を見つけた。数にして9人。
「ヴェシネス様~! ついに捕まえて来たんですね~!」
こちらに向かってピョンピョンと飛び跳ねながら近付いて来る者がいた。
声質的に女性だと言うことは分かるが、部隊長である以上は1周目で交戦したことのある相手なのだろう。
「ああ、良かった、良かった。やはり、貴方はこちらにいるべき存在だ」
今度は逆に落ち着きのある男が近付いて来た。しわがれた声からして、年長者だろうか。いずれにしても敵意らしきものは見当たらない。
一体、どういうことだろうかと疑問符を浮かべていると。ヴェシネスが悠々と語り始めた。
「今日より、スミノ タクミは愚劣なる人類の束縛と洗脳より解き放たれ、我らの同志となることが決まった」
「待て!!!」
10段階くらいすっ飛ばされて話が進められていた。先日まで、殺し合いをしていた仲だというのに、幾ら何でも改善が過ぎる。どういう気の変わりようだ。というか、何も説明になっていない!
「何が不満なんだ。偉大なる私が、誰かを迎え入れるなんてことは滅多にないのだぞ」
「その……俺と! お前は! 敵同士! だろ!!」
「誰が決めた? 少なくとも、私達はお前を害するつもりはないが」
そう言われたら、拓海も振り上げた拳の下ろし所を迷うばかりだ。
そうして、固まっていると抱え込まれた。我駆力が無い状態では、膂力で敵う訳もなく身動きが出来ずにいると、部屋内のモニタが起動した。カメラらしき物もあり、今の自分達を見せつける様にしてズームされていた。
「おい、淫獣共。見ているか? お前達が懸想している、スミノは私の腕の中にある。交尾位にしか興味が無い連中だとしても、偉大なる番の営みを見て、自身を慰めること位は許可してやろう」
「何を言っているんだ!?」
人質を使った交渉をするかと思ったら、変な話にすっ飛んでいった。
すると、モニタの映像が切り最終防衛学園側の光景が映し出された。そこには最初にやって来た部隊長がひん剥かれ、頭の後ろで手を組まされ、マスクだけを被らされた状態で蹲踞のポーズを取らされていた。隣では今馬が中指を立てていた。
『オラッ! 二枚舌の蛮族共が! 澄野先輩返さねーと、次に攻めて来た奴にも同じことしてやるからな! この星の英雄は変態の集まりだってな!!』
殺していないだけマシかもしれないが、尊厳的な物はぶち殺されていた。コレには拓海も絶句する外無かった。他の奴らは止めなかったのかと。
すると、画面端から頭巾を被った侍が現れた。手には竹刀。背格好からして、どう見ても凶鳥だった。
『イヤーッ!!』
すると、彼女は蹲踞のポーズを取っていた部隊長ことムヴヴムの背中を全力で叩いていた。ペッシーン! と良い音が鳴った。悲鳴が上がった。
『ぎゃああああ!!! こ、この変態共が!!』
『変態は貴様らの方でござる!! こんなNTRレターを見せて来るだなんて。こっちは捕虜拷問SMショーで対抗でござるよ!!』
お前の評判が退行するだけだと言いたかったが、ここに来て新たな参加者が現れた。
特防隊の中でも一際小柄で、卑屈BOYだったハズの銀崎が筋骨隆々な姿となり、ボンテージスーツを着込んだ上で、手にはプレゼントマシーン製のムチが握られていた。
「銀崎……?」
『本当は心が痛みますが、痛みに慣れている人間と言うのは、往々にして相手を痛める術を知っていると言うことです。従順になるまでやらせて頂きます』
お前のアレルギー設定何処に行った? と言わんばかりに、銀崎は苛烈な攻めを見せていた。捕虜虐待にしてもやりすぎだ。
「な、なぁ。ちょっと、お前らやり過ぎじゃないか? 殺さないのは良いけれど、だからと言って何をしてもいい訳じゃ……」
『あぁ、スミノ! 僕のことを心配してくれるのか!』
『うるさいですね』
『銀崎先輩! コレ! ジョロキアスープが沁み込んだ熱々の大根だよ!』
画面端から現れた過子が、真っ赤に染まったおでん出汁の入った鍋を持って来ていた。銀崎はムヴヴムのマスクを少しだけ捲り上げて、ジョロキアお出汁が滴る熱々大根を食わせていた。勿論、熱々のお出汁はムヴヴムの裸体にも降り注いでエグイことになっている。
『ンンンンン!!!!』
「皆。ダルシャーの息子ムヴヴムは果敢に戦って死んだ。あそこにいるのは公開露出が趣味の変態だ」
「そりゃねーだろ!!」
NTRレターを送ったら、今度は捕虜拷問レターが送り返されて来た。全てを見なかったことにしようとしたヴェネシスに対して、部隊長の1人『アダムキュー』が抗議をしていた。
「では、お前が敬愛するダルシャーの子息の末路がアレで良いのか?」
「良くはないけどよ。なら、俺が助けに行く!!」
よく、あの光景を見た後で助けに行くつもりになるな。高確率で木乃伊取りが木乃伊になりそうだったので、別の女性部隊長『パクロン』が止めに入った。
「キュー。あの変態防衛アサイ・ラム学園に行くのは止めた方が良いんじゃ」
「ダルシャー様のご子息が変態マゾ露出狂にされて、我慢できんのか! 心配すんな! 絶対に無事に帰って来るからよ!」
止めておいた方が良いんじゃないかなと。拓海まで口に出しそうになっていた。すると、控え目に肩を叩かれた。イヴァーだ。
「貴方の友達。変な人ばっかりだね……」
「言わないでくれ。アレでも大切な奴らなんだ」
「では、次鋒はアダムキューに任せるとしよう。精々、私を満足させることだ」
ヴェシネスは尊大に言ってみせたが、どうなるかは簡単に予想できた。なので、パクロンも一緒に付いて行った。
「結局、何も分からないんだが……」
「詳しい話は私の部屋でしてやろう。他の者達には聞かれたくは……いや、イヴァー。お前だけ付いて来い」
「……分かりました」
きつく口を結んでいた。場所は変わり、今度はヴェシネスの私室と思しき場所へと訪れた。豪奢な部屋を予想していたが、思いの外質素だった。
「まず、何処から話そうか。いや、そもそも。スミノ タクミ。お前はどれ位、この戦いについて知っている?」
「どれ位か……」
隠し立てする意味も無いので概ねを話した。1周目では部隊長達を全員倒したこと、ヴェシネスも倒して人類側の勝利で終わったこと。同時に、自分達が守っていた施設の正体も知った。
「なるほど。貴様が知っているのは、そこまでか」
「そこまでか、って。お前は何か他に知っていることがあるのか?」
1周目の世界におけるヴェシネスは尊大で傲慢な女性と言う印象しかなかった。ただ、目の前にいる彼女は違う。思い上がりでなければ、好意に近しい感情すら感じられた。
「例えば、お前が2周目だと思っている世界は既に何周もした後の世界で、その間に。私やイヴァーと愛の契りを交わした、とかな」
「なっ!?」
自分が、この女と!? そんな方面から切り込まれると思わず、拓海は赤面していた。助けを求める様にして見たイヴァーからは熱っぽい視線が返って来るだけだった。いや、いや。お色気で流して良い話じゃない。
「オレが何周もしているって?」
「そうだ。他ならぬ貴様の口から聞いた。他の誰にも話せぬこととな」
スッと包むように顔に手が添えられた。自分が、そんな関係を築いていたことが信じられなかった。だが、次の瞬間。頬に添えられていた手に力がこもった。
「そうやって、私以外の奴らにも愛やら秘密を囁いていたのだろうな。ここから先は慎重になれよ。でなければ、お前を壊す」
「そ、そんな。しらな……」
そんなことを言われても拓海としては知ったことではない。やはり、イヴァーに助けを求めてみたが……。
「澄野。人のことを孕ませておいて、他に女を作ったって言うなら。ソイツらをブッコロします。霧藤ちゃん以外」
「孕ませ!? ちょっと待って、本当に知らな……やめ」
現在、部屋内でヒエラルキー最下層へと追いやられた拓海は、先程の映像で送られて来たムヴヴムの痴態を上回る痴態を晒される羽目になった。……ちょっぴり、大人になった。