最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】38日目

 結局。昨日は、霧藤達と一緒にダンガンロンパゼロの上映会をして1日を過ごした訳だが、連続上映会は体力的にもきつい。と言うことで、今日はお休みとなった。

 

「(昨日は蒼月達が何か目論んでいたみたいだけど)」

 

 将を射んとする者はまず馬を射よ。と言わんばかりに、霧藤ではなく彼女の周りを固める周回組。即ち、第2防衛学園女子グループから攻略していくつもりだだろうが。

 

「(何をするつもりか、分かったモンじゃないな)」

 

 現在、最終防衛学園は様子がおかしい組とマトモ組で二分されているが、後者の勢力は非常に脆弱だ。何がきっかけで崩れるか分かった物じゃない。

 そもそもの話、凶鳥達だって周回組ではあるのだ。他の者達と同じ様に自分に対する好意はあるのだろうが、どうして。それを抑制できるのか? というのは、拓海自身も疑問に思っていたことではある。

 

「(好かれていることが前提。ってのは、あまりに思い上がっているけれど)」

 

 ただ、皆のアプローチを考えるに、そう思っておくことは自衛にも繋がる。

 好意という感情を嘗めて掛ると、どんなことをされる分かった物じゃない。というのは、銀崎や川奈から思い知らされている。

 

「(放っておきたくは無いけれど、どうアプローチしたモンか)」

 

 人の好意について詮索するのは行儀が良いとは言えないし、むしろ、本心を奥深くに隠してしまう可能性がある。となれば、正面から聞きに行く訳にはいかない。人伝に当たるという方法を採る方が良いか。

 

「(となると。同グループの同性に頼むっての一番だが)」

 

 当然、霧藤や本人達に聞ける訳がない。いや、1人。デート的な物も無く、こういう愚痴みたいな物を語ってくれた人間がいる。ならば、彼女に頼ってみるとしようか。思い立った拓海は直ぐに行動を開始した。

 

~~

 

「澄野君から接触して来るなんて珍しいじゃな~い!」

「悪いな、喪白。トレーニング中なのに」

 

 リラックスルームに足を運ぶと、ペンチプレスをしている喪白が居た。まだ、始めたばかりだったのか、汗も浮かんでいなかった。

 さて、何から話すべきかと悩んでいると。喪白は、何処からともなくプロレスラーのお友達ことパイプ椅子を二つ取り出して、広げた。その片方にドスっと腰を下ろして言った。

 

「狂死香ちゃんとくららちゃんのことでしょ?」

「お見通しって訳か」

「そりゃそうよ。プロレスラーって言うのは対戦相手と観客。色々な人と通じ合ってこそだからね!」

 

 用意された椅子に腰掛けた。唯一、1周目で縁の無かった彼女に相談するというのも奇妙な話だが、縁が薄いからこそ相談し易いこともあるかもしれない。

 

「蒼月達がおかしな動きをしているけれど、具体的に何をするかは分からなくてさ。多分だけれど、アイツらのことなら喪白達の方が詳しいと思って」

「あ~。まぁ、やっぱり動くか」

 

 喪白に驚いた様子は無かった。予想さえしていたかのような反応を見るに、これも周回内であったムーヴなのだろうか。

 

「やっぱりって?」

「そりゃ、澄野君と希ちゃんが近付いたからよ。無視できなくなったのよね。だとしたら、次は脇を固めるアタイら狙いってワケ。このパターン多いから、皆も結構団結はするんだけど……」

 

 言葉を濁した。団結することが多い。と言うことは、必然的に相手側も崩し方を知っていると言うことである。

 

「ちなみに、今までの周回で崩されたことは?」

「割と……。アタイ達、知略も暴力もイマイチ足りないのよね」

 

 喪白がしょげていた。以前に愚痴でこぼされたこともあったが、やはり染み込んだ敗北感や劣等感は根深い所にあるらしい。

 

「でも崩された方が分かっているなら防ぐことも出来るんじゃないの?」

「そこは、ホラ。澄野君も一緒にダンガンロンパ3絶望編を見たでしょ? 分かっていても、感情は思い通りにならないの」

「恋心でも利用するつもりか?」

 

 喪白が静かに頷いた。今は鳴りを潜めている様に見えるが、凶鳥や大鈴木。何なら、喪白や過子にだってあってもおかしくは無いのだ。

 

「希ちゃんに幸せになって欲しい思いはある反面、自分じゃ無理なことをやって貰おうって気持ちもあるのよね。ほら、人の恋路を応援したくなるような野次馬根性っていうか」

 

 分からなくもない。実際に自分が恋愛をするのと違って、失敗した時にダメージは無いし、無責任に囃し立てるのは楽しい。ただ、本当にそれで満足するのだろうか?

 

「喪白以外の2人も?」

「まぁね。それに、アタイ達。21日目の防衛の際に、まんまと侵入を許しちゃって、攫われちゃった訳でしょ? その負い目もあってね」

 

 そこまで考えた上で霧藤を誘拐したとしたら、イヴァーは相当に先を見据えて行動を起こしていたのだろう。

 もしも、これが他人事の話ならば、拓海も応援していたかもしれない。だが、当事者である以上は『諦めるなよ』等、無責任なことは言えなかった。

 

「こんな状況で崩される。なんて、何されるんだ?」

「焚き付けられるのよ。妨害じゃなくて、応援をされるのよね。澄野君には想像できないかもしれないけれど、女の友情ってかなり危うい物なのよ」

 

 カルアからも聞いていたが(仮想世界の話だとしても)、女子同士の関係は自分達がどう思うかだけではなく、周りからどう見られるか? 等も計算に含まれるため、そりゃもう煩雑な物であるらしい。

 

「一応、聞いておくけれど。オレに出来ることはあるのか?」

「しっかりと思いを受け止めて上げて欲しい。アフターケアはこっちに任せて」

 

 戦闘面においては何処か頼りげなく見える喪白だが、こういった人間関係のケアにおいて、彼女はこの上なく頼もしい存在に見えた。

 

「分かった。ありがとうな、喪白。でも、なんでここまで親切に?」

「皆の幸せを願っていることもあるけれど。……今、この集団にいるのが心地いいからね。ここだけの話、アタイ。様子がおかしい組のことがあんまり好きじゃないから。そう言えば、この間もつばさちゃんがね」

 

 ホッとした。無償の優しさは勘ぐってしまうが、自分にとって心地良いスペースを確保する。という、俗っぽい考え方は拓海も理解できる所であった。

 なので、下手に刺激をしない様に喪白と一緒に過ごそうと思ったのだが、超人も驚く位に愚痴が湧き出て来る。不満の源泉かって位に湧き出て来る。

 

「面影君も全裸で徘徊するし、過子ちゃんがいる手前。強く言えないけれど、今馬君も臭いきついし! てか、澄野君と厄師寺君以外、男子全員が臭い!! もう、こんなの男死よ!! 男死!!!」

「(こ、これさえなければいい奴なんだけれど)」

 

 考え方次第じゃ、普段からこれ位の不満を抑えてくれているってことなのだが、自分が吐き場所になれば良いなと思いながら、拓海は曖昧に相槌を打っていた。

 

~~

 

「拙者を翻意させるつもりでござるか?」

「翻意だなんて人聞きが悪いっすね」

 

 偶々、図書館に来て漫画を探していた凶鳥を捕まえたのは今馬だった。この場には拓海も過子もいないので、彼女は敵意を隠そうともしなかった。

 

「短い付き合いではござらんからな。幾ら、拙者がマヌケだろうと、お主達が離間を図っていること位は分かる」

「離間なんて難しい言葉を覚えたんっすね。でも、それで良いんっすか? 自分、よく澄野先輩の部屋に行くんっすけどね。行く度に漫画増えているんっすよ。TOUGHとか、猿渡先生の作品。アレ、勧めたの凶鳥先輩でしょ?」

 

 ピクリと反応した。かなり初めの方に勧めて、飽きたりしているじゃないんだろうかと思っていたが、彼は未だに読み続けてくれていたのか。

 

「それが、どうかしたか」

「そりゃ、凶鳥先輩は防衛戦でもあまり強くないし、イヴァーに気絶させられたし、面影先輩や大鈴木先輩みたいに特殊な技能がある訳でもないし、喪白先輩みたいにコミュ力がある訳でもないけど」

「酷くない!?」

 

 自覚しているからと言って、言われても傷つかないかどうかは別の話だ。

 喪白と同じく戦闘員ながらも碌に活躍できないうえ、何なら喪白には皆をまとめるコミュ力も無い。ただのオタク侍モドキがいるだけだ。

 

「それでも、凶鳥先輩は澄野先輩の趣味って部分に潜りこめているんっすよね? こっちじゃ誰も出来ていないのに」

「拙者らは、そちらと違って清い関係を築いているからな。これで十分でござるよ」

 

 共通の趣味で盛り上がって、楽しい時間を共有できる友人がいる。それだけで十分だと。言った彼女に、今馬は詰め寄った。

 

「本当にそれで十分なんっすか? 自分達や霧藤先輩に敵わないからって、妥協しているんじゃないんっすか?」

「だとしても、指図される謂れは無い」

 

 一見、毅然としている様に見えるが、今馬には直ぐに分かった。彼女は図星を突かれて、目を背けているだけだと。

 

「じゃあ、今日はここまでにしておくっす。……ただ、1つ言っておくことがあるんっすよ。あ、そうだ。じゃあ、自分が読んだ漫画のお気に入りのセリフを言っておくっすね。多分、先輩でも分かるセリフっす」

 

 何か強烈に後押しをするセリフでも言うのだろうか。それとも、諦めたら云々とか言う、少年漫画に興味がない奴の典型的なセリフを吐くのかと考えていると、今馬は耳元で言った。

 

「今は悪魔が微笑む時代だ…」

 

 凶鳥はこのセリフを知っている。某有名世紀末バトルマンガで、主人公の兄貴が主人公の友人を狂わせるために言った物だ。

 彼の言葉に乗ってしまった友人は主人公を暴力でねじ伏せて、恋人を略奪するという蛮行を犯してしまうのだが、奇しくも今の状況にぴったりだった。

 

「拙者は孤独な鷲にはならんよ」

「そうっすか。じゃあ、自分は友情か恋か。どっちが勝つか見守らせて貰うっす」

 

 と言って、今馬も去って行った。彼が去ってしばらくした後、凶鳥は先のセリフが出て来たマンガを手に取った。

 主人公から恋人を略奪した友人は、今際に己の愚かしさを知る。最初に読んだときは、彼の短絡的な行動に憤りさえ覚えた物だが、今の自分には痛い程気持ちが分かる。

 

「(希殿は友人として大切に思う気持ちはある。だが、2人が結ばれた拙者はどうなるのだろうか?)」

 

 2人は仲睦まじく過ごすだろう。100日が過ぎればリセットがされるとは言え、自分は結ばれた後の残り日数、彼らの営みを見せつけられるのか。

 友人として認められるだろうか? 少ないながらも、澄野と結ばれたTLを経験している彼女にとって、それは堪えられるだろうか?

 祖父が自分を置いて先に逝ったように、また孤独になるのだろうか。……少なくとも、様子がおかしい組の面々が拓海に拒絶されたという話はあまり聞いていない。銀崎と川奈は別にして。

 

「いかん! 余計なことを考える余力があるからこんなことになるのでござる。今日は、北斗の拳の再履修でござるよ!!」

 

 自分に言い聞かせる様に呟いて、凶鳥は図書室に置かれていた北斗の拳を積み上げて、暫し読書に興じていた。

 

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