最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】40日目

 目を覚ました。どうやら、自分はソファの上で寝ていたらしい。部屋の色調がいつもと違うので見回してみれば『風林火山』やら『友情』『努力』『勝利』と書かれた掛け軸が飾られており、刀掛けには聖十文字刀。

 

「(オレ、凶鳥の部屋で寝落ちしていたのか?)」

 

 机の上に積まれたコミックス。そして、ベッドの上には静かに寝息を立てている凶鳥の姿。恐らく、卑猥なことは何もしていないだろうがあまりよろしくない光景ではある。

 時計を確認すれば、朝食の時間。誰かが誘いに来るのも時間の問題だろう。ここで、拓海は目覚めたばかりの脳をフル稼働させていた。

 

「(まさか、このタイミングで霧藤がやって来てあらぬ誤解を……。監視カメラは)」

 

 ここは凶鳥の部屋なので、そんな物が取り付けられている訳がない。

 こういう時に身の潔白を証明する為にも自分の部屋に招いた方が良いと、次回に活かすにしても今はどうするべきかだ。

 

「(焦るな。ここで飛び出して鉢合わせとかになったら気まずい。だけど、モタモタしていたら来る可能性がある)」

 

 扉を少しだけ開いて外の様子を見た。凶鳥のプレハブから二つ隣が霧藤のプレハブになっているのだが、扉を開けて喪白と話している所だった。

 

「詰んだ……」

 

 静かに扉を閉じたが、こちらに来るのは時間の問題だろう。先日の今馬みたいに隠れるべきかと思ったが、ここで改めて思い直した。

 

「(いや、待てよ? 別に、オレはやましいことをしていた訳じゃないし。そんなに怯える必要なんてないじゃないか)」

 

 あの時の今馬はエッチな恰好をしていたのでアレだったが、凶鳥はいつも通りの制服らしき物を着ているし、自分だっていつものパーカーだ。猥褻さを感じさせる物は一切ない。

 

「(それに、変に取り繕おうとするから怪しまれるんだ。堂々と凶鳥を起こして、2人で食堂に行けばいい)」

 

 喪白が居たのは幸いだ。霧藤だけなら誤解されるかもしれないが、間に彼女が入ってくれるなら、弁解の余地は十分にある。

 と言うことで、凶鳥を起こそうとしたが、昨日の今日だ。意識するなと言う方が無理がある。

 

「(雫原と違ったベクトルの黒髪美人だよな)」

 

 普段は下ネタや漫画のパロディを絡めたセリフを吐きまくるので、色物感があるが、黙っていたら実に大和撫子的な美しさがある。

 未だに柔道着に書かれているのが『侍』ではなく『待』なのが気になるが、一旦意識の隅に置いといて、彼女を起こすことにした。

 

「おい、凶鳥。起きろ」

 

 身体を揺さぶる等のボディタッチは控える。声量も起こす程度に留めておく。

 だが、余程いい夢を見ているのか。あるいは厭夢辺りに血鬼術でも食らっているのか。凶鳥は起きる気配が無かった。

 

「おーい?」

 

 初動は良かった。冷静に対処しようとしていたが、彼女が直ぐに起きなかったこと。そして、ピンポーンと鳴ったので焦ってしまったのだろう。

 

「おい、凶鳥。霧藤達が迎えに来たぞ」

 

 彼女の体を軽く叩いた。すると、よろよろと上体を起こした。ただ、焦点は定まっていない。ぽやぽやしている。

 

「はぇ。澄野殿、なんでここに……」

「多分、寝落ちしちゃったんだろうな。ほら、霧藤達が迎えに来て」

 

 と、言おうとしたら。布団の中に引きこまれた。何が起きたか分からず困惑していると、凶鳥は儚げな雰囲気で言った

 

「もうちょっと、このままで……」

「急に語尾とるな」

 

 可愛いと思っちゃうだろ。と言おうとしたが、何回押しても出て来ないのを不審に思ったのか、扉が開けられた。霧藤が入って来た。

 

「狂死香ちゃん。全然、起きて来ないけれど。大丈夫?」

 

 これは失念していたことだが。凶鳥は自分よりも真面目で、生活リズムも整っている。だから、本来は彼女がこの時間まで寝ていることはあり得ないことで。

 万が一の可能性を考えて、出なければスルーされるのではないかと思ったが、そうはいかなかった。そして、現在の状況はと言えば。

 

「「「…………」」」

 

 寝起きの凶鳥が拓海を布団に引き込んでいる訳で。それはもう、朝からあまりに重たい沈黙に支配されていた。

 

~~

 

「おい。なんだよ、この空気」

 

 食堂。まとも組のテーブルはずっしりと重たい空気に覆われていた。堪り兼ねた厄師寺が喪白に説明を求めていた。

 

「後で説明して上げるから……」

 

 口にするのも憚られる空気だった。大鈴木、過子、飴宮が凶鳥に、イヴァーと喪白が霧藤のフォローに回っているが、中々に状況は苦しい所だった。

 

「(オレはただ。凶鳥と一緒に漫画を読んでいただけなのに)」

 

 飴宮や喪白達からもシッシと手で払われる仕草をされた。どうやら、自分が入ったらややこしくなるのであっちに行けということらしい。

 あっちこと、様子がおかしい組は満面の笑顔でコチラを見ていた。どう見ても、目論見が上手く行ったような感じだった。……仕方なく、向こうに行った。

 

「大変っすね~」

「お前のせいなんだよなぁ……」

 

 今馬がニコニコしていた。と言っても、今は些細な誤解が生じている位なので、直ぐにでも元通りになるとは思っているが。

 

「でも、拓海クン。狂死香さんには狂死香さんの想いがあるはずなんだ。それに素直になって、何が悪いんだい?」

 

 蒼月がすまし顔で言っていたおかしなことを言っていないので、何も言い返せないのが余計に腹が立った。

 

「やっぱりね。自分の恋は自分で成就させないと。周りを気にする必要なんてないんだからね」

 

 朝からコーラとバーガーと言うメリケンスタイルをキメている川奈は実に上機嫌だった。もっと周りを気にして欲しい奴筆頭の意見は説得力が凄かった。

 

「でも、澄野さんが責任を感じる必要はありませんよ。川奈さんも言う様に、凶鳥さんは自分の気持ちにはもっと素直になって欲しいですね」

「お前はもう少し、自制を覚えて欲しいんだが」

「嫌です……」

 

 ちょうど、友人と自分の気持ちの狭間に思い悩んでいる凶鳥のいじらしさと自己主張しかない銀崎が合わせればいい具合になるかもしれないと思ったが、後者が強すぎて多分いじらしさは消滅していることだろう。

 

「変に間を取り持つより、2人の仲を見守った方が良い。という訳で、午後は私と一緒に過ごさないか?」

 

 こういう時の面影は割と友人思いなのだが判断に悩むところだった。とは言え、一度致した相手と過ごしたら、何と思われるか。

 という線で行くなら、女子と一緒に過ごすのもアレだし、ねちょねちょ経験がある相手とも過ごすのはアレなので、残された相手と言えば。

 

「僕の時代。来ちゃいましたか?」

 

 この小学生くらいの身長しか持っていない、リアルひでと一緒の時間を過ごすというのか。と思ったが、実際に襲って来た連中と比べたら未遂でしかないし、相対的にマシかもと考えていた。

 

「澄野!? 何を言っているの!? 貴方のことも考えないで、自分の欲望を押し付けて、実力行使して来た奴がマトモな訳無いじゃない!」

「凄い説得力だ」

 

 川奈が必死に助言をしてくれたが、今更気にするレベルではないのかもしれない。……それに、色々と言いつつも。凶鳥のことを気に掛けてくれている、彼の思惑が気になったというのも事実だった。

 手早く食事を済ませて、午後からは銀崎と一緒に過ごすことにした。……今度は自分の部屋で、だが。

 

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