最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】41日目

「(どうしてこうなった)」

 

 数日前、自分達は楽しく朝食を取りながら何をしようか。と、楽しく過ごしていたハズだ。なのに、今は空気が重い。

 霧藤と凶鳥で二分されているし、その真ん中にいる自分はどちらにも行けない。かと言って、おいでおいでと手招きしている様子がおかしい組の所に行けば、自分の薄情さが際立ってしまう。

 

「(そもそも、オレのせいなんだが)」

 

 この期に及んで彼女達の心配よりも、自分がどう思われるかと言うことを念頭に置いてある辺り、あまりの浅ましさに自己嫌悪に陥りそうになった。

 そんなことを考えて動けずにいると肩を叩かれた。こういう時に助け舟を出してくれるのは面影や雫原などが多いのだが、振り返ってみればクソデカい青いトマト頭が一つ。

 

「澄野。ちょっと、カレーの面倒を見るの手伝ってくれる?」

「あ。あぁ……」

 

 トボトボと付いて行きながら薄っすらと理解していた。

 大鈴木はカレーについては一家言があるレベルで拘っているので、誰かに手伝わせたりするなんてことは殆ど無い。コレは自分を誘い出す為の口実だ。

 

「いつまで、この空気で居させるのよ」

 

 案の定、大鈴木はオカンムリだった。こんな重苦しい空気が2日も続けば、文句も言いたくなる。だが、言われても困る。

 

「オレにどうしろって言うんだ……」

「2人のご機嫌を取れば良いって訳じゃないからね。むしろ、コレで希のご機嫌を取る様な真似をしてみなさい。そんなことしたら、アイツ。不機嫌でコントロールすること覚えるかもしれないわ」

 

 これに関しては、拓海も覚えがあった。もしも、自分が何か粗相をしたり、落ち度があったりすると、カルアはよく不機嫌になっていた。

 コントロールすると言うほどではないし、単なる意思表示にしか過ぎないだろうが、相手に思い知らせるという上では効果的だった。

 

「でも、不機嫌になった霧藤ってカルアみたいでちょっと可愛いんだよな…」

「は????」

 

 こんな時にふざけている場合じゃない。ただ、大鈴木が言う様な話だけじゃなくて、もう一つ懸念していることがあった。

 

「(ここで、オレが霧藤のご機嫌取りに走れば、彼女自身に『皆に迷惑かけているのかな』と思わせかねない)」

 

 それはそれでよくない。だから、皆が自分を追い払っているんだろうが。

 だが、何もしないというのは難しい。そう思って、昨日は銀崎と一緒に学園を見て回ったが、散々な目に遭った。

 

「じゃあ、オレはどうするべきだ?」

「それはね。全員の扱いを平等にすればいいのよ。変に入れ込むから歪が起きるのよ。アンタ、もこの愚痴を聞いたり、狂死香とダラダラ漫画読んだりしていたんでしょ? じゃあ、次はアタシの番じゃない?」

「そんなことしたら余計に話が拗れる気がするんだが」

 

 その理屈は通らない。恐らく彼女も様子がおかしい組に唆されているのだろう。

 

「何よ。アタシと一緒にいるのが嫌って言うの?」

「嫌では無いけれどさ」

「それに、アタシだけ蚊帳の外ってのも許せないのよ! なんで、アンタらだけ楽しんでんのよ!! アタシの恋人カレーだけってか! 辛いわ!」

 

 滅茶苦茶テンションが高い大鈴木とか言う、かなりレアな物を見ている。暫く、一緒にカレーの面倒を見ながら、味見兼朝食を取っていた。

 

――

 

「じゃあ、今日はイルブリード連続上映会をして行くから!」

「なにこれ、処刑大会?」

 

 大鈴木が持って来たプロジェクターから投射された映像にはズラリと並んだイルブリードのナンバリング作品。その数、53本。

 

「澄野。アンタはこの作品群を見たいと思わないの?」

「いや、別に……」

 

 それを見るなら、ダンガンロンパの方が。と言いかけたが、こういう時に比べたりすると面倒臭いというか、両作品に対して失礼な気がするのでグッと呑み込んだ。だが、そんな彼の思惑は簡単に見抜かれたらしい。

 

「どうせ、アンタも希や過子みたいにね。ダンガンロンパの方が良いって言うんでしょうけれどね。アタシは諦めないんだからね。それに、アンタら! リマスターしたイルブリードを喜んでやっていたのに、映画になったら拒否するなんて虫が良過ぎるでしょうが! 見ろ!!」

「い、イカレてやがる……」

 

 一体、彼女はイルブリードの何に憑りつかれてしまったのだろうか。

 拓海に拒否権は無く。無慈悲にイルブリードシリーズの再生が始まってしまった。グロとエロが土石流の様に押し寄せる、少なくとも皆で見るような物じゃない。いや、逆にありかも? と、考え込むような微妙なラインを攻めて来る。

 

「希は気持ち悪いから嫌だって言ったけれどね。この学園で生きて、イキ抜く為に必要な物が全て揃っているのよ。言ってみれば、教材!」

 

 確かに、この学園の終わっている倫理観には相応しい映画かもしれないが、自分から入って行く必要があるとは思えないし、教材と豪語する大鈴木はイカレているとしか思えない。

 場面は終盤。主人公が父親と戦う為に全裸になって、ウンコトラップをぶっかけられている所だった。拓海の目には涙があふれ出ていた。

 

「(オレ、なんでこんな物見ているんだろう……)」

 

 この時間があれば霧藤の悩みを聞いてあげられたのではないか。凶鳥の背中を押して、仲違いを解決する手助けをすることが出来たんじゃないか。

 いや、そんな真っ当な使い方じゃなくてもいい。自分勝手に、自分本位にするなら今馬とイチャイチャすることも出来たかもしれないし、雫原に弱みを見せてあわよくば甘えることも出来たかもしれない。果たして、今見ている映画にそれだけの価値はあるのだろうか。

 

「ふぅ。素晴らしい映画だったわ。じゃあ、2に行きましょうか」

「ぶっ続け」

 

 もしかして、大鈴木は怒っているんじゃないんだろうか。あんな空気を作り出した自分を責め立てるべく、こんな映画を見せているんじゃないんだろうか。

 イルブリード2は何故か遊園地ではなく惑星間戦争に舞台を変えて、企業同士が争うとか言う、ナンバリングにする意味があったのか? という位に作風を変えて来た。多分、監督がスターウォーズとかガンダムとかを見て作ろうと思ったんだろう。

 

「ロボットとホラーって意外と相性がいいのよね。特にコックピットに乗りこんだら安心! って所にジャンプスケアが良く刺さってねぇ」

「そう……」

 

 大鈴木がこんなにも喜んでいるんだ。悪いハズが無い。

 何故か、主人公はキャンペーンガールで相棒が企業のマスコットキャラクターなのが気になるが、シュールさみたいな物を捨てきれなかったのか。それともキャンペーンガールに無駄エロを入れたかったのかは分からない。

 

「あぁ! 見なさい! 澄野! 主人公がワームのクソの中に突っ込むシーンよ! この臨場感と迫力! 一般受けの軟弱な映画には考えられないわ!」

「ヴォエ!!」

 

 この映画の監督は美女をウンコ塗れにしたがる性癖でもあるのだろうか。こんな物を皆と一緒に見た暁には、空気がヒエッヒエッになることは明白だ。

 最終的に不思議少女を仲間にしつつ、企業やらヤバいのやらを出し抜いて、惑星を脱出するみたいなラストだったが、大鈴木は不満そうにしていた。

 

「うーん。何と言うか、この出し抜くって所にホラーらしさじゃなくて、半端なハリウッドさを感じて引っ掛かるのよね。もう少し不条理と理不尽さで詰めて欲しかった所はあるわ」

 

 とにかく、時間がえげつない勢いで浪費されて行く。こんなことの為に自分は2周目に挑んだんだろうか。断じて否である。

 

「大鈴木はコレの何に惹かれたんだ?」

「我を通そうとするところよ。見なさい、こんな一般人に見せたらありとあらゆる批評と罵詈雑言を食らっても仕方がないシナリオと映像。でも、キチンと面白い。監督や俳優の自信を感じさせてくれるのよ。この主演女優を見なさい」

 

 見た感じ、かなり若い。下手したら自分達と同級生なんじゃないかって位の少女だ。しかし、目に宿る決意と入れ込み具合は彼女を女優へと押し上げるだけの気迫に満ちていた。

 極めつけはクソの中に突っ込むシーンだ。多分だが、アレはCGとかじゃない。映像からも臭い立つ物を感じた。アレが縁起なら凄絶と言う外ないし、そうで無いなら壮絶と言う外ない。

 

「きっと、この女優は恐ろしい位にイルブリードに思い入れがあるのよ。自分の美貌を全て投げ出して、こんな物に打ち込む熱量。少し前までのアタシなら気持ち悪がって終わりだったけれど」

「それで良いんだぞ」

「でも、どんな状況でも自分の信じる道を突っ走る生き様みたいな物を感じてね。道がなければ作り上げる。という大鈴木の家訓にも通じる、矜持を感じたのよ」

「お前ん家の家訓はウンコに突っ込むことにシンパシーを感じるのか?」

 

 大鈴木に勇気を与えていたことだけは分かった。銀崎も似たような感じで、変な趣味をしていたが、拓海にはまるで理解できない世界だった。

 

「ちょうど希と同じなのよ。清く真っ当な関係しか認められないんじゃ、世界は狭まるばかりよ。そう、ちょうど感動的で真っ当な作品しか認められない世間の様に。もっと、イルブリードの様な無法的で無秩序な考えにも理解を示せるようになるべきだと思わない?」

「その 理屈 は おかしい」

 

 お前は戦いが苦手だと言っている特防隊メンバーが居たとしたら、いきなりヴェシネスと戦わせる様な真似をするのかと。

 

「澄野もね。1と2の主演女優みたいに、周りを傷付けることも覚悟して、自分が糞まみれになってもいい位の覚悟を持つべきだと思わない?」

「昨日、ローション塗れにされたんだけど」

「うわ、汚っ」

 

 自分から切り出して、何言ってんだコイツ。だが、言いたいことは分かった。

 周りへの気遣いと言う名目で、自分が傷つかないことばかりを考えていたんじゃないんだろうか?

 本当に目指したい未来があるなら、自分が傷つくことも厭わない勇気を持つべきではないのだろうか。大鈴木はイルブリードと言う映画を通して、教えたかったのではないのだろうか?

 

『ちょんわー。ちょんわー』

「ふぅ……」

 

 何故か、1に戻って材木人間が奇怪な動作を繰り返しているシーンを見てご満悦そうな表情をしていた。いや、コイツはただイカレているだけだ。

 何となくイルブリードを見たことに意味があった風にしたいだけだ。耐え切れずに、部屋の外に出た拓海はスッカリ日が暮れているのを見て、かつてない程に無駄な時間を過ごしたことを悔いて、膝を着いていた。

 

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