最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】7日目

 厄師寺 猛丸は見た目こそいかついが、気のいい兄ちゃんである。曲がったことや理不尽なことは嫌いで面倒見も良い。そして、肝も据わっている。

 故に、1日目から防衛戦に参加するほどの胆力を見せていたが、現在の彼は憂鬱だった。目を覚ます度に、溜息をこぼしていた。

 

「澄野……」

 

 自分達を守る為に身柄を差し出したリーダーのことを思い出すと、自分の不甲斐無さに歯噛みしてしまう。だというのに、何をすればいいかも分からない。

 特攻服に袖を通して、食堂へと向かう。アイデアが降って来た時に動き出す為にも、しっかりと腹に飯は入れておかねばならない。着いた先で繰り広げられていた光景と言えば。

 

「死ね死ね死ね死ね、あの白豚殺す殺す殺す」

 

 ちょっと正気を失っている蒼月がウィンナーを食う訳でもなく、ひたすらフォークでブスブス刺していた。普段の厄師寺なら『食い物で遊ぶな!』と言っていた所だが、こんな鬼気迫る奴に声を掛けられる奴は居ない。

 視線を逸らした先には笑顔を浮かべている川奈と大鈴木が居た。ようやく、マトモな奴を見つけて声を掛けようとして、会話に耳を傾けてみた。

 

「ねぇ、大鈴木さん! 私、人間用のミキサーを作ったの! 泥棒猫のカレーとかファンシーじゃない?」

「そうね。侵攻生に振舞ってみようかしら」

「なら、切り分けは任せて欲しい。私には一日の長があるからね」

 

 ついでに面影も加えて物騒な話をしていた。誰を調理しようとしているのかは聞かないことにした。そもそも、聞きたくない。

 助けを求める様に視線を送った先には九十九兄妹と銀崎。ついでに凶鳥が居た。アイツらなら! と淡い期待をかけてみたが。

 

「銀崎先輩、凶鳥先輩。あの部隊長の飯どうします?」

「流石にウェルカムドリンクや特性ミートパスタを出す訳にも行きませんし、病気になられても面倒なので、普通の飯にしましょう」

 

 1日目は大人しそうに見えた銀崎だが、蓋を開けてみれば実に凶暴なサディストだった。一体、ウェルカムドリンクや特性ミートパスタなる物の詳細が気になったが、聞いてはならないと本能が警鐘を鳴らしていた。

 

「ウム。では、漬物と白米とみそ汁にしておくのでござるな」

「脚気になるよ……」

 

 凶鳥と過子の和やかな話題に、僅かながらの癒しを得て、厄師寺はようやく朝食にありつく準備を整えた。隅の方では飴宮と霧藤が遠慮がちに食事を取っていたので、お邪魔した。

 

「邪魔するぜ」

「おはよう、厄師寺君」

「きょーっきょっきょ。今日も猛丸は普通だね。ホッとするよ」

 

 初日ではイカレたムーヴをしていた飴宮だったが、周りが本物ばかりだったので、彼女は正気に戻っていた。いや、最初からこっちが素だったのかもしれない。

 

「澄野が攫われたのが悔しいのは分かるけれどよ。だからこそ、取り戻すためにしっかりしねぇといけないってのによ」

 

 どいつもこいつも憎悪と嫉妬で猛り狂い、正気ではいられない様だった。

 丸子と喪白は戦いに備えて、黙々と食事を続けていた。とてもじゃないが朝食に取る量ではない。

 

「なんで、皆。こんなに澄野君のことを気にしているんだろう。以前から知り合いだったとか?」

 

 霧藤の目からしても、皆の執着ぶりはやはり異様に映っているらしい。

 出会ってから数日の人間に対する接し方とは思えない。だとしたら、以前から知り合いだったという線を考えるしかないが、出会って数日しか経っていない自分達にはまるで覚えがない。

 

「分かんね。拓海にとっては2周目かもしれないけれど、怠美達にとってはこれが1周目な訳じゃん? つまり、始めてじゃん?」

「だよな。ひょっとして、俺達以外の奴らも2周目とかそういうのか?」

 

 だとしたら、何かしらの申告があってもいい物だと思うが。単純に聞いていないから話していないだけかもしれない。

 

「仮に他の奴らが2周、3周。あるいはそれ以上の周囲をしていたとして。打ち明けるメリットは少ないと思うけれどね」

 

 彼らの隣に雫原が腰を下ろした。食事量もスタンスも普通なのでホッとした。そして、改めて厄師寺が尋ねた。

 

「メリットが少ない。っつーと?」

「考えてもごらんなさい。100日も死線を潜り抜けるのよ? その中で仲違いや身内争い、あるいは痴情の縺れもあったかもしれない。その因縁を引き継ぐ意味がない」

 

 そう言うことならば、自身が周回していることを打ち明けないという選択は十分にあり得る話だろう。きっと、澄野は1周目で余程上手くやれたのだろう。

 

「と言うことは、雫原さんも?」

「そうね。詳しくは話せないけれど、私も似たような経験はしている」

 

 霧藤の質問に素直に答えてくれた。流石に仔細まで話すつもりはないだろうが、自分達だけが蚊帳の外である理由が知れたことは大きかった。

 

「なんで、怠美達だけ無いんだろうね?」

「多分、そこに理由はないと思う。あるいは思い出していないだけだと思う。大切なのは、そう言った因縁に引っ張られないことよ。その周回を生きた自分と、今の自分は違うのだから」

 

 恐らく、彼女は幾度も周回を重ねているのだろう。泰然としているというよりかは、諦観に近い物を感じたが、自分達に対する労わりを感じたのか。厄師寺は大きく頷いた。

 

「ヘヘッ。そうだな、よっし! じゃあ、俺は俺らしくやってやるぜオラァ!!」

 

 気合を一発入れた所で、食堂に設置されているモニタの映像が切り替わった。

 いつものSIREIの挨拶動画は終えたというのに、一体何が再生されるのだろうかと全員が止まっていた所、映し出されたのは見たこともない施設だった。撮影中なのだろうか。グルリとカメラが動くと、部隊長と思しき人物が現れた。

 

『は~い! チューラムタミーでーす! 今日は、皆さんにぃ。スミノ君の寝起き映像をお送りしま~す!』

 

 朝っぱから挑発上等な内容だった。厄師寺たちを除く全員の目が据わっていた。チューラムタミーがノックをして扉を開けた先には優雅にコーヒーを嗜むヴェシネスの姿があった。

 

『なんだ。朝から喧しい』

『昨晩はどうでしたか!!』

 

 無礼極まるインタビューをしていた。瞬間、ヴェシネスのパンチがタミーの顔面に突き刺さっていた。

 

『前が見えねェ』

『だが、運が良かったな。今日の私は特別機嫌がいい』

 

 スッと天蓋ベッドの方を指差した。まさかと思い、カーテンを捲ると……裸の拓海とイヴァーが仲睦まじく一緒に寝ていた。気配に気づいたのか、2人が一斉に目を覚ました。

 

『うわ!? なんだお前!?』

『なに撮ってんだオラァ!』

 

 戻り掛けていたチューラムタミーの顔面にイヴァーのヤクザキックが突き刺さった。彼女の顔面は更に凹んだ。

 

『は~い。NTRでーす。朝から鬱勃起タイムでぇ~す。朝食のオカズにしてくださいね~! それじゃあね!』

『え? ちょっと。まさか、これ皆に見られて』

 

 ひたすらに困惑した拓海の悲鳴を最後に映像が途切れた。

 食堂の温度は、今や氷河期レベルに突っ込んでいた。厄師寺と飴宮も周囲の殺意に震える弱き者になり果てていた。その中で、雫原が静かに口を開いた。

 

「中庭に捉えている部隊長。拷問して、本拠地を割り出すわ。銀崎、面影。付いて来なさい」

「比留子ちゃん。殺めておいた方が良いよ。今のテンションで殺ったら、絶対に殺っちゃうから」

「僕も生かして返せる自信がありません」

 

 声に抑揚は無く、淡々と述べている。人は本気で起こった時は感情が無くなるというが、正に渦中にいた。ただ、この場では本当にやりかねないので霧藤が慌てて手を挙げた。

 

「あ、あの! 捕まえておいた方が救出に来る部隊長も増えると思うし、そっちを捕まえて行くって方法でどうかな!」

「希。待っている間に、澄野が汚されて行くんだけれど?」

 

 大鈴木のトマトの被り物が真っ赤を通り越して、あちこちから汁を噴き出していた。こんな怒り方をする彼女は見たことが無い。

 もはや皆の怒りは有頂天。ロジックで説き伏せられそうにもない。と思っていると、ファーン、ファーンと警報が鳴った。

 

「て、敵襲じゃねぇか!!」

 

 厄師寺がワザとらしく声を上げると、全員が無言で作戦室に向かった。待機していたNIGOUはブルブル震えながらも職務を全うしていた。

 

「映像を見る限り。今回は部隊長が2人も来ているよ! 皆! 気を付けて!」

「間が悪すぎる」

 

 完全に素面になった飴宮が気の毒そうに言った。車輪状に変形した部隊長と、蛇の様な部隊長が大量の侵攻生を引き連れてやって来ていた。

 

『オラァーッ! ムヴヴムを返せクソヤロー共!』

『キュー。正面衝突はやめなって! ここにいる奴ら、頭おかしいのばっかりなのよ!?』

『それがどうした! 俺はダルシャー様にも最速の男って言われてんだぜ! 性欲猿共が追い付けるかよ! さっさと帰って、一緒に酒飲もうぜ! 前から欲しかった奴を手に入れたんだよ!』

 

 もしかして、ワザとやっているんだろうか? かませ、死亡フラグを見事に積み上げるアダムキューは知らない。現在、この学園にいる連中が猛獣と化していることを。

 彼らは一斉に我駆力刀を胸へと突き刺し、戦闘態勢を整えて校庭へと飛び出して行った。まもなく、侵攻生達にとっての悪夢が始まろうとしていた。

 

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