「周回か……」
昨日の川奈の講義を復習しながら、拓海は考えていた。このTLは平穏であるが、もしも自分が次の周回に入ったとしてどうなるのか。気になることがあったので、拓海は彼の名を呼んだ。
「シオン! ちょっと良いか?」
彼の呼びかけに答える様にして、部屋の隅にエネルギーが集結し、人の形を取った。シオンだ。
「どうしたの?」
「凄い、今更なんだけどさ。なんで、周回なんて起きているんだ?」
極当たり前の様に皆が口にしているが、そもそも。人生なんて1回切りだ。
自分が周回に入ったのは、蒼月の異血を吸収したことで、彼の特異科目と自分の特異科目である『やり直し』が混ざって、奇跡的にやり直せている。というはずだったのだが……。
「まず、この最終防衛学園は異界化していると言うことを念頭において欲しい」
「異界化って。どう言うことだ?」
「ボクらの中に在る異血を通して、ありとあらゆる可能性の世界の要素が流れ込んで来ているんだ。過去は未来に、未来は過去に同時に干渉している。この相互作用空間をボク達は『ブラッドスペース』と呼んでいるんだ」
つまり、皆が記憶を持っていたり、異常な位に強かったりするのは『ブラッドスペース』を通して、力が流れ込んで来ている。あるいは、平行世界で積み上げて来た力を共有しているからと言うことだろうか?
「合っているよ。とは言え、ブラッドスペースは不安定な物だから継承されなかったりする場合もあるけどね」
「飴宮と厄師寺。それと、そもそも異血とあまり適合していない霧藤もか。この学園全体が一種の引継ぎ装置になっているのは分かったけれど、それなら。イヴァーやヴェシネス達まで引き継いでいるのはおかしくないか?」
シオンの理屈で言うなら、特防隊メンバーが引き継ぐのは道理だが、部隊長達は引き継がないハズだ。
「あの2人やダルシャーの場合はそもそも異血の濃さが違う。だから、最終防衛学園みたいに強い相互作用空間に無くても、平行世界の情報を拾い上げられるんだと思う」
ヴェシネスやイヴァーの強さを知ると納得出来た。同時に他の部隊長の殆どが引き継いでいないのは、彼らがあまり強くない故なのだろうか。
「なんで、異血にはそんな特性があるんだ?」
「こればっかりは周回を重ねても分からない。誰も知らないからね。でも、周回中の雫原さんや蒼月から推測を聞いたことはあるよ」
「どんな推測なんだ?」
「うんとね。まず、基本的に継承することで僕達が有利になるだろう? つまり生き残り易くなる」
ヴェシネスやイヴァーの襲撃などの例外を除けば、相手の特性を知っていたり、能力を引き継ぐことで特防隊メンバーの生存確率は向上するはずだ。
「じゃあ、ブラッドスペースはオレ達に味方をしてくれているってことなのか?」
「そう言う訳じゃない。ここは部隊長達が持つ教義が関わって来る。澄野、君は部隊長達が特防隊メンバーや他の部隊長を吸収する所を見たことがある?」
思い返してみたが、該当する状況は1回も見ていなかったと思う。そもそも、部隊長達が他の部隊長と一緒に攻め込んで来る。なんて言うのも、今回のTLで初めて経験した位だ。
「無いな。かなり後半の方でSIREIボディに入っていた今馬がそんなことを言っていた気はするけど」
「そう。彼らは異血吸収を禁じているんだ。つまり、彼らが君達を皆殺しにしても、君達が持つ異血は垂れ流しなんだ」
ブラッドスペース。という名前からも何となく推測できた。つまり、この力場が自分達に刺せたい事と言うのは。
「もしかして、オレ達や部隊長達の異血を無駄にしたくない。とか?」
「『異血の総量を減らすな』というのが、ブラッドスペース内で働いている意思なんじゃないか。って、2人は推測していたね」
自分達が認識できる世界だけじゃなくて、並行に連なる世界の異血まで保持したいというのだから、このブラッドスペースにはかなり強大な力が働いている様に思えるが、ここでさらに気になることが浮かんだ。
「でも、それって。部隊長側でも出来るんじゃ?」
「うん。と言っても、ヴェシネス以外は誰もやりたがらないし、立場的にも出来ないんだけれどね。しかも、吸収効率は澄野達とは比べ物にならない位に高いよ」
もしかしたら、平行世界の大半はヴェシネスが吸収して終わる。みたいなことになっているんじゃないかと思うと、ゾッとした。
あまり悪いことばかりを考えたくはない。なので、もう一つ。重要なことを聞くことにした。
「じゃあ、あともう一つ。今、生きているオレは100日目以降にも行けるのか? それとも、2日目に戻されるのか?」
「澄野が言いたいのは、つまり。100日まで過ごした記憶が、ブラッドスペースを通して別のTLに継承されて2日目に戻って来た様に思えるのか。それとも、今ある意識が別TLの2日目に乗り移るのか。と言うことでいいのか?」
拓海は頷いた。何度も100日を繰り返すとなったら、精神が持たない気がする。自分は皆を助けることが出来たら、何度も周回する気はない。
「どうなんだ?」
「悪いけど、この質問は無意味だ。何故なら100日目以降の記憶が無いんだから、確かめようがない。……と言いたいけど、100日目以降に行ったTLの記憶もあるんだよな。大半はフトゥールムに滞在する感じだけど」
「この最終防衛学園のブラッドスペースに刻まれた記憶を継承しているだけ。って風には思いたいよな」
100日目以降にも行ける。と、思わなければ牢獄に閉じ込められたも同然だ。……だとしたら、自分よりも遥かに周回しているハズの皆は?
「皆は別にやりたいこともないし、帰る場所も無いから、この空間に居られるのが幸せ。みたいなことをボヤいているのは聞いたことあるけれど」
継承した力だけを上手く使っているのか。摩耗した精神などは誰かに依存したりすることで解消しているのかもしれないが。聞きたいことは聞けた。
「色々とありがとな。単純にやり直しているって訳じゃないんだな」
「そうだね。引き継げるからって、今の周回を粗末にしたりはしないようにな」
と、最後に忠告だけを付け足してシオンは消えた。
記憶の継承と言って行っているが、実際の所は同期と言った表現の方がしっくり来るような気がした。
「(実は、オレ達は『澄野拓海』みたいな感じのデータとして保存されていて、色々なTLごとにデータをダウンロードされているみたいな……)」
皆の話によれば、自分達は作られた存在だというし、そういうマシン的な挙動で動いていてもおかしくはない。
だとしたら、人工天体と異血の両面から良い様に使われているのか。しかも、それが分かっていながら繰り返されているとしたら。
「(何となく、皆が霧藤を嫌う理由も分かる気がする)」
彼女だけは、その徒労感から解き放たれているのだ。加えて、依存先である自分と繋がりがあるとしたら、妬みを集めないというのも難しいかもしれない。
「(でも、変な話だよな。なんで、オレには周回の情報が入って無いんだ?)」
シオンの話した通りだと、自分にも周回の記憶がないとおかしいハズだが、飴宮と厄師寺の例にもある様に。何かしらのトラブルがあって引き継がれていないのか。
「(色々と話したけれど、結局。このまま周回の恩恵だけにあずかって、何も無ければいいけれど)」
人工天体など、不確定要素は気になるが、ひとまず。このまま行くことを願いつつ、拓海は食堂へと向かった。