先日の川奈のアイデアは大変良かった。今後、周回に突入したとして使える知識を享受するというのは、一緒にいる時間を作る口実としては、この上なく合理的な物であった。
彼女が間違えていたのは運用方法である。脱出ポッドの件については、彼女にしか教えられないので良かったのだが。
「学園内のことは川奈とか他の奴らに任せるとして。外にある貴重な物質系に関しては、数名の精鋭で行かないとね」
「川奈先輩! 学園内の案内はシッカリと頼んだったすよ!」
雫原が極当然の様に言い、今馬が親指を立てていた。当然、川奈も抗議していた。
「学園内の残るギミックって死なば諸共部屋と洗脳装置位じゃない! 後は留守番させるつもりね!?」
「川奈。貴方は学園最強の特防隊メンバーにしてエンジニアなんだから、いざという時に居て貰わないと困るの」
ポン。と、雫原に肩を叩かれていた。実際に彼女が言う様に、川奈が居ないと技術的な問題が生じることもあるし、戦力的にも居て貰った方が良いと。実に合理的に留守番の役目を押し付けることが出来た。
「その点、自分は移動手段位でしか役に立たないっすからね。外部の探索の手伝い位しか出来なさそうっす!」
「あいや、待たれよ。それを言うなら拙者も戦力的には微妙。学園の防衛とかに居なくても十分レベル。遠征要員には持って来いでござる」
「アタイも微妙だし、こういう時位にしか役に立たたないわ!」
「狂死香ちゃん? もこちゃん?」
まさかの、逆自己PR合戦が始まった。有力で知識も豊富な者達は学園と言う重要拠点を守らなければならない。対して、あまり役に立たない連中は気軽に外への遠征要員に使えると言うことで、皆が銀崎タイムになっていた。
「それを言ったら、俺なんて空気も読めねぇし、戦力的にも微妙としか言いようがねぇ! 俺こそ、正に探索要員じゃねぇか!」
丸子もノリノリで挙手していた。際限なき卑屈合戦が続くかと思いきや、静かに手を挙げた者がいた。面影である。
「もしも、外で何かが起きた時。適切に処置できる人間が居ないと困るだろう? その点、私を随伴させるのはマストだと思うよ」
ここで強い意見が来た。卑屈合戦で要らないから使えと言うよりも、順当に役に立つ人間の方が採用されるのは道理である。彼に続くべくして、銀崎も手を挙げていた。
「皆さんが卑屈になっているなら、僕はポジティブに行きましょうか。万が一、危険な事態に遭遇しても、僕は学生兵器(クラスウェポン)で皆さんを守れますので」
こればっかりは銀崎の学生兵器(クラスウェポン)が唯一無二であるが故である。そして、蒼月も手を挙げた。
「判断力に長けた者も必要じゃないかな! それなら、僕しかないよね」
「それか、私ね」
雫原も便乗した。探索メンバーがほぼ決まりそうな中、もう1人。静かに手を挙げる者が居た。イヴァーである。
「現地の人間が居た方が歩きやすいと思うけど?」
「イヴァーさんは霧藤さんのことを頼むよ!」
蒼月が笑顔を崩さずして押し付けていた。朗らかな様に見える取引の中にバチバチと散る物を見て、拓海は戦慄していた。
「(く、口がはさめない……)」
恣意的な意見も見えるのだが、いずれも合理的で批判できる要素がない。彼が困惑しているのを見かねたのか、飴宮が耳打ちをして来た。
「こういうのは結局、拓海がビシッと決めれば良いんだよ」
外野がとやかく言おうと、結局。知る為に動くのは自分なのだ。指名することにも責任を持つべきだ。と思う前に、1つ質問があった。
「探索にバスを使うとかは……」
「周回でいつでもバスを使える訳じゃないし、そもそも。自分の足で向かう労力も知って欲しい。ってのもあるから」
手早く済ませる為の提案は、蒼月のロジカルな説明で一蹴された。実際に、その通りとしか言いようがなかった。
皆から期待が混じった視線が向けられる。自分の願望だけで選ぶと尾を引きそうなので、ここは合理的な理由で行くと決めた。
「じゃあ、面影、雫原、今馬で」
探索時のメンバーは基本的に4人までと決まっている。これは学園に残す戦力との兼ね合いも考えてのことだ。また、メンバーを増やし過ぎると動き辛くなることも考えてのことだ。
「アレ? 澄野さん。僕が入っていませんよ?」
「お前はちょっと……」
すっかり、銀崎の信頼は底値になっていた。如何に能力が便利でも人格の件は無視できなかった。何事も積み重ねである。
「そうっすよ。銀崎先輩は澄野先輩に選ばれた自分達が遠征に行くのを見送りながら、部屋でゆっくり淫夢でも見ておくといいっすよ」
「狂いそう・・・!」
今馬が煽り散らかして、銀崎が口を窄めながら怒りを口にしていた。雫原も満足そうにしていた。
「じゃあ、澄野。探索は明日から行くことにして。今日は、川奈から学園の秘密の方を聞いておいて」
「なんか、洗脳だとか死なば諸共とか物騒なことを言っていたけど」
「私達を作った奴らに、まともな倫理観があるとでも?」
川奈の言葉には頷く外なかった。朝食を手早く済ませて、川奈と一緒に件の設備を見に行くことにした。
まず、死なば諸共部屋と言うのが1階にあるらしく、彼女の案内に従って向かった先。2階に上がる階段の隣に設置されていた像を動かすと、隠し部屋が現れた。地下へと続く階段を降りて行くと、ひんやりした部屋に出た。
「なぁ。死なば諸共って、この部屋は何をする場所なんだ?」
「凄く端的に言うと学園の自爆装置。この端末にパスワードを入れると学園が吹っ飛ぶの」
目の前のガラス管には液体が満ちているが、これはおそらく液体燃料なのだろう。それにしても自爆装置とは。
「コレって。もしも、侵攻生側が知っていたら、オレ達。一発で終わりだよな?」
「実際に吹っ飛ばされたTLもあるよ。何故か、パスワードはどのTLでも一緒なんだよね。敵に根城にされた場合も、吹っ飛ばす時はあるけどね。一応パスワードも教えておくけれど」
意外と必要な装置ではあるかもしれない。ただ、お世話にはなりたくないと思った。パスワードを教えて貰った後、2人が向かったのは保健室だ。
川奈が弄ると部屋の中央から電気椅子の様な物と電気極が取り付けられたヘッドギアが降りて来た。
「これが洗脳装置。ただ、使用するには滅茶苦茶電力を使うから、その間。学園内が停電するんだよね」
「洗脳って。どういう時に使うんだよ……」
「イヴァーみたいな敵の捕虜とか。もしくは、蒼月にも結構使われていたね。他にも思い出したら不味い周回の記憶を思い出した奴にも使ったりね」
かなり前に『害になる記憶』みたいな物を聞いたことがある。全てのTLが上手く行った訳がなく、仲違いを起こした周回もあったことだろう。
「ちなみに思い出したら不味い記憶って言うのは?」
「恋愛が拗れた奴だったり、不和だったり。中には敵に寝返ったのもあったし。あんまり思い出したくはないね」
死なば諸共部屋は兎も角。こっちは覚えておいた方が良いかもしれない。あくまで、応急処置としてだが。
学園内で必要な知識は回収できたと思うが、今朝に考えていたことで気になったことがあったので、ついでに尋ねてみることにした。
「川奈。お前が見て来たTLじゃ、オレも周回していたのか?」
「している時もあったし、していない時もあったかな? ヤバそうなことを思い出していたら、直ぐに洗脳装置使うけどね」
もしかして、周回中で保健室と並んで多数使用されていたのかもしれない。
一通り紹介は終わったが、まだまだ時間はある。残り時間は明日の準備でもしようかと考えていると、パーカーの裾を掴まれていた。
「し、暫くお預け食らうし。今日1日位は一緒に居てくれても良いんじゃないかなーって……」
前屈みになりながら聞いて来た。やたらと胸元が開いたタンクトップで、そんなことをやられたら谷間が見える訳で、拓海も男子なので極自然に目線がそちらに向かった。
最近は非常に大人しく、誘われたから仕方なくみたいなスタンスでいたが、自分の意思はどうなのか。ねちょねちょしたくないのか。
「(自分から手を出したら言い訳が利かない。でも)」
品性を疑う言動が多かったので忘れがちだが、川奈はとても可愛い。
ここ10日以上は穏やかな時間が過ぎているが、ムラムラしていないと言ったら噓になる。今、自分の意思で手を出すかを迫られている。
『いやいや、オレには霧藤が……』。彼女と凶鳥が話し合ったり、和解している手前、他の女を抱くなんて。どんな神経をしているんだ。
『まず、オレの幸せを』。端的に言ってカスだと思う。だが、と思う。ここ最近、お預けばかりだったじゃないか。
「澄野?」
「そ、そうだな。時間もあるしな!」
答えは保留することにした。それっぽい雰囲気になったら、そうしよう。
カスみたいな結論に至ったが、このTLでは流されまくった彼はそういう結論に持って行かざるを得なかった。
川奈はニッコリしていた。もうここまで来たら、同意したも同然だと。果たして、明日の遠征に向かう体力と活力が残るかは疑問だが、2人はそのまま屋上にある、拓海の部屋に向かった。