かくして、一同は学園を発った。幾ら周回しようと、外の光景が変わることはなく、相変わらず廃墟だらけだ。全ては人類がフトゥールムを攻め込んだ故である。
スクールバスに乗らず、こうして徒歩で探索に当たっていると、色々な物が見えて来る。住宅、店……生活跡が見えると、キュっと胸が痛んだ。
「イヴァー。フトゥールムの人達って、その……今はどうしているんだ?」
「集落を作って細々と生き延びているよ。周回の中で諭されたのか、昔ほど。お姉ちゃんの締め付けはきつくないけれど」
自分が手を下した訳ではないにしても、同胞によって生活を奪われたという罪悪感が湧き上がっていた。
「先輩。あんまり気にし過ぎる必要はないっすよ。それはもう自分達じゃどうしようもないですし、むしろ。何も知らないまま尖兵として放り込まれた自分達も被害者側っすから」
と、今馬がフォローしてくれた。あの時は知識も余裕も無かったから見過ごせたが、向き合ってみれば心がざわつくことしかなかった。
自分達は今、南東の方角に向かっている。仔細は知らないが、拓海もおおよそ何処に何があるかは知っている。この方角には地下行動があって、鉱石資源がよく採れる。
「(1周目の時は、防衛設備やプレゼントマシーンの為によく向かったよな)」
何かと鉱石資源は要り様になる為、足繁く通っていた記憶を思い出していた。
整備されている訳でもない場所へと向かうので、怪我が絶えなかったし、侵攻生物とも会敵することは多かったが、今の所。そう言う気配がない。
「(多分、皆が虐殺しまくったんだろうな)」
侵攻生物は無限にポップする訳ではないので、殺し尽くしたら湧かなくなるのも当然のことだが、一体どんな勢いで鏖殺したというのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、拓海はチラリと後方へと視線を送っていた。霧藤もそれに気づいたのか、露骨に目線を逸らされた。
「(怒っているよな……)」
アレだけ色々と一緒に過ごしといた挙句、他の女と一晩を共にした。しかも、矯正されてとかではなく!
霧藤のことは大事に思っているが、川奈のことも大事に思っているのは事実だ。皆が大事という考えで抱いて回っていたら、カスと言う外ない人間が出来るが。イヴァーに助けを求めたら、難しい顔をされた。
「(イヴァーともしているし……」
2周目に入って真っ先に抱いた相手なので、霧藤の貞淑さについて尊重はするが同意は出来ないと言った具合だろうか。
拓海にとっては針の筵的な状況だが、逆に良かったかもしれない。もしも、こんな彼女と川奈を学園に残したらどうなっていたことか。面影の肩を叩いた。
「どうすれば良いと思う?」
「これは難しいね。そもそも、私やつばさちゃん達は周回の件もあって、恋愛観が少し特殊でね。俗っぽく言うと、ハーレムでも全く構わないんだよ」
クッと顎を持ち上げられた。拓海は直ぐに面影の手を掴んで下ろさせたが、彼の言うことは何となく分かる気がした。
「周回を生きる上での知恵。みたいな感じか?」
「話が早くて助かるよ。希ちゃんみたいな恋愛観だと学園での生活が成り立たなくなるからね。【修羅場】TLは本当に酷かった」
「お前ら、結構その【修羅場】TLを話題に出すけど、そんなにヤバかったのか?」
「学園内で暴力は日常茶飯事だったし、なんなら頻繁に学園から連れ出されていたね」
出来たら、その記憶だけは復活することがないことを祈った。
ただ、そう言った経験があったらハーレムやら愛人? 的な物に寛容にならざるを得ない。共同体を活かす為の教訓と言った所だろうか。
「(でも、霧藤だけは周回することが無いからニュートラルなのか)」
それが、今回の問題にも繋がっている訳だが。普通に考えれば、ハーレムなんてサブカルチャー的な物でしか見られないし、認められないと思っていたし、倫理的に受け入れ難いというのも理解できる。
だったら、自分が断ればそれで良かったのだが、既に彼の貞操観念は豆腐もかくたるやと言わんばかりにユルユルだった。
「理解して貰わなくても、納得して貰うしかないね」
今馬に決断を迫られた時の選択が大きく響いている。こうして、疎遠になって行くのかと思うと、焦燥感ばかりが募って行く。そんな風に雑談を交わしている間に坑道へと辿り着いた。
「素材は十分にあるから、真っすぐに目的地に向かうことだけ考えて。行動して。余計なことはしないように」
雫原が注意喚起を受けて、拓海達は迷いのない足取りで進んで行く。その間も侵攻生物の姿は一切なかった。
「(気まずい)」
学園を発ってから、未だに霧藤とは一度も口を利いていない。そう言えば、昔。カルアと喧嘩した時も似たようなことがあったな。と思ったが、あの時と違って理由があまりにあんまりだ。
「(このままは良くないよな)」
拓海が行動を起こしたのは責任感からではない。この沈黙に耐えられないというのが大きかった。イヴァーを挟んで、ポツポツと話し始めた。
「霧藤。……怒っているか?」
「別に?」
明らかに怒っている。だからと言って、ここで諦めてしまっては何の為に戻って来たのか分からない。だが、言い訳があまりに効き辛い。川奈のことを悪く言う様な真似をしたくも無かった。
拓海もまた口が上手い方ではない。かと言って、誰かから借りた答えでも納得は出来ないだろう。正直だ。配慮は足りないが正直に言うしかない。
「理解はし辛いと思うけど、アレはコミュニケーションの一つなんだ。それに、霧藤のことも大切に思っているのは本当なんだ」
「弁解は聞いて上げたから、あんまり話し掛けないで」
取り付く島もない。きっと、何を言っても無駄だっただろうが、それでもこの塩対応を食らえば、拓海も肩を落とすほかない。
早く、目的物を見つけて学園に戻りたいと考えていると、鼻に付く臭いがした。何かの仕掛けかと思い身構えていると、イヴァーが声を上げた。
「この湿度や温度。この先に温泉があるのね」
「そうなのか?」
「えぇ。ついでに『サイワイの箱』を手に入れるのに必要な鍵も沈んでいるから、一休みも兼ねてね」
雫原の歩幅が大きくなった。意外かもしれないが、最終防衛学園にプールはあれど、温泉はない。バスルームとシャワーで十分と言えば、その通りだが。
彼女も言う様に、向かった先には温泉が湧いていた。興味を引かない訳ではないが。
「じゃあ、男性陣は見張りの方に」
「何を言っているの? 鍵が何処にあるかを見つける為に澄野も入るのよ」
言っていることは分かるが、どうして霧藤と喧嘩している状態で連れて来たのだろうか? 拓海はあきらめなかった。
「じゃあ、男性陣で探せばいいんだよ。今馬、面影、頼んでも良いかな?」
「そうっすね。雫原先輩、霧藤先輩、イヴァー。見張りの方を頼んだっす!」
「駄目よ。アンタらを放り込んでも絶対に碌なことにならないんだから。澄野、面影、霧藤の3人で行って」
「「え!?」」
唐突な指名に霧藤と拓海が驚いていた。コレにはイヴァーも抗議した。
「拓海と面影だけで良いんじゃ?」
「駄目よ。面影は普段は大人しいけど、2人きりにしたらナニをするか分からないんだから」
「酷いなぁ、比留子ちゃん。私は何もしないよ」
と言っているし、普段は人格者なのだが、ここ一番でブレーキがぶっ壊れる緩急があるのを懸念していた。
「いや、そもそも私は入らないよ!?」
「良いの? 澄野達が盛るかもしれないのに?」
雫原が脅す様に言った。ここで、好きにすれば? と出て来ない辺り、拓海に対して一定の好意があるのが見て取れた。なおも悩む彼女にイヴァーはニッコリとほほ笑んだ。
「希。もしものことがあって、コレを持って来たの」
彼女がゴソゴソと取り出したのは紺色の水着。平たく言えば、スクール水着だった。裸ではなくなるが。
「希ちゃん。嫌なら嫌と言おう。大丈夫、私。絶対に手は出したりしないよ」
「手『は』って何!? 言葉遊びで煙に巻こうとしていない!?」
面影は朗らかに笑っているが、忘れてはならない。さる20日目、拓海をぶっ壊す程に弄んだ彼のリビドーを。
「だ、大丈夫だって。霧藤。面影も流石にそんなバカなことはしない。よな?」
「澄野君。私の目を見て欲しい。これが嘘を吐こうとしている人間の目か?」
眼帯で閉じられていない方の目をマジマジと見る。感覚の短い鼻息が頻りに顔に掛かり、気のせいか顔も火照っている気がする。とても危険だった。
「分かったよ! 着替えるから待っていて!」
イヴァーを連れて、霧藤が席を外して数分。彼女はスクール水着を着た状態で戻って来た。
「おお」
「おお。じゃないよ!? 早く探すよ!」
拓海が感嘆の溜息を漏らしている横では、既に全裸になっている面影が居た。霧藤が悲鳴を上げていた。
「何やっているの!!?」
「何って。温泉に入るのに、服を着る方が変だろう。バスタオルも無いのだし、私達は遊びに来ているんじゃないんだ。『サイワイの箱』という重要なアーティファクトのありかを教えに来ているんだから、今ばかりは気遣いを期待しないで欲しい。さぁ、澄野君も早く」
「お前が全裸になりたいだけじゃ……」
別に服を着たまま入っても良かったというか、霧藤が居る手前。全裸になるのは避けたかったが、服を濡らすのも気が引けた。
「イヴァー。タオルとかは」
「無い」
何故、こんな直ぐに断言するんだろうか。霧藤のスク水は用意してあるのに、どうして自分のは何も無いのだろうか? 散々に迷った挙句……拓海は究極の方法。内股で前を覆い隠すという方法を取った。
「はぅっ」
「早く探すぞ!」
面影が興奮し始めたので、大変なことになる前に3人で鍵を探すことにした。見張りの今馬が『どうして自分があそこにいないんっすか!』と、雫原に抗議しているのが見えた。