最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】46日目 その3

 今日の川奈は浮かれていた。恋愛浮かれエンジニアだった。ランチの間も延々と惚気話をしていた。

 

「もう、澄野ってば本当に必死に腰振っていてね。後はおっぱいに夢中で……」

「公共スペースで下ネタを振り回す、デリカシーの無さは流石だね!」

 

 蒼月が笑顔のまま皮肉っていた。丸子と銀崎も話半分にしか聞いていなかったが、どちらかと言えば反応があったのはまとも組の方である。

 

「胸でござるか……」

 

 凶鳥が自分の胸を触っていた。何度も言うが、言動以外はキッチリと美少女をしているしスタイルも悪くはない。もしや、自分にもワンチャンスあるかも? そんなことを考えていると、飴宮が苦悶の表情を浮かべていた。

 

「ヤバイ、ヤバイ。拓海が自分からやりに行ったらもう駄目だァ、おしまいだァ。鬼畜王スミノが始まるんだ」

「いや、待てよ。そりゃ、今までは流されてやっていたけれど、自分から誘う様になったからって、ここにいる全員が……」

 

 厄師寺が周囲を見渡した。まとも組は彼と拓海以外、全員女子である。とは言え、喪白は露骨に目を逸らしていた。

 

「いや、アタイ。そう言うのはちょっと。なんていうか、家庭に入りたくないの! もっと色々なことをしたいの!!」

 

 彼女はプロレス以外にも美容関係にも興味を持っている為、色々とすることがあるので家庭とかに縛られるのが嫌なのだろう。逆に大鈴木と過子は視線を彷徨わせていた。興味が無い訳ではないらしい。

 

「伴侶にしても良いけれど、そう言うのは考えてないわ。ただまぁ、もっと平穏になったら考えも変わるかもね」

 

 色恋にかまけている場合じゃないというのが、大鈴木の考えだった。過子の方はと言えば。

 

「澄野先輩とそう言うことって。でも、今馬もしているし……」

「ギェエエエエエ。もう駄目だ、この学園は拓海の苗床になるんだ。幸せ家族計画が始まるんだ」

 

 飴宮が絶望的な表情をしていた。もはや、野に獣が解き放たれたかのような。それだけ川奈ショックが大きかったと言うことか。

 ただ、厄師寺は一概に否定する気にもなれなかった。周りに流されることだけに関しては注意していたが、そんな拓海が自分の意思で抱きたいと思った相手と同衾したというのなら、友として祝福したい気持ちはあるのだが。

 

「んの場合、霧藤のことはどうすんだ?」

「そうよねぇ。希ちゃん、その事については結構アタイに愚痴もこぼしていたし」

 

 まとも組が未だに捨てられない倫理観の中でグチグチ行っている間、バーガーとコーラのデブ活セットを完食し終えた川奈は食堂から立ち去っていた。

 普段なら、特に何かしら工作をするのだが、今日は真っすぐ屋上へと向かった。自分の部屋には戻らず、拓海の部屋に入った。

 

「(まだ、臭いが残っている)」

 

 先程、探索メンバーで食事をしていたので彼らの残り香もあるが、一番濃いのは拓海の臭いだ。昨日、一緒に寝たベッドに潜り込む。

 彼の体温が残っている訳も無いが、昨晩の情事を思い出したら自然と体が火照って来た。ズボンを脱ごうとした辺りで扉が開かれた。

 

「う、うわぁああ。か、川奈殿が。澄野殿のベッドに潜り込んでいる」

「キャーッ!!」

 

 凶鳥が恐れ慄いていた。川奈も堪らず悲鳴を上げたが、そもそもどっちもこの部屋の主じゃない。

 

「澄野殿の部屋に侵入して何をしているのでござるか!」

「昨日の熱い一夜を反芻していたのよ! そっちこそ、何の用!?」

「いや、澄野殿が外出しているから、コレ幸いに……」

 

 皆がぶっ飛んでいるので忘れがちだが、凶鳥は割と下ネタ好きでもある。このまま睨み合っていても埒が明かない。

 

「ここは川奈殿が出て行くべきではござらんか? 昨日、そんなに盛ったというのなら、拙者に譲るべきだと思われるが……」

「昨日の幸せを噛み締められるのは今しか無いのよ」

 

 ジリジリと睨み合っていた。時間が経てば、他の奴らも来るかもしれない。お互いに妥協するべき点を考えて、出した結論は。

 

「では、拙者と同衾と言うことで一つ」

「それしかなさそうね」

 

 まるで正気の見当たらない折衷案だったが、凶鳥も外套をハンガーに掛けて澄野のベッドに潜り込んだ。

 

「おぅ、これは中々……」

「良いでしょ?」

 

2人でモゾモゾしていた。かくして、今日も拓海のプライバシーは何一つとして守られることは無かった。

 

――

 

「澄野君。鍵が何処に落ちているか、よく見てくれ」

 

 自室のプライバシーが侵されている中、こっちでは拓海の尊厳が脅かされていた。銭湯の先頭を往く面影の面影が湯船でブラブラと揺れている。

 学園でも探索でもHな目に遭わされて、怖がらされている拓海は底に落ちていないかを探していたが、この温泉。若干濁っていることもあって、探しにくい。

 

「なぁ、面影。場所だけ教えてくれないか?」

「駄目だ。そもそも、ここにあるというだけであって細かい位置までは私も分からないんだ。目を凝らしてくれ」

 

 面影の尻がある。そっと目を逸らして底に目をやっても中々見つからない。誘惑に負けて、振り返りたい衝動に駆られる。

 

「見ないでね?」

 

 自分の後ろにはスク水を着た霧藤がいるというのに、面影の尻と玉を見続けなければならないのは何故なのか。

 自分の身に降りかかる理不尽、試練。様々な抑圧は解放感を求め、拓海の脳内に大量の言い訳を並べて立てていた。

 

『湯も濁っているし、これ以上。内股になる必要はないんだよ。温泉位楽しもうじゃないか! 拓海クン!』

 

 何故か、聞いたことがある様な声だった。そうだ。そもそも、温泉で内股でいる奴の方がおかしいじゃないか。パッと開いた。

 

「おお」

 

 何という解放感。自分の太ももに圧迫されることも無く、息子が温泉を楽しんでいる。背後から何の声も上がらないし、霧藤にドン引きされてもいない。彼の決心を祝福する様に、面影が声を上げた。

 

「見つかったよ。これだ」

 

 面影が指差した先には鍵が沈んでいた。拓海も屈んで取ろうとしたが、先程まで内股で歩いていたのに急に元に戻って歩き始めたんだからバランスを崩して、転倒した。

この時に、彼が取った上下さかさまのポーズを古式ゆかしく言うなら、犬神家という奴だろう。

 

「キャーッ!」

 

 即ち、拓海の拓海が露わになると言うことである。霧藤が悲鳴を上げ、面影がすかさずフォローに回ったが、時すでに遅し。

 

「澄野君?」

「もう何も言わないでくれ。何も」

 

 彼は悲壮な顔をして鍵を握りしめていた。あまりに代償が大きかった。

 

――

 

「で。この扉の先に『サイワイの箱』があるのだけど」

 

 雫原が説明をしているが、拓海は沈み込んでいたし、霧藤は彼と距離を取っていた。どうしてこうなった。

 

「とりあえず、開けて入るっすよー」

 

 今馬が扉を開けて、少し探索すると直ぐに箱が見つかった。どうやら、ヴェシネス達も回収していなかったらしい。

 

「これが『5個模様』の『サイワイの箱』なんだけど。って聞いている?」

「もう駄目ぽよ。帰って、川奈に慰めて貰うポヨ」

 

 すっかりネガティブモードに入っていた。この言葉を聞かれたら、霧藤の神経を逆撫ですることは間違いなしだが、今の彼にはそんなことを鑑みる余裕もないらしい。

 

「流石に気の毒っすね。もう1回、ちゃんと温泉に浸かってリフレッシュしないっすか? バスタオルは……」

「しょうがない。アイツから貰いに行きましょう。イヴァー、手伝って貰える?」

「え?」

 

 箱を回収した雫原達は、更に奥へと続いている道を進んだ。T字路を抜けた先が何処に繋がっていると言えば。

 

――

 

 チュラームタミーは自宅で爆睡していた。最近は最終防衛学園に攻め込む用事もないし、敬愛する大将軍は恋愛に現を抜かしているし、何もかもがどうでもよくなって、1日の大半を睡眠で過ごす様になっていた。正に夢想の化神。

 

「ヴェシ様ぁ……」

 

 彼女が見ている夢の中では、ヴェシネスは威風堂々とした大将軍だった。恋愛に現を抜かす訳もなく、傲岸不遜を地で行き、逆らう者は皆殺し。このフトゥールムを率いるに相応しい希望の化神だった。

 そんな大将軍が自分を呼び出すのだ。次の任務は何か、あるいは褒美でも取らしてくれるのか。機体に胸を馳せて、傅いた彼女に言うのだ。

 

「タミー。実はな、子供が生まれたんだ。スミノとの間に生まれてな」

「は???」

 

 いつの間にか、ヴェシネスの腕には赤と白のツートンカラーの髪色をした赤子が抱えられていた。髪の毛生えるの早いなというツッコミはさておき、どういうことか。責任者は何処か。

 

「という訳で、私は大将軍から母になる。後は任せたぞ」

「おーい。ヴェシネス―」

 

 ヴェシネスは声のした方に向かった。そこには手を振っている例のアレと、彼に手を引かれているヴェシネスと激似の女子が1人。

 

――

 

 どうやら、ここはチュラームタミーの自宅であるらしい。インターホンらしき物も無かったので、勝手に上がらせて貰った所。家の主は天蓋付きのベッドで寝息を立てていた。

 通常、部隊長達の∞態は異形化する傾向にあるが、彼女に関してはかなり人間に近しいシルエットをしていた。素顔もそれに近く、普段は長い黒髪をツインテールにしているのだろうか。

 

「おーい? お邪魔してまーす……」

 

 やはり申し訳ないと思ったのか、拓海はコッソリと囁いた。すると、彼の目覚ましに反応する様にして、チュラームタミーは目を開いた。瞬間。

 

「死ねぇええええええええええ!!!!!!!!」

「うぉおおおお!?」

 

 起床と同時に跳び蹴りを放たれたが、イヴァーが音もせずに掴み取っていた。

 

「こら。タミー、そんなことしちゃ駄目でしょ」

「放せぇえええ! ヴェシネス様を女にしたクソオスめ! タマキン切り刻んで、侵攻生物に食わせてやる!!」

 

 すかさず、イヴァーがタミーの頭に拳骨を入れていた。

 こういうのを見ていると、彼女は保護者面した色ボケなのではなく、キチンと部隊長であることを再確認させてくれた。

 

「乙女の家に勝手に上がり込んで何の用よ。強姦でもしに来た?」

「オレの印象どうなってんの!?」

「節操無しの種馬」

 

 あまりに手加減の無い暴言に拓海がシオシオになった所で、イヴァーがもう1発拳骨を入れていた。

 

「も、もう殴らないで下さい。頭潰れちゃいます。実際、何の用なのよ」

「いや、ちょっとバスタオル貸して貰おうと思って……」

「は???」

 

 チュラームタミーは耳を疑った。自分達は友達でも何でもない。生存競争の為に殺し合いをしている間柄のハズだが。呆けているタミーを納得させるべく、イヴァーが補足した。

 

「貴方の家に繋がっている地下行動に温泉があったから皆で一緒に入ろうと思っていたけど、タオルを忘れちゃったから」

「え? 私を闇討ちしに来たとかじゃなくて、そんなことで乗り込んで来たの?」

「う、うん。嘘みたいだけどね」

 

 霧藤が控え目に肯定した。タミーが思ったよりもマトモだった為、霧藤は若干の同情を見せるに至っていた。

 

「バスタオルなら、そこにあるから持って行って。後、返しに来なくて良いからね」

「ありがとう、タミー。助かるわ」

 

 イヴァーが人数分のバスタオルを持って行くと、探索メンバーは来た道から戻って行った。扉が閉じたのを見てから、タミーは叫んだ。

 

「二度と来るな!!」

 

 そして、地下行動ルートに繋がる扉を厳重に封印して、再び夢の中に舞い戻って行った。今度こそは良い夢を見れますようにと。……ちなみに彼女が見た夢の中では、ヴェシネスに続いてイヴァーも同じ様に子供を連れていたとか。

 

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