「今日は海岸エリアの方を探しに行くから」
地下坑道にあった『サイワイの箱』を回収した翌日、雫原の提案によって、今度は別エリアを探索しに行くことになった。
2日連続での探索となるが、昨日は突撃部隊長のお宅と温泉に入った位なので、あんまり疲れていなかった。
「よっし。今日も元気に頑張るぞ!」
「澄野君、今日は朝から元気だね。昨日の温泉が効いた?」
面影が尋ねた所、拓海はそーっと目を逸らしていた。視線を切り替え、川奈の方を見た。ドヤ顔をしていた。霧藤の顔が険しさを増していた。
「たっくん?」
「あ、いや、その。変なことはしていないぞ。普通に話していただけだよ」
ならば、どうしてそんなにやましそうにしているのだろうか。ただ、嘘をついている訳でも無さそうなので、引っ掛かるギリギリ的な所でもやっていたんだろうか。彼女だけでなく、雫原も表情を険しくしていた。
「澄野。鼻の下を伸ばしている暇があるなら、早く行って場所を覚えなさい」
「な、なんで雫原まで!?」
「私は全然怒ってないけど? 深夜の男子会で私のことが気になるとか言っておきながら、軽々に乗り換えていることなんて一つも気にしていないから」
と言いつつ、拓海をズルズルと引っ張って行っているので、滅茶苦茶気にしていることは言う必要もないだろう。霧藤が面影の方を見た。
「理解していても、突破して来るのが感情だから」
もしも、何かあって『サイワイの箱』を使う機会があったら、拓海の風見鶏な所を直して貰おうかと、彼女は真面目に考え始めていた。
――
結論から言おう。今回は海岸エリアに向かう途中で住宅街の祠にあった箱も回収して、目的地である洋館に保管されていた箱も回収できた。
驚く位に何もトラブルがなく、昼頃には学園付近まで帰って来られたので、雫原が少し考え込んでいた。
「面影、皆を連れて先に帰って貰える? 澄野を連れて行きたい場所があるの」
「ここら辺だから……そうか。分かったよ。箱はちゃんと届けるから」
「あそこも重要な施設っすからね~」
面影と今馬は早々に納得して、イヴァーも同行しようとする中、霧藤だけは立ち止まっていた。
「雫原さん。澄野君をどこに連れて行くんですか?」
先日の川奈の一件もあって、彼女は気が気でなかったが。だが、雫原はあっさりと言った。
「気になるなら、貴方も付いて来なさい。ただし、イヴァーと一緒にね」
言われた通りに、イヴァーも同行させて4人で向かった先には廃墟があった。雫原は先頭に立って、どんどんと先に進んで行く。奥まで辿り着くと見慣れない装置や機器があった。
「雫原。これは一体?」
「パラレルリープ装置。平たく言えば、私達が普段から話している別TLに跳ぶ為の物よ」
あまりに突拍子の無い説明だったので、理解するのに多少の時間は要したが、もうすでにフィクションめいたことが判明しまくっているので、受け入れることに抵抗はなかった。
「移動できるって。なんで、そんなことを?」
霧藤が首を傾げた。どうして、別のTLに飛ぶ必要があるのか。一体。飛んで何をするというのか。
「私達は今、上手いこと行っているから使う必要は無いけれど、状況によっては使う必要があったりするからね。こういうのがあるって言うのも覚えていて」
雫原がロッカーからスーツを取り出した。見た目は、ダイビングヘルメットとスーツの様に思えるが。
「まず、このPL装置を使う為にもこの『リープスーツ』を装着する必要があるの。コレを着こまない状態で装置を使ったら、命に係わる。ついでに言うと、このスーツには異血の力を弾くテクノロジーが使われている」
「じゃあ、コレを着てヴェシネスと戦えば……」
「それは無理ね。これは異血の力を弾くから、着込んでいる間は我駆力も使えないの」
世の中、そんなにうまい話はないらしい。続いて、雫原が取り出したのは掌サイズのデバイスだった。画面には何かしらの波模様が表示されていた。
「そして、パラレル装置は何時でも使える訳じゃない。BS波と呼ばれる物が高まったタイミングでしか使えない。現在、移動できるTLは……」
雫原が拓海達に画面を見せた所、拓海と霧藤は目を見開いていた。何故なら、気持ち悪い位に大量の線が走っていて、幾何学模様みたいになっていたからだ。
「雫原さん。コレ、何?」
「他のTLを表した物よ。多分1000を超えていると思うんだけど、見ている間にも増えて行くからね。もう、無茶苦茶よ」
気のせいでなければ、拓海達が見ている間にも画面の何処かに線が生まれて行き、フローチャートみたいな物が作られて行く。
「で、結局どのTLに跳べるんだ?」
「えっとね。今は【筋肉】【憎悪】【TS】【修羅場】。あ、見たこと無いTLが増えているわ。【戦神】【異邦人】【来訪者】だって」
「どれも行きたくないですね」
イヴァーがドン引き気味に言っていた。色々とヤバそうな物が並んでいるし、興味が無い訳ではないが……。
「その。跳んだら直ぐに戻って来られる訳じゃないんだよな?」
「パラレルリープ可能な範囲時間だったら戻って来られるけれど。まさか、澄野。他所のTLを見たいって言うんじゃないんでしょうね?」
雫原がきつく睨みつけて来た。やはり、皆の話を聞いていたら他TLに興味が湧いていた。見られる物なら、見てみたいと。
「たっくん。やめておきなよ。折角、このTLが平穏に済んでいるんだから」
「そうよ、拓海。他所のTLなんてロクでも無いんだから」
霧藤とイヴァーからも必死に諫められた。そうだ、自分は霧藤を助けるために戻って来たのであって、進んで危険地帯に突っ込む意味がない。
「そうだよな。好奇心でやっていい訳ないよな」
「分かればよろしい。自分達のTLがどうしようもなくなった時だけ使う様にして」
と、釘を刺されてからPL装置の使い方を説明して貰った。勿論、実際に飛ぶ訳ではないので起動はしないのだが、霧藤が手を挙げた。
「雫原さん。質問、良いかな?」
「何?」
「このPL装置って他のTLにもあるんだよね? だったら、そっちにいる私達がこっちのTLに跳んで来ることもあるの?」
先程、デバイスで見た様に。アレだけ大量のTLがあるなら、こっちに跳ばれることだってありそうだが、今の所。一度もそう言ったことは起きていない。
「基本的に他TLに跳ぶ理由が無いし、跳ぶにしてもこれだけ大量のTLがあるから、態々ウチに来る理由が」
と、雫原が言い切ろうとした所である。操作説明をしていたPL装置が起動していた。直ぐにイヴァーが自分の背後に拓海と霧藤を下げ、雫原も我駆力刀を取り出した。光が収まると、リープスーツを着た人間が3人。
彼らは、この場にいる4人を見ると、手を挙げた。交戦の意図は無いという意思表示だろうか? しかし、イヴァーも雫原も警戒は解かない。
「まず、リープスーツを脱いで、中身を見せなさい」
この3人が特防隊メンバーであるという保証がない。もしかしたら、中身は部隊長かもしれないし、あるいはまったく知らない誰かと言う可能性もあるのだろう。特に逆らうことも無く3人中2人がスーツを脱いだ。見知った顔があった。
「お~! 男の方の拓海だ! 久々に見た!」
「霧藤がその恰好しているってことは、ここは結構上手く行っている方か?」
「厄師寺、飴宮」
何故、この2人が? と言いたかったが、雰囲気がかなり違っていた。飴宮は自分が知っている以上に彼女らしいし、厄師寺は肝が据わっている。何よりも、彼らの言い方が気になった。
「お前ら、もしかして。ちゃんと周回の記憶があるのか?」
「あ、こっちじゃ怠美達の記憶ないのか」
「だから、来れたんだろうが。澄野、悪ぃが頼みがある。ちょっとお前が必要なんだ。付いて来てくれ」
そう言われても、ホイホイと付いて行く気にはなれない。と、拓海が警戒しているのを見て、残りの1人もリープスーツを脱いだ。
「頼む。オレの為に付いて来てくれ」
雫原とイヴァーは多少驚く程度だったが、拓海と霧藤は言葉を失っていた。
リープスーツの下から出て来たのは赤毛の少女だった。髪が腰元まで伸びていた李、少し身長が低かったりするが、拓海とよく似ていた。
「お前、まさか」
「そう【TS】TLの『澄野 拓海』だよ。単刀直入に言う。蘇生マシーンに『男』の『澄野 拓海』のデータが欲しいから、一緒に来て欲しい」
正に、パラレルリープ装置のパラレル部分を見せつけられていた。