案の定というか、別TLの拓海を追い返すべく武装して出て来た面々であったが、雫原曰く『2軍』と呼ばれているだけにあって、彼女とイヴァーの2人に蹴散らされていた。
「拙者らの奮闘って、3行でナレ死するレベルでござるな」
「折角、自分と過子のアッパー調整も決まったって言うのに……」
狂死香と今馬は辛うじて立ち上がれるレベルだったが、他の面々は皆目を回して気絶していた。アッパー調整が決まった大鈴木も大の字に伸びていた。
「皆、そんなに男に戻って欲しくないのか……」
「当然だよ! 例えば、そこに転がっている楽クンみたいな性欲の塊を見てごらんよ! 醜い!!!!」
ぶっ倒れていたハズなのに即座に復活した蒼月が熱弁し始めたので、拓海もドン引きしていた。横ではTS拓海が反論していた。
「そう言う、お前も性欲に駆られているだろ!!」
「僕のはもっとピュアだよ!!」
「だとしても重いわ!! 大体、なんだよ記念シャツって!!」
夫婦喧嘩は犬も食わぬ。と言うことで、拓海達は校舎に案内されていた。
内装は自分達が居た学園よりもサッパリしているのは、大鈴木が施した魔改造などが無いからだろう。そんな風に歩いていると、ギュムっと地面から白いのが生えて来た。
「おんや? 拓海クンじゃないか。なんで、こんな所に?」
「うわ!? SIREI!?」
久々に見たのでびっくりした。1周目の世界でも割とすぐに消されて、2周目に入っても見かけないので、多分消されているだろう。そんな奴が出て来た。
「ほら、この間言っていた。パラレルリープを使って、男の拓海を連れて来たんだよ。コレで、DNAデータを修正できるよね?」
「そう言うことなら出来なくは無いけれど、本官はあまり賛成できないなぁ」
困った様な顔をしていた。ここで拓海はふと気になった。
どうして、この世界線の拓海は女体化しているのか。以前、川奈が作ってくれたVR映像でそれらしい物を見た記憶はあるが。
「なんで、ここのオレは女体化を?」
「言ってなかったな。7日目の防衛戦の時によ。蒼月の野郎が蘇生マシーンに細工してやがったんだ。その時、澄野がちょうど入る羽目になってよ」
つまり、ムヴヴム戦の時に殺されたと言うことか。皆が強すぎて忘れているが、本来部隊長は特防隊メンバーが束になって掛からないと倒せない相手であり、死傷者が出るのは珍しくも無い。
「それで、蘇生された時には拓海が女の子になっていたんだよね。まさか、流行のTSまで盛り込むなんてね。怠美も予想できなかったよ」
厄師寺の説明に飴宮が補足を加えていた。なんで、蒼月がそんな細工をしたのかは理解できなかった。
「アイツなら、オレが男だろうが女だろうが構わず食って来るんだけどな」
「サラっと君達のTLが爛れていることが伝わって来るよね。でも、否定はしないよ! 命が掛った戦場では、平時以上に肉体関係が築かれ易いからね!」
ピンとSIREIは指を立てながら言っていた。と言うことは、まさか、と思って、拓海はチラリと厄師寺の方を見た。
普段はデリカシーの無い彼だが、決して人の心が分からない訳でも無ければ、空気が読めないという訳でもなかった。
「俺と! 澄野は! ダチだ! だから、困ったときに手ェ貸しているだけだ!」
「そうだよな。なんか、安心したよ」
きっと、コイツは何処のTLに居てもこういう感じなのだろう。
もしも、彼と敵対するTLなんて物があったら、釣られて自分の心も滅茶苦茶に荒みそうな気がする。
「怠美ちゃんも?」
「うん。やっぱり、大事なのは拓海がどっちで居たいかだよ」
霧藤は感激した。どのTLにも居ても飴宮の善良さがスーッと効いていた。と、保健室に向かっていると、ちょうど階段から降りて来た人間と鉢合わせになった。
「あら、随分と団体さんじゃない」
雫原だった。当然、他所のTLに行くと言うことは同じ人物と対面することになるのだが、同じ顔が二つ並んでいるというのは何とも奇妙な光景だった。
「えぇ、ちょっとした遠足よ。用事が終わったら、さっさと帰るつもり」
「そうした方がいいわ。長いこと居ても、互いのTLに迷惑をかけるだけだしね」
少し呆れた様子で警告だけして、彼女は去って行った。食堂にでも向かうのだろうかと思って気にも留めていなかったが、雫原だけが訝しんでいた。
「雫原?」
「いや、何でもないわ。先に進みましょう」
何かしらの違和感を覚えていた様だが、その正体を掴みかねていた。パラレルリープ出来る時間も限られているので、足早に保健室へと向かう。
――
「まず、本官がおススメしないと言った理由なんだけど、こっちの拓海クンは女性の体での動かし方に慣れて来ていると思うし、そこでまた男に戻ったとしても防衛戦力として使い物になるのか。それともう一つ、ウチとしては蒼月君に掛ける鎖としての役割を、彼女に期待しているからね」
SIREIの語る理由は実に合理的な物だった。これらに否定できる要素は感情論位しか無い。
「そもそもの話。そう言うデータってSIREIが復元出来たりはしないのか?」
「拓海クン。データって言うのは思ったより複雑でね。1つを弄ると他の所に影響が出たりして、中々弄り難いんだよ。だから、本官は『男』に戻るデータが欲しければ、男の拓海クンを連れて来いと言ったんだがね」
拓海はシステムエンジニアでもプログラマーでも無いので、SIREIが言う所の苦労は理解し難い所があるが、腰が重いということは分かった。
「で、オレは何をすれば?」
「うむ。とりあえず、男の拓海クンに一旦蘇生マシーンに入って貰って、データを取らせて貰う。そして、既存の蘇生データに上書きする。コレで行けるはずだ」
死んだ時でもない限りは入らない装置なので気が引けるが、とりあえず装置の中に入った。中身はゴチャゴチャしていてよく分からないが、なんか色々とされてはいた。
『蘇生データとの齟齬を確認。上書きします』
「(多分、蘇生データをオレの情報で上書きしているんだよな?)」
思ったより、直ぐに終わって帰れそう。シューっとガスを吹きかけられ、意識がまどろみ落ちて行く……。
――
時間にして10分ほど経った頃だ。蘇生マシーンの扉が開いた。中から、拓海が出て来た。だが、誰もが耳を疑った。
「おー。やっと終わったか―」
自らの口に手を当てた。今の声は誰の物か? 言わずもがな、自分の物だ。
だが、自分の声がこんなに高い訳がない。恐る恐る、自分の体を触ってみた。喉仏はなく、胸は膨らんでいて、股間に在るべきものが無い。
「おぉい!!!?」
「えっとだね。ごめん、思ったより蘇生マシーンに加えられていた工作が根深い物だったみたい」
SIREIがテヘッみたいな顔をしていたが、ワザと放置していたっぽかった。彼的にも、この世界線の拓海が男に戻られたら困るのだろう。
「よくねーよ!! 戻せよ!!」
「修理の為には少なくとも1日以上は掛かるだろうね。残念だけど、今日中は無理だよ」
厄師寺がSIREIを問い詰めていたが、無理そうだった。チラリと横を見ると、飴宮が本当に申し訳なさそうにしていた。
「ごめん……」
「謝らなくて良いから。それにほら、落ち込むことはないって。オレは自分のTLの蘇生マシーンに入ればいいだけだから。力になれなくて申し訳ないけれど」
「最初から、そっちの澄野がこっちのTLに来たら良かったんじゃない?」
雫原の身も蓋も無い発言に皆は押し黙る外無かった。少し御売れて、扉が開くとTS拓海と蒼月が入って来た。
「ラブ&ピース!」
TS拓海が2人に増えたので蒼月がダブルピースで喜びを表現していた。2人の拓海は無言で彼にビンタを食らわせていた。
「ほら、やっぱり碌なことにならなかった」
床で満面の笑みを浮かべて気絶している蒼月を傍目に、雫原は盛大に溜息を吐いていた。