最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編】47日目 その4

 ひたすら、頭を下げて来る厄師寺、飴宮、TS拓海に見送られて4人は研究所に戻ることになったのだが、道中のことである。

 

「たっくんじゃなくて。たっちゃんって呼べばいいかな?」

「霧藤、近いって」

「いいじゃん! 女子同士なんだしさ!」

 

 どうやら、彼女は拓海がTSしたことが喜ばしいのか、ベッタリしていた。第2防衛学園の女子グループの誰ともここまで距離は近くない。喜ぶ彼女を他所に、雫原とイヴァーは微妙な表情をしていた。

 

「蘇生マシーンの原理はよく分かっていないけれど、元に戻せるの?」

「分からない。パラレルリープした先で女体化する。なんてことは一度も無かったレアパターンだから」

 

 まず、別のTLに行く用事が無いし、今回みたいに『来てくれ』というのもかなり珍しい話だ。拓海には別TLが自分達のTLに戻って来る方法を知る為にテスト的に跳んでみたが、やはりロクでも無かった。

 

「希は喜んでいるけれど、私はやっぱり男としての拓海の方が……」

 

 イヴァーが控え目に尋ねたのは、霧藤と自身の感情に揺れているからだろう。

 保護者面している手前、娘と同い年の少年に懸想を抱くというのは如何なるものか。というのは、本人も理解していることだが、感情は抑えられる物ではない。

 

「大丈夫よ。蘇生マシーンに入れたら何とかなる。ハズ」

 

 雫原もやはり異性として拓海を認識している側として、元の性別には戻って欲しかった。……同性なら、同性でどうにかするが。

 帰り道にはやはり侵攻生物が哨戒していたが、どうにも様子がおかしい。漫然と歩きまわっているのではなく、何かを警戒する様に周囲を頻りに探している。彼らを率いているのは、∞態に変身しているアダムキューだった。

 

「おい! 侵略者を逃すんじゃねぇぞ! 捕まえて、ぶっ殺せ!!」

 

 先程までの和気藹々とした空気は一変し、一気に緊張状態になった。

 何故、アダムキューが生き残っているのか、どうして自分達を探しているのか? 見つからない様に慎重に移動を始めた。

 

「雫原、なんで部隊長が?」

「知らない。ちゃんと、このTLの部隊長との交戦状況を聞いて来るべきだった。そもそも部隊長が哨戒に来るなんて、相当に珍しいパターンなのに」

「そうよね。別に私達は特防隊メンバーを殺したい訳じゃなくて、学園を落とすのが目的なんだから」

 

 雫原とイヴァーの話を聞いて、この状況がおかしいと言うことに気付いた。

 自分達は部隊長と戦うという使命を背負っているが、それはあくまで学園を防衛する為である。態々、自分達を駆り出すためだけに出て来るだろうか。いや、もっと疑問に思う所があった。

 

「なんで、こんな短時間の間に?」

 

 霧藤も疑問に思っていたらしい。自分達がここに来たのは2,3時間位前の話で、その間に増援と部隊長が駆け付けて来るというのは奇妙な話だ。

 

「イヴァー。お前から見て、この状況はあり得るのか?」

「ううん、普通は無いと思う。この付近で、待機する様な状況でも起きない限り。例えば、集中的に襲撃されたりとか……」

 

 そんなことをする理由が思い浮かばない。一応、侵攻生物を殺しても微量の異血を得ることが出来るが、リスクに対してメリットが見合わない。

 

「アイツらに見つからない様に、さっさと移動しましょう」

 

 息を殺して、侵攻生物の警戒網を潜って移動する。

 少人数で行動していたこともあって、このまま辿り着けるのではないかと思っていた矢先のことである。引っ掛かったのは、拓海だった。

 

「え?」

 

 ガラン、ガランと大きな音が鳴った。足元を見れば、糸の様な物があり、その先には木の板が括りつけられており、お互い打ち合ってカンカンと音が鳴った。一斉に侵攻生物達の視線が集まった。

 

「拓海。研究所まで戻れる?」

「雫原? 何言っているんだよ。オレも一緒に」

「ロクに戦っていないアンタが居ても邪魔なの。私とイヴァーだけで十分だから、霧藤と一緒に向かって」

 

 そう言われたら、従うしかない。自分が居ても邪魔にしかならない位には2人は強いのだから。霧藤に腕を掴まれた。

 

「走るよ!」

 

 こういう時に彼女の意思決定能力の高さは役に立った。走り出すと同時に侵攻生物達が押し寄せ、雫原とイヴァーが次に次に蹴散らしていく。彼女達が無事に帰って来ることを疑わないまま、2人は去って行った。

 

――

 

 襲い掛かって来る侵攻生物が軽く蹴散らされているのを見て、アダムキューは憤っていた。

 

「て、テメェら!? なんで、そんなに強ェんだ!? つか、イヴァー! なんで、寝返ってやがる!?」

「貴方、本当に噛ませ犬っぽいセリフが似合うのね」

 

 ヤンキー気質なこともあって、どういう訳か出力される言葉が小物っぽくなってしまうのは、どの世界線のアダムキューにも共通していることらしい。

 雫原のセリフにカチンと来たのか、あるいは侵攻生物が殆ど倒されたことによる焦りからか、一気に肉薄して来た。

 

「嘗めんじゃねぇ! 俺は部隊長一速ェ男だ! テメェらを切り刻んでやらァ!」

「前から思っていたんだけれど、そのやられる為の前口上は何?」

 

 イヴァーも苦笑いしながら∞態のアダムキューと対峙していたが、ここにいる2人は拓海達のTLにおいてはトップクラスの戦闘力を持っている。

 アダムキューが鎌状の腕を振るって切り刻もうとするが、雫原もイヴァーも平然と弾いては、反撃に手斧を投げたり、幾つも出現させた鎌をぶっ刺して来たりして、動きが怯んだ瞬間にタコ殴りにされていた。

 

「クソがぁあああああああああ!」

「殺しはしないわ。さっさと帰ることね」

 

 別に始末しても良かったが、この【TS】TLの特防隊メンバーのスタンスが分からない以上、雫原も勝手に手を下す訳には行かなかった。

 情けを掛けられ、それに対して反論も抵抗も出来ないアダムキューは怒りでぶるぶると震えていた。

 

「何がさっさと帰れだ!! 3日前から、この辺りを通った侵攻生物を虐殺してやがった癖に!! テメェらは何がしてぇんだ!!」

「何ですって?」

 

 勿論、自分達は3日前にこんな所に来ていないし、このTLの特防隊メンバーがそんな無駄なことをするとは思えない。

 雫原の脳裏に過ったのは、ここに来たばかりの時だ。PL装置の使用履歴に『3日前』に【修羅場】TLから転送されて来たというのがあった。帰ったとは思っていたが。イヴァーも同じことを思いついていたらしい。

 

「比留子!」

「えぇ!」

 

 デバイスを見た。PL装置の転送時間にあまり余裕はない。今になって、雫原の中に色々な物が符合し始めていた。

 

「(あの時に、最終防衛学園で見た雫原は)」

 

~~

 

 時間は少し前後する。研究所に辿り着いた拓海達だったが、到着して少しした頃。雫原だけがやって来た。

 

「雫原! イヴァーは!?」

「あの後、別の部隊長もやって来たのよ。∞態になって蹴散らすから、巻き込まない様に。というのと、帰れなくなることだけは避けるために先に行ってと」

 

 デバイスを見れば、もう少しだけ時間の余裕はあるが、自分達が行った所で何が出来るとも思えない。

 

「イヴァーを置いて行くのか!?」

「全員が被害に遭うのを避ける為よ。いざとなったら、このTLの最終防衛学園の方に身を寄せれば良い。私達全員が抜けるよりはずっといい」

 

 4人全員がこのTLに取り残される弊害は大きい。戦力的な物は兎も角として、拓海が居なくなることで、特防隊メンバーの精神的均衡を欠くことになる。

 

「イヴァーは戻って来られるんだよね?」

「貴方達を送り届けた後、直ぐに迎えに来るから安心して」

 

 そう言うことならと。3人は急いでリープスーツを着込んだ。PL装置を操作して移動しようとした時のことである。扉が勢いよく開かれた。

 

「澄野! そこからどいて!」

 

 入って来るや雫原が叫んだ。どういうことか? 雫原なら先程まで機械を操作していたではないか。振り返る。装置の上に乗っていた霧藤が蹴り飛ばされた。転送が始まる。

 

「さぁ、拓海。行きましょう」

 

 ゾッとした。雫原に下の名前で呼ばれることが無かったこともあるが、脳の奥に絡みつく様な粘着質な声だった。

 

「お前は――」

 

 誰だ。と言い掛けて、転送された。2人が居なくなった後、イヴァーは蹴り飛ばされた霧藤を起こして、雫原が使用履歴を見た。

 

「行先は【修羅場】TL……」

 

 直ぐに追いかけようとしたが、案の定ロックが掛けられていた。自らの失態に冷静さを欠きそうになったが、雫原は頭を振った。

 

「まず、私達のTLに戻りましょう。対策はその後で」

「分かった。よし、リープスーツに穴は空いていない。希、もう一度PL装置に乗って」

 

 イヴァーに優しく言われたが、霧藤もまた事態を理解出来たわけでは無かった。一体、拓海は何処に行ってしまったのか? 一先ず、残されたメンバーは元のTLに戻ることにした。

 

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