『先日は、野蛮下劣なモーニングレターをありがとうございました。返礼といたしまして、お越しになられた客人へのもてなしの御様子をお送りいたします』
いつも通り、筋骨隆々とした銀崎がボンテージスーツを着こなした上で慇懃無礼に前口上を述べていた。
さて、紹介され物はある程度予想が付く物だった。案の定、アダムキューは返り討ちに合い、これまたマスクだけを被らされた上で首から下は全裸だった。
コレをしばき回すべく、頭巾を被った凶鳥が竹刀で打ち据えようとしていた。だが、アダムキューは気概と憎悪に満ちた男だった。振るわれた竹刀を掴み取って、ブチギレていた。
『痛ェっつってんだろ!!!』
『痛くしているのでござる世!!』
だが、彼の抵抗も空しく。掴み取った竹刀は奪われ、抵抗した罰として尻が腫れ上がるまで殴られていた。横では、同じ様に捕縛されたパクロンが両手で顔を覆っていた。
『もうやめて! てか、アンタ達の彼氏を寝取ったの私達じゃないし!』
『連帯責任ですよ。アンタらの本拠地を教えてくれたら、開放するんっすけど』
今馬が脅しに掛ったが、あまりの惨状を見かねたのか。厄師寺が間に入って来た。
『幾ら! 敵でも! やって良いことと悪ぃことがあるだろうが!』
『厄師寺、どきなさい。私達がぼやぼやしている間にも澄野の貞操は散らされていくの』
『昨日の冷静さは何処に行ったんだよ!?』
様子のおかしい雫原を見かねたのか、厄師寺も焦っていた。なおも、アダムキューへの加虐は続いた。一線として手を付けずにいたマスクが脱がされた。
中からは、金髪のパンクヘアーの青年の素顔が露わになった。顔立ちは整っており、野性的な雰囲気が特徴的だった。銀崎が歩み寄った。
『貴方達は神の力を借りて戦っているんですよね』
『そうだ! テメェら野蛮な侵略者と戦う為にな!』
『そうですか。ですが、僕らの神を簒奪する与太者には必要ない物です』
スッと、取り出したのはプレゼントマシーン製のバリカンだった。ブィイイイと電源が入り、刃が振動する。
『おい、まさか。おい』
『貴方達にカミなんか必要ないんですよ!!』
豪快に金髪を剃り上げていた。きっと、神と髪を掛けた懲罰なのだろうが、何も上手くないし、あまりに凄絶な光景だったのでパクロンも絶句していた。
数十分後。マスクをはぎ取られ、衣服もはぎとられ、髪も剃り尽くされた憐れな英雄が横たわっていた。死んではいないが、尊厳は殺されたも同然だ。
『殺せ……』
『いいえ、貴方にはまだまだやることがあります。次は捕縛されている部隊長と』
『やめろつってんだろ!!!』
あまりの暴虐ぶりに耐えかねたのか、厄師寺が銀崎の顔面を殴っていた。
だが、いかなる現象か。殴られた方は微動だにしていないというのに、殴った方の腕は手首から折れていた。
『ぐぉおおおおおお!?』
『厄師寺さん。見た目と態度の割には攻撃力低いですからね』
『話すわ! 私達の本拠地のことを話すわ!』
恋人の無残な姿。そして、あまりの惨劇に声を上げてくれた青年が負傷したのを見かねてか、ついにパクロンは口を割った。割ってしまった。
他の面々が所在地を知るや出撃の準備をする中、飴宮だけは散らばった髪の毛を集めて、アダムキューに振り掛けていた。
『次は綺麗に生えて来るんだよ』
『殺せ……』
打ちひしがれたアダムキューと泣き崩れたパクロンは中庭にある檻へと連行されて行き、特防隊の面々はカチコミを掛ける準備をしていた。
~~
「という、ビデオレターが今朝方届いた訳だ」
ヴェシネス達が滞在する基地は大混乱に陥っていた。理由は言わずもがな、特防隊のメンツが殴りこんで来たからだ。
「あんな異常者共に澄野は渡さない!!」
イヴァーは戦意に満ちていたが、他の部隊長はビビり散らかしていた。健常な思考の持ち主なら、あんな異常者共と関わりたいとは思わないだろう。
「いや、こう。特防隊のリーダーであるオレが言うのもなんだけれど、逃げた方が良いんじゃないかな……」
拓海の目から見ても仲間達の様子は異常だったので、このままでは部隊長が皆殺しにされてしまうだろう。敵対してはいるが、数日間共に過ごした相手が無惨な目に遭うのは忍びない。
「で、でも。前にヴェシネス様は全員を返り討ちにしたと言っていたし、今回も行けるんじゃ……」
ぼそぼそとした声で意見をしたのは『クェンゼーレ』だった。確かに、ヴェシネスは単機で拓海を拉致して来るほどの実力を持っているが。
「偉大なる私が負けるつもりは微塵もないが、あの異常者共が死に物狂いで掛かって来られたら面倒だ」
既に本拠地に蓄えていた侵攻生達の過半数が骸と化している。恐らく、特防隊は学園側の防御すら考えていないのだろう。
かと言って、返す刃で相手の本拠地を落とそうにも動きが早すぎる。何が起きているのかと、基地内に設置したモニタを確認してみた。
『オラーッ! 川奈と面影コラボの消えない炎&毒ガス爆弾! HS(はよしね)爆弾を食らうでござるよ!』
特防隊の面々は手にした爆弾を投擲しまくっていた。周囲に消えない炎が燃え上がり、毒ガスが散布され、死屍が累々と積み上げられていく。
強い弱いとかじゃなくて非道だった。あまりに凄惨な光景に部隊長達は震えあがる外無かった。
「も、もう。スミノを置いて行くしかない。アイツらは頭がおかしい……」
不撓の化神。と言われた『バラガルーゾ』でも、マジモンのアレを相手にしたくはないらしい。他のメンバーも同様だった。
「ふざけたことを抜かすな。侵略者相手に臆病風を吹かす位なら、ここで刈り取ってやってもいいんだぞ」
ヴェシネスがバラガルーゾに大剣を突き付けた時のことである。部隊長の1人、『シャンシン』が自らの首を搔っ切った。∞態へと変身する為だ。
彼女の姿は巨大な線虫へと変わった。巨大な口吻で拓海を加えこむと、猛烈な勢いで、この場から脱した。
「うぉおおおおおお!?」
拓海は知っている。1周目、似たような感じで取り込まれた今馬がどうなったかを。このままでは自分にも重大な後遺症が残るのではないかと。
「大丈夫よ! ちょっぴり同化しているけれど、完全に同化はしていないから! 私が助かる為に、利用させて貰うだけだから!!」
首を傾けてみれば、背後から鬼のような形相をしたイヴァーとヴェシネスが迫り来ていた。だが、シャンシンを殺せば拓海にもダメージが行くことを知っているのか、手出しはしてこなかった。そうこうしている内に広い場所に出た。
「拓海クン!!」
特防隊の面々が集合して、背後からは丁度イカレポンチキ姉妹も到着した。真ん中には拓海を咥えたまま窮地に陥ったシャンシン。逃げても絶望、進んでも絶望の二択だった。
「仲間割れかしら?」
雫原の手には、モニタでも見た例の非道兵器。だが、コレにはシャンシンも声を上げた。
「私に手を挙げればどうなるか分かっているでしょうね!! アンタ達の手でスミノ タクミ を殺すことになるのよ!?」
ヴェシネスやイヴァーでさえ手出しすることが出来ない自分に手を出す訳がないとタカを括っていた。だが、シャンシンは失念していた。目の前にいる連中がイカれていることを。
「面影ェ!!」
「了解だよ。つばさちゃん!」
真っ先に動いたのは川奈だった。次に面影が、彼女の学生兵器(クラスウェポン)に飛び乗った。シャンシンも慌てて触手で対抗するが、川奈を捉えられない。
巨体に肉薄すると、面影がシャンシンに取り付いて体の一部を切り裂くと同時に、大量の薬品をぶち込んでいた。
「ヴヴぉ。オゲェエエエ!!」
全身の体細胞をかき回され、揺さぶられ、何億匹物虫が這って、暴れ狂い、噛みついて来たが如き極限の不快感に襲われ、堪らず拓海を吐き出していた。
「逃がす……」
「あー!! 拓海クンが弱っているなぁ!! 学園にある蘇生装置を使わないと死んじゃうだろうなぁ!!」
ヴェシネスが奪い取ろうとして来たので、蒼月がワザとらしく叫んでいた。
彼女がいかなる豪傑であったとしても人を癒す術がない。だが、配下にはそれが出来る人間がいるので呼び出そうにも、あまりに特防隊の動きは早かった。
「皆! アレを!」
川奈の号令と共に全員の足下に装置が出現した。すると、彼らの体は高く打ち上げられた。彼らが出撃する際に使っているロイター式踏切版型カタパルトの簡易版で、戦場で軽快な動きを可能とする装置だ。
あまりに息の合った連携で瞬く間に拓海は奪還された。八つ当たりをしようにもシャンシンの姿が無い。恐らく、一緒に拉致されたのだろう。
「何処までもふざけた奴らだ……!」
「お姉ちゃん。次の奪還に向けての準備をしよう。きっと、直ぐには捕まらない」
押し殺してはいるが、イヴァーの声にも怒りが籠っていた。少し遅れてやって来た他の部隊長達は、ヴェシネス達が放つ殺意を前に何も言えずにいた。