最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編/修羅場TL】49日目 その2

「入るぞ」

 

 恐る恐る、飴宮の部屋に入った。ドアは施錠などもされておらず、あっさりと開いた。蒼月のデバイスで見た通り、散乱した部屋の隅には紫色の肉塊が転がっている。ビクビクと脈を打っている。

 

「飴宮。なのか?」

 

 どう見ても彼女とは思えない。ただ、直感とでも言うべきものが告げていた。この肉塊は『飴宮 怠美』だと。触れてみようとして、蒼月に止められた。

 

「駄目だよ。取り込まれる」

 

 学生鎧を纏っていても意味がないのか。こんな物がフトゥールムにあったのだと、驚いていると肉塊が蠢いた。

 膨張と縮小を繰り返したかと思えば、部屋を覆っていた肉塊は縮んで行き、人間の形を取った。予想通りと言うべきか、飴宮が残されていた。

 

「拓海じゃーん! いつの間にTSしたの? 流行り?」

「茶化すな。これはどういうことだ?」

 

 先程までの異様な光景など無かったことの様に振舞っていたので、思わず詰問するような形になっていた。

 

「怒んないでよ。晶馬は殺されちゃうし、拓海はいなくなるし。なんで、こうなっちゃったのかなーって。怠美に何か出来ないかなって」

「それがノモケバ? と、どう関係があるんだよ」

「んー。拓海がいるなら、もう大丈夫だから!」

 

 ガシっと抱き着かれた。元のTLでは、気を遣ってはくれるが遠巻きに見られていたので、こうして積極的に絡まれるのは始めてだった。

 

「あ、飴宮。近いって」

「問題ないってー。今の拓海は女子だし? 百合だね。百合!」

 

 何故、強調した? と思いつつ、先程から蒼月が黙っていることが気になった。

 昨日、雫原との会話では対立意識を覗かせていたが、今回はそう言う気配がない。考え込んでいる。

 

「蒼月?」

「ちょっとね。怠美さん、今日は僕が拓海クンと1日過ごす約束をしているから、もう良いかな?」

 

 蒼月が拓海の腕を引いて部屋から出ようとした所で、飴宮はニッコリと笑いながら手を振っていた。

 

「また、後で寄ってね~」

 

 パタリと扉を閉めた。一体、今のは何だったのか? 蒼月の部屋に戻った後、彼はポツポツと語り始めた。

 

「怠美さんは普段の言動はアレだけれど、中身はかなりまともでね」

 

 拓海が居なくなった後、飴宮は悪化する特防隊メンバーの仲を見て病んで行ったということらしい。

 

「もしかして、ノモケバで何とかしようってことだったのか?」

「かもしれないね。……正直言うと、皆関わらなくて済むなら関わりたくないって感じだからさ」

 

 蒼月の言い分は分かるが、それでもイラっとした。

 彼女を追い詰めたのは誰なんだ。と言いたいが、巡り巡って自分のせいになるので彼に当たろうとする気持ちをグッと呑み込んだ。

 

「(自分と言っても。オレじゃないんだけれどな)」

「怠美さんを見ても分かる通り、僕らは拓海クンがいなければ駄目なんだ。何を信じれば良いかも分からないから」

 

 拓海には覚えがあった。自分がいたTLで皆が慕うのも、ここら辺が大きいと。

 少しずつ事情を聞いて行けば、彼らの生い立ちにまで関わって来るのだが、大本が一緒である以上。やはり、蒼月達も同じ理由なのだろうか。

 

「もしかして、皆。最終防衛学園の事情を知っているのか?」

「出生も含めて? うん。知っているよ」

 

 ここまでは一緒だ。だとしたら、どうして皆の仲が悪くなっているのだろうか。少なくとも、自分がいたTLでは皆は結託していたが。

 

「なら、皆と手を取り合って」

「なんで? どうして、僕が誰かに譲歩しないといけないんだ?」

 

 肩を掴まれ、壁に押し付けられた。元から力の差はあったが、今は男性と女性と言うこともあり、より一層抵抗が出来なくなっていた。

 

「蒼月。落ち着けって……」

「一番じゃないと。飽きられて、捨てられるかもしれないじゃないか。僕達を捨てた人工天体の連中みたいに!」

 

 それは。自分がいたTLでは聞かなかった悲鳴だった。

 もしかして、彼らや彼女達も同じ苦悩に当たって、叫んではいたが……諦めていたのかもしれない。

 

「(そうか)」

 

 自分は真実を知らされた時も驚きはしたが、直ぐに立ち直れた。自分を慕ってくれる特防隊の皆がいたからだ。

 もしも、自分達の寄る辺が無くて、全てが嘘で、帰るべき場所も無くて、味方も居ないとなった時。そんな孤独に耐えられるだろうか?

 

「現に。このTLの拓海クンは僕達を見捨てたんだ!」

 

 追い詰められたのは、飴宮だけじゃない。きっと、このTLの特防隊メンバーはギリギリの所で踏ん張っている。

 どうして、自分が選ばれたのか? そんなこと、今はどうでも良い。このTLにいた自分を責める気も無い。覚悟も何も無い人間が、皆の孤独を一斉に引き受けるのは無理に決まっている。キャパを超えている。

 

「蒼月」

 

 背中に手を回して抱きしめた。身長差もあって包み込むとはいかなかったが、興奮している彼を落ち着かせること位は出来るだろうか?

 

「オレがいたTLではさ。皆がいたから、孤独だって思ったことがない。帰る場所が無くても、記憶が嘘でも、皆と一緒にいた時間は本物だから」

 

 あまりに今更の話だが。自分が孤独や苦悩に苛まれなかったのも、皆がいてくれたからだ。バカだったり、アホだったり、爛れてもいたけれど、彼らの想いを、好意を『愛』と言わずして、何と言うだろうか。

 きっと、この世界は遠い世界にあるTLではなく。本当に自分達のTLのすぐ傍にあったのだろう。

 

「何それ。自慢?」

「そうだ。自慢だ。……だからさ、向こうで沢山もらった分。ここの皆に少しでも返せたらって」

 

 だから、今度は自分が彼らに与える番になれないかと。巻き込まれたのは間違いないし、元のTLに戻りたいという気持ちに嘘は無い。でも、その前に。彼らをどうにかすることは出来ないだろうか。

 

「それで、何をするつもり?」

「……考えてないか。もしくは」

 

 モニョモニョした。別に愛が無くてもできる。とは言うが、やる以上は何も思っていない相手とは嫌だしとか、色々と考えていると顔が紅潮して来た。

 

「拓海クン?」

「(いかんぞ。これじゃあ、まるでオレがドスケベみたいじゃないか)」

 

 そんな発想に至っている時点で十分ドスケベであるが、分かりやすい形ではある。しかも、偶然にも自分の体は女性の物になっている。

 

「さっきから、自分の体をペタペタ触って何しているの?」

「心の準備と言うか。ホラ、その。アレだよ」

 

 拓海は左手の人差し指と親指で丸を作った。そして、右手の人差し指を丸に通すハンドジェスチャーを見せた。蒼月が噴出した。

 

「拓海クン!? 何を言っているんだい!?」

「畜生! 当たり前だけれど、真面目だから!」

 

 どうやら、自分の頭の中は真っピンクだったらしい。普通の人間はそんなに貞操がユルユルじゃないから(戒め)。

 

「でも、そう言うのってもっと仲を深めてからじゃないと……」

「この期に及んで紳士ぶるな! オラっ! 脱げッ!!」

 

 もはや、拓海もヤケクソだった。仲良しの方法があまりに直接的と言うか、下劣感は否めないが、これも元いたTLで培ったコミュニケーションである。……果たして、彼が受け取った愛は真っ当だったかどうか。

 

~~

 

 【好き好き】TL。霧藤達が帰って来るのを待っている間、既に残りのサイワイの箱を集めたメンバーは、雫原が司会進行する中で作戦会議をしていた。

 

「向こうのTLに行って、拓海を取り返すだけじゃ事態は終わらない」

「だろうね。それに、どうせ拓海クンのことだ。向こうの僕達もあっと言う間に篭絡されてそうだし」

「拓海殿は妲己か何かでござるか?」

 

 蒼月が『見なよ。僕の拓海クンを……』と言わんばかりにドヤ顔をしていたが、他の者達は凶鳥と同じく、彼の魔性ぶりに戦慄していた。

 

「何が怖いって。澄野の場合は否定できないのよね」

「分かるわ。多分、どのTLでも私なら澄野にぞっこんになる気がする」

 

 大鈴木も蒼月の戯言を否定できなかったし、川奈もウンウンと頷いていた。そして、面影が続きを促した。

 

「そもそも。いなくなったというのが気になるね。殺されたという訳では無いんだろう? それなら、どうにかする方法はあるはずだ」

「面影の言う通り。異血吸収で殺されたなら『ノモケバ』を使えば良い。それが出来なかったのか、澄野自体が居なかったからでしょう。考えられることがあるとすれば、単に逃亡中か。あるいは」

「別のTLに潜伏しているか。だね」

 

 恐らく後者だ。何故なら、前者の場合は拓海が生きていく術がない。

 特防隊メンバーの生活は最終防衛学園に依存しきっている為、フトゥールムで生きていくのは外部の協力者がいないと難しい。

 

「でも、どのTLに逃げたかなんて分かるのか?」

 

 丸子も言う様に、そこがネックだった。居なくなった拓海が何処に行ったか? TLは山ほどあり、何処に逃げたかなんて想像も付かない。

 使用履歴だけ見ても大量のPL跡がある為、何処に跳んだか分かる訳もない。となれば、やることは……。

 

「川奈。BS波を調整する装置作りなさい」

「雑な振り止めてくれる!!?」

 

 雫原も相当キているのだろうか。あまりの無茶振りに川奈もたまげていた。とは言え、サイワイの箱を使わずに他所のTLに跳ぶ手段なんて、それ位しか思い浮かばなかった。

 

「で。カワえもん。実際に作れるのでござるか?」

「そのあだ名止めて。BS波って私でも分からないし。なんか、そう言うのに詳しい人は……」

 

 はたと何か思いだしたのか。川奈が手を叩いた。すると、虚空から何かが出現した。シオンだ。

 

「どうしたの?」

「シオン! BS波の調整を手伝って!!」

「え? え???」

 

 ドタバタと走り去っていった川奈の後をシオンが慌てて付いて行った。きっと、何とかなる気がした。

 

「でもよ。仮にBS波を調整する装置を作っても、何処に澄野が逃げたかなんてわかるのか?」

「それは分かっている。【修羅場】TLの澄野が逃げたのは【TS】TLよ」

 

 ほぼ、確信に近い物言いだった。一体、雫原は何を知っているのか。彼女はその根拠を話し始めた。

 

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