蒼月と飴宮の部屋は隣同士である。
通常、部屋が隣同士でも大声でしていない限り、会話は聞こえるかどうか位なのだが、ノモケバと一体化している飴宮には一通り聞こえていた。そして、2人が何をおっぱじめようとしているかも。
「(どうしようかな。衛人との時間を邪魔したら、拓海怒るかな? でも、向こうの拓海ビチビチビッチっぽいし……)」
あまりに失礼な印象だが、事実なのだから仕方がない。今から自分も加わって3Pという可能性もあるかもしれないので、もう少し耳を傾けた。
『拓海クン! 考えてくれ! 僕達は1つのオリジナルから生まれたいわば兄弟みたいな物! 倫理的に不味いよ!』
『お前から、そんな正論聞くとは思わなかった! 第一、ここまで拗れた人間関係繰り広げているんだから、今更、出し入れの一つ位気にすんな!』
『拓海クンの貞操観念どうなっているの!? せ、せめて日が落ちてから』
『乙女か!!』
肉塊っている場合じゃねぇ! 飴宮は奮起した。この期に及んで、清純を気取っているヤンデレ眼鏡を焚き付けねばならないと決意した。
無遠慮に蒼月の部屋に入ると、ベッドの上で抵抗を続けている蒼月と野獣と化した拓海の姿があった。急いで扉の鍵を閉めた。
「怠美も混ぜてよ~」
「なんだ、このギーク!?」
突如として乱入して来た飴宮に拓海も戸惑っていたが、彼女の行動は早かった。背中からいっぱい触手を生やして、蒼月を拘束して服を剥いで丁寧にクローゼットに仕舞った。
「怠美さん!?」
「暴れるなよ。暴れるなよ……」
「なんか、うちのTLに居た銀崎みたいなこと言ってんな」
ギークの共通認識的な物かもしれない。元ネタを履修する気は無いが。
かくして、蒼月のすらりとしながらも筋肉質な体が露わになった。拓海は彼の体をマジマジと眺めて……脇腹を抓った。
「痛っ」
「オレが知っている蒼月よりフニフニしている」
「だろうね。蒼月も皆、ストレスで暴食気味になっているし」
そう言えば、今馬と過子も朝飯にかなりガッツリしたものを食べていたが、アレもストレスの表れだったのだろうか。
「あの。もう良いかな? その、恥ずかしいし……」
辛うじて、パンツ1枚が残された蒼月は飴宮の拘束を解いて欲しいのか、手首を動かしていた。
無理矢理手籠めにしようとしたが、自分よりも遥かに頑強で真っ当な貞操観念を見ていると、拓海も正気に戻り掛けていた。オレは今、何をしようとしていたんだ? と……。
「拓海! どうして、そこで正気に戻るの!? ダメダメダメ! 折角、ノモケバを展開したんだから、沙耶の唄ろうよ!」
「でも、このメンバーで沙耶の唄やったら、部外者がオレになるんだけど」
認識障害を持つ青年と見た目は麗しいが中身はヤバいのとビッチ。
最後のは、ゾンビ映画やサメ映画で言う所のおやつ的ポジションだが、現状の騒ぎやら何やらにおいては渦中の人物である。
「僕も別に怠美さんと仲良くないしなぁ」
「本人の前で言う!? 嫌いじゃないけど、好きでもないよ的な!?」
「お前達、本当に仲いいなぁ」
なんだか毒気が抜かれてしまって、完全にそういう雰囲気じゃなくなった。拓海も上着を羽織って、飴宮も蒼月の拘束を解いていた。
勝手に引き出しを開けて、中に入っていた缶入りクッキーをポリポリ齧っていると、扉が乱暴に叩かれた。
「ちょっと!!! うるさいんだけど! 静かにしなさいよ!!」
「やば。つばさじゃん」
蒼月の部屋は川奈の部屋とも隣同士である。
これだけドンチャン騒ぎをしていたら近所迷惑にもなるだろう。申し訳なく想い、騒ぎの下手人である拓海が表に出た。
「ゴメン。ちょっとはしゃいでいた。静かにするから」
「なんで、蒼月の部屋に澄野が!?」
「自分から地雷原に入って行くのか……」
もしかして、銀崎が死んだ分の因子が飴宮にでも吸われたのだろうか。先程から、彼みたいな喋り方をしているのが気になった。
そして、拓海は部屋の中を見た。ひん剥かれた蒼月、普段は表に出て来ない飴宮……何もおかしな所は無い。
「どうしたんだ、川奈。そんな呆然として?」
「ここから白を切る!? 蒼月、パンツ一丁じゃん! 何してたの!?」
「誓ってやましいことはしていません」
拓海は龍が如き威風堂々たる姿勢で事実を述べた。本当にやましいことは何もしていないので、拓海も胸を張って言えた。
「飴宮さん。本当に何もしていない?」
「していない、していない。服をひん剥いたまでは良かったけれど」
「未遂じゃん!!」
「事は起きていないから……」
ひん剥いただけなら問題は無い。仮に飴宮が来てなくても蒼月の貞操観念が厄師寺や銀崎の学生兵器(クラスウェポン)位にガチガチだったので、間違いが起きることは無かったと思うが。
「あの。そろそろ、拓海クン以外出て行って欲しいんだけど」
部屋に乱入されて服を破かれた挙句、ヒステリーを起こされている蒼月としては堪ったモンじゃない。
渋々と触手を収めた飴宮と川奈が拓海を連れて出て行こうとした所で、抗議の声が上がった。
「いや、なんでオレまで連れ出そうとしているの?」
「なんでって。異性の着替えをマジマジと見るモンじゃないよ?」
川奈が訝し気な表情をしていた。おかしなことは何も言っていないのだが、何か腑に落ちない。
「どさくさに紛れて、拓海クンを連れ出すのはやめてね。服を着替えるのなんて一瞬なんだから」
クローゼットを開けた。いつもの白いフードパーカーを取り出そうとしたが、どれもこれも粘液塗れになっていた。
「え? え???」
「ごめん。怠美が衛人の服を仕舞った時に着いちゃったみたい。怠美汁が」
まさかと思い、拓海は蒼月の体を触ってみたが変な汁は付いていなかった。どうやらON/OFFがあるらしい。
「拓海クン。その、直に触られると恥ずかしいな……」
「あ、ごめん」
「そうだね、拓海。蒼月はパンツ一丁で着替える物も無いから暫くそっとして上げようね。後で替えの服は持ってきてあげるから部屋で大人しくしといてね」
川奈は何としても拓海を連れ出したいらしい。幾ら1周目で因縁がある相手でも、パンツ一丁にして放置するのは人道に反する。
「バカなこと言っていないで、プレゼントマシーンで服作りに行くぞ」
「アレ? 確か、資源が無いから喪白さん達が探索に出たんだと思うけれど」
そう言えば、今朝方。蒼月がそんなことを言っていた気がする。まさか、あんなところに伏線が敷かれていただなんてと思いつつ、彼の方を見た。
「ちょうど、布が足りないんだ……」
「喪白さん達が帰還するまで部屋で大人しくしておいてね」
川奈はウッキウッキで拓海を外に連れ出した。ぱたんと扉を閉じた後、飴宮は申し訳なさそうにしていた。
「まさか、こんなことになるなんて……」
「本当にな!!」
拓海も声を上げていた。そもそも、最初に手籠めにしようとしたのは彼だったので飴宮を責める権利など無いハズだが、特に気にした風も無かった。
「残念だったね。でも、澄野。ちょうど、私も徹夜してムラムラしていたし。お互いに欲求不満なら、部屋に来なよ」
「お前の安定感は何?」
どのTLでも彼女の安定感が抜群なのは、それだけBSに彼女の存在感が刻まれているということだろうか。
「怠美も行くー!」
「女3人で姦しくなりそうだね!」
「その姦しさ! 強い!」
強い姦しさから逃れようとバタバタしていたら、今度は川奈の部屋の隣から出て来る人間がいた。現在、拓海が意図的に避けていた相手。丸子である。
「なぁ、お前ら。何か足りないって思わない?」
「丸子の脳みそ?」
川奈の容赦ない言葉が彼に突き刺さった。
青春を犠牲にして弟妹を養って来た為(作られた記憶にせよ)、失われた時間を求めて欲望がかけ流しになっているので、この状況に割り込まない訳にはいかなかった。
「丸子、やめときなよ。百合に挟まる男は昔から打ち首にされると相場が決まっているんだよ。古事記にもそう書かれているんだからさ~」
「いやいや。澄野は! 男だろ!! 今は、女子になっているけれど!」
男だろ!! の時点で止めておけばいいのに。余計なことを追加したので、コイツは自分のことを女として見ているんだと思うと、半歩下がってしまった。
「とりあえず。遠慮が足りないのは分かったから、じゃあ」
「ちげーよ! さっきから聞いてりゃムラムラだの。強(つよし)だの、姦しいだの! 自分達が置かれている状況に対して、危機感が足りねぇんだよ!」
なんで、二つを繋げて読める様にした? と、拓海が眉間に深い皺を刻んでいると、丸子がズカズカと歩み寄って来た。飴宮が前に出た。
「接近禁止だよ。今の丸子は、誠に誠な顔をしているからね! 清く正しいスクールデイズには相応しくないよ!」
「お前らは誤解しているんだ。俺はな、お前らが間違いを犯さない様にって心配しているんだよ」
犯しそうなやつが何か言っている。間違いを起こしまくった挙句が現状なのに、何一つとして信用できる要素が無かった。
いい加減、話すのが面倒臭くなって来たのか。川奈は拓海の腕を引いて自分の部屋に連れ込み、飴宮も飛び込んだところで扉を施錠した。
加えて、何かしらの装置を発動させたのか頑丈なシャッターが下りた。これで丸子が絡んで来ることは無いだろうと。拓海は胸を撫で下ろした。
「助かった……」
「じゃあ、澄野。これで私達の時間だね!」
「助かってなかった!!」
「百合乱暴の時間だね!」
飴宮が字面を取り繕っていたが、覆い隠せない程にバイオレンスな空気を醸し出していた。どの世界線でも関係が結ばれるのは運命力が強すぎる。
川奈だけじゃなくて、飴宮まで脱ぎ始めた。もはや、ここまでか。人を手籠めにしようとした罰を受けるのかと思いきや。シャッターが切り裂かれた。崩れ落ちた扉の先には学生兵器(クラスウェポン)を手にした蒼月がいた。
「よく考えたら、僕。拓海クンと一緒に我駆力を取っていたんだから、これを着て行けばよかったよ!」
「え? 嘘! ちょっと我駆力刀は」
如何に川奈でも、武装した相手には分が悪かったのか、簡単に沈められていた。元より徹夜で体力も激減していたこともあって、直ぐに気絶させられた。
「アレ? 表にいた丸子は?」
「気絶させておいたよ!」
「さす蒼」
飴宮が蒼月を褒め称えていた。結局、盛大に何も起きなかったし動くだけ動いて疲れたので、3人で蒼月の部屋に戻ることにした。