「拓海クン。恋愛のゴール地点は合体みたいに考えているかもしれないけれどね。こういう交流って言うのはRTAじゃないんだから、丁寧に積み重ねて行かないと。その過程にこそね。楽しみがあると思うんだ」
丸子と川奈を気絶させた後、3人は蒼月の部屋に戻っていた。
探索班が資源を持って帰って来るまで外に出られなかったので、延々と蒼月の恋愛観を聞かされていた。
「積み重ねって。具体的に何をするんだよ」
「……映画を見るとか?」
この学園の外がお出かけに向かないことは言うまでも無く、だとすれば2人で一緒の時間を過ごす手段は限られている。
大体は映画、アニメ、ゲーム、マンガ、プール、運動のどれかだ。非常に選択が乏しい。……置かれている状況的にしょうがないが。
「じゃあ、怠美。イルブリード」
「見ない」
「見た……」
「見ない」
拓海にしては珍しく相手の意見を押さえつけるような返事だった。映画で、ゲームで散々見せつけられて来た。もう見たくなかった。
それでも飴宮は諦めなかった。似た様な映画をリストアップしまくっていた。ラブロマンスや青春なんてクソ食らえ。感動や爽快感には中指を。羅列されたのは、目を覆いたくなるほどのオルタナティブだった。
「『せがれいじり・望郷編』『ゾンビ・リベンジ』『セガガガ』。……お前の魂はDCに囚われているのか?」
「えー。だって、感動とかラブロマンスって押しつけがましくない? 楽しみってのはね。自分で見つけ出す物なんだよ!」
魂からの一言だった。と言っても、彼女が見たいと言っていたイルブリードを却下した負い目もあったので、仕方なくラインナップから選ぶことにした。とりあえず、概要にサッと目を通した。
「『せがれいじり・望郷編』。せがれが帰って来た。……せがれって誰!?」
「しかも、望郷編って。明らかに、コレ。後日譚だよね」
蒼月も頭の上に『?』を浮かべていた。いきなり続編を見せられても訳が分からないので、『ゾンビ・リベンジ』の方を見た。如何にもB級感漂うタイトルだが。
「ウッド・オークシティに派遣されたAMSのエージェント『スティック・ブライトリング』と『リンダ・ロッタ』がゾンビ事件に立ち向かう。現地で合流した『内務庁特務調査課』所属の『毒島力也』と共に真相を追え。……なんか最後の毒島が世界観的に浮いているというか」
「凄いんだよ! 毒島! 毒島流の遣い手なんだよ!」
飴宮が興奮しながら語っていたが、何が凄いのか。拓海も蒼月もサッパリ同意できずにいた。で、最後のセガガガはと言うと。
「ライバルである『ドグマ』『ニムテム』『BN』社にシェアを取られまくった、業界に反旗を翻す! ソシャゲは皆殺しだ! ソフトポルノ連中をぶち殺せ! 社運を賭けた家庭用ゲーム機復権戦争! ……なぁ。コレ大丈夫なのか?」
「何も大丈夫じゃないから、一緒に見よう!」
「くっ! 飴宮の提案を一度押し込めている手前、断れない……!」
「なんで、そんな律儀なの?」
蒼月の疑問も他所に。結局、セガガガを見ることになった。
――
近未来において、ゲームはソシャゲとネトゲが占める様になっており、家庭用ゲーム機は死んでいた
主人公の『瀬賀 太郎』は生粋のゲーム坊やだった。生まれた時からセガサターンに触り、ドリームキャストと共に成長して、初恋の相手は『真宮寺さくら』だったし、尊敬する人は『桐生一馬』だった。そんな彼は何故か本社にいた。
「どういうことだ」
現在は龍が如くとアトラス関係のIPが強いため、本社のデザインも合わせられていた。壁には掛け軸や日本刀が掛けられているし、男はスーツで強面か滅茶苦茶おしゃれでイケている社員ばっかりだった。
女性社員もオシャレな者達ばかりで、賑やかだった。とても斜陽企業とは思えない華やかぶりに、瀬賀が首を傾げていると。歩み寄って来るツインテールの少女が1人。
「でも、今はギリギリ保っている状態なの。いずれ、私も皆も水着にならなきゃいけなくなるかも」
「ブルセラはやめろ」
どうやら堂島の龍を尊敬するあまり、瀬賀にはまともなコミュニケーション能力が身に着かなったらしい。ただ、ツインテールの少女はめげなかった。
「ソシャゲジャブジャブじゃない未来を見せる為! 黄金時代を取り戻す為! 私達と一緒に戦って!」
「何が言いてぇ」
通じているんだか、通じていないんだかというコミュニケーションをしながら、セガはシェア率を上げる為に立ち向かっていくのだが。時代故、厳しい難関ばかりが立ちはだかっていた。
「中々、上の方も新規のIPを作る気力が無くて。とりあえず、龍が如くかアトラス関係のスピンオフなら企画も通り易いのですが……」
「うるせェ!」
かつて、業界においては変わり種やネタを出しまくっていた本社も守りに入っていた。だが、こんな時代だからこそ瀬賀は攻めの姿勢に入っていた。
如くなどの大人のエンタメ路線を組みつつ、されど、集まった子供達でも楽しめるゲームを。ニムテムが誰にとっても栄養になる物を出すならば、自分達は精神的煙草やアルコールの類を!
「バカゲーはインディーズの専売特許だと思われているかもしれませんが、本家本元の火力。見せて上げましょう!」
「行くぞォ!」
新進気鋭の若人達に、かつての栄華を築いた職人気質の者達を集めて、過去と未来が入り混じった特異点が生み出されようとしていた。
配信映え、ゲーム体験、キャラデザ、そして。映画的カメラワークス等、自社が持つ技術と積み重ねを惜しみなく注ぎ込んだ怪作を世に送り出す。
「大人のお子様ランチですよ! そう『Crayzy Games with ILLBLEED』!!」
――
「なんで、関係ないタイトルからこのルートに入るんだよ!?」
拓海は思わず叫んでしまった。序盤から脳が受け付けるのを拒否する内容だったが、ここに来て見たことのあるタイトルと内容が出て来て、強制的に脳内に情報を叩きこまれていた。
「イヤァ。奇跡の復活劇だったよね」
「終わったら教えてね」
飴宮が目尻に涙を溜めている横で、蒼月は興味を失ったのか読書に入っていた。拓海的にもそうしたい気持ちはあったが、既に結構な時間を使ってしまったので最終的にどうなるかまで見ないと損した気分になる。
「こうなったら最後まで見てやる」
「やっぱり、拓海を。最高だね!」
「コンコルド効果」
きっと、この先の顛末を見ても費やした時間に報いるだけの感動は無いのだろうが、意味がないことをしてもいい。ということを教えてくれるのが、この映画なのかもしれない。
拓海と飴宮が画面を食い入るように見つめている中、蒼月は耳栓をして読書をしていた。
――
【好き好き】TL。一同とヴェシネスを乗せたスクールバスは最終防衛学園に向かっていたのだが、車中の空気は最悪だった。
「今頃、スミノはお前達の様な輩に食い散らかされているのだろう。イヴァー、お前がいながら、この始末はどういうことだ」
「返す言葉も無いよ」
ネチネチネチネチネチネチと口撃が延々と続いていた。
よくも、こんなに小言が尽きない物だと感心さえ覚えたが、少しでも期限を損ねれば何をして来るか分かったモンじゃない。
「それで。サイワイの箱で通路を開いた後は、向こうの連中を皆殺しにて奪還する。ということで良いな?」
ヴェシネスの提案は正に最短ルートと言っても良いのだが、これには霧藤が反対した。
「駄目だよ! TLが違っても特防隊の皆なんだから!」
「私に命令するな。忘れているようだが、私はお前達の敵だ。スミノに生かされていることを自覚しろ」
剥き出しの敵意をぶつけられ、霧藤も押し黙る外無かった。助けを求める様にチラリとイヴァーの方を見た。
「イヴァーは違う、よね?」
「……希。私もね、特防隊は悪い子ばかりじゃないと思っている。でもね、それと拓海を誘拐したのは別だからね?」
普段、怒らない人間が静かに怒るときほど怖い物は無い。
イヴァーは現場にもいたのだ。出し抜かれたこと、目の前で想い人を連れていかれたこと。部隊長として、個人として両面から傷付けられた怒りは、霧藤の見えない所で静かに燃え滾っていた。
「向こうの怠美達がどれだけ強いのか次第で、本当に戦争みたいになるかもね」
飴宮がポツリと呟いていた。現状、お互いが手加減する理由が無いのだが、それでも霧藤としては暗澹たる気持ちを抱かざるを得なかった。