最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編/修羅場TL】50日目

『セガガガ』は刺激的な始まりではあったが、最終的にソシャゲやネトゲも新時代のゲームの形である。という、あまりに無難にまとめて来たので、拓海も蒼月も眉間に皺を寄せていた。飴宮は滅茶苦茶満足そうだった。

 

「ここまで来て、無難路線に逃げる所から『圧』が感じられる。ここまで含めて、一作品なんだよね」

「楽しみ方が特殊過ぎる」

「うーん。本当に美辞麗句を言いたいのか、この結末すら皮肉る作風なのか判断し辛い所だね」

 

 映画の感想を語りながら、夕食に食べたバーガーの包み紙やらスナック菓子の袋やらを捨てている間に、時計の短針が12時を指していた。

 

「……これで50日目か」

 

 まさか、別のTLで折り返し地点を迎えるとは思ってもいなかった。

 現状、1周目とは違って穏やかな時間が流れている。このTLに限っては銀崎が死んでいるそうだが、他に犠牲者はいない。

 

「もうさ。残り50日もこっちで一緒に過ごそうよ。もしも、部隊長達がせめて来たりしてもなんとか出来るし」

 

 飴宮が拓海にもたれ掛かりながら言った。彼女が身に宿している『ノモケバ』がどれほどの物かは分からないが、何とかしてくれそうな雰囲気はある。

 

「僕からもお願いだよ。こちらに居て欲しい」

 

 蒼月からも頼まれた。彼らが好意を寄せているのは自分なのか。それとも『澄野 拓海』という存在に対してなのか。どちらにせよ、答えは決まっている。

 

「悪い。オレが帰る所は決まっているんだ」

 

 これまでの50日を思い出していた。

 戻って来たばかりなのに、厄師寺、飴宮、霧藤以外は異様に呑み込みが早かったこと。蒼月がキモかったこと。皆と交流タイムを設けられたこと。

 速攻でヴェシネスに攫われて、イヴァーも合流しても大人の階段を上ったこと。学園に戻った後、皆が更にベタベタして来たこと。

 今馬を最初として、性別とかの垣根を超えて関係を持ったこと。霧藤が攫われたこと。皆を動かす為に川奈にゲロチューをされて、蒼月に手を出され。

 

「ロクな思い出がねェ……」

「拓海クン?」

「なんか嫌な思い出が?」

 

 急に拓海が泣き出したので、蒼月と飴宮も困惑していた。たったの50日とは思えない位にぎっしりと詰まって……いや、爛れていた。

 

「でも、楽しいことも沢山あったから」

「例えば?」

 

 蒼月に言われて、楽しいことを思い出していた。皆で一緒に映画を見たことだろうか。イルブリードをプレイしたことだろうか? 凶鳥や皆と一緒に漫画を読んだことだろうか? それとも霧藤と他愛のないことを話したことだろうか?

 そのどれもが嘘ではない。楽しかったのは本当だ。だが、自身に対する問い方を変えてみよう。帰ったら、やりたいことは?

 

「拓海クン?」

「は!?」

 

 余程、だらしない顔をしていたらしい。垂れていた涎を拭って、頭をブンブンと振った。

 

「そっちのTLの風紀死んでそう」

「アイツは死んだ! もういない!」

 

 【好き好き】TLで気にするのも無駄なことだし、こっちのTLでも危うい気はしている。蒼月と飴宮は比較的理性を保っている様に見えるが、他のメンバーは攻撃的な部分を除いて向こうのTLと大して変わりない気がする。

 

「そっか。やっぱり、帰るつもりなんだね」

「コッソリいなくなるって真似はしないよ。帰るときはちゃんと言って行くからさ」

「拘束されるとか考えないの?」

 

 蒼月が呆れながら言ったが、拓海は首を横に振った。TLが違うからと言って不誠実な真似をするつもりは無いし、第一。

 

「オレが向こうに帰れる事態になったら、確実に向こうから特防隊メンバーがやって来るからさ」

「その時、怠美達。全員殺されるかもね!」

 

 飴宮が笑いながら言っていたが、笑いことではない。

 以前、自分がヴェシネス達に攫われた時は基地にまで殴り込みに来て、侵攻生物を皆殺しにして行ったのだ。それ位はやる。

 

「頼むから、特防隊メンバーで殺し合いとかは勘弁してくれ……」

 

 拓海が腹の底から捻りだす様にして言った。あまりに切実な願いだったが、当事者達が現在どうしているかと言うと。

 

――

 

 【好き好き】TL。同じく0時ごろ、吶喊で作業を完了させた川奈の手には、なんだかそれっぽい開発品が握られていた。

 

「【TS】のBS波の波長に合わせる装置は出来たけど、PL出来る時間は短いからサクッと済ませるよ」

 

 1日も経たずに完成させられる位には川奈の集中力もガンギマリになっていた。他のメンバーも同じ様に目が据わっている。

 彼らの行動は迅速だった。スクールバスも帰って来ない間に、例のラボへと突撃して装置を起動させた。BS波が弄られ、本来ならあり得ないPLが可能となっていた。

 

「比留子殿。確認しておきたいのでござるが、本当に【TS】に【修羅場】TLの澄野殿はいるのでござるか?」

「いるはずよ。まず、私達は学園の外では生きていけないし、基本的に他TLの自分達は受け入れ難い物よ。理由は分かるでしょ?」

 

 ここには厄師寺や霧藤の様な他TL未経験の者達がいない為、雫原の言うことは分かった。

 自分達と同じ姿をしているということは部隊長の『ゼンタ』が変装している可能性もあれば、寄生生物『ギィ』に乗っ取られている場合もあるし、『ノモケバ』による複製品の可能性もある。

 

「仮に【修羅場】澄野が【TS】の奴らに事情を説明した所で受け入れて貰えるとは思い難いし、普通は返されるんじゃね?」

 

 丸子も言う通り、事情を説明したらしたで受け入れるメリットが無い。誰がそんな爆弾を受け入れるか。もしも、受け入れるとしたら。

 

「【TS】の連中を脅した。とかね」

 

 大鈴木の意見は可能性としてあり得る物だ。受け入れられないから放逐されると言っても、ラボを使える時点で幾らでも脅しの材料は用意できる。

 まず、あの施設には大量の消火器がある。それだけでも炎の壁を突破できる手段を潤沢に供給できるということだし、あのPLの使い方諸々を部隊長達に説明すれば、【TS】TLだけの話に留まらない。

 

「あるいは。それも含めて、向こうの澄野君に同情した面もあったのかもしれないね」

 

 と、面影が付け加えた。幾ら、理屈の上では受け入れ難い理由はあっても、絆されるのが人だ。しかも、全く知らない相手ではない。

 

「だとしても、そのツケを私達が払わされる謂れは無い。それじゃあ、とっちめに行きましょうか」

 

 PLスーツを着込んで【TS】TLに跳んだ。移動したことを確認すると、直ぐにPLスーツを脱いだ後、川奈が出現させた学生兵器(クラスウェポン)に箱乗りになりながら、最終防衛学園を目指した。

 時間が限られていることもあって、相手側の事情も考えないで深夜に乗り込んだ。彼らを迎えたのは、SIREIだった。

 

「こ、こんな遅くに何の用!?」

「【修羅場】TLの澄野を出しなさい。ちなみに私達を爆破しようとしても無駄よ。中の爆弾は取ってあるから」

 

 雫原の有無を言わさない物言いに、SIREIは言葉を詰まらせていた。

 

「いや。本官的には渡しても良いんだけど、意外と特防隊メンバーの仲が良くてね。糾弾されたら、今後がやり難くなるし。そこは汲み取って貰えたら……」

「じゃないと、私達が今から暴れる」

 

 全員が学生兵器(クラスウェポン)を展開した。ここまで強硬手段に出るとは思っていなかったのか、SIREIも両手を上げていた。

 

「ま、待って! 本当のことを言うと無理なんだ! 不可能なんだ! 【修羅場】TLの拓海クンがどうなっているか見せて上げるから!」

 

 観念したのか、SIREIが一同を校舎に招き入れた。案内されたのは中庭だ。部屋の中央には捕虜を収監する檻があり、その中に彼はいた。

 ベッドで上体を起こしている。喚いたり、パニックになったりしていることも無い。静かな物だ。だからこそ、全員が察した。

 

「壊れている」

 

 雫原が檻に近付いた。……何も反応がない。胡乱な瞳は彼女を見ているのかどうかさえ分からない。

 

「心神喪失状態だね。なるほど、皆が庇う訳だ」

 

 面影からも言われる位なのだから相当に重症なのだろう。だとしたら、新たな疑問が生じる。

 

「この拓海クンが自力でここまでやって来られると思えない。SIREI。一体、誰が彼を運んで来たの?」

「イヴァークンだよ。彼女が彼をここに連れて来たんだ。今はもう、このTLに居ないけれどね」

 

 雫原は思い出していた。【修羅場】TLの雫原が来た日、同TLに帰還した記録があったことを。アレはイヴァーが帰還する際に使ったのだと。

 

「庇う理由があるのは分かったわ。それじゃあ、どうして私の澄野を巻き込んだの?」

 

 サラリと所有権を主張した雫原に対して、川奈が怪訝な視線を向けていたが、質問に答えたのはSIREIでは無かった。

 

「【修羅場】TLの特防隊メンバーを守る為。って言ったら、納得して貰えるかな?」

 

 このTLの拓海だった。隣には、厄師寺と飴宮の姿もあった。

 3人の顔が悲壮な色に染まっていた所を見るに、苦渋の決断であったことは察せられるが、この場に集まったメンバーを納得させられるかどうかはまた別だった。

 

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