「ただでさえ、情緒不安定な連中から澄野と言う支柱が取り払われたら、いよいよ崩壊は避けられない。そこで、私達の澄野を持って行った。という所かしら?」
雫原の回答に【TS】拓海は『流石、雫原だ』と返した。
当然、他の面々が納得する訳も無いが、相手が拓海ならば手を挙げる訳にはいかない。故に、丸子は彼(女)の傍らにいた厄師寺に突っ掛かっていた。
「ふざけんなよ!! なんで、俺らの澄野が他所のTLの面倒見なきゃいけねーんだよ!」
続いて何かを言おうとしたが飲み込んだ。だが、続く言葉は皆も分かっていたハズだ。『そう言うことなら、お前達の所から行けよ』と。
ただ、それを言わなかったのは丸子も拓海と言う存在の重さを理解している故だった。それ以上は吐く言葉も思い浮かばなかったのか、厄師寺を掴んでいる手を離した。
「皆は【修羅場】TLの記憶。あるよね?」
飴宮からの問いかけに、皆が視線を彷徨わせていた。
自分達がいる【好き好き】TLが上手く行っているのは、アレでも特防隊メンバーが我慢したり、加減したりと踏み止まっている所が大きい。
では、どうやって力加減を覚えたか? と言えば、周回の中で積み重ねて来た経験の賜物だ。が、全てが上手く行っていた訳が無い。
「もしかしたら、皆は【修羅場】TLでも上手く行ったかもしれないけれど、上手く行かなかったパターンもあるんだよ」
TLの結末は1つではない。例えば、多くの者が経験している【ハント】TLも生き残りで100日目を迎える結末もあれば、全員がヴェシネス達と相打ちになる結末だってある。
檻の中にいる廃人と化した拓海も、数ある【修羅場】TLであり得た結末の一つだろう。そして、概ねの者は理由を察していた。
「君達のことだから本官の本性は知っているだろうが、それでも言わせて貰うよ。彼をこれ以上苦しめないでやってくれ」
SIREIが帽子を脱いで頭を下げていた。
自分達も、ここにいる【修羅場】拓海を苦しめる気はないにしても、依然としてデカい問題は残っている。
「いよいよ、向こうにいる僕達を皆殺しにする位しか奪還方法が無くなって来たね。ましてや、別TLとは言え拓海クンを壊した奴らだし」
蒼月から殺意が滲み出ていた。
もしも、向こうで逃げ出した拓海を捕まえて戻せばいいという話だったら穏当に終わっていたかもしれないが。【TS】拓海が慌てていた。
「頼む。それはやめてくれ。特防隊メンバー同士が殺し合うだなんて」
「【修羅場】TLのメンバーが壊れるのも嫌だ。私達が皆殺しにして奪還するのも嫌だ。その割には、自分は出向かないだなんて虫が良過ぎると思わない?」
今まで、拓海が相手となれば一歩引いていた特防隊メンバーだったが、先の発言は雫原としても許容できる物では無かった。
「それに。自分達が壊したなら、自分達で責任を取るべきだとは思うけどね。壊れた拓海クンを見せてさ。自らの罪を顧みるべきだと思うよ」
蒼月も吐き捨てる様に言った。人を壊した挙句、責任も取らずに現実逃避をしている。というのも気に食わないのだろう。
散々に口撃を受けているが、一切の反論をしないのは3人とも自身の罪を認めているが為だろう。面影が溜息をついた。
「SIREI。『ドルメン式断層認知再構築療法』は試した?」
「勿論だとも。効果は見ての通りだ」
「やっぱりか。元が壊れてしまっているんだから」
自分達が考え付く程度のことは既に行われていた。これ以上、押し問答しても仕方が無いと判断したのか、雫原が手を差し出した。
「あの拓海が入っている檻を開ける鍵を出しなさい」
「連れて行くのか?」
「これから【修羅場】TLの連中と関わる私達が保護しておくのが道理でしょう。これでも、無理してPLして来ているんだから。さっさと寄こしなさい」
【TS】拓海から渡された鍵を使って、檻を開けた。ベッドから拓海を担ぎ上げた時、直ぐに違いに気付いた。SIREIを見た。
「内臓が弱っていて、あまり食べさせられていないんだ」
「食べない訳じゃないのね?」
「粥や消化の良いものなら」
そっと拓海の顔を撫でた。肌はカサカサで血色も良くはない。診療などは面影に任せるとして、彼を担ぎ上げた。
「比留子サマ! 怠美達が言えたことじゃないけれど。拓海のこと! お願い!」
「俺からも言えた義理じゃねぇけれどよ。澄野のこと! 頼む!」」
縋る様な声だった。思うことはある。自分達の拓海を代わりに差し出したことは業腹であったが、雫原は声を絞り出した。
「どんな形でも。澄野を守ってくれたことだけは礼を言うわ。ありがとう」
「雫原さん! PL限界時間が迫って来ている! 早く!」
【修羅場】拓海を抱えて、一同は学園から去っていく。彼らを見送る【TS】拓海はずっと頭を下げていた。
~~
「ふわぁああ……」
【修羅場】TLの翌朝のことである。拓海は蒼月の部屋で目を覚ましていた。
自分以外の2人はまだ寝ているので起こさない様にして、シャワールームに入った。ドアノブにパーカーを引っ掛けたので、間違って入って来ることは無いだろう。……寝ぼけて入って来る不安はあったが。
「(やっぱり、女の体になっているんだよな)」
3日程経ったが、まだ慣れていない。毛髪の量もかなり増えているし、身体も華奢になったので以前の様に乱暴に扱う訳にはいかない。……と、相違は色々とあるにしても、やはり気になるのが股の所である。
「(あまり考えないでおこう)」
別にやましいことがあるわけでは無い。医学的な知識などは無いにしても、女性特有の症状や状態というのは、拓海には分からない。
「お邪魔するわよ~」
「うぉわおぁ!?」
案の定というべきか、ドアノブにパーカーを引っ掛けていたにも関わらず、飴宮が乱入して来た。彼女の裸体を見るのは、これが初めてじゃないだろうか? 予想はしていたが、かなり痩せていた。
「あ。この体、気になった?怠美ねー。あんまり太れないんだよね」
「あ、いや。無理に痩せたりしているとか。そう言うのじゃないなら良いんだ。……いや、なんで入って来ているの!?」
一瞬、冷静になり掛けたが、なんでシャワールームに入って来ているんだろうか。身体状は同性だとしても、中身は男なのだから気を遣って欲しいというのが、拓海の本音だった。
「いや、ちょっと気になってね」
むにむにと脇腹を摘まれた。言われてみたら、元居たTLではロクに運動もせずに、飯を食ってダラダラするか振り回されるかだったので贅肉を蓄えまくっていても、不思議ではない。
「あんまり掴まないでくれ。恥ずかしい」
「いやいや。幸せ太りで良いことだよ。朝からパフェ行っちゃう?」
「まず、シャワールームから遠慮してくれると嬉しいかな……」
「アレ? 意外と初心? 昨日は衛人をひん剥こうとしていたのに?」
確かに。昨日は銀崎めいて野獣と化していたが、そう言うことではなくて。何と言うか……。
「飴宮の裸を見るのは、初めてだったから……」
暫く沈黙が走り、飴宮は静かに部屋を後にしていた。何とも言えない気まずい悶々を抱えたまま、拓海は手早くシャワーを浴びた。
――
寝ている蒼月を置いて、飴宮も自室に戻ったので、今日はどう過ごそうかと部屋に戻ってから考えようとした時のことである。ガシっと腕を掴まれた。
「澄野先輩。お勤め、ご苦労様です!」
自分の腕を掴みながらサムズアップしている今馬の傍には過子の姿もあった。そう言えば、面影に気絶させられてからは会っていなかった。
「2人共無事だったのか。ごめん、見に行くことも出来ず」
「心配して貰えるだけでも嬉しいな。この数日間、バカみたいなノリに付き合わされて疲れたでしょ? 今日は私達と一緒に過ごそうよ」
「そうそう! 妹ちゃんに自分も付いて来てお得っすよ!」
兄妹の労りがスーッと染みた。それに、実で言うと。先程のシャワールームの一件から悶々を抱えたままだった。
つまり、自分は正に今! 今馬に如何わしい視線を向けている訳で。彼もなれているのか、直ぐに察したのか。耳打ちして来た。
「先輩。もしかして、そう言うのに興味あります?」
「……ある」
飴宮への対応とはえろい違い。いや、えらい違いである。
朝から真っピンクな空気が形成されようとした時、2人の前にカランと何かが転がった。瞬間、目を覆う程の光と耳を劈く爆音。
「――!!」
何も見えない、聞こえない。でも、誰かに腕を引かれている感覚はあった。この感触を拓海は知っている。外から室内に移動した辺りで少しずつ回復して来たが、既に扉は施錠されていた。内装にも見覚えはある、自分を連れて来た人間が誰かは直ぐに分かった。
「川奈。お前……」
「もう、澄野。欲求不満なら言ってよ! 大丈夫! 同性の体のことは同性が一番よく分かっているんだから!」
昨日に引き続き、まるで反省も何も無い。扉の外がガンガンと攻撃されているが、びくともしていなかった。
「昨日のことで反省してね。異血に関する物の絶縁体を使っているから、幾らシャッターを攻撃しても無意味だし」
「己の行いを反省しろよ!!」
「言い返して来る澄野も可愛いね!」
ゾッとした。会話が通じていない! このまま襲われるのかと思ったが、拓海の切り替えはあまりに早かった。
ムーヴが野獣めいていても川奈が美少女なのは変わりない事実である為、覆い被さられたら谷間が見えるので、ガン見していた。
「おお」
同性だし? 向こうから誘ってきているし? ちょっと位はと。先程までの戦々恐々としていた様子は何処にか。拓海の手が川奈の胸に伸びた。
「大胆……」
つい、5日前に揉んだばかりの胸は変わらずあった。自分がいたTLの川奈にバレた瞬間ブチギレられそうだが、今は非常事態なので仕方がない。
据え膳食わぬはナントヤラ。してやられっぱなしなのも癪なので、ここいらで一つ。自分の強さを知って貰おうとした所でギュイイイイイイン! というエンジン音が聞こえて、シャッターを貫通して来る丸刃が見えた。
「ギャー!!」
拓海と川奈は互いに抱き合って、ビビり散らかしていた。その間もお互いの手は、お互いの胸にやられていたとか。