最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編/修羅場TL】50日目 その4

 【好き好き】TL。昼頃には作戦内容も概ね固まったということで、特防隊メンバーとヴェシネスが食堂で昼食を取っていたのだが、皆が言葉を失う中。イヴァーが小声で言った。

 

「お姉ちゃん。ちょっと食い過ぎじゃ」

「普段は粗食で済ませてやっているからな。偉大なる私には見合うだけの供物が必要なんだ」

 

 驚くべきはヴェシネスの食事量。次々と平らげては銀崎が皿を下げている。あまりの大食漢ぶりに凶鳥も驚いていた。

 

「強者が繰り広げる光景は何処でも同じということでござるな」

「むしろ、アタイ的には粗食で動いてあのスペックだったことに戦慄しているんだけれど……」

 

 プロレスラーである喪白には分かるのだが、身体を動かす上で食事と言うのは非常に大切な物である。食い過ぎもコンディションを落とす要因ではあるが、足りないというのも問題だ。

 特防隊メンバーを一蹴する程の強者がフルスペックで動いていなかったというのが、驚愕の事実だった。

 

「イヴァー。普段、ヴェシネスさんって何食べているの?」

「私達と同じだよ。将たる者、示しは付けねばならないって。良かったら、私達が普段食べていたメニュー。見てみる?」

 

 イヴァーが全自動調理マシーンを使って再現メニューを見せてくれた。

 カチカチのパン。何かしらの具が浮かぶ薄味のスープ。根菜らしき物。水。これだけの飯で戦えと言うのは無理がある。霧藤も驚いていた。

 

「今まで、これだけで?」

「だって。人類側がフトゥールムの食糧をゴッソリと焼き払ったり、奪ったりしていったから。×肉ならあるけれど」

 

 人類側の兵器が部隊長には効かないにしても、民草や食料は違う。

 その方面で攻撃していたのだろうが、結局。特防隊メンバーを使うしかなかったのだから、英雄と呼ばれた存在達がどれだけ規格外か。

 

「硬っ」

「あ、希。そのまま食べちゃ駄目よ。スープに浸して、柔らかくしてから食べて」

 

 試しに霧藤がパンを口に運んでみたが、文字通り歯が立たなかった。

 イヴァーに言われた通り、スープに浸してから口に運んだが、美味しくはない。胃に流し込む作業だ。

 

「なるほど。だから、あんなに食べているんだ」

 

 ヴェシネス。最終防衛学園を落とさんとする部隊長達の総大将と言える存在で、イヴァーの姉でもあり。恐らく、フトゥールム最強の戦士。

 ……なのだが。どういう訳か、拓海に異様に入れ込んでいる。加えて、この食事模様を見ていると、彼女もまた1人の人間なのではないか? という、極当たり前の考えが浮かんで来た。

 

「(ヴェシネスさんって。どんな人なんだろう?)」

 

 尊大。傲岸不遜。プライドが人の形をして歩いている様な存在だし、話し掛ける機会すらなかったが、今は何の巡り合わせか。学園に来ている。彼女とコミュニケーションを取れる滅多にない機会だ。

 

「イヴァー。ヴェシネスさんと話してみたいんだけれど。一緒に来てくれる?」

「あんまり刺激はしないでね?」

 

 実妹としても引き留めたくなる半面、新しい理解者が出来るかもしれないという期待から、霧藤と一緒にヴェシネスの隣に座った。

 

「なんだ。私に何か用か?」

「えっと、その。ヴェシネスさんと話がしてみたくて」

「私から話すことは無い」

 

 取り付く島もない。だが、霧藤はこんなことで諦めるような女じゃなかった。自分と彼女を繋ぐ点と言えば。

 

「どうして、たっくんを好きになったのかなぁって」

 

 ぴたりと食事の手を止めた。これは霧藤としても知りたい話だった。

 特防隊メンバーが周回しているのは散々に聞いたが、同様に部隊長であるヴェシネス達も周回しているとして。彼女らの体験については本当に聞く機会が無かった。どうやって拓海達と知り合ったかも。

 

「アイツは面白い男だった。ちゃんと会話をしたのは貴様らが【ヴェシネス】TLと呼ぶ周回が始めてだったか」

 

 霧藤も聞いた覚えがある。なんでも、ヴェシネスによって最終防衛学園が制圧されるという、順当にあり得たかもしれない未来の話だ。

 特防隊メンバーは捉えられ、拓海はヴェシネスの管理下に置かれて会話している内に興味を持ったらしい。

 

「『ヴェシネス』として興味を持たれたのは久しぶりだった。誰もが『大将軍』の私にしか興味が無かったからな。もう少し、話を聞いてみたいと思った」

「チュラームタミーさんは?」

「アイツが私個人に興味がある訳がないだろう。よく働きはするがな」

 

 イヴァーが何とも言えない表情をしていた。誤解なのかそうでないのか判断に困るが、切り捨てるのは可哀想と言いたげだ。

 

「でも、興味を持っただけで。今みたいに執着する程では無かったんですよね?」

「切っ掛けがあれば十分だ。後は何度でも会えば良い。後は、イヴァーも含めて3人で過ごす終わりもあったな」

 

 イヴァーが目を逸らしていた。そんな彼女を見て、霧藤はチベットスナギツネみたいな顔になっていた。保護者が見せる『女』の面は中々に見苦しい。

 

「なんか、こう決定的な瞬間とかは」

「……あれは将軍府が落ち、ヌガンクを除く部隊長が謀反し、貴様らに追われていた時だ。奴は『オレはお前が守る』等と言ってな。私よりも弱いくせにな」

 

 ヴェシネスは珍しく機嫌をよくしていたが、霧藤とイヴァーからジトッとした視線を受けていたが、本人はどこ吹く風だった。

 

「貴様らは所詮、環境が許しただけの恋慕に過ぎん。私とスミノの仲は全てを超えた先にあるのでな。貴様らとは違うんだよ。――だから、スミノを壊して、攫った連中は許さんが」

 

 一転。誇らしげに語る恋慕と同僚の殺意と敵意が放たれたので、霧藤は腰を抜かしてしまった。

 

「それなら、他の皆とも交流の機会は」

「ある訳ないだろう。周回が重なるごとに連中との確執は深くなるというのに」

 

 拓海だけが特別であって、それ以外は『その他』という括りでしかないらしい。しかし、特防隊メンバーだけではなくイヴァーを含む部隊長まで歯牙に掛けるとは。と思って、さらに気になったことがあった。

 

「ふと思ったんですけれど。たっくんって、ヴェシネスさんやイヴァー以外の部隊長とも。ひょっとして」

 

 自分の名が呼ばれたイヴァーはそっと目を逸らしていた。ムヴヴムやクェンゼーレを捕縛していた時にも聞いていたが、この調子なら部隊長もまさかと思ったが。

 

「私が知るTLを思い出す限り、スミノが手を付けていない部隊長はいなかったはずだが」

「たっくん……?」

 

 もはや無差別級過ぎる。女だけでも許容し難いが、同性まで手を出しているのは無法が過ぎる。自分が知っている、拓海と言う男子はちょっとネガティブで後ろ向きだが、真摯で真面目な少年だったはずで。

 

「ただ、パクロンやゼンタが記憶を引き継いでいないのは幸いだった。アイツらが記憶を引き継ぐと碌なことにならん」

「具体的には?」

 

 もはや、ヴェシネスの興味よりも部隊長のゴシップの方に関心が割かれた霧藤は食い気味に聞いていた。

 

「パクロンが思い出すとアダムキューと修羅場になるし、ゼンタが思い出すと速攻で部隊長を裏切って、そっちに『柏宮カルア』として向かう。あの潔さだけは、正直感心していた。ちなみに私以外全員思い出して、一斉に謀反されるTLもあった。本当にクソだった」

「それはその。何と言うか、お気の毒です」

 

 そこまで行くとハーレム系とかではなく、妲己とか傾国方面の何かだと思うが、気になることがあった。

 

「(じゃあ、たっくんの気持ちはどうなるんだろう?)」

 

 例えば、本命は別にいて。でも、皆からの好意も無碍に出来ない場合。良い顔をするしか無くて、自分の気持ちに嘘をつき続けて。

 それは、とても心苦しいことじゃないだろうか? 優柔不断と言えば、それまでだが。我慢せざるを得ない状況にも追い込まれやすいのが、この環境だ。

 

「(ひょっとして。【修羅場】TLのたっくんって)」

 

 今は、中庭で静かにしている彼も我慢して、我慢し続けて。ああなってしまったのかもしれない。今となって聞くことは出来ないが、彼の本当の気持ちを聞いてみたいと。霧藤は考えると同時に。

 

「(たっくん。そっちで、上手くやれているかな?)」

 

 皆から大量の好意を浴びせられて、大変なことになっていないだろうか。苦しんでいないだろうかと、考えていた。

 

~~

 

「なんで、接収したプロジェクターを引っ張り出して来てんのよ!!」

「うるせェ! 大鈴木はイルブリーダーなんだ! オレがそう決めた! お前が1作見るごとに、オレはこの服を脱いでいく!! 見ろ!!」

 

 大鈴木とべたべたすることにも飽きたのか、拓海は彼女に挑戦を叩きつけていた。極当たり前のことだが、イルブリードなんてクソ映画を見たがる狂人は滅多にいない物で、このTLにおける彼女の趣味は真っ当であった。イカレているのが拓海の方だったというだけの話である。

 

「そんなモン何作も見る訳無いでしょ!」

「分かった! じゃあ、1を見ろ! 幾つか別れたシーンの内。アトラクションを1つクリアするごとにオレが脱ぐ!」

「くっ!!」

 

 それで交渉の卓に着いちゃっているんだから、大鈴木財閥の後継ぎとしてはお先真っ暗と言わざるを得ない。だが、こういった時に相手の策謀を食らうが如き剛毅さを見せるのもまた必要なことだろう。

 

「良いじゃない。やってやるわ!! ホラーなんだから、ちょっと抱き着いたりしても問題ないでしょうね!!」

「勿論だ!! それじゃあ、今からプレゼントマシーンでポップコーンとコーラを持って来て。やるぞ!!」

 

 もはや、この部屋にいる者達の中で正気を保っている奴は誰も居なかったが、かくしてベタベタ甘々な時間は、拓海のイカレた提案のせいでグログロ辛々な時間に変貌しようとしていた。

 

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