最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編/修羅場TL】51日目

 目を覚ました時。拓海は自分がパンツ一枚しか履いてないことに気付き、暫く困惑した。一体、昨晩に何があったのかとシャワーを浴びながら思い返す。

 自分の強引な交渉により、怖がりな大鈴木をイルブリード上映会に巻き込んだことには成功した。その時、彼女はビビりながらもやや浮かれた笑みを浮かべていたのを覚えている。ホラーだから抱き着いたりしても良いだろうと。

 

「キャーッ!」

 

 最初は黄色い悲鳴を上げていたが、徐々にグロさと理不尽さが跳ね上がり

 『キャーッ!』から『ギャーッ!!!』になり始めた。普通なら恐怖のあまり、ここでリタイアすることだろう。

 だが、大鈴木はスケベ娘だった。イルブリードの大トロとも言える材木人間の視聴を始めた時点で、拓海は大胆にもパーカーと上着を脱いでいた。

 色気もへったくれも無いブラを付けていたが、目の前には素肌を晒している彼(女)がいたのだから、引くに引けなくなっていた。

 

『あぷぷーぷりぷりー』

 

 映像では主人公の同級生が脳みそと尊厳を奪われ、悍ましい材木人間と化していたが、拓海は既に履修済みだったので笑いを堪えるので精一杯だった。

 一方、大鈴木は尊厳を奪われた人間の末路として受け取っていた為、この上ないホラーとして機能していた。きっと、この映画の製作に尽力したスタッフ達は地獄の底で喜んでいることだろう。

 

「(そして、大鈴木は見事ラストまで耐え抜いた)」

 

 3章で拓海が上半身ブラだけになっていたのは大鈴木を釘付けにする為だった。ここまで来たら、もう少し頑張るだけで剝けるんだぞと。

 コンコルド効果を巧みに使い、大鈴木を最終話まで釘付けにした後『よく頑張ったな』と添い寝して、今朝を迎えた訳だ。シャワーを浴びた後、大鈴木の顔を覗き込んでみた。

 

「あぁ! ジミー!!」

 

 穏やかな寝顔とは程遠く、恐らく夢の中でイルブリードに入園してしまった彼女の不幸に同情しつつ、されど実行犯としての罪悪感は他所に置いといた。

 ベッドの傍に脱ぎ散らかした物を着て、食堂に向かおうと扉を開けた瞬間のことである。鼻息を荒くして、目を血走らせている凶鳥の姿があった。

 

「拙者。昨晩から壁にコップを当てて、澄野殿達の盛んな様子を聞いて夜も眠れずにいた……」

「何もねぇよ。映画見ていただけだよ」

「たかが、映画であんなに悲鳴と嬌声が上がる訳がないでござる!」

 

 悲鳴は兎も角、嬌声とは何のことかと思ったが、恐らく映画に出演していた可哀想な主演女優の妙に艶めかしい悲鳴のことか。あるいは大鈴木が恐怖よりも別の物が勝った時に発していたのか。

 

「でも、凶鳥待って欲しい。お前は『無限列車編』とか『猗窩座再来』の話を見て、歓声を上げずに居られるか?」

「ぐっ!! 拙者の好みを突くとは……」

 

 最も。そんな怪物じみた興行収入を持つ名作からはかけ離れた迷作を見ていたので、詳細を明かした瞬間。比較対象に持ち出されたことにブチぎれ、もれなく『特防隊やめろォ』と言われることは必須であった。

 

「そう言うことだ。オレ達は映画を見ただけで何も無かった。良いね?」

「じゃあ、今日は拙者と鬼滅を1話目から全話履修大会でござるな」

「今日も予定が詰まっているので失礼する」

 

 今日のスケジュールは1日真っ白であるが、凶鳥に付き合っていたら1日が全て潰れることは確実だ。何より、そんな名作を見たらクソ映画耐性が著しく下がってしまう。だが、凶鳥は諦めなかった。

 

「くらら殿だけずるいでござる! 知っているのでござるよ! 最近、澄野殿が皆にベッタリしているって!!」

「オレはオレが過ごしたい様に過ごすんだ。今日も一日やりたいように……」

 

 と、2人の口論がヒートアップしようとした所だった。ふらりと大鈴木の部屋前に姿を現した人物がいた。川奈だ。手には我駆力刀。凶鳥が鯉口を切ろうとして、拓海が速攻で組み付いた。

 

「澄野!! 離して!! 私は私の仇を討つ!!」

「学生兵器(クラスウェポン)はやりすぎだって!! 落ち着けって!」

 

 フリとかじゃなくて、ガチでやる気配を感じたので拓海も必死に止めた。凶鳥も刀を構えている。

 

「よし。澄野殿、拙者がここで切り捨てる故。抑えていて欲しいでござる」

「お前も止めろ!!」

 

 騒ぎを起こす奴も〇すつもりであるらしい。もはや、この特防隊にとっての敵は特防隊しかいないのか。とりあえず、川奈と凶鳥を引き剥がすことには成功した。普段ならどさくさに紛れて色々としているが、今はそんな余裕がない。

 

「あのブスのせいで私、死ぬ羽目になったんだけれど!! このケジメを付けないと嘗められるのよ! 沽券に関わる!!」

 

 仕返しをしたくなる気持ちは分かるが、これを繰り返していたら破滅しか待っていない。拓海は決意した。

 

「川奈、昨日は酷い目に遭ったけどそれを報復で解決しようとしちゃいけない。オレで良いなら、今日は川奈が満足するまで一緒に居るから」

「澄野……」

 

 これも大鈴木と川奈を守る為だ。この場において、最善にも近い回答をした拓海は安堵の溜息を漏らしたのも束の間、凶鳥が切っ先を突き付けていた。

 

「ちょっと待って欲しいでござる。不機嫌で澄野殿をコントロールするのは良くないのでござるな」

「は????」

「どうして、蒸し返すんだ?」

 

 折角、収まろうとしていた火種に再着火していくスタイル。こういう時に心を燃やさないで欲しい。

 

「何事も無ければ、今日は拙者と一緒に鬼滅の刃を1話目から最終話まで見るつもりだったのに、あんまりでござるよ!!」

「そもそも、1日で全部見るのは無理だろ!!」

「わ、分かったでござる。なら、無惨を倒す所までで良いから」

「そこまで行ったら、もう全部だろ!!」

 

 凶鳥とコントを繰り広げているが、川奈は面倒臭くなって来たのか、懐から取り出した物のピンを抜いていた。昨日も見た閃光手りゅう弾だ。

 だが、凶鳥の動きは早かった。一瞬で肉薄したかと思えば、川奈が手にしていた物を奪い取って、放り投げた。少し離れた場所で閃光と爆音が放たれた。

 

「ここ数日の狼藉。拙者でも見過ごせん。一度死んで反省するかと思いきや、その魂胆は変わることは無さそうでござるな!!」

「アンタこそヒステリー起こしてんじゃないのよ! 澄野はね。私と一緒に過ごすって言ったの! 今更、文句言って騒がないでくれる!!?」

 

 昨日の今日で川奈はカリカリしていた。一方、凶鳥の我慢も決壊寸前にあったらしい。もはや激突は避けられないかと諦めた瞬間。ファーン、ファーン。と、警報音が聞こえた。

 心臓が跳ね上がる。平穏の沼に浸かり切っていた。戦争なんて起きる物じゃないと思っていた。何故なら、皆が守ってくれていたからだ。ここでは違う。

 

『敵勢力侵入。敵勢力侵入。当区域に敵勢力からの攻撃を感知。ただちに、ぼえいモードを展開します。至急、防衛戦の準備に取り掛かって下さい』

 

 全身から脂汗が噴き出す。平和がいつまでもある物だと思っていたが、自分達は戦争をしているのだ。

 

「……澄野?」

「大丈夫だ。行こう」

 

 乱れる呼吸を整えて作戦室へと向かった。揃ったメンバーを見る限り、欠員はいない様だが、大鈴木は体調が滅茶苦茶悪そうだった。

 

「くららちゃん。大丈夫?」

「イルブリードを見た悪夢は連中で晴らしてやるとして……」

 

 皆が一様に拓海に視線を向けて来た。申し訳なさとでも言うのだろうか、後悔とでも言うのか。誰もが言い難そうにしている中、雫原が言った。

 

「澄野。貴方は出なくていい」

 

 拉致して来た挙句、戦わせるというのは気が咎めるのだろう。

 自分が知っている特防隊メンバーは本当に強い。精神的、肉体的、異血的にも自分とは比べ物にならない程に。

 だが、ここにいるメンバーがそうでない。ということは、彼らの顔に走る緊張感を見れば分かる。

 

「いや。皆が戦っているのに、何もしていない方が嫌だ。オレも戦うよ。相手は?」

「本来なら57日目に攻め込んでくるはずなんだけどね。残っている部隊長は逃走している『イヴァー』か『ゼンタ』『ダルシャー』『ヴェシネス』位だね」

 

 蒼月からの説明を聞いて、少し考える。一度逃走したイヴァーが来る可能性は低い。そして、ヴェシネスも出て来ることは無いだろうし、ダルシャーは最終手段と聞いていた。なので、順当に行けば『ゼンタ』が来るのだろう。

 拓海の中にあるゼンタのイメージは他者の物まねをさせられた挙句、シバかれている可哀想な人だが、本気で害意を持って攻め込んで来たら、中からズタズタに引き裂いて行ける能力の持ち主でもある。

 

「澄野君。本当に良いの?」

「……あぁ!」

 

 たっくん。と呼んでくれない霧藤に一抹の寂しさの様な物も覚えたが、TLが違っても皆が守るべき相手であることに変わりはない。

 拓海は作戦室で充電されている我駆力刀を手に取り、自らの胸に突き立てた。51日目。2周目に入って、2度目の防衛戦である。

 

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