現在、最終防衛学園では『防衛戦』が行われていた。1周目では当たり前の光景で、2周目においては仲間達が掃討してくれていたので忘れていたが、これが本来の自分達の役割だ。
「(よし。思ったよりも戦えている)」
暫く戦っていなかったが、拓海は思ったよりも自分が戦えていることに驚いていた。一度覚えたことは案外忘れないらしい。
ただ、やはり仲間の戦いぶりは気になった。いつもは無双している川奈の動きも消極的だし、他の仲間の動きもぎこちない。理由は薄っすらと分かっていたので、近くにいた蒼月に尋ねた。
「蒼月。皆は連携を取る為の相談をしていないのか?」
「うん。フレンドリファイヤは避ける位の方針はあるけど」
想像した通りだった。丸子、川奈、過子の様に遠距離持ちの攻撃頻度が明らかに低い。彼らの牽制が無いため、前衛組が猛攻に晒されて厳しい戦いを強いられているという印象だ。
仲間内での連携が出来ないことで、ここまで防衛戦が辛くなるとは思わなかった。いや、というか。
「(オレがいたTLの川奈って、ヴェシネスやイヴァーにシバかれている印象はあったけど、アイツ。本当に強かったんだな)」
たった1人で敵陣に切り込んでは悉くを鏖殺していくかと思いきや、仲間のサポートも出来るし、器用に味方を避けながら攻撃することも出来るし、タイマンでも強かった。
一方、こちらの川奈は味方を巻き込まない様にする為か殆ど攻撃をしていない。偶に討ち漏らした侵攻生を排除はしてくれているが……。
「川奈! もっと、積極的に前に出られないか!?」
「嫌だよ! だって、前に出たら邪魔だと思われるし!」
後ろに下がって援護をすれば前衛から邪魔だと言われ、前線に出たら白兵戦が得意なメンバーから邪魔扱いされる。
本来なら、そう言った事態を避ける為に相談や打ち合わせがあって然るべきだが、このTLでは敵いそうにもない。
「よく、これで50日も持って来たな……」
「それだけ相手が弱かったからね」
蒼月が何気なく言ったが、随分と酷い話だとは思った。
しかし、思い返してみれば。ヴェシネスとイヴァーを除く部隊長は殆どがボコボコにされていたか、檻の中で怠惰、暴食を貪っていた印象しかないので、否定することが出来なかった。
「(意外といけるか?)」
作戦室に集合した時は不安だったが、このまま何とか撃破できそうだ。
敵の増援やパターンからして、そろそろ部隊長が現れる頃合いだとは思っていた。皆からの話を聞くに、恐らく今回は『ゼンタ』が来るはずだ。
「(アイツは内部から引っ掻き回して来る分には怖いけれど、単体で来る場合はどうなるんだ?)」
皆の話を思い出すに。ゼンタの能力は模倣体を作り出すこと、別人に変身できること。の二つで、工作員向けの能力ではあるが戦闘向きの能力ではない様に思える。もしも、無理矢理にでも使うとしたら乱戦時に紛れ込んで同士討ちを狙う位だろうか?
「(このTLでは有効そうだな)」
特防隊メンバーの仲が良くないので、そんなことをされたら、同士討ちが始まってしまうかもしれない。
炎の壁を超えてやって来る侵攻生を見て固まった。2人の人間が彼らを率いていた。一方は、部隊長だ。被っているマスクの形からして、恐らく『ゼンタ』だろう。だが、もう片方が問題だった。
彼女は学生鎧を着ていた。霧藤やイヴァーの様な外付け的な物ではなく、自分達と同じく学ラン型の物だ。腰まで伸ばした銀髪に黒のカチューシャ。手には薙刀型の学生兵器(クラスウェポン)。
「!!」
分かっている。アレはゼンタの能力だ。だとすれば、彼女の横にいるゼンタと思しき部隊長はなんだ? 拓海が抱いた疑問を笑う様にして、彼女は言った。
「たっくん。いつの間に女の子になっちゃったの?」
ここが戦場であることを忘れてしまいそうになるほど、間の抜けた穏やかな声だった。だが、抑揚も声色も霧藤とは違う。自分の記憶の中にある『柏宮カルア』が目の前にいた。
「カルア……?」
「たっくんを。早く帰ろう? お母さんも娘が2人になったって知ったら、喜ぶかもね!」
嘘だ。自分達の記憶は植え付けられた物で、あの記憶は嘘だ。と、拓海は割り切っていたつもりだったので、こうも簡単に揺さぶられるとは。
「拓海クン! 騙されないで! 希さんはこっちにいるし、相手はゼンタだ! 模倣体に喋らせているだけに決まっている!」
蒼月の言っていることは理解できるが、それでも拓海は動揺していた。本当にそうだろうか? これだけ大量のTLがあるなら、自分達の記憶が本当だったTLもあるんじゃないんだろうか? という想像が切り捨てられない。
皆も敵と認識しているのか、得物を彼女に向けていた。まるで、それを見計らったかのように。少女は言う。
「何があっても、わたしを守ってくれるんだよね?」
気づけば、拓海は学生兵器(クラスウェポン)を取り落としていた。否定できない。目の前の少女が、本物ではないと確信が持てない。
彼女の隣に立つゼンタが手を挙げ、侵攻生達に指示を飛ばした。戦意を喪失している拓海を他所に交戦が始まり、カルアと思しき少女と蒼月が打ち合っていた。そして、大将首を取る為に雫原と厄師寺がゼンタへと向かっていた。
「遅イ」
∞態に変身せず、手にした槍を用いて人間態のまま2人を迎え撃っていた。まるで、機械を使っているかのように声にはノイズが走っていた。
周囲でも戦闘が本格化する中、自分だけが動かない訳にはいかないと。拓海は学生兵器(クラスウェポン)を拾い上げていた。
「(オレは。どうするべきだ?)」
選択肢が浮かんだ。恐らく、これはTLでの今後を極める上で重要な物だ。
『蒼月に加勢する』。何もおかしなことはない。『柏宮カルア』は自分が生み出した偽りの記憶の産物であり、目の前にいるのはゼンタが生み出した物だ。見方をする理由が無い。
『蒼月を止める』。だが、本当にカルアが存在するTLもあるかもしれない。いや、そうでなくとも。理由を聞く前に殺してしまっては、何も分からない。何より、彼女は。自分が言った約束を知っている。
「(止めなきゃ)」
そんな悠長なことをしている余裕があるのか。何か方法は無いかと考えていると、ガキィン! と金属音が鳴った。見れば、蒼月の大鎌が弾かれていた。
目を疑った。自分が知っている蒼月は川奈に続く強者であり、打ち負けるなんて思ってもいなかった。やはり、このTLの特防隊メンバーは強くない。
「やめろ!」
蒼月の前に躍り出た。刀を構えて相対する。斬る覚悟なんて出来ている訳もない。瞬く間に肉薄され、蒼月と同じ様に武器を弾き飛ばされた。
「駄目だよ、たっくん。それじゃあ、わたしを守れないよ?」
「そんなに強いなら、オレが守らなくても大丈夫だろ! いや! むしろ、オレを守ってくれ!!」
あまりに意味の分からないことを言うので、目の前の少女も固まっていた。
この50日。拓海は防衛戦に全く出ていないし、異血吸収もしていなかったので強くなる訳も無い。だが、積み上げて来た物はあった。
「ちょ。たっくん!?」
固まった一瞬を狙って、拓海は迷うことなく抱き着いていた。TSしているからギリギリ許容されるかもしれないが、男の体でやっていたら犯罪的な絵面だ。
そう。拓海の戦闘技能はからっきしであったが、貞操観念はユルユルだったので誰に対しても、思い切りが良かった。これも皆の調教の賜物である。
「拓海クン?」
蒼月も困惑する外ない。今まで生死を掛けて戦っていた相手と突然いちゃ付き始めたのだから、理解を拒むのも道理だった。
だが、バカげた光景に見えて蒼月を助けるという意味では理には適っている。組み付かれたら、薙刀は振るえなくなるし、打撃や関節技を掛けることもできず。力で振り払うしかなくなる。
「あ、カルアの髪から良い匂いが……」
「ちょっと。皆の前で嗅がないで!」
周囲にいる侵攻生達も『アイツら何やってんだ……』って感じで見られていた。
少女も振り解こうとしていたが、拓海はありとあらゆる手を使って彼女の力を弱めようとしていた。耳に吐息を掛けたり、甘噛みしたりと。戦場所か日常でもやるべきではない行為を網羅していた。
「んんッ!?」
「(効いている! 効いているぞ!!)」
当の本人はもはやなり振り構っていないので、どう見られているかも気にしていなかったが、間近で見せられている蒼月は『なんて破廉恥な……』と顔を逸らしていた。
ただ、そんなことをしていたら敵からも味方からも注目を集めるのは無理からぬことで。
「楽しそうなことしているね~。怠美も混ぜてよ~!」
「なんだ、このメンヘラ!?」
いつの間にか。コッソリ近付いて来ていた飴宮の中から出て来た触手が、拓海と少女をまとめて絞め落していた。ズルズルと2人を引き摺って行く彼女を捕まえんと、侵攻生達が押し寄せる、校舎側から大量の銃撃が飛んで来た。
「澄野の為なら、蒼月を巻き込んでも構わねぇ!! やっちまえ!」
丸子の号令と共に、今まで遠慮していた過子や川奈も一斉射撃を加えていた。蒼月が慌てて射線から跳び出した所で、波濤の如き勢いで弾丸が放たれた。
次々と侵攻生達が蜂の巣にされて行く中、頃合いを見てゼンタが手を挙げた。すると、侵攻生達が次々と撤退していく。
「引ケ」
「逃がすと思って?」
雫原が戦斧を振り下ろすが、別の侵攻生が割って入って身代わりになった所で、悠々と去って行った。厄師寺も追撃を掛けようとしたが、思いとどまっていた。深追いは禁物だ。
かくして、防衛戦は死者を出すことも無く終えたが、まるで素性の分からない少女を抱え込むことになり、拓海が目を覚ますまでの間に処遇についてが議論されていた。