拓海とカルアを接触させない為にも中庭の入り口には大鈴木が立っていた。午前中は凶鳥が『イヤァ。アレはすごかったでござる』なんて宣っていたが、大鈴木家財閥の令嬢たるもの、簡単に心が動かされる訳が無い。
「(アタシは狂死香みたいに性欲に支配されたりなんかしないんだからね! 例え、今の澄野がゴスロリ服を着て上目遣いで懇願して来ても追い返してやるんだから!!!)」
シュッシュとシャドーボクシングをしている中、こちらにやって来る者達がいた。片方は飴宮だと一目でわかるが、もう片方は見慣れない服装をしていた。
正に正にゴスロリな衣服にウィッグでも付けているのかクルクル縦ロールが二つ、フリフリのカチューシャも添えて。カラコンを入れているのか、瞳も真っ赤に染まっていた。
「おいすー。くららサマー。元気に見張りしている?」
「昼食、まだかと思って……」
スッと拓海が控え目にランチボックスを渡して来た。着慣れていないのか、スカートを意識しているのが何ともいじらしい。
「あ、アンタら。何を企んでいるのよ。言っとくけれど! アタシはここをどかないからね。捕虜との接触は禁止だからね」
「別に交渉に来た訳じゃないよ。拓海がオシャレに目覚めたからね、怠美達でファッションショーをしているだけなんだ。そして、見せびらかしに来ているだけなんだ。見なよ、怠美の拓海を」
午前中にも同じようなやり取りがされていた気がするし、拓海は誰かの所有物になった覚えも無いが、これも必要なことだった。
「一目見るだけでもダメか?」
「駄目よ!! これはね。学園や皆の為でもあるんだからね!」
これだけ仲違いを起こしておきながら、学園や皆の為に。と言う言葉は空々しいにも程があるが、体裁を取り繕う上では最適な解ではあった。
「そうか。……ごめんな。わがまま言って。見張り頑張ってな」
スッとランチボックスを渡して飴宮と一緒に去ろうとしたが、大鈴木が慌てて呼び止めた。
「ちょっと、待ちなさいよ。一緒に食べないの?」
「オレ達は食堂で食うから。それにホラ、オレが一緒にいたら懐柔されている風に思われるかもしれないし」
暗に『一緒に飯食いたければ交渉を飲め』と言われている様でもあった。
普段の澄野ならば突っぱねることもできたかもしれないが、こうも好みなコーデをされた上で交渉して来るのはあまりに強かった。
「拓海~。早く、食堂行こうよ~。怠美、お腹空いちゃった」
「今日はスナック菓子とかじゃなくて、普通の物を食って貰うからな」
まるで見せつける様に腕を組んで去っていく2人に何と声を掛けた物か。
吐いた唾を飲む訳にもいかないし、かと言って規則を破るのは言語道断。ノブレス・オブ・リージュと個人の感情が喧嘩している間に2人はいなくなっていた。仕方なく、ランチボックスを開けると玉子サンドが入っていた。
――
「バッチシだったよ。これはもう誰が裏切るかダービー状態だよ」
「凶鳥先輩と大鈴木先輩が熱い!」
飴宮と今馬がノリノリだったが、この学園の治安は大丈夫だろうかと拓海は心配になっていた。誘惑している自分が言えた義理でもないが。
「じゃあ、2人を狙い撃ちにすればいいのか?」
「いや、それだと2人が警備から外されて終わるだけよ。だからね、満遍なく狙うのよ。雫原、喪白さん、厄師寺、面影と全員をね」
川奈が悪い顔をしていた。拓海も呆れながら、玉子サンドを食んでいると食堂の扉がガラリと開かれた。霧藤だ。
彼女は驚いていた。食堂にこれだけの人が集まっていることもそうだったが、何よりも注目したのは拓海の格好だった。
「澄野君。その恰好は?」
「いや、皆がコーデしてくれるから楽しくてつい」
と。ウッカリ言ってしまったが、元が男の自分が女子のファッションを楽しんでいたらどう思われるだろうか? キモイとかドン引きされるんだろうかと心配したのも束の間。一気に目を輝かせた。
「私もやりたい!」
「オッケー! 追加1丁!」
「飲食店じゃないんだから……」
飴宮もノリノリで賛同していた。さて、次の見張りは誰だとか考えていると、再び食堂の扉がガラリ。雫原だ。川奈が前に出た。
「澄野に用があるんだけど。いいかしら?」
「ここで言ってくれる?」
「カルアと面会しても良いって言いに来たのよ」
これには拓海も驚いていた。見張りを立てるまで警戒していたのに、この変わりようはどういうことだろうか?
「良いのか?」
「貴方達がバカなことをやって、誰かが抜け駆けした挙句。より危険な事態を招くよりはマシって判断してのことよ」
これには拓海も頬を掻くしかなかった。自分達の目論見はとっくにバレていたらしい。ならば直ぐにでも向かおうとしたが、丸子が抗議の声を上げた。
「おい! それじゃあ、俺が澄野に好きなコスさせられねーじゃねぇか! もっと粘れよ!!」
「一応、聞いておくけれど。どんなコスさせるつもりだったんだ?」
川奈や飴宮達は楽しもうという心意気が伝わって来るのだが、丸子からはどうにも邪悪と言うか邪な欲望が見え隠れしていた。
「コレだよ!」
取り出したノートを開いた。彼自身が縫製を得意としていることからデザインもできるからだろうか、既存のキャラクターのコスプレではなく一から作っていることは分かったが、完成品のイメージは控えめに言って下品だった。
「よし、雫原。案内してくれ」
「分かったわ」
「なんか反応しろよ!!」
丸子を放置して、一同はゾロゾロと中庭の方へと移動した。
――
「たっくん? その服は?」
「着替えてから来るべきだったとは思っている」
喜び勇んでやって来たのは良いが、今の自分の格好については失念していたらしい。羞恥心がこみ上げて来るが、頑張って押し殺した。
「それは置いとくとして。前に言っていたことで気になることがあるんだ。オレを助けるって、何をするつもりだったんだ?」
「まずは、用事を終わらせて、この学園から連れ出してね。その後は色々とね」
大分はぐらかされたが、何も考えていない訳では無さそうだ。とは言え、彼女が何を考えていたとしても自分は賛同することはできない。
「(オレの元々の目的は元居たTLに戻ることだからな……)」
カルアのことは気になる。だが、【好き好き】TLに残して来た皆のことも気になるし、【修羅場】TLの皆も放って行く気にはなれなかった。
「具体的には何をするつもりだったのかしら?」
「まず、この学園のミサイルは潰す。これだけは絶対。じゃないと、フトゥールムの人達が皆死んじゃうんでしょ?」
これに関しては拓海も反対する気はない。この惑星の住民を皆殺しにするのはやりすぎだ。止められる物なら、止めたい位なのだが。
「(止め方は分からないけれどな)」
「貴方はフトゥールムに生活基盤があるって言うの?」
「無い人間が部隊長との随伴を許されると思っている? そんな風に考えが足りないから、別TLからたっくんを誘拐して来るような真似するんだろうけど」
雫原とカルアの間にバチバチと火花が散っている。できることなら、特防隊に協力して貰おうと思っていたが、この様子ではやはり無理そうだ。
「(そもそもの話。このカルアは本当に何者なんだ?)」
記憶や知識からして。自分が知っている『柏宮カルア』と相違ない様に思える。だが、それはあり得ない。何故なら、自分達が持っている東京団地の記憶は偽物にしか過ぎないからだ。
では、自分の記憶を元にして人工天体が作り上げた物だとしても、やはり腑に落ちない。どうして、自分だけに宛がうのか?
「(候補は4つ)」
1つ。先程も言った様に人工天体で新たに作られた個体。一体、何の思惑で作られたかが分からない。
2つ。別TLでギィと呼ばれる寄生生物に支配された霧藤。これは可能性としては十分にあり得る。ただ、その場合。霧藤自体に異血が少ないため、先の戦場で見せていた姿が気になる。
3つ。ゼンタが変身している。彼女の能力が記憶なども含めてコピーできるということは1周目で分かっているが、その場合。あの時、戦場にいた部隊長が誰なのか。模倣体にしては特防隊メンバー複数人を相手どれるほどの強者だったのが引っ掛かる。
4つ。拓海も知らない未知のTLからやって来た。そもそもメンバーが自分の知っている15人しかいない。と考えるのが早計だ。仮に前提が同じでも全くシチュエーションの違うTLもあるかもしれない。
「たっくんはどうしたいの?」
「え?」
「この学園を守ることも、この人達を守ることも。たっくんがやりたいと思っていたことじゃないでしょ? 状況に流されて、こうなったけれどさ。本当にやりたいことは別にあるんじゃないの?」
考えたことも無かった。そもそも、ただの少年だったはずの自分が人工天体だのフトゥールムとの戦争だのに駆り出されている方がおかしい。
それだけではなく別TLなんてSFな話までされて、同年代のメンタルケアの為に挺身しているというのもさらにおかしな話なのだが。
「状況に流されたとしても。皆のことを大事に思っているのは本当だし、そこは大丈夫だよ」
「無自覚に人を誑すのはやめようね」
「人をロクでもない奴みたいに言うのはやめろって」
普段ならもっとキツイ言い方になるのだが、カルアが相手だと自然と言葉尻が柔らかくなった。その後も他愛の名話をしていたが時間だ。と言うことで、雫原に追い出された。
思ったよりも早く目的を達成した為、おめかし会はお開きになるかと思いきや、その後も食堂などで集合して、拓海は皆に弄られながら1日を過ごしていた。