無事、面会もできたということで拓海は自室に戻って一夜を明かすことができた。天岩戸やら何やらで皆に玩具にされたが、悪い気分はしなかった。
「(だから、ここの奴らもどうにかしてやりたいんだよな)」
このTLに居た本来の『澄野 拓海』が何処に行ったかは知る由もない。
ただ、この様子だと自主的に帰って来る可能性は低いだろう。自分もいつまでもこのTLに居続けられる訳が無い。
「(どういう形が一番のエンディングなんだろうか?)」
拓海は少し夢想してみた。【好き好き】TLから皆が迎えに来ている。【修羅場】TLの皆も別れは惜しんでいるが、自分がいなくてもやって行けるという希望が持てる状態。その中で、自分は彼らと別れるのだ。
「(この結末に辿り着く上での問題は3つ)」
まず、【修羅場】TLにいた拓海に戻って来て貰うこと。それも、万全な状態でと言う条件付きで。そうでなければ、また何処かの拓海が攫われるかもしれない。
2つ目。この学園内の空気の悪さを解消しないといけない。彼女らの執着と確執が、この事態を引き起こしたのだから。
3つ目。これらを、【好き好き】TLのメンバーがやって来るまでにやらないといけない。1つ目に関してはやり様が無いので、自分ができるのは2つ目の空気の悪さの解消しかない。
「(その為になら、玩具になること位はやぶさかじゃないけど)」
でも、この温い空気を保った所で執着心が強くなるだけだ。防衛線やカルアのことに感けて避けていたが、話さなければならない相手がいる。意を決して、拓海は彼女の自室へと向かった。
――
「……澄野?」
「ちょっと、話したいことがあってさ。時間、大丈夫か?」
「入って」
そそくさと彼女の部屋に上がった。もしも、誰かに見られたりして居たら面倒なことになるからだ。恐らく、誰にも見られていないハズだ。
「ありがとう。カルアの件もあって接するのは避けていたんだけれど、今なら大丈夫かなって」
「……何の用?」
いつもの様に毅然とした声ではなかった。何を問われるか、本人も薄々と察している雰囲気があった。
「そろそろ。聞いておきたかったんだ。どうして、オレのことを攫ったのかって」
この話題が雫原の琴線に触れる物だと分かっていたが、この部分を暈しては彼女達が抱える問題と向き合うことができないと踏んでのことだった。
自分を慰める為か、あるいは最終防衛学園の皆をまとめる為か。恐らくだが、理由は1つではなく、複合的な物ではあるのだろう。
雫原は視線を彷徨わせながら、ベッドに腰掛けた。その後、手招きをされたので、拓海も彼女の隣に腰を下ろした。
「あのままだと。皆が仲間割れを起こして全滅することは避けられなかった」
拓海が知っているだけでも銀崎が殺されたと聞いたし、川奈が大鈴木に殴り殺された一幕も見ていた。自分がいない間は、事態がより深刻だったこと位は想像できる。
「それで、オレを攫って来たのか」
小さく頷いた。恐らく、彼女も苦渋の末に決断したことだろう。拓海は飛び出そうになった言葉を呑み込んだ。
「(既に一度、病ませているのに。別のTLから持って来た方も病むとは思っていなかったんだろうか?)」
記憶や経験は違っても素体は同じ『澄野 拓海』だ。同じ様な環境に入れたら、同じ様な結果になること位、雫原ならば理解もできそうな物だが。
「そうよ。……いや、ごめん。今のは、建前。本当は私が澄野のいない状況に堪えられなかっただけ」
憔悴しきった人間がマトモな判断を下せない。なんてことは当たり前のことだ。だからと言って、彼女がしたことは許される訳ではない。でも、非難するつもりも起きなかった。
彼女にとって別TLの自分でも『澄野 拓海』である様に。自分にとって別TLでも、彼女は『雫原 比留子』であるからだ。
「だったら、少しは回復してくれよ」
普段、顔を合わせている時は取り繕っているが、2人になって話に切り込んだ時から、呼吸もおかしくなっているし、声も硬い。
拓海が知っている彼女は凛としていて、唯我独尊の様に見えて。実は正義感も強く、面倒見も良い。――だから、自身の犯した行為を許せず苦しんでいる。と言うのは直ぐに分かった。
「なんで、誘拐された澄野に慰められているのよ」
「嘗めないでくれ。コレでも向こうのTLではヴェシネス達に攫われたこともあるし、キスがてらにゲロを吐かれたり、尻穴も開発されて、女体化もさせられているんだ。これ位で怒ったりはしないよ」
「そこは怒りなさいよ!?」
雫原もドン引きしていた。蒼月達にも話したが、本当に碌な思い出が無い。それでも、大事な仲間達だった。
「雫原がやったことは良くないことだと思う。でも、オレも攫われたからにはさ。笑っていて欲しいんだよ」
ひょっとしたら、雫原以外のメンバーも内心では罪悪感で苦しんでいるかもしれないが、それでは攫って来た意味がない。
「どうして、そんなことが言えるの?」
「だって、ここが別のTLだとしても。皆にとって、オレがオレである様に。皆も皆だからだよ」
これは何度も言っている、嘘偽りない気持ちだった。
そう言われた彼女の表情が泣きそうな物になっていたのは許されたという安堵からか、あるいは。そんな人間を奪い取って来たという更なる罪悪感からか。どちらも綯交ぜになっているのだろう。と、拓海は雫原を抱きしめていた。
「……向こうのTLはきっと。良い場所だったんでしょうね?」
「ああ。良い所だったよ」
先程、散々な目に遭ったことは言ったはずだが、雰囲気的に突っ込む所ではないだろう。雫原からも同じ様に抱き返された……と思ったら、そのままベッドに倒れ込んで来た。
「雫原?」
「折角、澄野が応援してくれるんだからね。私も楽しんでみようかしら」
「どうして、0か100かしかないんだ」
ポポポーイと服を脱がされ、互いに下着姿になった。いつもなら、誰かしらの乱入が来る所だが、今日に限って誰も来ない。
当然、介入が無いので行為はそのまま進む。TSしてからするのは初めてだが、やっぱり男性とは勝手が違う。まだ日も高いというのに。
「女の澄野も可愛らしくて良い……」
「ちょっとまだ、日が高いし。気が早」
「焚きつけたのはそっちでしょ!」
果たして、雫原が元気になったのは良かったことか。と思いつつ、こっちに来てからご無沙汰になっていた情事に耽ることになった。
――
食堂に足を運んだ霧藤が見た光景は信じられない物だった。
ガランとしていた食堂には、全員とまではいかない物の人が集まっていた。彼女の姿を見た、飴宮が手を振っていた。
「希―。一緒に食べよー」
「うん!」
卵サンドを取って、飴宮の隣に腰を下ろした。朝から元気に川奈と丸子が言い合いをしている。
「だから! 澄野はもっと可愛らしい服にするべきだって! それなのに露出ばっかり増やして、この性欲魔人が!!」
「ちげーよ! 良いか? こうした露出の多い物を着ることで恥じらいを覚えさせて、今後の見せ方を覚えるんだよ。言ってみれば、これはより高い次元に澄野を導く為の登竜門みたいなモンなんだよ!」
会話内容自体は碌でも無い物だったが、今まで罵詈雑言と悪態を吐きまくっていた頃と比べると、あまりに微笑ましい。
「次こそは霧切ちゃんの服を着て貰うんだからね! そして、今馬には苗木君のコスを着て貰うの! 声がすごい似ているし!」
「それじゃあ、過子がやるキャラが居なくなるんじゃ」
「大丈夫! 私は五月雨ちゃんやるから!」
九十九兄妹も楽しそうだし、言うことは無い。耳に入れても苦痛にならない賑やかさをBGMに飴宮の方を見た。
「拓海って不思議だよね。いつの間にか、怠美達をまとめているんだから」
「うん。……でも、やっぱり」
いつかは元の場所に戻るのかな。と言いかけて、飴宮に遮られた。
「今は、そう言うのを考えないでおこうよ」
「……うん」
浮足立っていた心が僅かながらに曇った。
今の日々が改善されれば、される程。ここにやって来た彼が帰って欲しくないと強く思ってしまうのは、きっと。誰にでも共通する思いなのだろう。そっと目を逸らす様にして、霧藤は卵サンドを齧った。