最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編/修羅場TL】53日目 その3

 深夜。大抵の者は寝静まっているが、その中で蒼月は目を覚ましていた。ガンガンと乱暴にノックされる。覗き穴から様子を見れば、川奈がいた。

 

「蒼月! 大変なことが起きているの! 早く、作戦室に来て!」

「何があったの?」

 

 と。蒼月がドアを開いた瞬間、川奈は無駄のない動作で取り出した包丁で首を狙って来たが、逆に凶器を奪われて喉元に突き立てられていた。彼女の輪郭が崩れて、泥に変わっていた。

 直ぐに特防隊メンバーの様子を見に回ったが、無事な人間の方が少なかった。ベッドの上で事切れている者、玄関で倒れている者。あるいは。

 

「おい、何が起きてやがんだ!?」

「無事なのは私達だけ。と言うことだね」

「ど、どうして?」

 

 厄師寺や面影の様に自力で撃退できた者。または、霧藤の様に手出しすらされていない者。屋上に大量のドローンが飛来し、倒れた者達が次々と回収されて行く中、蒼月が舌打ちをした。

 

「見なよ」

 

 指差した先。校庭では模造体同士がぶつかり合い、大量の泥と肉片が撒き散らされていたが、彼らは1人しか見ていなかった。

 

「澄野くん!?」

 

 遠目なので確信は持てずにいるが、拓海を担いだカルアが学園から脱出しようとしている。付き従えている模造体が消火器で炎の壁を消そうとした時、降り注いだ刃物によって串刺しにされていた。

 

「私達も怠美ちゃんの援護に駆け付けたいところだけれど」

 

 校舎へと続く階段から大量の模造体が湧いて来た。先程の様に暗殺に来た訳ではなく、いずれも手に学生兵器(クラスウェポン)のレプリカが握られている。

 

「どうせこんなことだと思ったよ」

 

 と、蒼月は凶鳥の部屋から失敬した聖十文字刀を構え、面影はメスを取り出していた。

 

「2人はコレを使って」

 

 と、厄師寺にはダンベルを渡し、霧藤には過子の部屋から失敬した拳銃を渡していた。模造体達が殺到する。

 

「誰でも良い! 拓海クンを連れ戻せ!!」

 

 即ち。助けるつもりもなければ、助けられるつもりもないと。蒼月は近くにいた模造体を切り裂いて、我駆力刀のある作戦室へと向かって進行を始めた。

 

 

 深夜の学園は正に戦場と化していた。彼女達の戦いは校舎内全体に波及しており模造体同士が激突していた。

 幾度も制動を掛けていた拓海は既に気絶させられており、カルアの肩に担がれていた。炎の壁を背後にして飴宮が立ちはだかる。

 

「カルアちゃん。どうしても連れて行くの?」

「うん。ちゃんと元の場所に返さないとね」

 

 飴宮が目を伏せた。言われたことは事実であるし、そもそも。連れ出されようとしている拓海も別所か誘拐して来た存在だ。

 

「怠美達が間違えている。なんてことは分かっているけれどさ。でも、拓海は渡せないよ!」

「貴方達のモノじゃないでしょう?」

 

 互いから飛び散った肉片と泥が激突する中、2人もまた同じ様に激突していた。

 カルアが振るう薙刀が飴宮の頭を叩き割ろうとするが、ブヨブヨとした肉塊に変わって、受け止められていた。

 

「でも、カルアちゃんの物でもない。怠美達の元を居なくなるとしても、それは拓海に決めて欲しいんだよ」

「きれいごと言わないでよ。今まで、たっくんの意思を無視し続けた癖に」

 

 戦いの激しさとは裏腹に2人の間に広がる空気は冷たい。

 片や諦観と罪悪感、片や殺意と敵意。当事者が問題に関われずにいる中、飴宮が圧され始めて来たころ、変化は起きた。

 

「待てやぁああああ!!」

 

 深夜の校庭をバイクが駆け抜ける。肉片と泥を轢きながら、彼女らの戦いに割って入って来たのは厄師寺だった。彼は地面に転がっていた2台の消火器を叩き壊していた。

 

「ナイス! 猛丸!!」

 

 飴宮もガッツポーズを取っていた。消火器が無ければ、炎の壁を超えることはできない。だが、カルアは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「厄師寺くん。また、たっくんに責任を押し付けるの?」

「だからつって、テメーに渡すつもりもねぇ!」

 

 一瞬、苦虫を嚙み潰したような表情をしたが、直ぐに元の気迫を取り戻していた。少し遅れて、蒼月達も駆け付けた。

 

「降伏はしなくて良い。ここで死ね」

「私も蒼月君と同じ意見だ」

 

 未だに困惑の色が強い霧藤を置いて、蒼月と面影がカルアに襲い掛かるが攻撃は届かなかった。炎の壁を突き破って飛来した鎌が2人を学生兵器(クラスウェポン)ごと切り裂いていた。校舎から飛んで来たドローンが2人を回収した。

 

「……ああ。いたよね」

 

 消火剤が噴射され、炎の壁の一部が消える。警報が鳴り響くが意味がない。現れたのは、先日。学園を襲撃した部隊長だった。

 鹿を彷彿とさせるマスクを脱ぎ去ると素顔が現れた。黒紫の髪に引かれた、パープルのメッシュが特徴的だった。飴宮が叫んだ。

 

「イヴァー!!」

「本当に呆れた。まさか、別のTLから誘拐までするなんて思わなかった」

 

 その瞳は、彼女の姉である『ヴェシネス』を連想させるほどに冷たい物だった。

 霧藤と厄師寺も動けずにいる中、拓海を担いだカルアはイヴァーの元に駆け寄った。

 

「本当は全員殺してあげても良いんだけれど、それじゃあ生温いし。貴方達の汚らしい血を吸収したくはないからね。厄師寺君が消火器を壊してくれて、助かった。一生学園に閉じこもっていなよ」

 

 追いかけようと、厄師寺がアクセルを吹かした瞬間。彼の首が宙を舞った。直ぐにドローンが飛来して、彼の死体を回収していく。

 その間にもイヴァーとカルアは学園から離れていく。残された飴宮は霧藤の方を見た。

 

「希。追いかけるよ」

「で、でも……」

「残っちゃ駄目。ていうか、もう。学園の方には戻らない方がいい。別のTLに行くか、イヴァー達を頼った方がいいと思う」

 

 一度、救い上げられてから落ちる絶望はなお深い。もしも、どうしようもないことが分かれば、最終防衛学園は終焉を迎えることになる。

 

「そんな。じゃあ、怠美ちゃんはどうするつもり!?」

「とりあえず。拓海を取り戻すために色々とやるつもり。それでも、どうしようもなかったらまぁ。何とかするよ」

 

 ロクでもない結末に行きつく未来が簡単に想像できた。霧藤は彼女の手を握った。

 

「最後までやろう。動けるのは、今。私達だけなんだから」

「……そうだね」

 

 半ば自棄になりながら、飴宮と霧藤はイヴァー達を追いかけた。暫くして、消えた炎は蘇っていた。

 

――

 

 

 周囲を見渡す。何処かの小屋だろうか。カルア達が戦いを始めた辺りから意識を失っていたが、何が起きたのか。

 

「起きた?」

 

 部屋に入って来た彼女の手には紅茶が入ったカップがあった。何処で手に入れたのか、ミルクと砂糖まで添えられていた。

 

「カルア。ここは何処なんだ?」

「私達のセーフティハウスだよ。イヴァーさんが警護してくれているから、安心して休んでよ」

「イヴァーが?」

 

 彼女だけ討ち漏らしたという話は聞いていたが、どうしてこんな所にいるのだろうか? 会いに行こうと上体を起こした所で押さえつけられた。

 

「だーめ。結構無茶な姿勢のまま運んでいたから、まだゆっくりしていて」

「それなら、普通に俺を歩かせたらよかっただけじゃ……」

「そうしたら、たっくん。私にセクハラしてくるから」

 

 初めて会合した防衛線で乳繰り合っていたのだから何も言えない。

 ……と同時に、あの場所で自分の意思を介在させたら、連れ出せないと踏んでの行動だったのだろうと予想は付いた。思考を切り替える。

 

「……カルア。いや、お前は何者なんだ?」

 

 能力だけを見れば部隊長の『ゼンタ』としか思えないのだが、立ち振る舞いや行動は、あまりに自分の知っている『柏宮カルア』だった。彼女はカップを手に取り、砂糖を入れた。

 

「ねぇ、たっくん。この飲み物は何?」

「何って。紅茶だろ?」

「砂糖って言う、紅茶じゃない物を入れたのに?」

 

 不思議な質問だった。彼女は何を言おうとしているのだろうか? 意図は探りかねる所だが、自分の考えを素直に伝えることにした。

 

「砂糖を入れても紅茶は紅茶だろ?」

「だよね。じゃあ、これはどうかな」

 

 今度はミルクを注いだ。琥珀色の液体が乳白色と混じって全く別の色に変わっていく。

 

「ミルクティー。か?」

「紅茶にミルクが入っただけだよ?」

「いや、まぁ。それでも紅茶といえるかもしれないけれど。でも、やっぱりミルクティーになるんじゃないか?」

 

 だが、自分の認識で行くならコレはミルクティーだ。ミルクの入った紅茶。と言う印象にはならなかった。

 

「そう。私『達』はミルクティーなの。溶けて、混ざり合って。『調和』しているの」

「……一つ聞かせてくれ。『ゼンタ』と何が混ざっているんだ?」

 

 カルアはいる筈の無い存在で。だから、彼女が混ざることはあり得ないハズで。いや、それすらも自分が不可能だと思い込んでいるだけかもしれない。

 

「何だろうね」

 

 コツンと額とをぶつけられた。自分も同じ様に紅茶にミルクと砂糖を入れて、口を付けた。こんな状況にも関わらず、身体の内側から暖かくなっていく感覚にホッと溜息を漏らしていた。

 

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