最終防衛学園 ~貞操危機編~   作:ゼフィガルド

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【好き好き編/修羅場TL】54日目

「澄野が。攫われた?」

 

 学園に跋扈していた模倣体達が消え去ってから数時間後。川奈を始めとした、蘇生された特防隊メンバーは面影から事情を聞いていた。

 

「やはり、あのカルアちゃんは『ゼンタ』だったようだね。この場に希ちゃんと怠美ちゃんがいないのは奪還に向けて動いている為だろう」

「そうでござるな。いなくなっていたのが希殿だけなら、万が一と言うこともあったでござるが……」

 

 凶鳥がふと己の失言に気付いたように口を覆った。言外に、霧藤だけがいなくなっていた場合、裏切った可能性がある。と言った、彼女と仲の良い喪白も大鈴木も咎めもしなかった。

 

「追うわよ!! まだ、私達が蘇生してからそんなに時間は経っていない! つばさ! バスを……」

 

 と、大鈴木が言い掛けた所で彼女の被り物が奪われ、現れた素顔に平手打ちを食らわせた男がいた。蒼月だ。

 

「黙れ。寝ている間に殺されたマヌケ共を連れて行く訳がないだろう」

「おい、蒼月。言い過ぎだ。俺らも結局殺されたんだから、何も言えねぇだろ」

 

 暫く、蒼月と厄師寺が睨み合っていたが、彼らの間に面影が割って入った。

 

「攫われた手前。私達が皆を責める権利はないよ。でも、蒼月君の言う通り。学園側にも防衛を残す必要はある。全員で行って、帰って来たら学園が無くなっていました。では、話にならないからね」

 

 蒼月の発言を合理的に肉付け、負い目を感じている者達へのフォローも入れつつ、面影はこの場にいるメンツを値踏みしていた。

 

「では、私が選抜させて貰おうかな。戦闘員として蒼月君、厄師寺君、私。運転手としてつばさちゃんの4人で向かう」

「ちょっと待って下さいよ。じゃあ、自分達はここで指咥えて待っていろってことっすか?」

「咥えるのは君のお得意だろ?」

 

 今馬からの抗議を蒼月が嘲笑い、一触即発の状態になったが、面影の腕が伸びる。今馬は絞め落されたが、蒼月は払い除けていた。

 

「言っておくけれど。イヴァーは私達よりも強い。この程度で伸びている様では連れていけないね。つばさちゃん、準備して」

「う、うん」

 

 面影にしては強行的な姿勢だった。冷静に見えて、彼も相当に焦っているのだろう。

今馬以外に名乗り出る者がいないのは、皆も負い目を感じているからか。あるいは、蒼月に恐れを成しているからか。パンと乾いた音が鳴った。

 

「私達がやられたのは事実だから仕方がないでしょう。この学園を守るのだって、大事な役目よ。戻りましょう」

 

 手を叩いて注目を集めていたのは雫原だった。拓海を誘拐する程に執着していた彼女にしては、あまりに淡白な反応だった。

 

「雫原先輩はそれで良いの? 澄野先輩が、またいなくなっちゃうかもしれないんだよ!?」

「……できることを。するだけよ」

 

 恐らく。過子だけでなく、人の機微にあまり敏くない人物でも直ぐに分かる位に、雫原は悔しさを滲ませていた。攫って来た相手に慰められた癖に守ることすらできなかった。今の自分に何ができるというのか。

 伏し目がちに俯いている彼女らの背後ではスクールバスが炎の壁を消して、外へと向かう。学園に残された者達は、何もできない無力感に打ちひしがれながら、今馬を部屋へと運んだ後、自室へと戻って行った。

 

――

 

「このTLでの私は始めてかな? イヴァーよ」

 

 カルアと入れ替わる形で現れたイヴァーは自分が知っている彼女と相違ない様に見えた。……敢えて言うなら、すごく興味深そうに自分を眺めている。

 

「なんか、オレの体についているか?」

「カミュンにお姉ちゃんができたら素敵だなって。スミノも妹、欲しくない?」

「恐怖。母を名乗る女」

 

 と言いつつ、心のどこかでは安堵していた。突然日常が非日常に切り替わり、この先。どうなるかも分からない中で再び日常が垣間見えたからだ。

 

「なんて、半分ほど冗談よ」

「もう半分は?」

「それよりも今後の予定だけれど、私達はお姉ちゃんの元へ戻る。でも、それは部隊長として。じゃない」

「もう半分は?」

「スミノはサイワイの箱。って知っている?」

 

 もう半分の答えも聞きたかったのだが、真面目な話をしているので切り替えることにした。にしても、ここでもサイワイの箱が出て来るとは。故に、ある程度の予想ができた。

 

「3つ模様の箱を取りに行くのか?」

「話が早くて助かる。スミノは不思議に思わなかった? どうして、カルアちゃんが捕まる真似をしたかって」

 

 あの時はセクハラに屈したかと思ったが、常識的に考えればそんな物で戦闘不能に陥る訳がない。自分の誘拐を手引きするというのもあっただろうが。

 

「サイワイの箱を取る為か」

 

 答え合わせをするように、イヴァーは17個の模様が浮かぶ箱を取り出していた。【好き好き】TLで聞いた話では、互いの陣営にサイワイの箱が1つずつ確保されている為、お互いに揃えることが不可能になっているとは聞いていたが。

 

「後はお姉ちゃんが持っているのを取りに行くだけ。そしたら、スミノをちゃんと元のTLに戻してあげるからね」

 

 スッと優しく抱きしめられた。苛烈な部分もあるが、やはり彼女の根っこにある愛はどのTLでも共有されているのだろうか。暫く、彼女に体を預けていると、セーフティハウスが半開きになっていて、隙間からカルアが覗いていた。

 

「イヴァー?」

「あなたも散々やったでしょ」

「すごいや。何処にいても変わりねぇ」

 

 ただ、先程までいた学園と違って本気で殺し合ったり、憎しみあったりしないことは救いでもあった。……だから、逆説的に。拓海は学園のことがどうしても気掛かりだった。

 

「(本当に。皆を見捨てて帰って良いのか?)」

 

 一方的に拉致されて、玩具にされて、彼らの不和に巻き込まれた。

 だが、彼らの好意は本物で。このおかしな日々は不思議なことに……楽しくもあった。彼らにはやはり『澄野拓海』が必要なのだ。

 

「イヴァー、カルア。頼みがあるんだけれど。良いかな? サイワイの箱で叶える願いについてだけれど」

 

 彼の考えを聞いて、2人は暫く言葉を失っていたが、意味を咀嚼して来た辺りで、カルアが尋ねた。

 

「たっくん。本当に良いの?」

「あぁ。だって、オレがこのまま帰ったら。特防隊の皆はどうなるんだ?」

「それは、別TLのあなたが気にすることなの? スミノを壊した癖に、反省もせずに貴方を攫って来た奴らを?」

 

 きっと。【好き好き】TLにいるイヴァーや皆も同じことを言うだろう。答えは既に自分の中にある。誰の顔が思い浮かんだのか。

 

「いや。反省もしている。後悔もしているよ。……『澄野 拓海』であるオレが赦してやらなければ、きっと、皆は苦しみ続ける」

 

 自分がいた時は無邪気にコスプレだのなんだの騒いでいたが、アレもきっと。寂しさや不安の裏返しだったのだろう。

 被害に遭った当事者、関係者からすれば赦せる訳がない。―――では、彼らは一生赦されないのか? だとしたら、あまりに悲しい話だ。

 

「だから、オレの提案が達成された後も繰り返すようだったら。その時は知らない」

「……そう言うことなら。スミノに免じて一度だけ。彼らにもチャンスを与えて上げる」

「でも、良いの? そしたら、たっくん。元のTLに戻れなくなるかもしれないんだよ?」

「だから、タイミングが重要なんだ」

 

 これは一種の賭けだった。【好き好き】TLの者達が今までして来たことを考えれば、確率は高い。だが、確実とは言えないあやふやな可能性ではあったが、それでも確信めいたものがあった。イヴァーが不思議に思っていた。

 

「何かサインや通話でもあるの?」

「いや。アイツらなら、絶対にオレを迎えに来る。絶対にだ!」

 

 根拠のない自信だったが、拓海は何一つとして疑っていなかった。

 翻せば、彼がどれだけ元のTLで愛されて来たかも分かる様で、イヴァーとカルアは微笑んでいた。

 

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