ちなみに主人公のいた世界は特に固定じゃなく色んな作品が登場しているような世界です
黒い機体が、崩壊する空間の中で悲鳴をあげていた。
無数の裂け目が周囲の物質を軋ませ、亀裂のように空間そのものを裂いてゆく。視覚情報は乱れ、座標データはゼロを返すばかり。現実と虚構の境界が崩れかけていた。
空間の裂け目──次元の歪み。それはこの世界に、あってはならない“バグ”だった。だが、それは戦いのさなか、突如として開いた。誰も予測できなかった。誰もが「異常事態」の言葉すら忘れるほど、圧倒的な異質としてそこに在った。
ヒュッケバインMk-II。そのコクピットの中で、リョウガ・カグラギは必死に警告音を無視していた。何度も何度も、起動キーを叩き、システムに手を伸ばす。警告などどうでもいい。自分のことなどどうでもいい。彼が見ていたのは、あの裂け目へと引きずられていく仲間たち。助けようとする者、止めようとする者、ただ見つめることしかできない者——その全ての表情が、彼の胸に焼きついていた。
「っくそッ! ジェネレーター出力不安定……! ブラックホールキャノン起動不能!」
振動が機体を貫き、構造材が軋む。モニターには赤が点滅し、音声警告が重なっていた。だが彼は止まらない。止まってなどいられるものか。
「リョウガ! 脱出しろッ!!」
通信越しに、誰かが叫ぶ。甲児だ。鉄の城、マジンガーZが裂け目の縁に立ち、風圧を正面から受け止めている。その巨体が、まるで歯を食いしばるように踏みとどまっていた。
「間に合わねぇ……!」
流竜馬が、苦悶の声を漏らしながら真ゲッターの腕を伸ばす。だが、あの空間の歪みは理を捻じ曲げる。掴もうとした瞬間、ゲッターの手は揺らぎ、時空に弾かれるように押し返された。
「……離れろ、竜馬さん!!! ここまで巻き込まれたら貴方達も——」
「バカ言ってんじゃねぇ! お前を見殺しにするわけにいかねぇだろッ!」
怒声が戦場を割く。竜馬の瞳には決意しかない。例え空間が崩れようとも、目の前の仲間を見捨てる選択など、彼には存在しなかった。
「うるさいぞ竜馬……助けたいなら、黙って手を貸せ!」
「踏ん張れっ リョウガ!! 俺達が絶対に救いだしてやるからな!!」
隼人や弁慶が咆哮と共にエネルギーを加速させ、真ゲッターの火力を強制的に最大出力へと持ち上げる。歪みによって引き裂かれた空間が、一瞬だけ緩む。ほんの数秒。そのためだけに、彼らは全力を賭けていた。
だが、それでも——足りない。
「くそっ……間に合えっ……!」
カミーユがΖガンダムのコックピットで、額に汗を滲ませながらバイオセンサーを開放しようとする。感情を、祈りを、リョウガへ向けて飛ばそうとする。だが、その感覚の先にあるべき“彼”を、感じ取れない。
「感じない……リョウガの“心”を、掴めない……!」
ジュドーは、怒りと混乱と哀しみを押し殺すように叫ぶ。ダブルゼータの両腕を前へ翳し、バリアを展開するが、それすら歪みの波に呑まれていく。届かない。声も、力も。
「何が起こってるんだよ! 俺たち、何で“感じ取れない”んだ……リョウガが、目の前から消えていくのに……!」
「……これは、我々の世界から彼を“排除”しようとする……誰かの意志なのか……?」
アムロが低く呟く。言葉に根拠はない。ただ、脳裏に響く“否定”の気配。それがリョウガだけを狙っていることに、彼は気づいていた。だが——
「だったら、俺達は“そんな意志”に抗ってみせるッッ!!」
獅子王凱のガオガイガーが、吼えるように拳を振るった。砕け散る光が歪みを削り取る。ブロウクンファントムが咆哮と共に時空をぶち抜く。それは、確かに“道”を拓こうとする一撃だった。
だが、ヒュッケバインが呑まれるのは、ほんの一瞬後だった。
「────皆んな、ありがとう。お前らがいるから、ここまでこれた……」
コクピットの中で、リョウガは微笑んだ。刹那、誰よりも穏やかに。死を覚悟した者の顔ではない。信じて託す者の、それだった。
「……でも、ここから先は……俺一人で行く」
その声は、通信ノイズと共に薄れていく。感情だけが、誰にも届かぬまま、零れて消えていく。
そして——
光が爆ぜた。
空間が弾ける。黒い渦がすべてを飲み込んだ。ヒュッケバインMk-IIと、そのパイロットを丸ごと“どこか”へと引きずり込みながら。
「リョウガアアアアアアアアアアッ!!」
甲児の叫びが、虚空を裂いた。竜馬の拳がコックピットの壁を叩く。カミーユは力なく肩を下ろし、ジュドーは顔を覆って泣き崩れた。アムロは目を閉じ、凱はその喉の奥に怒声を押し殺した。
そこには、もはや何も残っていなかった。
ただ、空間の傷跡だけが、焼きついたまま、静かに風の中へと消えていった。
——そして、物語は幕を開ける。
ジオンが勝利したもう一つの可能性の世界へと.彼は、再び目を覚ます。
▼▼▼▼▼
鈍い頭痛が、意識をゆっくりと引き戻した。
乾いた金属の床の冷たさが背中越しに伝わってくる。視界の上には剥き出しのコンクリートの天井。無音に近い空気が周囲を満たしており、どこか人工的で……妙に生温い。
「あっ……起きた?」
女の子の声だった。柔らかく、少しだけ緊張を帯びた。リョウガは反射的に起き上がろうとして、頭の奥が激しく痛んだ。
目を細めながら声の方向を見る。壁際でしゃがんでいた少女が一人、小さく手を振っていた。
制服姿。見慣れない意匠。だがどこかで見覚えのある顔立ち——いや、“思い出せるはずがない”のに、妙に引っかかる印象だった。
「えっと大丈夫? 倒れてたから……出来る範囲で手当てしてみたんだけど」
リョウガは、周囲を見渡した。灰色の倉庫のような場所。廃棄された資材や工具が乱雑に積まれている。コロニーの片隅にある民間管理区画か。
そして、その看板に記された言葉を見て、彼の心臓が跳ね上がった。
「……悪い……ここはどこなんだ?」
「サイド6のイズマコロニーだよ」
(……なんだって……!?)
内臓が急激に冷えていくような錯覚。心拍が一拍だけ止まりかけた。
サイド6——それは、彼の知る限り“存在しないはずの場所”だった。インベーダーたちによって蹂躙され、政治的中立地帯ごと消滅した幻のコロニー群。死の巣窟となったとされる場所が、こうして“今も生きて”いる……?
「……なんで……」
思わず声が漏れた。少女が怪訝そうに首を傾げた。
「え?」
「……いや、何でもない」
混乱を抑え込みながら立ち上がる。関節が重い。装備はない。通信端末も、ヒュッケバインの反応も、どこにも感じられない。
(……あいつは別の場所に……?)
「……あ、えっと、名前は? あなたの」
少女の問いかけに、しばし迷う。だが、隠してどうにかなる話でもない。
「リョウガ。リョウガ・カグラギ。……俺は……」
どこから来たかを言おうとして、口をつぐむ。答えられる言葉がなかった。
彼女は少し黙ってから、小さく笑った。
「なんか変な名前だね。私はアマテ。アマテ・ユズリハ、マチュでいいよ」
「変なって……まさか、君が助けてくれたのか?」
「うん。コロニー外縁の資材エリアで倒れてるのを見つけて……あそこ、あまり人目がないから。警備に見つかったら面倒なことになると思って、とりあえずここに運んだの」
「軍や警備が動いてるってことは……秩序が、あるのか……この“サイド6”に……?」
すべてが狂っていた。
この世界は自分の知っている歴史と違う。地名も、時代も、秩序も。
ただの偶然か? いや、それにしてはあまりに整いすぎている。
「ねえ、何か探してるの? すっごい顔してる」
「……ああ。俺の機体が、ここにはない。別の場所に飛ばされたか、失われたか……それを探さないといけない」
「機体? えっ嘘、モビルスーツってやつ?」
「ああ。戦ってきたんだ。ずっと……誰かのために」
アマテは黙ったまま、少しだけ寂しそうにうなずいた。
その反応に、リョウガは逆に困惑した。普通なら引かれるはずなのに、彼女の瞳は妙に静かだった。
「変なこと言ってもいい?」
「なんだ」
「……私もね、ちょっとだけ、この世界に“違和感”があるんだ」
「……」
「だから……あなたみたいな人に会えて、少しだけ安心した。変な話だけどさ」
(……そうか。コロニーってのは、よく言えば“作られた楽園”、悪く言えば“偽物の地上”だ。俺が地球育ちで初めてこの空間に足を踏み入れたとき、違和感で酔ったものだった。……なのに、今の方がよほど現実味がない)
「うーん、どうしよう。リョウガをウチに連れて行くわけにも行けないし、でもこんなところに置いていくのも」
その優しさに、リョウガはただ一つだけ応えた。
「……ありがとう。でも流石にそこまでしたら困るのは君だろ? 大丈夫、俺はここでさ」
「えぇ………大丈夫なのそれ?」
マチュの何気ない優しさが、リョウガの胸に沁みた。この世界に投げ出されて以来、初めて感じた“人のぬくもり”だった。だからこそ、迷惑をかけるわけにはいかない。
それでも、彼の声には確かな礼がこもっていた。
まだ誰も知らない世界で。
英雄の名も知らぬこの世界で。
その足音だけが、確かに静かに、幕を上げた。