さてはこいつブレイバーンと同類だな?
とりあえず後、2,3話ほど書いてから本編に突入しようか考えています。
――翌朝。
日差しが差し込むリビング。カーテンの隙間から漏れた光が、フローリングの床に斜めの帯を描いていた。どこかぼんやりとした空気の中、テレビの音声だけが静かに響いている。
『……昨夜遅く、西側工業帯にて、未登録のモビルスーツ同士による激しい戦闘が発生した模様です。』
画面には、焼け焦げた地面と、鉄屑と化した改造型ガンキャノンの残骸が映し出されていた。頭部、右手、両足が損傷し黒く炭化している...周囲の倉庫群にも爆発の影響と思しき損傷が見て取れる。
『なお、現場からは発信源不明の電磁波干渉反応が観測されており、治安局では調査チームを派遣。周辺住民には安全が確認されるまで外出を控えるよう呼びかけています――』
「……あらぁ」
ソファに腰を下ろし、湯気を立てるマグカップを持ったタマキがテレビを見ながら小さくため息をついた。
彼女の目は画面の隅、無残に転がるガンキャノンの残骸をしっかりと捉えている。しかしそこには、”もう一つの機体”の姿はない。辛うじて監視カメラや現場映像にも映っていなかったようだ。
「やっぱり最近、物騒ねぇ……」
そう言って、タマキは横目でキッチンの方を見る。
マチュが、黙々とトーストをかじっていた。やや寝不足気味の顔色で、昨夜の疲れが抜け切っていない。
「アマテも気をつけるのよ? 特にあんた、妙な騒ぎに巻き込まれそうな顔してるんだから……いくら”リョウガくんとお付き合いできた”からって、昨日みたいに遅くまで帰ってこないなんて心配するんだから。浮かれるのもほどほどにね?」
マチュはタマキのその言葉を聞いた途端、身体をびくりと震わせて顔を赤らめながらゆっくりと頭を上げた。思いもよらぬ方向からの指摘に戸惑いを隠せないまま、小さく返事をした。
「は、はーーい……」
胸が高鳴り、心臓の鼓動が速まる。焦りを隠すように自分の頬を両手で包み込んだ。
(流石にリョウガを庇う為とはいえ、無理があったかなぁ……い、いやでも……)
頭を抱え込みながら、マチュは内心で必死に弁明を考え始めていたが、どれもうまくまとまらないまま彼女の悩みはさらに深まるばかりだった。
▼▼▼▼▼
時間は昨日の事件直後まで遡る。
ヒュッケバインは軍警のザクに発見されないよう、慎重に高度を保ちながら夜空を滑るように飛行していた。機体の装甲は月明かりに照らされ、鈍く艶を帯びていた。
そのコックピットの内部では、リョウガが険しい表情でモニターの地図を睨んでいた。
「しかし“コイツ”をどこに隠すかな……」
巨大な機体を安全に隠匿できる場所など、簡単には見つかるはずもない。リョウガの指がコンソールを無意識に叩く。
その胸の内を察したのか、前に座るマチュが肩越しに振り返った。
「なんかツテとか、知り合いとかいないの?」
「.......それがあったらこんなに悩んでないの」
リョウガは軽くため息をつきながら答える。彼の声には疲労と困惑が同時に滲んでいた。
その時だった。
コックピット内に表示された進路が勝手に変更され、ヒュッケバインが突然旋回を始めた。
「っておい、ヒュッケどこ行くんだよ!?」
リョウガの操縦をまるで無視するかのように、ヒュッケバインは自らの意思を持つかのようにどこかへと導かれるように飛行を続ける。
「えっ!? リョウガ、これっていつものことなの!?」
不安げなマチュの声が狭い空間に響く。
「ものすごいたまにだが……な!!」
混乱する二人を乗せて、ヒュッケバインは静かに地上へと降下を開始した。
地表に降り立つと、そこは見知らぬ街の郊外、薄暗く閑散とした工業地帯だった。その一角にぽっかりと口を開けた、古びた地下への通路が姿を現した。
「どこなのここ……?」
マチュが困惑した顔で辺りを見回す。
「俺が知りたいくらいだよ、そんなの……」
ヒュッケバインは迷う素振りも見せず、その通路の中へ進んでいく。通路を抜けた先に待っていたのは、長く放置されたように見える古びた地下の格納庫、いわゆる地下ドックだった。
内部には整備用の巨大なアーム、補修用の資材、そして何より――リョウガの目を引いたのは壁に掛けられた馴染み深い装備の数々だった。
「あっ、フォトンライフルにグラビトンライフル!? ブラックホールキャノンまであるのか!?」
信じられないものを見たかのようにリョウガは目を丸くした。ヒュッケバインは静かに所定の位置に移動し、その場でゆっくりと膝を折るようにして機体を安定させ、コックピットのハッチを静かに開いた。
「……とりあえず降りるか。っておい、マチュ、ほら危ないだろ」
無理に降りようとしたマチュを、リョウガは慌てて制止する。
「えっ?」
「いや、抱えて降ろすからさ……じっとしてろ」
「あっ……えっと、うん」
頬を微かに赤らめながら、マチュは素直にリョウガの胸元へ身を寄せた。その感触にリョウガも一瞬動きを止めるが、すぐに軽く息を吐いて気持ちを整える。
慎重に足元を確認し、マチュをしっかりと抱えたまま、リョウガはヒュッケバインのコックピットから地面へと静かに降り立った。地下ドックの薄暗い光の中で、二人の影だけが静かに重なって揺れていた。
「一体、何なんだこの場所?誰かが秘密裏で使ってたのか?」
リョウガは改めて地下ドックの内部を見回した。壁や床にはうっすらと埃が積もり、ところどころ錆びついた鉄骨や剥がれ落ちた塗装が目立っていた。どう見ても最近まで使われていたとは思えない状態だ。
それでもヒュッケバインを隠す場所としては、これ以上ないほどに適していた。何より今回の件で、昔のようにヒュッケバインを自由に呼び出せることが確認できた。場所までの経路も、既に彼の記憶にしっかりと刻み込まれている。そして何より、自分が住む倉庫からそれほど離れていないという事実にリョウガは思わず肩を落とした。
「こんな近くにいるんだったら、もうちょい頑張って探すんだった……」
リョウガがぼそりと呟くと、腕の中でマチュが小さく身じろぎした。
「あのリョウガ……そろそろ降ろして欲しいんだけど……」
「あっ……わ、悪い!」
リョウガは顔を赤くしながら、慌ててマチュをゆっくりと床に降ろした。無事に地面に足がついたマチュは、自分の頬を少し熱く感じながら咳払いをした。
「……まぁ、今日は一旦帰ろう。門限も過ぎてるだろ?」
「あーー滅茶苦茶過ぎてるね?」
マチュが苦笑しながらスマホで時間を確認し、それを見たリョウガは深い溜息をついた。
「トホホ……タマキさんになんて説明しよう……」
リョウガが憂鬱な顔で呟くと、マチュは少し申し訳なさそうに顔を覗き込み、励ますように笑顔を向けた。
「い、一緒に怒られるからね、ホラ落ち込まないで!」
「ハァ……」
リョウガの長いため息が薄暗い地下ドックの壁に反響し、しばらくの間、その場に静かな余韻を残した。
▼▼▼▼▼
「……それで一体、こんな夜遅くまで何をしてたの?」
タマキの問いに、リョウガの表情が固まった。テーブルを挟んで向かい合うタマキの目は優しくも鋭く、リョウガの冷や汗が止まらない。
「あ、あのタマキさん。そのですね……」
リョウガが言い淀んでいる間、マチュは彼の隣でいたたまれない気持ちになっていた。リョウガが責任を感じて正直に話そうとしていることが分かるからこそ、胸が苦しかった。
(.......いや変にいい訳も嘘もやめよう。マチュが連中に攫われたのは俺の落ち度だ。正直に話そう)
「タマキさん……実は――」
「じ、実は私たち付き合ってるんだよ!」
リョウガの言葉を遮るように、マチュが勢いよく口を開いた。その爆弾発言にリョウガは目を大きく見開き、驚愕のあまり言葉を失った。
(.......何を言っちゃってんの!? この子は!?)
心の中でリョウガは絶叫したが、それを口にする余裕は全くなかった。
マチュはさらに続ける。
「こ、告白したのは私のほうで、今日は私のわがままでリョウガをこんな遅くまで付き合わせちゃったの。ご、ごめんなさい……」
マチュの頬が赤く染まり、視線はうつむきがちになっている。タマキは少し驚いたように目を瞬かせた後、穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「あっあら、そうなの? でもこんなに遅いのは感心しないわね」
タマキの視線が二人を温かく包み込む一方で、リョウガの顔は真っ赤になって固まってしまった。
(マチュ……頼むから変な誤解されることを言わないでくれ……!)
リョウガの内心の叫びが、誰にも聞かれることなく部屋の静かな空気に飲み込まれていった。
「リョウガくんも年上なんだから断らないといけないことは断らないと」
タマキが諭すように優しく告げると、リョウガは焦りながら小さく頷くしかなかった。
「は、はい……」
(アカン……!?このままじゃマジで俺がマチュと付き合ってるってことに!?)
リョウガが焦りと混乱で頭を抱えそうになっていると、タマキはふっとため息をつき、優しく微笑んだ。
「はぁ、まぁそうね。リョウガくん……この子は頑固で突飛なところがあるけど、どうかよろしくね?」
「あ……えっと……は、はひ」
もはや完全に逃げ場を失ったリョウガは、頬を赤く染めながら弱々しく肯定するしかなかった。彼の小さな声が、部屋に微かに響いて消える。タマキの穏やかな口調と、包み込むような眼差しに、リョウガはもう逆らえなかった。完全にペースを奪われた彼は、諦めにも似た微笑を浮かべながら小さくうなずいた。
その光景を見たマチュは、心の奥で妙な達成感と同時に、どこか申し訳ない気持ちが芽生え始めていた。
ブレイブポリス「ホールドアップ!!」
(とある黒髪の女子生徒のコメント)「アマテさん.....付き合ったんですか!?私以外の人と.....!!」