迷い込んだ凶鳥   作:ゲット虚無

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今回も前半は過去話です。

後半部分を書いている時の作者の内心「はーーっ リア充よ〇ね!!!てかもうさっさと抱けよこのヘタレが」


本音

 

 夜の地上は、乾いた寒気に包まれていた。

戦後の都市――ビル群の輪郭は静まり返り、薄い雪が舗道をうっすらと覆っている。

リョウガは、薄暗い広場の隅でコートの襟を立て、街灯の下でひとり息を吐いていた。

白く煙る吐息が夜空に溶けていく。

 

「冷えるな、外は……」

 

不意に、隣から聞き慣れた声がする。

振り返えった先にいたのは、アムロ・レイ。

冬の夜気の中、静かに肩を並べる。

 

「アムロさん……」

 

リョウガの声は低く沈んでいた。

 

アムロは数歩近づき、静かに立ち止まる。

「……まだ、あの時の戦いを引きずってるのか。確かに辛い戦いだったな」

 

リョウガはゆっくりと視線を落とす。

街のざわめきは遠く、雪が薄く路面を覆い尽くしている。

 

「確かに俺たちは……アクシズが地球へ落ちるのを阻止しました。

でももう、俺は分からないんです……地球を守るために、俺は相手がジオンとはいえ、大勢を殺した。……俺は」

 

リョウガの声が途切れる。

その言葉が、夜の冷えた空気の中に静かに消えていった。

 

 アムロは黙って、リョウガの横顔を見つめる。

その目が、ふと遠い過去に向けられる。

――少年だった頃、自分もまた「守るため」に引き金を引いた。

初めてザクを撃墜したときの震える指。ホワイトベースでの仲間たちと過ごした夜、フラウやセイラの涙、ブライトの叱咤。

 

 どれだけ「正義」や「地球のため」と言い聞かせても、心の奥に消えずに残った罪の感覚。

ララァの最期、シャアとの幾度もの死闘――

「勝利」の先にあったものが、決して「安堵」や「許し」ではなかったことを、アムロは痛いほど知っている。

窓の外を白い息が漂い、遠くで車のタイヤが雪を踏む音だけが聞こえる。

 

ほんの一瞬、アムロの瞳が揺れ、肩が微かに震えた。

だが、すぐに彼は表情を引き締め、リョウガの肩にそっと手を置く。

 

「……俺も昔は、お前と同じことを何度も思ったよ」

 

アムロの声は、かつての少年の日々の重さを静かに滲ませていた。

 

「どれだけ戦っても、どれだけ守っても――心に何かが積もり続ける。でも、そんな自分を否定しなくていい。背負って、それでも生きていくことが……俺たちの戦いの答えなんだ」

 

その言葉は、冬の夜気の中に淡く溶けていく。

リョウガは己の両手を見る。

 

自分の両手が、心が、何を守り、何を壊したのか。その問いが、繰り返し胸を刺す。

 

アムロはわずかに眉をひそめた。

 

「……すまん、リョウガ。お前をあの作戦の前線に出すべきじゃなかった。

甲児たちと同じように、後衛に回すべきだった」

 

リョウガは首を振る。

「……俺が選んだ道です。誰が相手でも、“やるべきこと”だと……思っていたんです。でも――」

 

言葉が続かず、リョウガはふと空を見上げる。

空にはうっすらと雲がかかり、街の明かりが遠く反射していた。

 

「でも、あの時……守るためにやったことが、本当に正しかったのか……時々、わからなくなるんです」

 

アムロは肩を落とし、リョウガの頭に手を置いた。

 

「それでも、お前がここにいる。それが何よりの救いだ。

俺たちは――自分の手で決めたことを、背負っていくしかないんだよ」

 

リョウガはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。

 

 

 

その夜。街の一角、仄暗い会議室――

部屋の照明は抑えられ、壁際の窓からは冬の夜の冷たい外気が静かに入り込んでいた。

アムロ、竜馬、隼人、弁慶、鉄也、ブライトと“大人組”が、長いテーブルを囲んでいる。

 

カップのコーヒーから立ちのぼる湯気だけが、張りつめた空気をわずかに和らげていた。

それぞれの背中には、戦いを潜り抜けてきた大人たちだけが持つ“疲れ”と“責任”が重くのしかかっている。

 

「……やっぱりよ」

竜馬がカップを見つめたまま、ぽつりと呟いた。

声は落ち着いているが、その奥底には煮え切らない悔しさと重い自責がある。

 

「”俺たちだけ”でやるべきだったんだよ、ああいう戦いは...」

 

会議室の奥、弁慶が無言で頷いた。

ぶっきらぼうな手つきでコーヒーを口に運ぶ、「本当だ。あいつらは……まだ子供だ。自分たちの未来を、こんな血と涙で汚すべきじゃなかった」

 

鉄也はカップの縁を指先でなぞりながら、苦い顔をして言う。

「戦争の責任を、子供に背負わせるなんて……俺たち大人が一番しちゃいけないことだろう」

 

その言葉を受けて、場の空気がさらに重く沈む。

アムロは窓の外に目をやり、夜景の中でちらちらと降り始めた雪を見つめている。

静寂が部屋を包む。その沈黙にさえ、誰もが同じ悔いと重みを感じていた。

 

だが、その時――

 

「フッ、甘いな……」

 

冷たい声が静寂を裂く。

隼人が、鋭く切り込むように言い放った。

 

「そんな悠長なことを言ってられる場合か?宇宙怪獣の脅威が迫っているというのに……」

 

竜馬が即座に顔を上げ、苛立ちを露わにする。

 

「なんだと!? 隼人、お前――!」

 

テーブルの上に拳を置いて立ち上がりかける竜馬。

会議室の空気がピリリと緊張する。

 

すかさず、ブライトが鋭い声で二人を制した。

 

「よせ、二人共!!お前たちが言い争ってどうする!!!」

その厳しい叱責が、空気を引き締める。

 

しばしの沈黙の後、アムロが小さく息を吐き、ようやく口を開いた。

 

「……だが――もう巻き込んでしまった。俺達は彼らに背負わせてしまった……」

淡々とした声の奥に、深い後悔がにじむ。

 

「……せめてこれからは、彼らが“人間らしく生きる”ために、俺たちが全部、矢面に立つしかない」

 

流竜馬は再び拳を握りしめた。

その目は、過去の自分への怒りと、これから守るべきものへの誓いで揺れている。

 

「そうだな。大人のくせに、ガキどもに後始末をさせるなんてな――ふざけた話だ」

 

ブライトも、深く頷く。

「……少なくとも、俺たちは……これ以上、あいつらを“戦い”の中に縛り付けるつもりはない」

 

重くも強い決意が、静かにその場に満ちていった。

 

窓の外では、街灯の光の中を白い雪がしんしんと降り始めていた。

夜の闇の向こう、彼らの中にある後悔も、決意も、音もなく静かに積もっていく。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 外は冬の冷たい夜風が窓を鳴らしているけれど、部屋の中は暖房のぬくもりと、教科書とノートの散らばった静かな空気で満たされていた。

 

ベッドの上、丸テーブルを挟んで、リョウガはマチュのノートを覗き込んでいた。

数式の途中、彼はふと手を止め、気まずそうに視線を落とした。

 

「なぁ、マチュ」

 

「ん?」

 

「この前のことなんだけど……俺を庇うのに、あれしか思いつかなかったかもしれなくても……やっぱりさ、誤解は解いたほうがいいと思うんだよ。実際、付き合ってるわけじゃないし……」

 

何気ない調子で言ったつもりだったが、口にした瞬間、マチュの表情がすうっと曇る。

ムスッとした頬、けれどすぐに、どこか寂しそうに目を伏せた。

 

「……で、でも私がリョウガのことを――す、好きなのは本当だから」

「誤解を解くんなら早い方が……――へ?」

 

リョウガはペンを落としかける。

マチュは顔を少しだけ上げ、照れ隠しのように唇を尖らせながらも、消え入りそうな声でもう一度言った。

 

「だから言ってんじゃん……リョウガのことが好きだって」

 

リョウガの頭は一瞬真っ白になる。

 

「は、はは。やだなぁ、冗談ばっかし……」

 

「冗談だと思う訳?」

 

マチュはじっと、リョウガの目を見つめる。その瞳には、からかいも嘘もなかった。

 

「う……でも、なんで……」

 

彼女は、机に伏せたまま小さく呟く。

 

「リョウガは……私のこと、嫌い?」

 

「そんなわけないだろ」

 

答える声は、リョウガ自身も驚くほど真剣な響きを持っていた。

 

「じゃあ、好き?」

 

「えっ……あっ、いや、あの……」

 

返答に詰まるリョウガのもとへ、マチュは不意に身を寄せる。

その小さな体が、遠慮なく彼に抱きついた。

 

「マ、マチュ……おい」

 

「これでも、嘘だと思う?」

 

その声は震えていた。彼女の体温が伝わり、リョウガの心臓が早鐘を打つ。

 

「その……なんで俺なんだよ……歳も離れてるし、こんなこと言うのもあれだけど……話してないことだって、まだあるのに……」

 

マチュはリョウガの胸に顔をうずめたまま、小さく首を振る。

 

「リョウガじゃなきゃ嫌なの。私、リョウガがどんな過去でも、秘密があっても、ちゃんと好きって気持ちだけは本当なんだから……」

 

マチュの腕が自分の体に回される。その小さな手のぬくもりが、リョウガの胸の奥に直接届く。彼女の言葉、そして真っ直ぐなまなざし――全部、嘘じゃない。本気で、リョウガ自身を「好き」だと言ってくれている。

 

けれど。

 

(……落ち着け。本当にこれでいいのか?)

 

脳内は激しい思考の渦に飲み込まれる。

マチュと自分――年齢は三つ違い。それに相手はまだ高校生。

 

自分は――この世界じゃ“部外者”だ。

 

身元も定かじゃない。まともな暮らしをしているわけじゃない。この家庭教師の仕事だっていつまでできるかのか.....いつ危ない橋を渡ることになるかも分からない。

自分に「好きだ」と言ってくれる彼女を、どこまで幸せにできる――いや、“守っていける”自信が、本当にあるのか?

 

(いや……馬鹿か俺は。こんな時くらい、素直に――)

 

「……なぁ、マチュ」

 

やっとのことで、声が出る。喉がひどく渇いていた。

 

「俺は……お前に何も誇れるもんなんかない。過去も――今も、ロクなもんじゃない。

”家族もいない”し、お前やタマキさんにだって迷惑かけてばっかりだ」

 

マチュは、リョウガの胸に顔を埋めたまま、じっと耳を澄ませている。

 

「俺は……自分のことが、時々、どうしようもなく嫌になる。

でも――」

 

震える手で、リョウガはそっとマチュの頭に触れる。

 

「それでも、お前がいてくれるなら……俺、もうちょっとだけ自分を信じてみてもいいかなって、思えたんだよ」

 

マチュの髪に手を滑らせる。震える指先は、優しさとぎこちなさの入り混じった、不器用な動きだった。リョウガはそっと、彼女の前髪を指で持ち上げ、その額にゆっくりとキスを落とした。

 

部屋の空気が柔らかく震える。

自分の心臓の鼓動が、相手に聞こえてしまいそうなくらいに速くなっていた。

 

「俺その、前も言ったけど今までロクな恋愛経験なくてさ……だから、これが、こ、答えってことで」

 

そう告げた彼の言葉は、本当に精一杯だった。

 

一瞬の沈黙。マチュはじっとリョウガを見つめ、ふいに意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「.....やだ」

 

「やっ、やだって、これでも精一杯……っっ……!?」

 

困惑するリョウガの言葉を最後まで聞かず、マチュは一気に身を寄せる。

迷いも照れも一切なく、リョウガの唇に――柔らかいキスが落ちた。

 

頭の中が真っ白になる。

あまりの唐突さに、リョウガは目を見開いたまま硬直し、そして次の瞬間には、頬が一気に燃え上がった。

 

「お、おま、は?……えっ、いや……は?」

 

うろたえ、狼狽し、言葉が途切れる。

マチュは嬉しそうに笑うと、からかうように囁いた。

 

「へへ~~~リョウガにファーストキス捧げちゃった♡」

 

「お馬鹿!?俺だって初めてなんだぞ!!!!?」

 

「えっ、そうなの?」

 

「だから言ってただろうが!!!今まで恋愛経験はないんだって!!?」

 

リョウガは真っ赤な顔で涙目になり、情けないほど声が裏返った。

その姿を見て、マチュは愛おしさが込み上げたように、さらに強くリョウガの身体を抱きしめる。

 

「ごめんごめん~~リョウガがそこまでウブとは思わなくて~~」

 

「うるさい馬鹿!!!!」

 

腕の中で暴れるリョウガに、マチュはケラケラと笑いながら頬を擦り寄せた。

これほど余裕そうにふるまっているが彼女の内心は......

 

(うわぁぁぁぁぁぁぁーーッッ攻めすぎたぁぁぁ!!どうしよォォォォ!?)

 

――これである。

 

 

窓の外では、粉雪がちらちらと舞い始めている。

勉強も恋も、まだまだ不器用で、でも今夜だけは――二人の距離が、確かにひとつ縮まっていた。

 

(俺は幸せになっていいんだな.....)

 

そうリョウガは心の奥底で思った。

 

 




「誇れるもんなんかない」?

何を言ってるこのバカは? あの世界で戦い抜いて人類守ってる時点で十分英雄だよ

次の話を最後に本編に行こうと思います。
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