迷い込んだ凶鳥   作:ゲット虚無

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最近ずっとJAMプロの「MAXON」と「流星Lovers」を鬼リピしてます。
......何回聞いてもいい曲なんだなこれが。


OGの新作はまだですか?(血涙)


修・羅・場

 

 日がすっかり傾き、街はすでに夜の帳に包まれていた。商店街の通りには、ネオンサインや提灯の明かりがぽつぽつと灯りはじめ、人々の姿もどこか夜の顔に変わりつつある。昼間の熱気は少し和らいだものの、アスファルトの照り返しと、じっとりまとわりつく夏の湿気が、まだ地面に残っていた。

 

(……なんか既視感ある光景だ)

 

 そんな中、リョウガは自分の右腕にしがみつくマチュの重みを感じていた。腕に絡みつく柔らかな感触は心地よいが、けれど彼女の表情はどこかむくれていて、不機嫌そうに眉をひそめている。

 

「ねぇリョウガ……」

 

語尾がわずかに尖っている。

 

「……なんでしょう」

 

リョウガは、隣から放たれる不穏な空気に内心でため息をついた。

 

「その”ニャアン”って子とは、どこで知り合ったの?」

 

照明に浮かび上がるマチュの横顔は、ほんのり赤らんでいて、どこかむくれているように見える。汗ばむ額を拭いながら、リョウガは返事をした。

 

「去年の、たまたまだよ……まぁ時期的にマチュと付き合う1~2か月前くら……あー」

 

マチュの半眼の視線が横から突き刺さる。ネオンの光が彼女の髪と頬を赤く染め、ふくれた唇がより目立たせる。その視線は、まるで獲物を捉えた獣のように鋭い。

 

「別にあの子とは何も無いって……まぁ、何回かラーメン奢ったことはあるけど......」

 

「 は?」

 

低く、有無を言わさぬ声が耳元で響いた。

 

(ア、しまった……失言だ、これ)

 

リョウガの脳裏に警鐘が鳴り響く。

 

「なに? じゃあその子とデートしたことあるの? “何度も”」

 

マチュの声が一段と低くなる。全身から放たれる無言の圧力が、リョウガの背筋を冷やした。

 

「あっ、あのなぁ....飯奢ったことが、どうしてそうなるんだよ……それに、まだマチュと付き合う前の話であって、浮気とかそんなものには入らないからな? それ以上なにかあった訳でもなし……」

 

街灯の下、歩道の前で二人の影が並んで地面に落ちている。リョウガの額には冷や汗が滲み、どうにも逃げ場のない空気がじりじりと広がっていく。まるで熱帯のジャングルに迷い込んだかのような、重く湿った空気が二人を包み込む。

 

「ふーーん?」

 

マチュの目が、さらに細められる。その目は、探るような、しかし確かな疑念を帯びていた。

 

「し、信じてくれよぉ……俺に浮気やナンパなんてする度胸なんて無いって」

 

リョウガは必死に弁解する。

 

「……リョウガがそんな奴じゃないってことは、私だってよく分かってるよ」

 

マチュは急に目線を落とし、頬を赤くしながら小さな声でそう答えた。街の灯りが彼女の髪に反射してきらきらと瞬き、二人の間にかすかな温度が生まれる。それはまるで儚くも温かい気配だった。

 

「なんだよ、さっきからやけに不機嫌かと思ったらヤキモチ焼いてたのか?」

 

リョウガは、安堵から思わず笑いがこみ上げた。

 

「ハァ!? バカにしてる!?」

 

マチュが顔を上げ、再び半眼になる。

 

「違う違う、逆だよ逆……そんだけ俺は“アマテ”に好かれてるんだなぁ……って」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべて、リョウガはマチュの頭を軽く撫でた。

 

「……そうやって急に名前で呼ぶのやめてよね、バカ」

 

マチュは頬を膨らませ、そっぽを向く。

 

「俺も好きだよ、アマテ」

 

赤くなった顔をそむけたマチュを見て、リョウガは思わず吹き出す。

 

「あーーーーもう!!!!」

 

軽く肩に手を回し、いたずらっぽくマチュの頭を撫でると、彼女はますますむくれて、その顔をリョウガの肩に押し付け、そのまま腕にぎゅっとしがみつく。その仕草は、まさに子猫のように愛らしかった。

 

 しかし、この浮かれた男はこの後すぐにまた修羅場になるとは微塵も考えていなかった。

 

 

(しかし、アイツどこにいるんだ?この時間帯だから、店長んとこでラーメンでも食って……)

 

 リョウガは頭の中でニャアンの行動パターンを思い返しながら、薄暗い通りを歩いていた。照明に照らされるアスファルトには、夏の夕暮れの湿気がほんのりと残っている。遠くから聞こえる喧騒が、二人の足音と混じり合う。人混みを抜けながらも、どこか落ち着かない。

 

(……どうせなら早く見つけて、とっとと帰りたいんだけどな)

 

そんな思いで歩いていると、不意に背後から微かな気配を感じた。

 

――誰かが、静かに近づいてくる。

 

足音はほとんどせず、しかし確かにそこにある存在感。

 

(ん? スリかひったくりか……?)

 

リョウガの身体が、無意識のうちに反応する。反射的に、ほんの数歩後ろ、マチュのバッグに伸びかけた手を、鋭く掴んだ。その手は細く、しかし確かな熱を帯びていた。

 

「おいなんだ、ひったくりか? 通報されたくなきゃ失せ……っ」

 

 

リョウガが言いかけたその瞬間、視界に飛び込んできたのは、あまりにも見慣れた顔だった。

 

「あっ!! ニャアン!」

 

「えっ、リョウくん!?」

 

(……は? ”リョウくん”?)

 

一瞬の静止。通りの雑踏が、ふいに遠くなる。世界から音が消え失せたかのような、奇妙な静寂が二人を包んだ。マチュは目を見開き、ニャアンの言葉を繰り返すように、呆気に取られていた。その瞳には、混乱と戸惑いが色濃く浮かんでいる。

先に見つけるつもりだったニャアンが、逆にこちらを見つけてきた。ほんの一瞬だけリョウガは安堵しそうになるが――すぐに隣の気配がピリッと刺さる。肌が粟立つような、鋭い視線。

 

 マチュが顔をしかめ、先程よりも明らかに不機嫌そうにリョウガを睨んでいる。その表情は街灯に照らされて、どこか子供のように可愛らしくも、決して侮れない怒気を孕んでいた。眉間のしわは深く、口元は固く結ばれている。

 

「……な、なんでリョウくんがこの子と?」

 

ニャアンの戸惑った声が、静寂を破る。

 

「あー、この子は……」

 

リョウガが言葉を選んでいる間に、マチュが口を開いた。その声には、一切の躊躇がない。

 

 

「”この人の彼女ですが”何か?」

 

マチュは語気を強め、リョウガの腕にこれでもかと力強くしがみつく。彼女の手が、やや汗ばんでいるのが分かる――ヤキモチ半分、本気半分といったところだろう。ぎゅっと掴まれた腕から、マチュの怒りと不安が伝わってくる。

 

「か、彼女!? リョウくん、恋人いたの!?」

 

ニャアンは驚きに目を丸くする。その反応にリョウガは、今度は別の冷や汗が背筋を伝うのを感じた。これは、厄介なことになった。

 

「あーーーーーちょっと待ってくれ。話がこじれそうだ、場所を移すぞ……人の目もあるし」

 

リョウガは慌てて二人の間に入り、状況を収拾しようと試みる。

 

「う、うん。わかった」

 

ニャアンはまだ混乱したままだが、とりあえずリョウガの言葉に従った。

 

「……」

 

マチュは不満げな半目のまま、しかしリョウガからは離れない。説明を求めるその視線は、照明の下でなおいっそう鋭さを増していた。これから起こるであろう修羅場を予感させる、重苦しい空気が彼らの間に漂っていた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 街の喧騒から少し離れ、三人は難民区域へと入っていく。なんでも届け物であるこのインストーラデバイスは今日中に届けなければいけないらしく、「それなら」とついでに三人で行くこととなった。リョウガは何かがあった時の為のある種ボディーガード役である。

道を歩く三人の間には張り詰めた空気が漂っていた。リョウガはどうにかこの状況を収拾しようと試みるが、マチュとニャアンの視線が交錯するたびに、緊張は増していくばかりだった。

 

「ふぅん......リョウガの言ってた通り、出会いはたまたまだったんだ」

 

 マチュは冷ややかにニャアンを見つめる。

その瞳の奥には、未だ警戒の色が残っていた。

 

「はぁ....そうだよ それからは俺も物を受け取ることがあってな?何度か付き合いがあったんだよ、飯を奢ったのもそのついで」

 

リョウガは疲れたように答える。

まるで罪を告白する囚人のように、彼は二人の少女の間で視線を泳がせた。

 

「あの....二人はいつからそういう...」

 

ニャアンが遠慮がちに尋ねた。その声は小さく、不安げな色が滲んでいた。彼女の視線は、マチュがリョウガの腕に絡ませた手に釘付けになっている。

 

「ああ...冬..」

 

リョウガが言いかけると、マチュは彼を遮るように、ぴしゃりと言い放った。

 

「クリスマス前だよ」

 

その言葉には、誰にも譲らないという強い意思が込められていた。

リョウガの腕を掴む手に、さらに力がこもる。

 

「いや、冬休み入る前だったろ.....」

 

リョウガは少し呆れ混じりにため息をついた。まるで、二人の間で板挟みになっていることに諦めを感じているかのようだった。

 

「もういいだろマチュ....さっきの説明で俺と彼女は”友達”なだけでそれ以上でもそれ以下でもないって」

 

リョウガは必死にマチュをなだめる。

 

彼の言葉は、ニャアンに対する説明であると同時に、マチュへの安心材料でもあった。

 

「はぁ~~~わかったよもう」

 

マチュは渋々といった様子で返事をするが、不満げな表情は変わらない。彼女はまだニャアンから目を離さずにいた。

 

「”友達”....」

 

 ニャアンはその言葉にどこか嬉しそうであった。彼女の表情に、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。しかし、その僅かな変化を、マチュは見逃さなかった。その表情を見たニャアンは、やはりどこか警戒する。マチュの鋭い眼差しが、再びニャアンを射抜く。

 

「一応、言っとくけどあげないからね? リョウガは”私の”なんだから」

 

マチュはリョウガの腕にさらに強くしがみつき、まるで獲物を守る獣のようにニャアンを睨みつけた。

 

「わ、わかってるってば」

 

 ニャアンは慌てて両手を振り、サングラスをかけていても分かるくらい顔を赤くして後ずさった。その言葉には、明確な降伏の意思が込められていた。三人の間に流れる空気は、まだ完全に和らいだわけではないが、最悪の事態は避けられたようだった。リョウガは小さく安堵の息をつき、再びこの場の収拾に意識を集中させるのだった。

 

「っと......話し込んでたら着いたなって...」

 

リョウガは、立ち止まった先にある鉄扉を見上げ、思わず顔をしかめた。

そうそこはリョウガの知っている場所だった。そうそこは”カネバン有限公司”というジャンク屋。

 

(.....いや届け物の依頼人ってアンキー達だったんかい、世間って狭いのね....)

 

 リョウガの脳裏に、このジャンク屋の主であるアンキーたちの顔が浮かぶ。口は悪いが気の良い連中で、彼がこの世界に来てからは何かと世話になっている存在だった。まさか、ニャアンの届け先が彼らの店だとは、完全に予想外だった。これはまた、一筋縄ではいかない話になりそうだ、とリョウガは額を押さえた。背後でマチュとニャアンの視線が再び交錯しているのを感じながら、彼は重いため息をついた。

 




年相応に焼きもちや嫉妬する女の子ってのはいいものですよね。
アニメ本編見るに多分マチュって独占欲はそれなりに強いですよね、まぁヤンデレとかそこまでのレベルではないしょうけど。
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