迷い込んだ凶鳥   作:ゲット虚無

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リョウガ君のニュータイプ能力は低い訳ではありませんがアムロやカミーユたちのようには、お世辞にも高くはありません。あと単純に普段の生活ではあまり発動しないよう自身の念動力で抑えています。これまでの戦いで仲間たちが意図せず相手や自分の心の中を覗いてしまったり見せつけてしまうことがあったことから彼はそうならないよう制限しているんです。

念動力に至ってはサイコドライバーの素質を持つほど、ただイングラムみたいに肉体を失ってもT-LINKシステムに意識を宿すみたいな無法は現状できないです。

いや、そもそもなんなんだアレ?()


橋の下の邂逅

 

  小さなラーメン店の店内は、照明の明かりで照らされていた。窓の外では風に揺れる提灯が、僅かに音を立てている。

 

 カウンター席には、マチュとリョウガが並んで腰掛けていた。木製の椅子は長年の使用でつやが出ており、カウンターも同様に所々が擦れていたが、それがかえって落ち着いた雰囲気を醸していた。厨房の向こうでは、若い店主が額に巻いたタオルを少しずらしながら、黙々と麺を湯にくぐらせていた。

 

 彼はふと顔を上げ、カウンター越しのマチュに声をかける。

 

「どや? アマテちゃん? ワシの作った熱々のラーメンはうまいやろ?」

 

 鍋の湯気が白く立ち昇る中、差し出された丼からは芳ばしい醤油の香りが漂っていた。麺を嬉しそうにすするアマテは、目を輝かせながら頷いた。

 

「うん!!! おじさんが作ったラーメンは美味しいよ!!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、店主の動きがぴたりと止まる。笑顔の裏で微かに震えるまぶた。こめかみの血管が一瞬ぴくりと痙攣したのは、気のせいではない。

 

「ワ、ワシ……まだ二十後半なんやけど……まぁ、ウマイってその言葉を聞けるんは嬉しいんもんやで……」

 

 複雑な心境を押し殺すように苦笑しながら、タオルで額をぬぐい、彼は再び厨房へと向き直った。

 

 その背を見送りながら、マチュはレンゲを手にスープをすくい、熱そうにふーふーと息を吹きかけてから口に運ぶ。思わず目を細めるほどの優しい味。どこか懐かしく、温かい。

 

 そして、その隣――。

 

「……それに引き換え……このアホは……」

 

 店主がぼやく視線の先には、黙々と麺をすすり、スープを飲む青年――リョウガの姿があった。

 

 彼は丼を置くと同時に、口元を拭くこともせず、当然のように顔を上げる。

 

「店長、替え玉。それに餃子も追加で」

 

 タレが頬に付いたままだというのに、全く意に介していない。店主は両手を広げて天を仰いだ。

 

「可愛げもクソもないのう……リョウちゃん……」

 

「ーーいやでも、安心しましたよ? ここが無事で……ここは俺にとっちゃ憩いの場ですから」

 

 リョウガは笑いながら言う。その言葉に、店主の眉が少し和らいだ。

 

「……あぁ、ワシも驚いたでぇ? 知らんモビルスーツが街中で暴れとるんやからな? ほんま迷惑な話やで……軍警のチンカス共も街を荒らして行きよるし……こっちは正規の手順を踏んでこの店を立てとんのやぞ!!?店が潰れたらどう落とし前つける気やねん!!連中は!!?」

 

 店主の怒りはもっともだった。街が混乱すれば、こうした商売にも当然影響が出る。だからこそ、いつもの顔ぶれが無事にラーメンをすすっていることが、彼にとっても救いだったのかもしれない。

 

 その時だった。

 

「マチュ……言っとくが俺はクラバには反対だからな?」

 

 リョウガが唐突に、表情をやや硬くして言った。箸を止め、視線だけで隣の少女を見る。

 

「ううん……」

 

 マチュはラーメンを見つめたまま、小さく首を振る。熱気とスープの香りの中で、彼女の瞳はわずかに揺れていた。

 

「なんや、二人して突然険しい顔しくさって?」

 

 店主が眉をひそめて二人の間に割って入る。

 

 リョウガはふっと苦笑しながら、餃子の皿が置かれるのを横目で見た。

 

「ここの味噌ラーメン、久しぶりに食ったけど……やっぱ落ち着くな」

 

「話、そらしとるやろお前……」

 

 店主の呆れた声が、また湯気の中に溶けていった。

 

 

▼▼▼▼▼ 

 

時間は遡り....3時間ほど前。

 

 カネバン有限公司の地下ドックは、いつも通り鉄と油の臭いが濃く漂っていた。

 

 無数のライトに照らされた薄暗い空間。その中心には、異様な存在感を放つ一機のモビルスーツが静かに鎮座していた。表面の装甲には白や薄い水色を基調とした曲線的な意匠が走り、そのシルエットは明らかにジオンのザクとは一線を画す“何か”....いやガンダムだった。

 

 ケーンはその胸部にパネルをこじ開けるようにしてノートパソコンを接続し、眉をしかめながら高速でキーボードを叩いている。スクリーンには無数のコードと機体情報が走り、彼の表情は難解なパズルに向き合う学者のように真剣だった。

 

「GQuuuuuuX……ジークアクスか?」

 

 リョウガが、接続中の画面を覗き込みながら呟く。その声には、どこか妙な引っ掛かりと警戒が滲んでいた。

 

「プログラム上のプレースホルダだから、本当の名前かどうかは分からないけどね」

 

 ケーンは答えるが、その声音にはわずかに緊張が混ざっていた。何か腑に落ちない点があるようだ。ふとキーを叩く指先が止まる。これ以上、踏み込めば自爆プログラムに触れてしまうらしい。

 

 その隣で、腕を組んでいたナブがリョウガに尋ねる。

 

「ところでお前、あのMSはどうした?」

「えっ? 隠してきたけど?」

「どこに?」

「……黙秘権を行使します」

「ふざけんな」

 

 

 ナブの眉が跳ね上がる。と、その直後――

 

「おいリョウガ!? テメーMS持ってんなら、明日のクラバには出てもらうからな!!?」

 

 怒号が背後から飛び込んできた。振り返ると、そこには顔を真っ赤にしてザクの残骸の上に立つジェジーの姿があった。ザクの右肩や左脚の関節部の損傷がかなり激しく見える。

 

「は? いや絶対に嫌だけど?」

 

 リョウガの答えは、相変わらず飄々としていた。どこ吹く風といった様子で、ポケットに手を突っ込んだまま歩き出そうとする。

 

「はぁぁぁぁ!? このザク見てみろ!? お前が連れて来たそのガキのせいでボロボロなんだよ!! 明日はクランバトルだってのに!! 違約金なんか払える金ねぇんだよ!! こっちの人生詰むんだよ!!?」

 

「……あぁ、それはご愁傷様」

 

「テメーー!!? マジでぶっ飛ばすぞ!!」

 

 怒鳴り散らすジェジーの言葉がドック内に木霊する。リョウガは肩をすくめ、目線を逸らす。

 

 一方、ドックの奥ではアンキーがジークアクスのコックピットに登り込み、無言で内部の構造を確認していた。彼女の表情は読めない。ただ、眉根を少し寄せたその顔には、得体の知れない興味と警戒が混在していた。

 

 その空気を切り裂いたのは、場違いなほど軽やかな声だった。

 

「リョウガ~~、門限~~」

 

 スマホを見たマチュが、のんびりとした口調で声をかける。状況など気にしない様子で、手をひらひらと振っている。

 

「....よし、帰るか」

 

 リョウガは当然のようにマチュの方へ歩き出した。

 

「おい!! まだ話は終わってねぇぞ!!?」

 

 ジェジーが声を荒げるも、その言葉を遮るように、アンキーの声が響く。

 

「初めてなのによく動かせたねぇ?」

 

 静かに、しかし明確な意図を持ったその言葉に、リョウガの足が止まった。

 

 (確かに……なんでだ?)

 

 リョウガは心の中で疑問が渦巻く。

 

「なんかわかんないけど、思った通りに動いてくれた」

 

 マチュの無邪気な答えに、リョウガの表情がわずかに強張る。

 

 (……なんだって?)

 

「なぁマチュ、どうやってこいつを操縦したんだ?」

 

「えぇ~~? なんか、手みたいな操縦桿? みたいなのが生えてきて、それに触れたら、思うように動いたっていうか?」

 

 その言葉に、リョウガの脳裏にあるものがよぎる。

 

 (……まさかサイコミュか? 不味いな……このガンダム、ジオン製ってだけでもキナ臭いってのに)

 

 心の奥に、黒くて重たい不安が沈殿する。

 

 そしてその沈黙を破るように、アンキーがぽつりと提案を放った。

 

 「アンタ……クランバトルやってみない?」

 

 一瞬の間。全員が固まる。

 

「「「……えっ!?」」」

 

 次いで、揃って響く困惑の声。

 

「……はぁぁ!?」

 

 リョウガは目を見開き、絶叫する。

 

「クラバは二機一組でエントリーする。ウチのザクは壊れたけど代わりにコイツがある。ナブが借りるザクをジェジーに回してM.A.V.を組めば……」

 

「おい……」

 

 リョウガはマチュの肩をぐっと引き寄せ、苛立ちを滲ませながら口を開いた。

 

「こいつはただの一般人だ。変なことに巻き込まないでくれ」

 

「おや? アンタは出てくれないんだろ? さっきも言ったようにウチのザクは壊れちまってるし、このジークアクスってモビルスーツは、そこのお嬢ちゃんしか動かせない。消去法としてはおかしくないだろ……?」

 

「……っ」

 

 リョウガは口を閉じる。心の中で葛藤が始まっていた。

 

――ヒュッケバインを、金儲けの道具にはしたくない。

――だが、マチュをクランバトルに出すなんて、もっと許せるはずがない。

――自分には、ここにいる全員に対して、確かに“借り”がある。

 

「アンキー……あいつは素人ですよ? そんな奴を巻き込む気ですか? おいリョウガ、お前もそれでいいのか!!」

 

 ナブが険しい顔で詰め寄る。

 

 だが、アンキーはまっすぐマチュの目を見て、ゆっくりと言った。

 

「アンタは、きっと来るよ」

 

 その言葉は――確かな信念を伴って、響いた。

 

▼▼▼▼▼

 

「しかし街中が大騒ぎだな……」

 

 リョウガは騒然とした通りを眺めながらそう呟いた。その言葉は、昨日の小競り合いを指しているわけではない。この混乱の元凶は別にあった――すなわち、“ソドン”と呼ばれる存在がこのサイド6に姿を現したことだ。

 

 その正体は、地球連邦軍が建造した強襲揚陸艦一番艦『ペガサス』。この世界では一年戦争中、ガンダムと共にシャア・アズナブルによって鹵獲され、ジオンの手に堕ちた艦として知られている。リョウガはそれを記憶の中から掘り起こしながら、眉をひそめた。

 

「まさか、本当に来るとはな……」

 

 大通りには怒声が飛び交い、「ジオン反対」「出ていけ」のプラカードを掲げた市民たちがデモ行進をしていた。それを取り囲む軍警の姿もあったが、対応に手を焼いている様子は一目で分かる。緊迫した空気が路地の奥にまで滲んでいた。

 

 そんな外の騒ぎを尻目に、リョウガの思考は別の問題に引き戻されていた。昨日の件、マチュとジークアクス、そしてクランバトルの話――彼の心は、それらで頭がいっぱいだった。

 

 (……こうなったら腹を括ってクラバに出るしかないか……許せ、ヒュッケ……俺も本意じゃないんだ)

 

 彼は小さくため息を吐きながら、心の中で自らの愛機に詫びる。

 

 そのときだった。不意に、空気の“揺らぎ”のような感覚が彼の皮膚を撫でた。懐かしい、だが得体の知れない気配。マチュでもない。もっと昔――そう、まるで......

 

「やぁ……また会えたね?」

 

 不意に背後から届いたその声に、リョウガは肩をビクリと震わせて振り返る。

 

 そこに立っていたのは、カラフルなカラースプレーの袋を肩に担ぎ、頭には小さなメカを乗せた少年――シュウジだった。

 

「あぁ……久しぶりだな」

 

 リョウガは頭を軽くかきながら、ふと先ほどの感覚を思い返す。

 

 (……なんだったんだ、さっきの感覚。いや、気のせいだ……そうさ)

 

「たしか……シュウジだったよな?」

 

「うん。久しぶりだね、リョウガ」

 

 その名前を口にされると、リョウガはわずかに目を細めた。初めて会ったとき、彼に感じた不気味さや異質な空気は、今は不思議と感じられない。それどころか、どこか穏やかな、懐かしさすらある。

 

「?……どうかしたかい?」

 

「いや、悪い……なんだか懐かしい感じがしたっていうか……スマン、忘れてくれ」

 

 苦笑いを浮かべながらそう言うと、リョウガは気を取り直すように歩き出した。シュウジもその隣に並ぶ。

 

「まだグラフィティはやってるのか?」

 

「うん……続けてるよ」

 

「そいつ、名前とかあるのか?」

 

 リョウガが視線を移した先には、シュウジの頭にちょこんと乗るメカの姿。

 

「コンチって言うんだ」

 

 リョウガとシュウジの二人は、並んで歩く足を自然と揃えながら、どこか穏やかな空気をまとって歩いていた。道すがら交わす会話は、深刻でも緊張感に満ちたものでもない。近況を語るような、あるいは言葉の端々に心の距離を確かめ合うような、柔らかな談笑が続いていた。

 

 アスファルトの隙間に咲いた名も知らぬ雑草が風に揺れ、遠くからは住宅街を抜ける風の音と、鳥のさえずりが微かに混じる。日差しはやわらかく、薄曇りの空が周囲を柔らかく包み込んでいた。

 

 そして、しばらく歩いた先――彼らが初めて出会った、あの橋の下が見えてくる。

 

 コンクリートの柱が両脇にそびえ、落書き混じりの壁にかすれた影を落とす薄暗い空間。都市の喧騒からはわずかに離れているせいか、そこだけ時間が止まっているかのような静寂があった。

 

 その一角に、ぽつんと立つ人影が見えた。

 

 リョウガは目を細め、その輪郭を確認する。赤い髪、ダボついた上着、その割には短めの制服のスカートで足を出している。そしてじっと壁に描かれたグラフィティを見上げる姿――

 

 マチュだった。

 

 彼女は壁一面に描かれた巨大なグラフィティを前に、目を輝かせていた。

 

「……あいつ、なんでこんなところに……?」

 

 不思議に思ったリョウガは、思わず足を止める。平日の昼間。時間的には学校の授業中のはずだ。ましてやこんな人気のない場所で、ひとりで壁画を見つめているなど、普段の彼女からは想像しがたい光景だった。

 

 (今日は……確か普通に登校してたはずだよな?)

 

 ふと、彼女の肩に差し込む光が強調される。陽の当たらない橋の下において、マチュの存在だけが妙に浮いて見えた。壁に描かれた色彩に目を奪われているのか、彼女はリョウガたちの接近にも気づいていない。

 

 リョウガは軽く息を吐き、ゆっくりと歩を再開した。

 

 (……あいつ、さては学校をサボったな?)

 

 リョウガが声をかけようと一歩踏み出そうとしたその瞬間、シュウジがすっとマチュの背後に回り、唐突に髪の匂いを嗅いだ。

 

「へっ!?」

 

「うぉおおいーッ!!?」

 

 反射的にリョウガが駆け寄り、マチュをシュウジから引き離す。がっしりと両腕で彼女を抱き寄せると、彼女の顔がリョウガの胸板にうずまった。

 

「うえっ!? リョウガ……なんで!?」

 

 顔を赤くしながら見上げるマチュをよそに、リョウガはシュウジに険しい目を向ける。

 

「その……この子は俺の恋人なんだ。そういうのは....控えてくれると助かる」

 

 ぎこちなくも真剣な口調。彼の頬にも、わずかに赤みが差していた。

 

「あぁ……それは悪いことをしたね。ごめんね。僕はシュウジ。君は?」

 

「マ、マチュ……」

 

 (……お、おいなんで照れてんだよ!?)

 

 リョウガはマチュの様子に思わず心中で突っ込みを入れた。

 

 シュウジは二人の反応を意に介さず、肩の袋を下ろすとスプレー缶を取り出して、壁のグラフィティに手を加え始める。

 

 「ほ、ほんとに悪気はなかったんだな?」

 

 リョウガは苦笑を浮かべつつも、声の調子にはわずかにどこか釘を刺すような硬さが混じっていた。腕の中にいるマチュを守るようにして抱き寄せながら、彼はシュウジに向けて静かに言った。軽く言葉を濁しているようでいて、その瞳は終始動揺していた。

 

 その言葉にシュウジはスプレーの動きを一瞬だけ止めると、困ったような笑みを浮かべて小さく頷いた。

 

「うん。本当に、ごめん」

 

 その素直すぎる謝罪に、リョウガの表情もやや力が抜ける。

 

 だが、ふと――腕の中からくすぐったいような声が上がった。

 

「リョウガ……その、苦しい」

 

 マチュがモゾモゾと身をよじる。リョウガに抱き寄せられたまま、彼女は彼の胸の中で小さく身じろぎしていた。身長差もあって、ほとんど抱きかかえられるような格好だった。

 

「あぁ..もう少し……こうさせてくれ」

 

 呟くように言ったリョウガの声は、どこか焦燥にも似た静けさを帯びていた。普段の彼からは想像できないほど、今は彼の腕に確かな“意味”が込められていた。

 

「えぇ……?」

 

 マチュの声は上ずっていた。戸惑いながらも、体を強く押し返すことなく、その場に留まる。彼女の頬は真っ赤に染まり、瞳はリョウガの胸元を見つめたままわずかに潤んでいた。

 

「二人は――向こう側は見えた?」

 

 橋の下に柔らかな日の光が差し込むなか、シュウジがぽつりと呟いた。壁にスプレーを走らせていた手が止まり、その目は遠く、何かを見つめるような光を湛えている。

 

 (向こう側……?)

 

 突然の言葉に、リョウガは思わず眉をひそめる。何の話だ、と問いかけようとした瞬間――彼の視界の端を、自転車がすーっと横切った。

 

 銀色のフレーム。自転車はリョウガたちの脇を通りすぎたかと思うと、少し先でぎぃ、とブレーキ音を立てて止まった。

 

「コンニチワ、オイソギデスカ?」

 

 自転車から降りた長身の少女――ニャアンだった。

 

「ん、ベツニイソイデハイマセンヨ?」

 

 シュウジが機械的なイントネーションで返事をしたあと、ニャアンは荷物を脇に下ろし、「アンタか、5000ハイトも払えるの?」と言いながら配達物を渡そうとシュウジのほうへと近づく。

 

「おいおい……」

 

 リョウガが思わず声を漏らす。その目は、突然現れた彼女に驚いていた。

 

「ニャアン、お前……あの後、どこ行ってたんだよ?」

 

「逃げたんだよ。軍警になんか捕まりたくないし」

 

 あっさりと返すニャアン。隠す気はまるでない。

 

「いや、それなら一言くらいあってもだな……」

 

「言おうとしたけど、二人ともモビルスーツでどっか行っちゃったじゃん……。ていうか……昼間から抱き合ったりして、本当に仲いいんだね、二人共」

 

 言葉の最後は少し意地悪く。ニャアンの声は淡々としているが、そこにわずかな棘が含まれていた。

 マチュはどこか何かに勝利を収めたような顔をしている。

 

「お、おいっ!? なんか言い方に語弊があるだろそれ!? そ、そもそもあれは――!!」

 

 リョウガが慌てて手を振った拍子に、近くにいたシュウジの手とぶつかった。

 

 ぱんっ――

 

 その一瞬の衝撃が、彼の手から滑り落ちたものがあった。

 

 コインだ。

 

 小さな金貨が宙を舞い、太陽の光を反射してキラリと輝いたかと思うと、ぽちゃん――と無情にも橋の下を流れる川へと落ちていった。

 

「「「「……あっ」」」」

 

 時間が止まったかのように、全員が同時に同じ声を上げた。

 

「お金……もう無い……。コンチ、どうしようか……あれが全財産なのに」

 

 シュウジは頭の上のメカ――小さなロボット、コンチに向かって、ぽつりと呟いた。

 コンチは「Gigagaga....」と電子音を鳴らせる。

 

「んなっ!?」

 

 その呟きを聞いたリョウガは、素で声を上げてしまった。眉間に皺を寄せ、首を傾げながらまじまじとシュウジを見る。

 

「あ、あれが全財産って……じゃ、じゃあ取引はどうすんのよ?」

 

 ニャアンが焦った声で問いかける。さっきまでの平静さはどこへやら。荷物を両手に持ったまま、顔が少しだけ青ざめていた。

 

 (ヤバい……これはマズい流れだ……)

 

 リョウガの額から、滝のような冷や汗が伝う。彼の脳裏には今、ある“奥義”が走馬灯のように蘇っていた。

 

 ――『いいかい?リョウガくん。痴情のもつれで話がややこしくなったときは、いっそジャンピング土下座だ。話を一瞬でリセットできる』――

 

 それはかつて艦内で加持リョウジに教わった、男のサバイバル術のひとつだった。

 

 

 こんなことを教える方も実践する奴もハッキリ言ってバカである。

 

 

 (……仕方ねぇ!もうこれしかねぇ!!)

 

 リョウガは気合を込め、ひざを深く曲げ、重力を味方につけて――

 

「ごめぇぇぇぇぇぇーーーーん!!!!」

 

 

 全力のジャンピング土下座が橋の下に炸裂した。

 

 小さな衝撃音。沈黙。そして――

 

「…………」

 

 あまりの勢いに、シュウジ、マチュ、ニャアン、そしてコンチまでもが言葉を失って見つめていた。

 




な、情けねぇ....こいつ.......

ヒュッケバイン「私はご主人の為ならなんでもやりますよ?」

正直な話、11話を見て、この作品の構想の何個かのネタは没になりましたが逆に今は新しく色々と練っていたりします。
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