結構前に見た考察とかだと200円換算で100万円程じゃないかっていうのを見た気がするんですけど…………まぁいくらマチュの家庭教師をしててお給金が良いリョウガでも簡単にそんな大金をPONと出せる訳がないんですが……………
橋のたもとに吹き抜ける風が涼しく頬を撫でていた。鈍く揺れる川面を見つめながら、リョウガは静かに息を吐いた。どこか後ろめたいものを抱えているかのように、彼の表情は陰りを帯びていた。
そしてゆっくりと振り返り、シュウジと正面から向き合う。まるで罪を告白する修道士のように肩を落とし、深く深く頭を下げた。
「シュウジ……………俺を殴れ…………力いっぱいに殴ってくれ。気が済むまで殴ってくれ」
真剣というにはあまりにも大仰なその表情と懇願する声に、傍らのマチュとニャアンはぎょっとして目を丸くする。冗談か芝居かと疑ったが、その場に漂うリョウガの重苦しい空気に、二人は何も言えなくなった。
もはや芝居じみたテンションなど吹き飛び、まるで己の全人生を背負ったような重さが、彼の言葉には宿っていた。
「えぇ…………そうは言われてもな」
シュウジは困惑を隠せず、小さく眉をひそめながら苦笑した。風に揺れる前髪が彼の瞳に優しく影を落とし、頭の上のコンチも不思議そうに「GAGA?」と首を傾げている。
「いいよリョウガ、僕は気にしてないから」
その優しさが、逆にリョウガの心をさらに深くえぐった。許されることがかえって辛い――そんな複雑な感情が彼を追い詰めていた。
「俺が良くないの!!!?」
思わず叫ぶように言い返したリョウガの声が橋の下に響き渡る。両手を震えるほど握りしめ、膝から崩れ落ちるようにして地面に跪いた。自分の過ちに対する罰を願い、彼は必死で訴えかける。
「偶発的な事故だったとしても、俺に責任しかないんだから!!!頼む!!!殴ってくれ!!!手を痛めるのが嫌なら蹴ってくれてもいいから!!!」
川のせせらぎが無情に響く中、リョウガは懺悔を求めていた。今すぐ許されなければ耐えられないと言わんばかりに、頭を地に擦りつけるほど深く下げていた。
シュウジはそんなリョウガをじっと見つめ、静かに息を吐いた。優しくため息をついたような仕草で、一歩だけ前に踏み出す。
「じゃあ」
彼の声に、その場にいた全員が静かに息を飲んだ。マチュもニャアンも、次の瞬間何が起きるのか緊張の色を見せている。シュウジはそのまま右手をゆっくりと振り上げたが――。
ぴとっ。
それはあまりにも優しく、力強さとは程遠い、そっと触れるだけの繊細な平手だった。シュウジの手のひらは、まるで慰めるようにリョウガの頬にそっと置かれただけだった。
「……これでおしまい。チャラだよ?」
あまりにも穏やかで温かなシュウジの声に、リョウガの頬を熱い涙が伝った。握りしめていた拳をほどき、そのままシュウジの腰にすがりついてしまう。
「うぅ……………お前はなんていい子なんだ……!!」
川辺の冷たい風が彼らを優しく撫でていく中、二十歳の青年が年下の少年に抱きついて泣きじゃくる姿は、傍目には滑稽でしかなかった。哀れというよりもむしろ情けない。
「や、やめなよリョウくん、色々と恥ずかしいってば……!」
ニャアンが慌ててリョウガの肩をつかみ、なんとか起き上がらせようとしているが、彼の感情は爆発したかのように止まらない。
「リョウガ……たまにテンションが乱れると様子がおかしいことになるよね……」
マチュは呆れと驚きの入り混じった表情で冷静に言った。その視線の先では、シュウジの頭に乗ったコンチが小さく「GIGAGA」と鳴き、状況を茶化しているかのようだった。
橋の下で繰り広げられるこの奇妙な光景は、まだしばらく続きそうだった。
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かすかな日差しが川辺に差し込んでくる。先程までの軽妙で妙におかしな空気が一転、リョウガは深く眉間に皺を寄せて真剣に考え込んでいた。
「まぁ真面目な話、やってしまったものは仕方ない。俺が立て替えるよ」
そう告げる声は冷静で落ち着いているように聞こえたが、その内心では金銭面の不安が渦巻いていた。
リョウガの言葉を聞いたニャアンが、困惑と疑念の入り混じった目を向けた。
「リョウくん、5000ハイトも払えるの? 今まで頼んできた依頼品のほとんど1000ハイトもいかないのに?」
その鋭い指摘が彼の胸を刺した。ニャアンに図星を突かれ、リョウガは口ごもる。
「それは……うん」
ごまかしも利かない現実に直面し、彼の思考は再び迷路に入り込んだ。実際、普段の暮らしぶりを考えると、彼が即座に5000ハイトという大金を払う余裕などあるはずもない。自分でも情けなく感じ、苦い気持ちを噛み締めていた。
(参ったな……いったいどうしたらいいんだ……?)
その時、ふと彼の脳裏にひとつの可能性がよぎった。頭の片隅にずっと引っ掛かっていた、あのクランバトルのことだ。
(……クソ、これしかないか)
決意を固め、リョウガは小さく息を吸い込んで口を開こうとした。その瞬間、横から強い声が彼の言葉を遮った。
「そうだ!! クランバトルに出よう!!」
マチュの明るくはっきりとした声に、リョウガは思わず目と耳を疑った。
「私と君でクランバトルに出るの!! 賞金も出るんだって!!」
無邪気な笑顔でそう言い切るマチュに対し、リョウガは即座に彼女の肩を掴んだ。顔には明らかな不安と苛立ちが浮かぶ。
「おい……マチュ待て」
「なに? いい考えでしょ?」
無邪気に首を傾げる彼女の姿に、彼の胸は更に締めつけられた。
「俺、言ったよな? クランバトルに出るなんて反対だって?」
それでもマチュは引き下がらない。真っ直ぐに見つめ返してくる彼女の瞳には、どこか覚悟すら漂っていた。
「リョウガが出たくないのは知ってるよ。だから私が出るんだよ」
「それも俺は反対したはずだぞ?」
言い争うような口調になる二人。リョウガの声に焦りが滲む。
「それじゃあ、シュウジのお金の件どうするの? リョウガも払えないんでしょ? 今大金を手に入れる方法ってこれしかないじゃん!」
マチュの強い口調が、リョウガの心を容赦なく追い詰める。彼もまたその通りだと理解していたが、それを認めることは、彼女を危険な状況に晒すことを許容することと同義だった。
「あのな……確かに言わんとすることは分かるが」
言いながらリョウガは、マチュの目を真っ直ぐに見返した。そして、その真剣な瞳の中に宿る決意を感じ、思わず心が揺らぐ。
(こうなったらテコでも動かないのはわかってるが……)
彼女のその頑固さに、彼は何度も敗北してきたのだ。そして今回もまた、それは変わらなかった。
「……ハァ。わかったよ、じゃあ条件として俺も一緒だ」
ついに折れたように吐き出したリョウガの言葉に、マチュは少し驚いて目を丸くした。
「えっ、でもリョウガ、クランバトルに出たくないんでしょ?」
疑問と戸惑いが入り混じったその顔に、彼は少しばつが悪そうにそっぽを向く。
「それとこれとは別だ。お前が危ない目に遭うくらいなら俺もついてくよ……それに」
ふと言葉を濁し、リョウガの視線が一瞬シュウジの方へ流れた。彼の胸の内には、漠然とした嫉妬のような感情が渦巻いていた。
「それに?」
その微妙な感情に敏感に気付いたマチュは、少し意地の悪い笑みを浮かべて問い詰めるように尋ねた。
「なんか……お前を取られるみたいで嫌だ」
「誰? もしかしてシュウジ?」
途端に顔を赤らめ、頬をかくリョウガ。図星を突かれた彼の動揺に、マチュは嬉しそうに口元を緩める。
「あ~~~? 妬いてるんだ~~? さっきまで私をずっと抱きかかえてたのもシュウジにヤキモチ焼いてたからだったんだ~~? ふ~~~ん?」
からかうように言う彼女に、リョウガはさらに狼狽した様子を隠せなかった。ぶっきらぼうに視線を逸らしつつ、悔し紛れに呟く。
「う、うるさいな……俺だって人並みに嫉妬くらいするっての...お前だって人の事言えないだろ」
「えへへ~!! お互い様~!」
その言葉に、周囲はいつの間にか暖かな空気に満ちていた。橋の下で交わされる二人のやりとりを、ニャアンとシュウジはどこか微笑ましく見守っていた。
先ほどまでの緊迫感が消え去り、どこか微笑ましい空気に変わったと思ったその瞬間――シュウジがごく自然に、隣に立っていたニャアンの方へ静かに近づいた。
「ん?」
ニャアンが振り返ったその刹那、シュウジはまるで花の香りを嗅ぐかのように、彼女の髪にそっと鼻を近づける。ニャアンの瞳が驚きに大きく見開かれ、頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
「えっ!? 何!? ちょっと…!?」
パッと飛び退くように距離を取り、彼女は恥ずかしそうに後ずさった。その動揺ぶりは明らかで、いつものクールさはどこへやら、少女らしい素直な戸惑いがはっきりと現れていた。
その様子を見ていたリョウガは、ふと肩の力が抜けるのを感じた。
(……なるほどな。やっぱりあいつはそういう奴なのか。)
先ほど彼がマチュに対してしたように、シュウジが行ったのは特に悪意のない、純粋な好奇心か無意識の行動なのだと確信した。彼がマチュに近づいたときに感じた漠然とした嫉妬や警戒心が、完全に消え去っていくのをリョウガは自覚した。むしろ、その独特な距離感がシュウジという人物らしいようにも感じられ、微かな笑いがこみ上げてきた。
「……急に何……?」
ニャアンが戸惑いを隠せないまま、恐る恐る尋ねる。彼女の表情には怒りではなく、むしろ純粋な驚きと疑問が混じっている。
シュウジは少し考えるように首をかしげた後、ごく自然な口調で告げた。
「うん……”いい匂い”だったから、つい。悪気はないんだ」
彼の言葉に、ニャアンはますます困惑した表情を浮かべながら、戸惑いを隠すようにうつむいた。マチュはその様子を見て楽しげに笑いを漏らしている。
「シュウジって、なんか面白いよね……」
マチュがそうつぶやくと、リョウガも軽く頷いた。
「ああ、俺も最初は驚いたけどな。まあ、悪い奴じゃないってことはわかったよ。」
その言葉に、シュウジは軽く微笑み返した。そして、ふいに真剣な瞳で三人を見つめると、小さくうなずいて告げた。
「……三人とも、僕についてきて。」
シュウジの声は、いつもの淡々とした口調とは少し違い、妙な説得力を持っていた。その静かな瞳の奥には、何か大切なものを伝えたいような、あるいは彼自身も明確にはわからない感覚があるように思えた。
「え? どこに行くの?」
マチュが首を傾げながら尋ねる。ニャアンもリョウガも、その意外な展開に疑問符を浮かべていたが、不思議と断る気は起きなかった。
「 行けば分かるよ。大丈夫、悪いようにはしない。」
そう言って、シュウジは橋の下からゆっくりと歩き出した。その背中を見つめながら、リョウガは再び胸の奥にかすかな懐かしさと共に、期待と不安を混ぜ合わせたような不思議な感情を覚えていた。
「……まあ、行ってみるか。」
リョウガが促すように言うと、マチュとニャアンも軽く頷き、三人はシュウジの背中を追って歩き始めた。柔らかく流れる風が、四人の背中を静かに押すように通り過ぎていった。
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シュウジに導かれるまま、リョウガ、マチュ、ニャアンの三人は地下トンネルの薄暗い通路を歩いていた。古びた配管や剥き出しのコードが壁を這い、湿気を帯びた冷たい空気が頬を撫でる。
長い通路を抜けると、眼前に広がったのは――巨大な格納庫だった。
「ここは……?」
マチュが息を飲んで呟く。目の前の壁や床、天井に至るまで、あの橋の下に描かれていたような色鮮やかなグラフィティが隙間なく塗り込められている。その眩いばかりの色彩の洪水の中に、ひときわ異彩を放つ存在が静かに佇んでいた。
四つん這いの姿勢を取った、“赤いガンダム”である。
「……まさか、シュウジ……昨日、ジークアクスと戦っていたのは……?」
リョウガは眉をひそめながらシュウジに問いかけた。その視線の先で、シュウジは静かな微笑みを浮かべ、小さく頷く。
「うん、僕だよ。昨日は落とした盾を拾ってくれてありがとう」
さらりと言われた言葉に、リョウガは驚きを隠せずにシュウジを凝視した。その少年の表情はどこまでも穏やかで、まるで昨日の激しい戦闘とは無縁のように見えた。
リョウガは慎重に一歩前へ踏み出すと、ゆっくりと赤い機体を見上げた。その赤は鮮烈で、不思議と胸騒ぎを誘う色だった。機体全体に細かな傷や焼け焦げた跡が残っているのは、間違いなく昨晩の戦闘の証だった。
「どこでこれを?」
リョウガが静かに尋ねる。シュウジはしばらく口を閉ざした後、どこか曖昧に答えを濁した。
「“ある人”に譲られたんだ……」
「ある人……? まさか……」
リョウガの脳裏を過ぎったのは、赤い彗星――シャア・アズナブルの名前だった。しかし、その問いは今ここで口にすべきではないと直感的に悟ったリョウガは、その言葉を飲み込んだ。
「いや……この話は二人きりになれた時に話そう……」
シュウジは短く頷き、それ以上は口を開かなかった。そして一瞬の沈黙の後、彼の瞳が真剣さを帯びた光を放った。
「リョウガ……君に頼みがある」
「……なんだ?」
その真摯な表情に引き込まれるように、リョウガは問い返す。
「僕をマチュとクランバトルへ出させてほしい」
シュウジの言葉は静かだが、その内に秘められた熱意は明らかだった。しかし、リョウガはその意図が全く理解できず、疑問を隠さないまま眉をひそめた。
「悪い……その理由を聞いてもいいか? これはさすがに嫉妬とかじゃないんだ、なんでそれにこだわるのか疑問でな」
その言葉に、シュウジは軽く息を吸い込むと、目つきをさらに鋭く変えた。普段の柔らかで掴みどころのない彼の表情とは全く異なり、その瞳には明確な意思が浮かんでいた。
「“彼女と戦え”、とガンダムが言っている」
予想だにしなかったその言葉に、リョウガの心臓が小さく跳ねた。
「ガンダム……? まさか……」
再びリョウガは、目前にある赤いガンダムを見上げる。鋭い装甲のライン、無機質なメインカメラの奥――その機体からは確かに、ヒュッケバインと同じような何か、意思のようなものが感じられた。
(妄言か? いや違う……シュウジからは何かを企むような悪意も、狂気も感じ取れない。むしろ、なぜかこのガンダムからも……確かに何かが伝わってくる気がする……)
リョウガの背筋に、得体の知れない予感が走った。赤いガンダムはまるでリョウガを見つめ返すかのように、静かにそこに佇んでいた。
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カネバン有限公司の地下ドックの奥、更衣室には静かな緊張感が漂っていた。金属のロッカーがずらりと並ぶ中、湿った床と空気が、ここが日常的に使わている空間であることを物語っている。
ナブは腕を組み、ロッカーに背を預けたまま、じっとリョウガの動きを見つめていた。彼の表情にはどこか訝しげな色が浮かんでいる。
「いいのか? リョウガ……あんな素人に期待してるわけじゃないが、お前が出た方が明らかに勝率は高いんだ。あの子が言ってる奴のことだが……俺たちはそいつの顔も名前も知らねぇ。信用できるのか?」
その問いには、苛立ちや焦りではなく、率直な懸念が込められていた。
「分かってるよ、開始時間ギリギリになるまでに来なかったら俺が出る。それでいいだろ?」
リョウガはそう言いながら、ロッカーの扉を開け、無言で脱いだ服をしまっていく。彼はトランクを開け、一着のスーツを取り出してそれに着替える。着替えを終えた彼の姿は、一線を画していた。
そのスーツは、ひとことで言えば「地味」だった。だが、ただの地味ではない。機能性に特化した、まさに実用本位のデザイン。全体は深い紺色でまとめられており、唯一のアクセントとして胴部に黄色い縦ラインが二本走っている。飾り気は一切なく、戦うためだけに存在するかのような姿だった。
ナブは無意識に眉をしかめ、視線をそのスーツに向けた。
「なぁリョウガ……お前、やっぱり連邦軍か何かに昔いたのか?」
「ん?」
リョウガはヘルメットを手に取ったまま、ちらりとナブを見る。
「まぁ……そんなところだな」
それ以上詳しく語る気はないのか、彼はヘルメットをかぶりながら曖昧に答えた。バイザーが顔を覆い、暗いガラス越しにその表情は完全に遮られる。
「そうか……にしても地味って言っていいくらいにシンプルだな。お前のスーツ」
「...いや、これでもマシにした方なんだぞ? 周りもお前みたいに“地味すぎる”だなんだ言うから、色を足したんだ」
「その黄色い線のことか?」
「うん」
「……そうか」
ナブは小さく肩をすくめる。どこか腑に落ちないような口調だったが、それ以上は何も言わなかった。
(正直言って、周りが派手過ぎるんだよな……女の子たちの恰好なんて毎回、目のやり場に困ってたし。それもあってメットから表情を分からなくしてもらったんだけど)
ヘルメットの内側でリョウガは内心つぶやく。スーツの防護性能は高い。防刃・防弾に加えて、衝撃にも強く、戦闘時の負荷軽減にも優れている。そもそもこれは彼がよく顔を出していた「光子力研究所」に頼んで制作してもらった、いわば特注品だった。
デザインの素案は自分自身で描いたものだ。つまり、ナブの「地味」という評価は、紛れもなく彼自身のセンスへの評価でもある。
それでも、派手さよりも機能を選ぶのが彼の信条だった。目立つよりも、生き残る方が先――それが、戦いの中で得たリョウガなりの哲学だった。
更衣室の時計が無情にも時を刻んでいく。クランバトルの開始時間が、刻一刻と迫っていた。
ちなみにリョウガくんの性格はアラドを参考にしていたりします。たまに言動が三枚目になったりするのはそれが理由です。
彼が初めて(恋愛的な意味で)好きになったのがマチュなので妬くときは割りとちゃんと妬きます。
チっ……………こいつら隙あらばイチャイチャイチャと...