今のヒュッケバインの状態は30thというよりもフルアームドヒュッケバインに近いです。
ただし色は水色ではなく紺色、ブラックホールキャノンも背負ってない。
現状、そこまで火力を必要とする敵がいないのでリョウガ君が呼び出してもヒュッケバインがフル装備状態じゃない(手持ち武装がロシュセイバーのみ)のはそれが理由です。
ハイト周りはあまり深く考えないようにします。なんか頭が痛くなってくるというか.....
分厚く冷たい静まり返ったエアロックの前にヒュッケバインが静かに佇む。
蛍光灯の薄明かりが頭上から降り注ぎ、鈍色の装甲に淡い反射を落としていた。まるで戦場を目前に控えた戦士が静かに目を閉じ、嵐の到来を待っているかのように――ヒュッケバインは重々しく、黙して立ち尽くしていた。
そのコクピット内。電子音すら息を潜めるかのように静まり返った空間に、リョウガは一人、シートに深く体を預けていた。彼の指先には端末が握られ、画面にはクランバトルのライブ映像が映し出されている。
赤く鋭い機影が、視界の端から飛び込んできた。間に合った。シュウジとあの“赤いガンダム”が、定刻ギリギリで戦場に姿を現した。
「……来たか」
ポツリと漏れた声に、僅かな安堵がにじんでいた。一度メットを脱ぎ、額にかかった前髪を無意識にかき上げ、リョウガは静かに息を吐く。
だが、胸の奥に渦巻く不安は、それだけで消えてはくれない。むしろ今は、そこからが本番だった。
画面の中、ジークアクスが駆ける。マチュが操縦桿を握っている姿が想像できた。初陣に臨む少女――その背中は、勇ましさを宿しているようでいて、どこか危なげな影も纏っていた。
「……マチュ……」
声に出す代わりに、胸の奥でその名を呼ぶ。彼女は、たった数日前まで戦闘とは無縁だった。その手で初めてMSを動かした日から、まだまともな訓練すら積んでいない。
なのに今――実戦の場に立たせてしまっている。
(……バカだよ、俺は)
リョウガは拳を握りしめた。グローブ越しに爪が掌に食い込む感覚。自分の無力さと、どうしようもない現実に苛立ちが募る。
いくらガンダムファイトのように「頭部の破壊で勝敗が決まる」とルールがあっても、所詮それは建前に過ぎない。実際に、過去には命を落とした者もいた。装甲を貫く銃火器、破片、爆発――モビルスーツの戦闘が「死」と無縁であるはずがない。
それでも彼女は、自ら戦うと決めた。
(あいつを止められなかったのは……俺の甘さだ)
だからこそ、せめてもの代償に、リョウガはここにいる。
(シュウジ……頼む。あいつを、アマテを守ってやってくれ)
自分の代わりに最前線に立った少年へと、信頼と不安の入り混じった思いを託す。コクピットの中、モニターの青白い光だけが揺れていた。リョウガの瞳もまた、何かを押し殺すように深く沈んでいる。
冷たい鉄に包まれたヒュッケバインの中――誰にも見られない場所で、リョウガは静かに己の弱さと向き合っていた。戦場に立ち込める砂煙の中、赤いガンダムとジークアクスが並び立っていた。舞台はミノフスキー粒子が撒かれた宇宙空間――これが初めての宇宙での戦い。
マチュはジークアクスのコクピットに座り、両手で操縦桿をぎゅっと握っていた。唇を噛み、緊張を押し殺すように息を呑む。
(落ち着け……私ならできる。リョウガも、見てくれてる……)
そう己に言い聞かせていた。だが、相手は想像よりずっと“本物”だった。
敵チームのモビルスーツは、カスタムされたザク。両手には連射式のマシンガン、左腰に装備されたヒートホークが鈍く光る。まるで狩人のような動きで遮蔽物を飛び越え、こちらへ向かってくる。
「ッ!」
マチュが操縦桿を倒すと同時に、ジークアクスは横へ跳躍する。だが動作はわずかに鈍く、敵の射線を完全には外しきれなかった。
マシンガンの火線が空を裂き、機体の脚部装甲に数発が命中する。
「っく……!」
衝撃に耐えるマチュの身体が揺れた。機体はよろめき、立て直しの隙を突くように、敵が一気に間合いを詰めてくる。
(まずい――次は近接に持ち込まれる!)
ジークアクスのカメラアイが瞬き、視界の中で敵がヒートホークを振りかざした。
――その瞬間だった。
『右に避けろ!!!』
脳の奥に、鋭い声が突き刺さった。まるで雷のように、意識に直接飛び込んできたその声は、誰よりも聞き慣れたもの。
「リョウガ……!?」
思わず反応するように、マチュの手が右の操縦桿を引いた。ジークアクスが瞬時に右へ跳ぶ――その一拍後、ヒートホークが左側の装甲をかすめるように振り抜かれた。もしそのまま真っ直ぐ進んでいれば、頭部に直撃し破壊されていた。
間一髪だった。
跳躍の余韻で体勢を崩しながらも、マチュは息を荒げ、かすれた声で叫ぶ。
「ありがと……リョウガ……!」
そして同時刻。静まり返った地下トンネル、その奥のヒュッケバインのコクピット内。
リョウガはヘルメット越しに眉をひそめ、深く息を吐いていた。端末には、マチュのジークアクスが無事に敵の攻撃を回避した姿が映っている。
(……間に合ったか)
心の奥がざらつくような感覚と共に、こめかみに冷たい汗が流れていた。あの瞬間、意識せずとも反射的に思念が流れ出していた。リョウガの中に眠る“ニュータイプとしての直感”が、マチュの危機に呼応したのだ。
思考の底で何かが軋んだ。だが、今はただ――彼女が無事だったことに、感謝するしかなかった。
▼▼▼▼▼
結果的に、マチュとシュウジのチームは今回のクランバトルで勝利を収めた。
赤いガンダムとジークアクス。戦い慣れた者と、感覚だけで動く者。二人の連携は決して完璧ではなく、粗も多かったが、それでも――勝利は勝利だった。
地下のヒュッケバインの中で、リョウガはその様子を黙って見届けていた。
「……やれやれ。運も味方したな」
ほっとしたように息をつきながら、椅子にもたれかかる。その顔には疲労と安堵が同時ににじんでいた。
(……まぁ、まだまだ課題は山積みだが。まずは無事に帰ってきてからだ)
「そろそろ軍警の連中も来る頃だろう。迎えに行くか」
そう呟いた刹那――
「……なんだ?」
端末の映像に、妙な違和感が走った。
モニターに映る戦場。そこに黒い影が六つ、にじむように現れる。まるでノイズが走るような、不自然な登場。マチュたちの勝利ムードを、一瞬で凍り付かせる威圧感。
「なにか来る……?」
画面を見るリョウガが呟く。その視線の先――姿を現したのは、見慣れない機体.....いや
量産型ヒュッケバインMk-Ⅱ――それが、6体。
「ッ! 量産型Mk-Ⅱ……!? なんで……こんなもんが、ここに……っ!」
リョウガの声に、明確な動揺が混じる。胸中に冷たいものが流れ込んでくるのを感じた。
それは彼の“世界”において、地球連邦軍が正式採用した量産型のヒュッケバインMk-Ⅱ。白い装甲、特徴的なシルエット、無骨で統一されたモノアイのゴーグルヘッド。V字アンテナやツインアイは廃され、性能の均一化を目的としたシンプルな量産機だった。
(まさか……なんでここに……? 俺の世界の連邦の軍備が、なんでこの世界に……?)
頭の中を疑念が駆け巡る。その疑念は、恐怖よりも強烈な不信だった。
ヒュッケバイン――本来、リョウガにとってそれは信じ、共に戦う“相棒”であるはずの存在。それが、まるで敵としてマチュたちに襲い掛かろうとしている。
「くそッ……!」
操縦桿を握る手に自然と力がこもった。
その頃、ポメラニアンズの面々が、クランバトルの中継映像に釘付けになっていた。
だが、戦況はもはやゲームの範疇ではなかった。
「おいおいおい……あいつら、何だよ!? 見たことねぇ機体だぞ……!?」
最初に声を上げたのはジェジーだった。端末のスクリーンを覗き込みながら、瞳を見開き、思わず立ち上がる。戦場に突如現れた、無機質なゴーグルアイを備えた謎のMSたち。その挙動には、明確な“殺意”があった。
「違う、あれ……軍のものじゃないか? 数からしても、民間レベルじゃない」
ケーンが顎に手を添え、眉をひそめる。彼の目は、戦場の動きの異常性を的確に捉えていた。マシンガンとライトソードによる、躊躇のない連携攻撃。クランバトルではありえない、本物の軍事戦闘。
「ナブ! 流石にシャレになんねーよ! あんなもん、クランバトルのルールの範疇じゃねぇだろ!?」
ジェジーが叫ぶように言う。その声は、単なる怒りや驚きではなく、恐怖を帯びていた。
ナブも思わず椅子から腰を上げた。通信機器のランプが点滅し、緊急信号が複数発せられている。だが、彼は今もなお行動を決めかねていた。軍警の応答はない。――というより、意図的に沈黙しているようにも思える。
「くそっ……軍警の奴らも、まだ来てねぇし……アンキー、どうします!?」
ナブの問いかけに、腕を組んでいたアンキーがようやく動いた。彼女は片手を端末に伸ばし、即座にリョウガとの通信回線を開く。
「リョウガ……不味いことになったよ。現場に軍の機体が介入して――」
『言われなくても分かってる!! さっさとこのエアロックを開けてくれ!!!』
鋭く、けれどどこか凛とした気迫に満ちたリョウガの声が、スピーカーから響いた。
その瞬間、アンキーの口元にうっすらと笑みが浮かぶ。それは皮肉でも呆れでもない。――戦うべき者が、戦うべき場所に向かった。それを喜ぶ者の顔だった。
「……そうかい。ケーン開けてやりな」
「了解!!」
ケーンが切羽詰まった表情でパソコンを操作する。
アンキーは静かに呟き、背を預けるように壁に寄りかかる。その瞳には、すでに別の何かを見据える光が宿っていた。
▼▼▼▼▼
「こいつら……一体!?」
マチュの声が震えていた。目の前の光景は、もはや模擬戦の延長ではなかった。クランバトルのルールや配慮など微塵も感じさせない、無機質で冷酷な殺意。
量産型Mk-Ⅱの動きには、一糸の迷いもなかった。まるでプログラムされたかのように連携を取り、明確に“殺意”を持って動いている。まさに軍用機そのもの、命のやり取りを前提とした動きだった。
「っ……! マジで、何なんだこいつら……!?」
その隣で、赤いガンダムが一機をデブリに叩きつけ、ガンダムハンマーを振り下ろす。重力と慣性を乗せた鉄塊が装甲を砕き、量産型の一体が爆炎の中に沈んだ。
『マチュ……彼らは本気で僕たちを殺す気みたいだ。気を抜いては駄目だよ』
通信越しのシュウジの声は、いつも通りに静かで、しかしどこか切迫したものを含んでいた。
「そんなっ……!?」
悲鳴のようなマチュの声が漏れる。だが、その動揺に追い打ちをかけるように、一体のMk-Ⅱがジークアクスに組みついた。
「ッ……なっ……!?」
衝撃が機体を揺らす。腕を抑えられ、自由を奪われたまま、視界の真正面には――光剣 ライトソードを構えた別の一体が迫っていた。
(味方ごと!? ……こいつら、何がしたいの!?)
まさにジークアクスごと味方機を切り裂こうとしている。それは効率でも戦術でもない。ただの破壊衝動。殺すためなら、味方すらも利用するという異様な動きだった。
(……不味い、不味い、不味い――!!)
「離してッ……!!」
マチュが必死に機体を揺らすが、組み付きの拘束は解けない。
『マチュ――ッ……くっ!!』
もう一体の量産型が赤いガンダムへと斬りかかる。シュウジの進路を遮り、ジークアクスを援護する余裕すら奪っていた。
光が閃く。セイバーが振り下ろされる。次の瞬間――
『リープスラッシャーッッッ!!!!!』
それは空を裂いた、青白い螺旋の光。光輪が一閃し、ジークアクスに迫る量産型の胴を縦に断ち割った。
爆発音が、爆風と共に辺りを包み込む。火の粉が舞い、煙が広がる中、その向こうから姿を現したのは――
ヒュッケバイン。蒼い閃光を身にまとい、ライフルを手に構えた深紺の影。
『ギリッギリ間に合ったみたいだな……焦るぜ、ホント』
戦場に凛然と立つヒュッケバインのコクピット。その中で、リョウガは苦々しく舌打ちをした。
(……ったく、何なんだあの量産型どもは。味方ごと殺ろうとするなんて、正気じゃねぇ……)
「リョウガ!!」
ジークアクスのコクピットから、マチュが叫ぶ。その声に、リョウガはすぐさま答えた。
『応!! 待たせたな!!』
「遅い!!!」
『滅茶苦茶急いで来たっての!? これでも最速でな!!』
短いやり取りの中にも、確かに感じられる“絆”のようなものがあった。
ヒュッケバインのツインアイが光を帯びる。リョウガは視線を前方に定めると、操縦桿を握りなおした。
『よし……こっからは、俺たちの番だ』
宇宙を切り裂くようにして加速するヒュッケバインの機体。そのコクピット内で、リョウガは静かに呼吸を整えながら、フォトンライフルを左手に構えた。操縦桿を握り、機体の細かな挙動に意識を集中させる。ブースターの出力、センサーの追従性能、敵との相対距離――それらを一瞬のうちに把握し、思考を加速させる。
モニターには、既にマチュとシュウジの機体が映っていた。ジークアクスは左斜め前方でヒートホークを構え、赤いガンダムは右に展開しながらガンダムハンマーを振るっている。それぞれ一機ずつを引きつけてはいたが、機体の軌道に余裕はなく、長引けば不利になるのは明白だった。
だが、リョウガの目に映ったのは、敵の妙な"空気"だった。
(……生気がない)
機体の挙動は正確だ。迷いも、躊躇もない。だが、そこには"人間特有の揺らぎ"が一切なかった。
リョウガはわずかに目を細め、念動力に意識を向ける。広がる意識の波紋の中、敵機の内部を探ろうとする――が、何も感じられない。ただの機械のような、空虚な金属の塊。
(やはり……無人機か)
戦慄が背筋を駆けた。だが同時に、迷いが一つ、彼の中から消えた。
『二人とも!!こいつら無人機だ!!遠慮なんかしなくていい!!! シュウジ、右に誘導してくれ! マチュ、左に回り込め! フォローは俺がする!』
リョウガの言葉は、まるで心の芯に火を灯すように、明快だった。
『了解。コンチ、いくよ』
赤いガンダムが応じると同時に旋回。機体が大きく右へ切り込み、ガンダムハンマーが鋭く振るわれる。その勢いに押されるように、敵の一機が姿勢を崩しかけた。
「わ、分かった!」
ジークアクスが左から跳躍し、軽やかな推進音と共に滑空する。未熟な操縦ではあるが、そこに迷いはなかった。彼女なりに、確かに"戦場にいる"という意志を示していた。
『今だ……!』
リョウガが狙いを定め、トリガーを引く。フォトンライフルから迸る白い閃光が、味方二機の動きに引きずられた量産機の胴体を正確に貫いた。爆発が真空の闇に火花を咲かせる。機体が分解され、火球となって霧散した。
一体、撃破――しかし、安堵する暇はない。
マチュの死角から、もう一機が背後を狙って突進してくる。その手にはライトソード。鈍く光を帯びた刃が、振り下ろされようとしていた。
『後ろだマチュ!!』
リョウガの叫びと同時、赤いガンダムがブースターを吹かし、ジークアクスの肩を掴んで引き寄せる。その動作はまるで舞踏のように滑らかで、間一髪、斬撃は空を切った。
即座にリョウガのヒュッケバインが背後に回り込み、敵の腰部に蹴りを叩き込む。衝撃の余波が空気のように伝わってくる。
『いい連携だね……!』
シュウジの静かな声が、緊張の糸を少しだけ緩める。
『ああ、そっちこそな!』
「ふふっ……ちょっと楽しくなってきたかも!」
マチュの無邪気な笑いが、戦場の空気を一瞬和らげた。
三機の機体が、背中を預け合うように再び集結する。それぞれが前方を睨みながら、完全に三位一体の布陣を構築していた。戦場のノイズが、今はまるで彼らの"呼吸"を包むリズムのように感じられた。
これまで未熟だった連携が、この瞬間だけは嘘のように洗練されている。視線ひとつ、動きひとつが、次の一手を導いている。訓練されたチームのような見事な動き。それが自然と形になっていた。
リョウガは再びフォトンライフルを構え、煙の向こうにかすかに浮かぶ残る敵影に狙いを定める。
『――よし、また次が来るぞ! 合わせろ、俺たちの力で!』
その声に、二人が同時にうなずいた。
無音の宇宙に、しかし確かに存在する熱気。
三つの心が、いま戦場でひとつになろうとしていた。
▼▼▼▼▼
無重力の宙に、赤いガンダム、ジークアクス、そしてヒュッケバインが、まるで星々の狭間に浮かぶ三つの矢のように並び立っていた。背中合わせに構えた彼らの周囲には、無機質な沈黙のなか、残された三体の量産型ヒュッケバインが円を描くように取り囲んでいる。
頭部のゴーグルアイが淡く瞬き、冷酷な判断アルゴリズムのもと、じりじりと殺意を滲ませながら距離を詰めてくる。
「……数はあと3体。ここからが正念場だ」
リョウガはコクピットの計器を睨み、フォトンライフルのエネルギー残量を確認。安定しているとは言い難い戦況に、思わず奥歯を噛みしめる。だがその瞳には、揺るがぬ闘志の炎が宿っていた。
『リョウガ、こっちにも来てる!!』
マチュの悲鳴に近い通信が耳を貫いた。即座に彼の意識は左手前方の敵影に集中する。マシンガンを連射しながら突進してくる一体。機体のスラスターが蒼白い尾を引き、まるで刺突の槍のようにジークアクスへ殺到してくる。
「マチュ、上へ跳べ!」
言葉より先に、ジークアクスが反応する。機体下部のスラスターを噴かせ、青白い光と共に宙を駆ける。マシンガンの弾幕が虚空を切り裂くが、その軌道を読み切ったかのようにかわしてみせた。
「ぜぇぇぇぇいッッッ!!!!」
その間隙を縫い、リョウガのヒュッケバインが加速。フォトンライフルを投げ捨て、宇宙空間の慣性を味方につけた滑るような動きで懐へ潜り込む。抜き放ったロシュセイバーが脚部を一閃、続いてリープスラッシャーが軌跡を描きながら回転し、量産機の胴体を真っ二つに切り裂いた。爆炎が宇宙に広がり、一体は沈黙。
残り、二体。
「次っ!」
右後方から、今度は別の量産機がライトソードを構えて突っ込んでくる。迷いのない軌道、殺意のこもった直線突撃。人の命を軽視するAIの決定。まさに冷酷な機械の突進だ。
『……マチュ、僕が囮になる! 今度は君が決めるんだ!!』
赤いガンダムがスラスターを全開にし、量産機の注意を引きながら宙を舞う。その動きに釣られ、敵機が視線をシュウジに向けたその瞬間――。
『やぁああああっーーーッ!!』
宙から降下するように、ジークアクスがヒートホークを構え、敵の脇腹へ一直線に飛び込んだ。鋭い火花と共に装甲が裂け、機体がよろけたその直後、火花を散らしながら爆発四散。
残り、一体。
「三人で行くぞ! 一斉攻撃だ!」
リョウガの短く鋭い号令に、シュウジとマチュが迷いなく動く。
赤いガンダムが先手を取る。ガンダムハンマーを大きく振るい、敵の視界を遮る。その隙に、ヒュッケバインが接近。60mmバルカン砲を連射し、量産機のセンサーを焼き潰す。敵が怯んだその瞬間――
『ゥオオオオオオーッッ!?』
ジークアクスが側面から斬り込む。ヒートホークが胸部装甲を裂き、機体が仰け反ったその刹那、赤いガンダムのハンマーが背部に振り下ろされ、内部フレームを粉砕。そして――
「大・雪・山 おろしぃぃぃぃ!!!! からの吹き飛びやがれぇぇ!!!」
リョウガの叫びと共に、ヒュッケバインが敵の頭部を掴み上げ、背負い投げのようにして宙へ投げる。スラスターのシャッターが開き、怒涛の勢いでマイクロミサイルが一斉発射される。
爆炎が空間を満たし、最後の量産型ヒュッケバインが光の泡のように弾け飛んだ。
戦場に、ようやく――静寂が戻る。
「……ふぅ。あれで最後だったみたいだな……」
ヒュッケバインのコクピットで、リョウガは額の汗を袖で拭いながら小さく息をついた。緊張がようやく抜けたその声音には、どこか達成感と安堵が混ざっていた。
『な、なんとか……勝てた……?』
震えがちなマチュの声が通信に乗る。そのか細さに、リョウガとシュウジの間に柔らかな笑みが広がる。
『うん、勝てたよ――三人で』
宇宙の無音の中で、三つの機体がゆっくりと距離を縮めていく。それは、戦友としての絆を形にしたかのような、静かな再集結だった。
▼▼▼▼▼
薄暗いバーの片隅。琥珀色の照明がゆっくりと揺れ、棚に並ぶ酒瓶たちが陰影を帯びて静かに光る。その静謐な空間の一角に、二人の男がグラスを傾けていた。
ひとりはエグザベ・オリベ。深く腰を沈めたスツールの上で、彼は無言のままバーカウンターに肘をつき、グラスを揺らしていた。氷の音がカランと小さく鳴る。彼の表情はどこか悔しげで、己の無力を噛みしめるような静けさを湛えている。
――ジークアクス、初陣での失敗。
それは彼の軍歴にとって、あまりにも苦い傷だった。新型サイコミュ機という最新鋭機を与えられ、赤いガンダムの捕縛としての交戦をするも、結果は想定外の結末だった。マチュという少女に不意を突かれ、機体を奪われ、逃走を図るも軍警に捕縛され、結局はシャリア・ブルの政治的手腕で釈放されたに過ぎない。
その彼の隣に、静かに佇む人物がいる。シャリア・ブル――その眼差しは厳かで、冷静な男だった。年齢のわりに背筋の伸びた姿勢で、バーのモニターに視線を向け続けていた。
モニターには、つい先ほどまで中継されていたクランバトルの映像が繰り返し流れていた。あのジークアクスが、まさか出場していたこと。エグザベはそれを最初に見たとき、心臓を掴まれたような衝撃を受けていた。
だが、隣のシャリア・ブルは、別の点に驚きを見せていた。彼の視線は、あの戦場に突如現れた“別の機体”――ヒュッケバインを追っていた。
「いったい何だったんでしょうか……あれは? どうされました?」
たまらず口を開いたエグザベの問いに、シャリアは眉間にわずかに皺を寄せたまま、低く呟く。
「似ている……酷いまでに、あの機体は似ている」
「はい?」
その答えに思わず聞き返したエグザベ。彼の視線が、訝しむようにシャリアの横顔を覗き込む。
「似ているんですよ。あの機体が……“ガンダム・フッケバイン”に」
その名を聞いた瞬間、エグザベの背筋がぞわりと粟立った。
「ガンダム・フッケバイン……って、まさか……。一年戦争末期、突如現れては両陣営に牙を剥いたあの――?」
「……えぇ。機体の細部や塗装には差異がありますが……あのシルエット、挙動、そして……あの“存在感”――かなり酷似している」
シャリア・ブルの口調は、抑えたが確信に満ちていた。
彼の脳裏に、あの忌まわしいガンダムの記憶が甦る。あれは災厄そのものだった。赤く塗られた機体、シャアの赤いガンダムに酷似した色調でありながら、行動原理は不明瞭で、無差別に連邦、ジオンを問わず攻撃を仕掛けてきた。
その出現は、戦場に大混乱をもたらした。
味方部隊はその色からシャアの乱心と誤認し、敵部隊は報復として周囲の住民までも巻き込む掃討を始めた。どちらにも属さない“赤いガンダム”は、戦争をさらに泥沼化させた元凶として、両陣営から「ガンダム・フッケバイン」と呼ばれるようになった。
最も忌まわしきガンダム。
災いの象徴。
凶鳥。
――それが、再び姿を現したというのか?
モニターに映るヒュッケバインを見つめながら、シャリアは静かにグラスを持ち上げた。酒に口をつけることなく、その琥珀の液体を揺らし続ける。
(.....何かが起きようとしているのか?)
やがて彼はそっと目を閉じ、息を吐いた。
……ゼクノヴァ現象と共に、姿を消したシャアの後を追うよう消えたはずの存在……だが、また現れた。ならば……これは偶然では無いとシャリア・ブルは考える。
「中佐……?」
「エグザベくん。我々は今後“あれ”が敵か味方かどうか判断せねばなりません」
「……了解しました」
緊張に身を引き締めるエグザベ。彼の目に宿るのは、かつての敗北を繰り返させないという執念にも似た炎。
シャリア・ブルの視線は、再びモニターへと戻る。
その画面の奥、真空の闇に浮かぶヒュッケバインの姿が――まるで次なる嵐の予兆のように、不吉に光っていた。
三つの心が一つになれば、一つの正義は百万パワーーーーーーーーーッッ!!!
※フォトンライフルはこの後しっかり回収されました。
フッケバインはヒュッケバインの名前の元ネタであるフォッケウルフTa183の愛称「フッケバイン」から取っています。量産型ヒュッケバインMk-Ⅱの見た目はa外伝でのまんまMk-ⅡではなくOG版になります。