迷い込んだ凶鳥   作:ゲット虚無

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最初こそ「クレーターバトル」(漫画)や「月面十年戦争~戦慄の予感」(ドラマCD)の流れを組む話にしようかとも思いましたが、長くなりそうなのでやめました。


外伝短編 炉心臨界

 

  ――月面。

 

 銀灰色の荒野を、無数の黒い影が蠢いていた。インベーダー。生命を喰らい、精神を蝕み、あらゆる存在を侵蝕していく異形の敵。地を這い、空を舞い、月の大地すらも黒く染めようとしていた。

 

 その中心に、白き巨影が立ちはだかる。

 

 プロトゲッター。ゲッターロボの原型機。右腕は千切れ、頭部の角はへし折れ、装甲の至るところが砕け、焦げ付き、痛々しく損傷している。それでもなお、左手に持った大型マシンガンからは容赦なく銃弾が吐き出され、突撃してくる敵を次々に穿っていた。

 

 その隣には、無言で仁王立ちする青き鋼の巨人――鉄人28号。

 

 原初のスーパーロボット。第二次世界大戦中、南方の秘密研究施設にて金田博士によって開発された「鉄人計画」の集大成。技術の塊であり、戦争の申し子でありながら、今なお“守るための力”としてその存在を貫いている。

 

 さらに、重厚なシルエットを描く巨大な巨人――GR-1(ジャイアントロボ)がアムロ達と共に遠くの場所にて戦闘を続けている。

 

 月に降り立った巨神たちは、ゲッターチームの乗る量産型ゲッター、Gファイター、上空から支援砲撃を行うパーフェクトガンダムと共に戦線を形成し、侵略の波に抗っていた。だが、敵の勢いはなおも衰えない。数の暴力は容赦なく、ひとつ倒せば、すぐに新たな個体が跡を継ぐ。

 

 その中、早乙女達人はヘルメット越しに小さく息を吐き、通信回線を開いた。

 

 「竜馬、隼人、武蔵……ここは私たちに任せて、北のアムロくん達の救援に向かってくれ」

 

 すぐに、怒声が返ってきた。

 

 『何言ってんだアンタ!! いくら鉄人がいても、この数じゃ……!』

 

 通信越しに響く竜馬の怒鳴り声。その背後には爆発音と悲鳴のようなノイズが混じる。

 

 「これを使えばいい」

 

 達人は冷えた声で、機体の腹部――炉心ユニットを指さす。瞬間、沈黙が落ちた。

 

 『バカ野郎ッッ!! こんなところで死ぬ気か!?』

 

 隼人の声が続ける。

 

 『それに……たとえここを吹き飛ばせても、一体でも生き残れば奴らはまた増える。下手すればやつらに餌を与えるだけですよ?』

 

 その時だった。別の音声が静かに割って入った。

 

 『では……太陽爆弾ならどうかね?』

 

 重く、しかし確信に満ちた低い声。鉄人の右肩に立つ宇宙服姿の男――金田博士。冷徹な計算と深い情が共存する、その眼差しは月の闇を見据えていた。

 

「金田博士……それはまさか」

 

『既に正太郎.....鉄人の太陽爆弾にはバギュームを搭載済みだ』

 

 博士の一言に、達人は僅かに目を細めた。やはり、と呟くように息を吐く。

 

「……博士の手にリモコンが見当たらなかった時点で、もしやとは思っていましたが……」

 

 鉄人の動きが、あまりに滑らかだった。迷いのない軌道、瞬時の判断と行動。それは、もはや“人の操作”ではなかった。

 

「本当に、それで良いのですか?貴方には帰りを待つ――」

 

『……いいんだよ、達人くん。私も鉄人も、もはや使命を終えている。ここで奴らを葬れれば、それでいい。若い君だけを逝かせはしない』

 

 低く、しかし温かい声が返ってくる。

 

「金田博士……」

 

『さあ、行け。ゲッターチームの諸君!! 君たちの未来は、まだ続いている!!』

 

 その言葉が、竜馬たちの背を押した。

 

『……行くぞ、武蔵、竜馬』

 

 隼人の声は静かだった。だが、その一言にすべての覚悟が込められていた。

 

『……でもよ……これじゃあ、おらぁ二人を見捨てるみたいで……』

 

 武蔵の声が震える。拳を握り、唇を噛み、どうしても別れきれない想いが滲み出る。

 

『彼らは覚悟を決めた……その想いを踏みにじるな』

 

 隼人が重く、しかし真っすぐに返す。

 

「……竜馬」

 

『なんだよ』

 

「父さんやミチルに、元気にすまないと伝えてくれないか?」

 

『……ああ』

 

 竜馬の返答は、短く、だが魂を込めた一言だった。

 

『達人……先にあの世で待ってろ。いつか俺たちも、そこに行く』

 

「……ああ。待っていよう」

 

 通信が切れる。その直後、三機の量産型ゲッターが噴射音を響かせながら地平線へと飛び去っていく。背を向けることの重みを、振り返らぬことで引き受けながら。

 

「金田博士、本当にこれで……」

 

『くどいぞ、達人くん。ここから先は、我々の仕事だ。地獄の底まで付き合おうじゃないか』

 

「わかりました……この命、あなたと共に使い果たしましょう」

 

『ああ。共に行こう。達人くん』

 

 その瞬間、プロトゲッターがマシンガンを手放した。無造作に、だが決意をもって。

 

 左手を高く振りかざすと、その指が鋼鉄の腹部を深く抉る。内部機構がきしむ音を上げ、オイルの赤黒い液体が月の地へと滴り落ちる。焼けた鉄と血が混ざったような臭いが、ヘルメット越しにも漂ってきそうな錯覚を与える。

 

 露わになった爛々と輝く炉心――そこには、暴走寸前のゲッター線が凝縮されていた。緑色の光が渦を巻き、稲妻のように機体内部を駆け回る。装甲のひび割れからあふれる奔流は、ただのエネルギーではなかった。光と熱、重力すらもねじ曲げる、異質な“力”そのものだった。

 

 そのエネルギーに、インベーダーたちが反応する。

 

 無数の黒い塊が、虫のように、腐肉に群がるハエのように、狂ったように一斉に動き出した。

 吸い寄せられる。引き寄せられる。飢えた獣のように、涎を垂らして。

 

「来るがいいッッ!! インベーダー共!!! これが貴様らが最も欲しがっていた、ゲッターエネルギータンクだッ!!」

 

 達人の咆哮が、月面に轟いた。

 

 爆発的な緑の閃光が、地平線に向かって放たれる。

 

 光が、歪む。

 

 空間が、軋む。

 

 重力がよじれ、時間までも引き伸ばされたように錯覚する――その中心にいるのは、他ならぬプロトゲッターと鉄人28号だった。

 

 光に包まれたその脳髄に、脈打つように何かが流れ込んでくる。

 ゲッター線。それはただのエネルギーではない。情報であり、意思であり、進化の鼓動。

 

 プロトゲッターを通じ、達人の意識が溶けるように拡張していく。

 

 かつての戦い、ゲッターの原点、人類の歴史、進化の系譜、そして……インベーダーの本質。

 すべてが一つに繋がっていた。

 

「そうか……ゲッターとは……この戦いの意味とは……そういうことだったのか……」

 

 達人の視界は既に機体のモニターを超え、広大な宇宙の理(ことわり)そのものに触れていた。

 

 その刹那。

 

 鉄人28号の全身が赤く染まり、装甲がじゅうじゅうと灼け、継ぎ目から白煙を噴き出す。内蔵された太陽爆弾が、ついに臨界点を迎えた。

 

『GA……oooooooo…………ッ……』

 

 鉄人が、叫んだ。

 

 いや――泣いていた。

 

 最後にして最初の、自我とも取れるその咆哮は、怒りでも、痛みでもない。

 

 別れの叫び。

 

 親を求める子のように。

 

 終わりを拒む命のように。

 

『鉄人……泣かないでくれ……共に行こう。お前も、私も』

 

 燃え盛る巨躯の肩の上で、金田博士がそっと呟く。その目には、涙などなかった。ただ、覚悟を決めた者だけが持つ静かな哀しみと愛があった。

 

 その時――

 

 爆発。

 

 ゲッター線の輝きが辺り一帯を覆い尽くし、すべての輪郭が溶けて消えていく。

 

 轟音。衝撃。閃光。

 

 月面の地平線が光で引き裂かれ、瞬間のうちに白銀の世界が崩れ落ちた。

 

 そして、音は失われた。

 

 空気も、風も、声も、すべてが光に呑み込まれる。

 

 閃光の中に、プロトゲッターのシルエットが、鉄人の腕が、――一瞬だけ浮かび、消えた。

 

 その一撃は、インベーダーの中枢を直撃した。

 無数の触手が千切れ、うねりが止まり、月面に降り注いでいた黒い雨が止む。

 

 戦局は、一変した。

 

 竜馬たちは切り開かれた空と希望の隙間を抜け、戦線を押し戻す。

 怒涛の反撃が始まる。

 

 この日、月面の戦いは“勝利”として記録されることになるだろう。

 

 だが、その戦場に。

 

 もう、あの二体の巨神の姿を見ることはなかった。

 




月「俺がなにしたってんだ」

ちなみにこの時点でジャイアントロボを操縦しているのは大作くんではなく草間博士です。
命からがら大作くんと共にBF団から救出されています。
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