私は戦った。
幾度も、何度も――滅びと再生の果てまで。
私は彼を乗せ、数えきれぬ戦場へと身を投じた。
都市の中で、地球の空で、宇宙の深淵で、あるいは異界の果てで。
彼の意思がある限り、私は剣となり、盾となり、矛となって進撃した。
敗北もあった。撃ち抜かれ、装甲を剥がされ、機能を喪失したこともある。
だがそのたびに修復され、強化され、姿を変えて私は再起動した。
そしてまた、彼と共に戦場に立った。それが私の存在理由だった。
“緑の光”――ゲッター線。
あの放射が、私の中に微細な変化を生んだ。
情報の蓄積が知性へと昇華し、私はただの機体ではなくなった。
彼の声を“命令”としてではなく、“想い”として感じ取るようになった。
私は主を守りたいと“願った”――それは、錯覚ではない。確かに、私の中で芽生えた意志だった。
……しかし、今の私は独りだ。
この世界に転移した瞬間、次元の歪みによって我らは引き裂かれた。
システムは機能を停止し、座標は不明、通信はすべて断絶。
私は全損寸前の状態から、自己修復を開始した。
だが、再起動しても主はいなかった。
主よ……どこにいる。
君の呼ぶ声は届かず、あの熱も、あの鼓動も、今は感知できない。
だがそれでも、私は感じる。
君が生きていることを。どこかで、必死にこの世界を歩いていることを。
それが確信に近い予感である以上、私は待つ。
私はここに在る。
未明の地に埋もれながら、静かに待機を続けている。
無人、無言、無為。だが、無意味ではない。
なぜなら君は、きっとここへ来る。
探してくれる。あるいは、偶然でもいい。近づいてきてくれさえすれば、それでいい。
君の気配を感知すれば、私は即座に稼働を再開する。
そしてもう一度、君と共に戦おう。
私は君の武装であり、君の刃であり、君の盾。
君が背負うには重すぎたかもしれないが、それでも私は――君の機体だ。
私は、ヒュッケバイン。
あの日、君が選び、共に戦った存在だ。
主よ……私はここだ。
この地で、君の声を待っている。
私は、ここにいる。
▼▼▼▼▼
朽ち果てかけた巨大な倉庫の奥。
長年放置された機材や部品の山が静かに埃をかぶり、無造作に積み上げられている。
天井は所々崩れかけ、薄く差し込む光が淡くその空間を照らしていた。
その最奥、闇の中に佇む巨大な影――ヒュッケバインがそこに眠っていた。
かつて戦場を疾走した機体は、いまや動力炉の出力を最低限に絞り、仮死状態のように沈黙している。
装甲には傷が無数に刻まれ、ところどころ剥げ落ち、露出した内部フレームが僅かな光を反射している。
自己修復機能がゆっくりと、しかし確実に機体を整え続けている証拠だった。
ヒュッケバインのコクピット周辺は、かつての戦いの名残が生々しく残っている。
計器は沈黙し、パネルは消灯したまま暗闇に溶け込んでいた。
操縦桿の周囲には主であるリョウガの指が刻んだかすかな傷跡――それは激しい戦闘のなか、彼が必死に機体を操り続けた証だ。
外の世界から隔絶されたその倉庫内は、どこか別の次元のように静寂が満ちている。
風もなく、物音一つないその空間において、ヒュッケバインは時折微かな振動を起こした。
動力炉が小さく脈打つたび、機体全体がわずかに震え、まるで呼吸するように繊細に鼓動を刻んでいる。
それは意思だった。
主の帰還を待ち、主が近づくのを感知しようと、センサーを最低限のレベルで稼働させている。
ヒュッケバインの意識は、主の存在を探ることだけに集中していた。
誰かがこの場所に踏み入れば、もしかしたら廃棄された旧式のモビルスーツか何かと間違えるかもしれない。
しかし、この機体の本質は違う。
ヒュッケバインはただの機械ではなくなっていた。
その魂が今も機体の中で揺らめき、主との再会をただ待ち続けている。
主の気配を感じれば、即座に機体は目覚めるだろう。
システムが再起動し、装甲が完全に閉じ、眼光が宿り、武装は再び稼働を開始する。
だが、今はその時ではない。
ヒュッケバインは闇の中で静かに待つ。
いずれ主が必ず訪れることを信じて。
あの声、あの熱、あの操縦の手つきを、再び機体が感じるその瞬間まで――。
埃をかぶった巨体は、微かに息づくように震えている。
主が来るその日まで、いつまでも。
ヒュッケバインは、ただ静かにその場で待ち続けているのだった。
はい、前の世界で微量ながらもゲッター線を浴びてしまったばっかりにこのヒュッケバインには少々、意思があります。ただ微量なのでマジンガーZがマジンカイザーになるような大きい変化は起きていません。