◇あのどう見ても初号機カラーの機体は…………?
いつもの倉庫。簡素なテーブルには、淹れたてのコーヒーの湯気がほのかに揺れていた。今日は学校が休みらしいのでリョウガが迎えに行きマチュはここへやって来ていた。膝を抱えるように椅子に座り、ふと静かにマチュが口を開いた。
「ねぇ、リョウガ。……そらってさ、自由なの?」
その問いに、リョウガはマグを持つ手を止めた。
「……もしかして宇宙のことか?」
「うん。モビルスーツ、持ってたって言ってたし……行ったことあるんでしょ?」
彼女の視線は、まるで夜空を透かして見るように、どこか遠くを見つめていた。
だがその問いは、真正面からリョウガの内側を突いてくる。
リョウガは返事をすることなく、ゆっくりと目を伏せた。
(自由、か……)
彼にとって“宇宙”という空間は、ただ広大で無限に広がる場所ではない。それは記憶と傷痕、戦火と喪失が折り重なった、“原点”であり“呪い”のような場所でもあった。
(インベーダー……ゾンダー……機界31原種……宇宙怪獣……)
数えきれない数々の敵が、あの暗くて冷たい空から現れた。
(……正直いってあそこは、自由なんかじゃなかった。俺たちはただ、生き延びるために抗ってただけだ)
そして。
第二次ネオ・ジオン抗争――シャア・アズナブル率いるネオ・ジオンとの戦い。
頭の中で、あの激しい通信の声がこだまする。
『なぜなんです!!? クワトロ大尉!!! 今は人間同士が争い合うこと自体がバカげてる状況だってことは貴方だって分かってる筈でしょう!!?
なのにっ! なんで!!!?』
『分からないか!? 今の地球に住む人類には、その価値がないということを!!! このシャア・アズナブル自らが粛清してやろうというのだ!!! 誰かがその業を背負わなければいかんのだよ!!!』
『~~~ッッ 訳の分からないことをほざくなァッーー!!!!?』
かつて、怒りに任せて叫んだ自分の声。
あのときリョウガは多くの
仕方なかったとは思わない。他人の命を奪っている時点で。
戦った、地球で生きている人々を守るために、抗うために。
――そして、何より、失わないために。
……だが、それでも守り切れなかった人や未来があった。
アムロ・レイ。
彼も、もしかすればもう帰ってこなかったかもしれない仲間だった。
彼にとって、宇宙は“始まり”であると同時に、“何もかもを奪った場所”でもある。
(でも…………あの時、起こった"奇跡"は………一体)
「……リョウガ?」
マチュの声が現実へと引き戻す。
視線を向けると、彼女が心配そうに眉をひそめてこちらを見ていた。
「その、大丈夫? なんかすごい眉間にしわ寄せてるけど……」
「あ……ああ、悪い」
リョウガはようやく口を開いた。
少しだけ強張った声。けれど、落ち着いた調子で続きを紡いでいく。
「“宇宙”は自由か、だったな。……確かに、星々は綺麗だ。俺も最初に出た時、あの無音の広さに圧倒された。……“自由”にも感じたよ」
一瞬の沈黙。
「でも……今は違う。どちらかというと、少し怖い」
「怖いの?」
マチュが首を傾げる。
「……ああ。宇宙にいるとさ、自分がどれだけ小さくて、矮小な存在なのかを思い知らされる。呼吸ひとつ、命ひとつが、どれだけ不確かで儚いか……痛いほどわかる」
リョウガは目を細め、遠くを見た。
「……宇宙は自由だ。何者にも縛られず、何者にも守られてない。だからこそ、無限のように広がってる分、恐ろしい場所だよ」
マチュはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりとマグカップを持ち上げ、すすりながらぽつりと呟く。
「ふぅん……そっか」
窓もない倉庫の中。
それでも彼女の瞳は、遠く星の輝きを思い描いているように、どこか憧れを残していた。
二人の間に、静かにコーヒーの香りが漂う。
それは、戦火の宇宙を知る青年と、まだ空に夢を見る少女の、それでも確かに交差している“今”という時間だった。
割りとスパロボ30のシャアと同じくらいにはリョウガくんの世界のシャアも終わってます。人類にとっての脅威がポンポン厄ネタのように起きている世界でアクシズ落としやろうとしたので