ロビンの休日   作:翠川花子

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 本当は一気に毎日更新して最後まで終わらせたかったのですけれど、期間が開いたのでお茶濁しです。


デート

「これ、とっても美味しいのよ」

 

 と差し出されたピザを食べて、

 

「ほら、あっち。賑わってるわ」

 

 と手を引かれて。

 

「運がいいのね。さっきからずっと一等賞ばかり」

 

 一緒にゲームで遊ぶ。

 

 

 デートじゃん。これってデートだよな。

 ロビンとのデートとか、ピノコニー買うよりも価値が高いのでは? あとから請求されるとかあるのか?

 なんてことを考えてしまうが、ロビンさんが美人局みたいなことをするはずもないので、運が良かっただけということか。

 

「そういえば、私のインタビューなら、何とか了解してもらえそうよ」

「んぇ? インタビューって、え?」

 

 先ほどちらりとスマートフォンを確認していたのには気が付いていたのだが。

 

「私が大丈夫だと判断したから。ただ、兄様にも判断して貰えと事務所が言っててね。そのあとでならインタビューも受けられるわ」

「ふ、ふむ……」

 

 普通なら喜ぶべき状況のはずなのだが、なんだか危険な予感がする。

 

「そうだ。せっかく一緒にいるのだから、今からインタビューしてみる?」

「今から? でも、流石に……案内してもらっておいてあれだけど、プライベートな時間でそういうことを聞くのは……」

「それなら、お互いのことを話しましょう? インタビューじゃなくて、会話なら良いでしょう」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そんなわけで俺の過去を話してみたのだ。

 別に傭兵だった過去を言いふらしたいわけでもないが、意地でも隠したいわけでもない。

 過去は変えられない以上、受け止めるしかないのだから。

 

「でも、元傭兵と言うのが信じられないくらい綺麗な顔ね」

「綺麗? そうかな?」

「傷跡とか、一つも見当たらないわ」

 童顔に見られることはあるけど、綺麗と言われたのは初めてなのでどういうことかと思ったのだが。

 

「あぁ、まあ、そうだな」

 

 顔とか腕とかには目立つ傷はない。足には切り傷、弾痕があるけど。ぱっと見普通に生きていた人のように見られるはず。

 

「目立つ傷があったり、険しい顔をしているほうが、いかにもって感じだよな」

 

 実際そういう奴もいた。傷の多さを勲章のように誇る奴が。場合によっては俺を見て、舐めてかかって来て。

 

 

 

「でも、傷なんてない方がいいわ」

 

 しばらく戦場でのことを思い返していると、ロビンさんはずいっと距離を詰めて来て、俺の頬をつついた。

 

「うぇえ!? ちょっ──」

「油断していると命取りになる……なんてね」

 

 そう言って可愛らしく微笑むロビンさん。マスクがあっても笑みが見えた。サングラスの奥の瞳が輝いている。充分命取りだ。しばらく、他のことを考えられそうになくなったのだから。

 

 

 さっきのデート中にも多少注目を浴びていた。ロビンだと気づかれたわけではないのだろうけど、何かのきっかけで騒ぎになるのではないかと不安になった。

 ちょっとやそっとの変装では隠しきれないオーラがあるのだ。

 

 あたりを見渡せばロビンのポスターはあちこちにある。華やかで、富を見せつけるような絢爛な街に、彼女の姿は芸術のように並び立ち、何ら不足を感じさせない。

 そのロビンさんが隣にいて、つい先ほどまでデートをしていたことに優越感を感じられるほど俺の心は強靭ではなかった。

 今更ながら緊張してきたし、照れて彼女の顔をちゃんと見られなくなった。

 

 誤魔化すように先ほど買った菓子を食べた。

 

「ん? これ」

「オークロールね。それは……」

「なんだか懐かしい味だな」

「懐かしい? ピノコニーに来たことがあるの?」

「いや、子供の頃に食うに困って木の皮を齧ってた時のことを思い出した」

「そ、そう……」

 

 美味しい食事に慣れたら、もう不味いものが食べられなくなるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。不味い物でも普通に食べられる。

 

「そういえば……」

 

 先ほどから傭兵だった時の話をしていたが、気になっていたことがある。

 俺はカスビリンアート―Ⅷでロビンさんと会ったことがある。そこで俺は紛争地帯を案内したのだが、しばらく話して、彼女の人柄に素直に尊敬した。皮肉抜きに立派だと思ったし、彼女のような人がもっといれば世界は平和になると確信した。ロビンさんが流れ弾に当たって、俺は行動しなければならないと傭兵をやめたのだ。彼女のようになろうと。まずは、自分が戦場から抜け出そうと。

 

 結果として俺がいない分、俺に殺される人は減る。俺がいない分補填された誰かが死ぬ。傭兵をやめただけでは変わらない。

 記者として悲惨さを伝えようにも、俺には彼女のような才能が無くて。

 

 俺にとっては忘れられない出来事だけど、ロビンさんは訪れた先で何百人もの人に会っているのだから、俺のことなんか忘れてしまっているだろう。

 でも、もし覚えていてくれたのなら、俺は──

 

 

「いや。そうだな。ロビンさんのお兄さんって、サンデーさんだよな」

 

 聞くのが怖かったし、ロビンさんにとっても良い記憶は無い筈だ。聞くべきではない。

 

「ええ。知っているのね」

「流石にな。ピノコニーにロビンの取材に来ておいて、知らないってことは無いだろ……いや、アポも取らずに来た俺が言っても説得力ないけど」

 

 まあ、中々一筋縄ではいかなさそうな相手だ。

 

 折角ロビンさん自らインタビューの了解を取り付けてくれたのだから、円満に終わらせたいものだが。

 

「そうだ、ちょっと何か飲み物買ってくる」

 

 歩きながら考えようと思って少し近くのお店まで飲み物を買いに行く。ロビンさんの返事を待たずに歩き出してしまったものだから、そういえば何を買えばいいのだろうとちょっとして気づいた。

 甘いものを避けてるとか……別にモデルとかではないのだから気にしないのかな? とりあえずヘルシーと喉にやさしいものを買おう。

 そう考えてまた数歩。そもそも夢境でのどを痛めるとかあるのかなと考えなおし。

 

 

 

「結果として一番美味しそうだと俺が思ったものを買ってきました」

「ありがとう」

 

 とりあえずピカ白ぶどうソーダというモノを買ってきた。たぶん白ぶどうソーダと言う名前からして甘いのだろうと思っていたのだが。

 

「あの、ごめん……思ったのと──へっくち……違う」

 

 まったく甘くないし、酸っぱいし苦いし。なぜだかくしゃみと鼻水が出る。

 

「大丈夫。せっかく買ってきてくれたのだから美味しく──くしゅん……飲ませてもらうわ」

 

 くしゃみの影響か少し涙目になって、サングラスを外したロビンさんは、更にずらしていたマスクも完全に取って。

 

「って、ちょっと! ロビンさん?」

「あ、ごめんなさい。少しだけ向こうを向いてもらえるかしら?」

 

 言いながらチリ紙を取り出したロビンさんに、俺はそっと目を逸らし、なるべく自然な動作で耳に手を当てて塞ぐ。

 

 すす、っと軽く鼻をかむ音がして。また視線を戻すと「首が……」とつぶやきつつチョーカーを外す。俺も先ほどのピカ白ぶどうソーダを飲んでからまるで首に冷たい手でも当てられているような感覚があるので、それに違和感を覚えたのだろう。

 

 彼女の首に視線が行く。最初は思わず見てしまった。綺麗だったから。

 目が離せなくなったのは、首の弾痕が見えたから。俺の脚にも弾痕は残っているけれど、首は確かに目立つ場所かもしれない。それも女の子の……

 慌てて目を逸らすと、それは却って罪なのではないかと思えた。視線は外さずに、ただ少し遠くに焦点を当てる。

 

 カスビリンアート―Ⅷで、ロビンさんと初めて会って感動した後。

 俺は当然、戦った。いつものように何人も殺して、それを悪いことだとも良いことだとも思わないくらいに慣れきっていて。それが最早、日常で。唯一違ったのが、憧れてしまった──あっけなく惚れてしまった少女が血まみれで治療を受けていたこと。

 

 そしてそのあとの……

 

「って!? ちょっと、ロビ……あの! 一応人通りあるんだから!」

 

 変装の意味があったのかは分からないが、少なくとも顔の大部分が隠れていた。それを外してしまっては流石に気づかれるのではないかと、ロビンさんのすぐ前に立つ。少しでも顔が人から見られないように。

 

「大丈夫よ。変装せずに歩くことも珍しいことではないから。ちゃんとするときはするんだけど」

「えぇ……大丈夫なのか?」

 

 先ほどから視線を感じる。何人かはロビンさんに気が付いたようだ。ロビンさんも見られていることに気が付いているみたいだが、気にした様子はない。

 ただ、ぽんぽんと隣に座れとばかりに階段を叩いて。

 

 

 

「それで、どうして傭兵になったの?」

 

 

 

 適当に答えた俺に、ロビンさんはまた夢境を案内してくれると言ってくれた。

 

 

 

 ☆

 

 

「じゃあ、また明日……よろしくね」

「よろしくって言うか……今更だけど本当に大丈夫か?」

「ええ。さっきメッセージが届いて、兄様も了承してくれたから」

 

 それはそれで不穏な気がするのだが。気にしてもどうしようもないのであきらめよう。

 

 

 ロビンさんに手を振って、しばらく別の道を適当に歩いて。完全に視線が外れたのを確認してから距離を取ってロビンさんを追う。

 

 視界に入る何十人もの人々を少しずつ選んでいく。チェック、チェック、外す、また外す。

 

 外して外して──こいつだ。

 

 今度はロビンさんに気づかれないように回り込んで、追跡者の前に飛び出す。

 

「っ!? 気をつけろ!!」

 

 いかにも、と言った様子のガラの悪い男。俺が無視していると、どうやら向こうが先に気が付いたようだ。

 

「お前……さっきロビンと一緒にいた奴か」

「そうだね。一人だけ視線の質が違ったけど、お前だな」

 

 嫉妬ではない。ストーカーとかじゃなくて、もっと悪意がある。撮影しようとしないところからも、パパラッチの類でもない。

 もっと純粋な悪だ。光ある所に影があると言うけど、ロビンさんに恨みを持つ人もいるのか。

 

「もう、撒かれたね……すげぇな、気づいてたのか」

 

 一瞬足止めしただけで、ロビンさんがもうどこに行ったのか分からない。伊達や酔狂で歌姫はやってないわけだ。

 

「はぁ……これじゃあ追えねぇな」

「じゃあ、諦めて帰って貰えるかな?」

 

あえて煽るように言うと、敵意がこちらに向いてきた。プロではない。

 

「余程怪我してぇんだな」

 

 それに加えて短気。万が一ピノコニーで紛争が起きて、彼が戦場に駆り出されたとしたら初日で死にそうだ。

 

「俺ってさ、傭兵だったんだ」

「あ? 傭兵? お前が?」

「そう。そういう風に見た目で舐める奴って、たまにいるんだけどさ。子供のころから戦場にいた俺の身体に傷は、殆どなくて……その意味が分かんない?」

 

 にこりと微笑むと、苛立ちのままに殴りかかってきたので、それを軽く受け流し。

 喉を突き、足をかけ、くるりと回してから頭を掴み地面に叩きつけた。

 

「俺って、死ぬほど強いんだよね」

 

 

 別に俺が制裁を加えなくともロビンさんなら、きっと上手く躱したのだろう。

 

 それでもロビンさんを、どんな理由かは知らないが、狙うような奴だ。ちょっとくらい攻撃しても許されるだろう。

 

「ロビンさんみたいに世界を良い方向に導くような力はないけど、俺でも女の子一人くらいは守れるんだよバーカ」

 

 呻き声をあげる男を見下しながら言っておく。夢境なので、そこまでダメージはない筈だが、瞬間的なショックは感じているのだろう。

 起き上がる前に俺もさっさと撤退することにしよう。

 気は進まないが、一応ロビンさんにインタビュー出来るようになったことは報告しておくべきだし。

 

 会社も上司も嫌いだけれど、責任は持ちたい。

 

「でも……楽しかったなぁ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 翌日。上司から届いたメッセージは、インタビューの内容についての指示であった。

 かなり下劣なもので、これを聞くなんて……でもやれって言われてるし……

 

「労働つらいよぉ……」




 本当は完結まで毎日投稿をしたかったのですけれど、私の筆が想定外に遅かったので、一旦二話目だけ。コラボでのロビンさんは相変わらずかっこよくて、可愛くて……別衣装とか、別バージョンとか、もう何でもいいのでロビンさんのガチャを引かせて欲しいです。
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