シイコ・スガイの夫ですが、嫁がアニメで死ぬ前世思い出した   作:深海水塊

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プロローグ 前世の記憶

「あなた?」

 

目の前でショートボブの黒髪で童顔の綺麗な女性が俺を窺う様に呼んだ。

 

彼女はシイコ・スガイ。元連邦のスーパーエースにして、今は俺の自慢の嫁さんだ。

 

そして、この病室で彼女が胸に抱く産まれたばかりの小さな命は、彼女が全てを手に入れようとして置き去りにしてしまう存在だった。

 

このまだ名前も決まってない命の存在を目の前にした時、前世の記憶がハッキリと蘇ったのだ。

 

此処がガンダムGundam GQuuuuuuXの世界か、それに酷似した世界だと。

 

彼女、シイコさんはこのままだと全てを手に入れようとして死ぬと。

 

「いや、少し昔を思い出してただけだよ。それよりこの子の名前、どうしようか?」

 

3050グラムと未熟児ではないが、予定日より少し早かったので名前がまだ決まってないのだ。

 

「そうねぇ、私の親もお義父さん達にも相談の途中だったし、申請期間にも余裕が有るからそんなに急がなくても良いと思うわ」

 

「そうだね」

 

シイコさんの地球での戦後処理を終え、俺の実家の有るサイド6のパルダコロニーに向かおうとして、その時にシイコさんの妊娠が発覚し、Gの掛かるマスドライバーや無重力環境は胎児の成育や母体に対するリスクとなるので、シイコさんの実家が有る地球で産む事

となったのだ。

 

多分、分岐点はこれだ。

 

シイコさんと産まれたこの子を見た時、日本人である俺の前世を思い出すには、パルダコロニーでなく地球の日本である必要が有ったのだと。

 

それ以前から、自身の関わるソフトウェアの開発で前世の影響を朧気に受けていたのが分かった。

 

なんとなくだが、そう考えた方が自然だと感じる。

 

そして、俺が行動しなければシイコさんは俺達を置いて亡くなるのだ。

 

それはアニメのキャラクターに過ぎなかった前世の俺が知るシイコ・スガイでなく、愛する妻として現実に存在するシイコ・スガイを知る以上、絶対に許容できない未来だった。

例えそれで、シュウジや主人公であるマチュが亡くなる事になったとしてもだ。

 

だから俺は宣言する。

 

「シイコさん、幸せな家族になろうね」

 

「ええ、そうね。なりましょう」

 

少し疲れた様子で心底愛おしいと小さな我が子を胸に抱く彼女の姿からは、過去に囚われてる様には見えなかったけど、それは覆い隠してるだけだと俺は前世を思い出す事により知れた。

 

そして、此処を分岐点にしなければならないと。

 

そうでなくては、彼女を喪う耐え難い未来が来ると。

 

「シイコさん、お義父さんや親父たちに産まれた事を電話して来るよ。ついでに売店で何か買って来ようか?」

 

シイコさんの地元は日本海側とはいえ、コロニー落としの津波被害やその後のジオンの地上侵攻を受けたので携帯電話の基地局は未だに復興途上で、固定電話も重要施設や公衆電話の復旧が優先されていた。

 

とは言っても、ジオンに破壊された固定回線網の復旧は手間らしく、暫くはミノフスキー粒子が撒かれないと想定して無線式や衛星式の公衆電話の設置を優先してる状況だ。

 

「そうねぇ。じゃあ、ぶどうジュースとオレンジジュースをお願いするわ」

 

流通はようやく回復して来ており、シイコさんが妊娠後期の検診で通院する頃には、売店の品揃えも戦前の7割にまで戻ったという具合だった。

 

確かこの2つは妊娠中からの彼女の好物だったな。

 

「分かった。じゃあ、行ってきます」

 

「ええ、行ってらっしゃい。あなた」

 

そう言って此方に手を振る彼女に手を振り返して病室の扉を閉めると、先ずは電話を掛けるべくこの階のラウンジに向かう。

 

さて、先ずどうするべきかな。

 

このまま予定通りにサイド6のパルダコロニーに向かうと本編と同じ流れとなりそうだが、かと言って軍縮の煽りで連邦軍を解雇された技官(技術士官では無い)である自分が

今更地球に残ったとしても、それを拾う組織で彼女の生存の役に立つ策動や影響力確保は難しいだろう。

 

「なら起業か」

 

幸いにも自分の前世の記憶は、光コンピュータや量子コンピュータ、核融合炉を実用化してるのに、かなり未成熟なソフトウェアやサービスしか無いこの世界では劇薬に近いチートとも呼べる知識を完全な形で持っている。

 

この世界のハードウェアと組み合わせた場合、全てを無意味にしてしまえる可能性の方が高いだろう。

 

"ぼうや"の安全の為にも宇宙空間に上がる事は先延ばしにした方が良いし、医学的なリスクを考えて3歳程度までは地球に居る自然な理由となる。

 

なら、この期間に起業して地歩を固める事は悪く無い筈だ。

 

「寧ろ良いかもな」

 

何せ技官時代の個人パテントで原資はそれなりに有るので、目指せGAFA、超えろアナハイムも夢じゃない。

 

「あ、お義母さんですか、ヨシオです。午後2時12 分に産まれました。3050グラムの男の子で、母子共に健康です」

 

『お父さん!ヨシオさん!産まれたわよ!男の子、3050グラム!母子共に健康ですって!『おー!良かった!』お父さんに代わるわね』

 

『ヨシオくんか、シイコや赤ん坊の様子はどうだい?』

 

「シイコさんは以外とケロッとしてます。流石は元パイロットという感じです」

 

バタバタした様子が目に浮かぶ様な背景音と共に、相手がお義父さんに代わった。

 

『そりゃ、シイコはスーパーエースだからな!』

 

そう笑いながら言うお義父さんの言葉からも、連邦が負けたとはいえご両親が彼女を誇りに思ってる事を感じ取れる。

 

実際、シイコさんは地元では英雄として扱われてて、その時の彼女がどうにも居心地が悪そうにしていたので印象に残って居たが、それは彼女のMAVが理由だったのだろう。

 

まあ、彼女が英雄として扱われてしまう事も十分に理解できる。

 

地球にコロニーを落として津波を引き起こし、更にその上で地元に侵攻して戦場しにし、占領して好き勝手した連中を好きになれる筈も無いからな。

 

「赤ん坊は殆ど寝てますけど。しっかりと産声を上げましたし、精密検査でも完全に健康体だそうです。医師も早産の影響は無いだろうと仰ってました」

 

『そうか、それは良かった。初産なのに予定日より少し早いから心配してたんだ。いやぁ、良かった。ホントに良かった』

 

確かに初産は遅れるというのはセオリーでは有るけど、彼女は例外だったらしい。

 

「面会に来たらシイコさんを労ってあげて下さい」『ああ、もちろんだとも』

 

「では、シイコさんに買い物を頼まれてるのでそろそろ失礼します。何かシイコさんに言伝は有りますか?」

 

『そうだな。おめでとう。2人とも無事で良かったと伝えてくれ。母さんに代わるよ』

 

『はいはい。じゃあ、私からは身体に気を付けてとお伝え下さい』

 

「はい確かに。しっかりとお二人の言葉を伝えます。では、失礼します」

 

次は親父たちだが、終戦からほぼ1年が経っても民間回線でサイド6とリアルタイムでの通信は無理だった。

 

宇宙空間のミノフスキー粒子が未だに散りきってないのと、多数のデブリによりレーザー通信の光波回線が阻害されるからだ。

 

政府や軍ならレーザーの光路回線を複数占有し、冗長性を持たせてのリアルタイム通信も可能だったが、それは民間には解放されてない。

 

だから、映像や音声や文字メッセージをメールの様に送る形の一方的な物となる。

 

俺が連邦技官時代に作ったSNSやチャットサービスなどは未だに一般的では無いが、ジオンやサイド6にも漏洩してたから一般への普及も時間の問題だろう。

 

上層部にはあまり評価されなかったが、ゴップ大将は評価していたと聞いたし、起業の際は頼ってみるのも手だろう。

 

「親父とお袋、日本時間の午後2時12分に産まれたよ。母子共に健康。3050グラムの男の子だ。写真を添付するな。それで戻る話なんだけど、調べたら3歳ぐらいまでは無重力空間で移動はリスクが高いらしくてな。

少なくとも3歳ぐらいまでは、そっちで暮らすのは取り敢えず止めるわ。だから、こっちで会社を起こそうと思ってる。そういう事も話したいし、

子供の名前もまだだし、会っても欲しいから、チケット代は出すから取り敢えずコッチに来てくれ。じゃあ、そういう事だから返答くれな」

 

そう言い終えると録音停止の番号を押し、メッセージを実家宛に送る。

 

「さてと、これから忙しくなるぞ!」

 

下手すりゃ戦時中より忙しくなるだろうが、それでも彼女や子供との時間も大切にしなければ本末転倒なので、家庭との両立を考えたタスクの両立を実現しなければならないのは大変だ。

 

何せ俺はシイコさんとあの子と、家族で幸せになるのだから。

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