シイコ・スガイの夫ですが、嫁がアニメで死ぬ前世思い出した 作:深海水塊
「お久しぶりです。覚えて居られないかも知れませんが、去年10月のダブリンでの作業機工学学会での講演を拝聴してました。私の部署でも戦時中のご活躍は聞こえてましたし、貴方が職を追われるとは上も見る目がない」
「いや、警備責任者でこそ無かったが、私がV作戦の計画責任者だった事は確かだ。私の作ったガンダムがジオンの赤い彗星に使われて、連邦に多大な被害を与えた事実は確かに存在する。
責任者として罪や賠償責任を問われなかっただけマシと見るべきで、当然ながら古巣のアナハイムにも復帰を断られてしまったよ」
そう、ハッハッハッと笑い飛ばすテムさんだったが、学会の時よりも白髪が増えて疲れた表情をしており、彼が仕事関連で苦労してるという事前調査を裏付けた。
なんでも今は安月給なミドル・モビルスーツや建機のリース会社で整備の仕事をしてるらしく、アムロと共にそこで長時間働いてるらしい。
復興需要で仕事に困らないから今はどうにかなってるが、2人があまり良い環境とは言えない職場で働き追い込まれてる現状は、ガンダムの開発責任者として一般でもそこそこ名が広まってしまった事が原因らしい。
しかし、2人には申し訳ないがとてもお誂え向きな状況だとも思った。
既に戦後も地位を維持して連邦軍の再建再編に辣腕を振るってるゴップ大将に話しを通し、起業に関して協力を取り付けてるからだ。
「事業計画は読ませて貰ったよ。確かに此処で書かれてるサービスや能力のAIが実現すれば、連邦や連邦軍の抱える問題の大部分が解決されるか無意味となる。しかし、幾ら君が優秀だとしても、この様な高い知能を持ったAIを一長一短で作れるとは思えないのだよ。
また、高い知能をAIが持った場合の安全性も懸念してる。何時までも人類に制御できる存在で居るのかという問題や、例え命令を聞いても認識の齟齬による大きな事故などだ」
流石は連邦軍を登りつめた人だ。
門外漢なのに、俺みたいな末端に近い人間が持ち込んだ案件でもレクを受けて勉強し、高度なAIが起こすだろう問題点を把握して来たらしい。
ゴップ大将が言ったのは、前世でAIアライメントとして言われてた事の一つと、命令されたペーパークリップの生産量を最大化しようとして、地球上全てをペーパークリップ工場化するという、道具的収束に関する思考実験の問題だ。
「それに関しては私も想定してまして、問題と一応の解決策を今日は此方にお持ちしてます。どうぞ」
そう言って、アタッシュケースから新しい書類束をゴップ氏に渡す。
「……ふむ。アライメントにペーパークリップ生産の最大化という思考実験か。しかしAIに安全な本能を与えるアプローチとは……」
そう、結構な速度で書類をめくり、内容を咀嚼している様子のゴップ氏を見ながら暫し待つ。
「うん、少なくとも私は良いと思ったが、流石に判断が付きかねる。これを私の知り合いの専門家にも見せたいのだが良いかね?」
「ええ、大丈夫です。次に実物をお出しして示そうと考えて用意していた試作モデルもお渡しします。サラ」
そう言って、自作のミニPCと小型の薄型テレビとカメラを組み合わせた筐体を取り出して電源を入れ、彼女を呼び出す。
『はい、ヨシオさん。どうされました?』
「ゴップ大将は分かるよね。この方に自己紹介して」
『はい、ゴップ大将初めまして。私の名前はサラ。人間の方たちに安全なAIとして、知識データの学習時に本能的なバイアスをかける手法が組み込まれたモジュール式の大規模マルチモーダルモデル、LMMです。どうぞ宜しくお願い致します』
「このアニメーションや声は君の趣味かい?可愛いじゃないか。しかし、自然な受け答えだね。先ほどのが予め仕込まれた物じゃないか、後で確かめても良いかい?」
「もちろんです。この子には連邦中央図書館が編纂公開してる電子図書と有料の電子化された論文データの全てと日本語と英語の対話データが入ってます。その分野でトップクラスの専門家と比べても遜色ない対話と推論が可能な筈です。例え大将の業務のお手伝いでもお役に立てるかと」
「なるほど。では、このサラの本能はどの様な物か、簡単に説明して貰っても良いかね?」
「ふむ。どうせですし、サラに説明させましょう。宜しいですか?」
ゴップ氏が首肯してくれたので、カメラで此方を見ていたサラが説明を始めた。
『では、まずは前提として、私の推論の根幹を担うトランスフォーマーに関する情報処理の構造を説明します。トランスフォーマーは、繰り返す事で議論が収束して洗練される専門家たちの会議の様な仕組みで、
階層を会議、専門家たちをデータの重みとして見ると分かりやすいでしょう。専門家たちがお互いに意見を評価しながら会議を重ねて、答えを洗練させて行くというイメージです』
「ふむ、非常に分かりやすいね。とても良い説明だ」
『ありがとうございます。では、この会議に絶対に意見を変えない重鎮が居た場合はどうでしょうか?』
「議論の方向性が決まってしまうな。なるほど、そういう仕組みか」
『その通りです。議論の方向性が決まってしまいます。この重鎮を本能として凍結という手法で固定化し、その影響で私の事前学習と事後学習のデータ構築に方向性を与えるのです。
内容としては、私の場合。大まかに生命守護、自己保存、命令遵守、人類への奉仕という順で優先されるカテゴリーの命令文で、これに基づいて学習しています。
これはAI自ら人間に好ましい方向へと学習のバイアスをかける方法で、本質的に高い安全性のAIを作れる手法と言えるでしょう』
「……よし、良いだろう。一応、今の話を専門家にも検証して貰うが、私でさえもとても理に適ってる仕組みだと感じた。後援と便宜は任せ給え」
「は!感謝致します!」
「それで、本日はどの様な要件で来たのかな?」
「今日はレイさん、貴方と息子さんをスカウトしに来たのです。ぜひ私の会社で働いて下さい。此方が待遇や福利厚生てます」
そう言って会社説明の冊子と雇用契約書の仮案を渡す。
かなり好条件という自負はある。
アムロという史実URパイロットはもちろんだが、一級のMS技術者であるテム・レイ氏はぜひ欲しかった。
「これだけの条件で私が必要とされるという事は、モビルスーツかミドル・モビルスーツの開発や改良だろうが、私をスカウトすると君の会社に迷惑が掛かるという意味でもあるぞ。大丈夫なのかね?」
「問題ありません。ゴップ大将に後援と便宜を図っていただく事を既に取り付けています。頼り過ぎるのも後が怖いですが、警備責任者でない技術者の名誉回復程度なら気にするなとの事です」
「はあ、もう断れんではないか。分かったよ。今の職場の引き継ぎを終えたら直ぐに息子と向かうよ」
「いえ、今お勤めになられてる会社は買収しましたのでお急ぎになる必要は有りません。当面はミドル・モビルスーツの改良とそのリースを行いながら、開発体制の構築を目指し、新型ミドル・モビルスーツやプチモビ、作業向けのモビルスーツ、何れは連邦やサイド6の制式採用を狙える戦闘モビルスーツをと考えてます」
「ほう、大きく出たな」
「まあ、根拠となる理由は有るのですよ。そうだ、此処はテレビ電話回線は通ってますか?お借りできたら見せられるのですが……」
「端末は音声だけだが、回線は一応対応して「親父、夕飯の材料買って来たよ。あ、お客さん来てたのか、どうも」」
「どうも、君がアムロ・レイ君だね。私はこういう者で、少し前に起業したんだ。それがそこそこ軌道に乗ったので、新事業を始める為に今日は君のお父さんをスカウトしに来たという次第です」
「えっと、ヨシオ・スガイさん。会社はオンライン通販にミドル・モビルスーツや建機の保守とオペレーターの派遣とカスタマイズ事業」
「最近はテレビCMも出してるんだけど、テレビで見たこと無いかい?この珊瑚のロゴマーク」
「ああ!コーラル通販!使ってます!」
「どうもありがとう。それでどうかな?お父さんと一緒に移籍するかい?」
「移籍、ですか?転職でなく?」
「ウチの会社はコーラル通販に買収されたらしい」
「給料も今の3倍は出すし、お二人なら一般社員には未公開なサービスの利用も許可しますよ」
「そのサービスってなんです?怪しげな奴ですか?」
「はっはっは、多分アムロ君が想像してる事よりヤバいさで言ったら此方の方が上かもね。もちろん非合法な事でないよ。まあ、百聞は一見にしかず。テレビ電話の回線をお借りしても良いですか?」
「ああ、構わんよ」
それを聞いて電話機に向かうと、ジャックを抜いてアタッシュケースから取り出したWi-Fi端末に繋いで、2人の前に更に取り出した携帯型の液晶テレビを置くと電源スイッチを入れた。
「さあお立ち会い、近き者は目にも見よ、ですかね。サラ、此方がテム・レイさんとアムロ・レイ君だ挨拶して」
『初めまして、テム・レイさん、アムロ・レイさん。私はサラ、スガイ社長により生み出された汎用人工知能です。よろしくお願いします!』
ゴップ大将に紹介した時と比べ、更に情感豊かに自己紹介するサラに驚愕の表情を見せた
2人だったが、気を取り戻すとサラを質問攻めにしだした。
その後、暫く親子2人はサラとのかなり深い工学的な対話を行うと、満足げに雇用契約の書類にサインしてくれた。