ダンジョンにアステリオスの兄がいるのは間違っているだろうか   作:イエス男

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大抗争よりやや前スタート


赫灼の雄牛

――これは夢だ

 

――何度でも見る、あるはずのない追憶(ユメ)

 

夢の中で、この身は何をすることもなく、ただ()()()()

無双を誇った剛躯はそれこそ紙切れのように裂け、夥しいほどの血と肉と紅を散らした。

 

夢であるはずなのに、なぜか感じた痛みも抱いた高揚も明確に心中に残っている。

 

そうだ、それを行なった()()すらも。

 

武威を感じさせる漆黒の全身鎧、紅と黒が交錯する恐るべき大剣。

そして、それらを身につけた1匹の人間。

 

歯牙にもかけぬと言うように、獲物とすら見なしていないとばかりに、強者の眼光は自分を見ていなかった。

 

分かたれ、崩れ落ちた下半身が灰と化す様が見える。

腹の感覚がない……おそらく、この身ももうじきただの石と灰になるのだろう。

 

幾度なく、自分がそうしてきたように、そうして――同胞を喰らってきたように。

 

いや、この男は人間だ。

喰らいもしない――男は進み、自分は沈むだけ。

 

――生きたい

 

もう一度チャンスが欲しい。

この男と戦ってみたい、それは再戦への渇望ではない。

 

未だ、自分は男と戦うことすらできていない。

この強き者は群がる羽虫を叩いただけだ。

これは戦いではなかった。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

咆哮(ハウル)

上層にて敵無しの象徴であったそれに、この場で怯む者は存在しない。

そう――弱者の咆哮だ、敗者の絶叫だ。

 

「なるほど強化種だったか、随分と生きがいい個体だったようだな。」

 

初めて、黒鎧の男が自分を見た。

だが、それが求めていたものではないことは……人の言葉など分からぬ身でも理解できた。

 

――待っていて欲しい、名も知らぬ強き者よ

 

だから、無様にも願った。

 

――強くなりたい

 

だから、もはや叶わぬことを願った。

この人間のように、気高く勇ましく――覇者で在りたい、と。

 

そして、三度願わくば、

 

敵として、血湧き肉躍る戦いを――

 

 

 

オラリオ。

力も、名声も、金も、技術も、ありとあらゆるものが集う世界最高の街。

そして、その中心に在る――迷宮(ダンジョン)

 

かつて、大穴と称されたそこには今では天高く聳え立つバベルと呼ばれる塔が建ち、かの街で活動する冒険者たちは足繁く、そこへ向かい、望むままにダンジョンで戦い、英雄の道を歩み進んでいた。

 

 

 

 

――37階層、通称白迷宮(ホワイト・パレス)

 

 

その玉座の間、階層主ウダイオスが鎮座するそこに()は赴いていた。

周囲にはカタカタと音を鳴らしながら、押し寄せる骨人たち――Lv4の潜在能力(ポテンシャル)を秘めたスパルトイの大群。呑まれれば、第二級冒険者でも死は確実となる狂気の軍勢である。

 

しかし、それでも彼は動じない。

彼――1匹のミノタウロスは黄金の眼光を光らせて、ただ()()のみ。

見るものを圧倒する赫灼の体躯は未だ微動だにせず、その瞼すら閉じている。

 

 

「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」

 

 

王が、殺戮の号令を告げる。

貫け、斬り裂け、引き千切れ、無礼なる獣畜生を殲滅せよ、と。

 

号令を賜りし骨人の兵士たちは、空洞と化した眼に宿る赤い眼光を揺らめかせながら、王の命に従い、進軍する。

波濤のように尽きること無く、烈風のように疾く、迫り来る殺戮の使徒たちは――

 

 

「足りない。」

 

 

猛牛の手に握られた特大の大槌(ハンマー)こと、ケラウノスで悉く()()()()()()

 

 

『――――!!』

 

 

迫り来たスパルトイたちを迎えたのは、まさしく破壊の暴風。

飛翔する衝撃波がスパルトイの軍勢を等しく粉々に粉砕し、地面すらも砕き破りながら、暴虐の限りを尽くした。

防御どころか認識する余裕すらも与えない、予想外の一撃が戦場を(なら)す。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」

 

 

そして、それを見た黒き骸王もまた階層全体に植物の根のように張り巡らされた体から漆黒の逆杭(パイル)を放出する。

それは先程のスパルトイが放つ攻撃とは比べ物にならないほど重く、強烈。

潜在能力(ポテンシャル)Lv6級と謳われる階層主本体の攻撃である、正面から受けることができる者は10人と存在しない。

 

()()()()には――であるが。

 

()()()()()()ならあるいは、そして()がどうで在るかは別として、だ。

 

再度、巨槌が唸る。

疾るのは先程と同等以上の衝撃波。

 

足元から押し寄せる黒い巨大な逆杭(パイル)を、同様に付近から牙を剥くそれを巨槌の一撃で跡形も残らない程に粉砕する。強力な魔導士の長文詠唱すら優に上回る爆発の如き一撃が玉座の間を文字通りに震撼させた。

 

そして、ウダイオスは認識する。

この男が遥かに強き武人で在ることを。

雑兵や逆杭(パイル)程度で相手取るのは不可能であることを。

この男が1()()でこの戦に臨んだことを。

 

ならば、ならば――この王も全力を尽くそうと。

いつもと同じく――死を与えるべく、凶王が()を抜く。

 

ウダイオスと同じ、黒い骨の巨剣である。

骸王が有する、唯一にして最強の武装。

 

「来なさい――骨の王よ。」

 

()()()()()

巨腕をギリギリと上と後ろへ弓矢を引き絞るように、巨剣を振り上げる。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

溜めて、一閃。

技巧や魔法はない、膂力任せの剣の一閃。

 

しかして、それは王の眼前にある景色全てを消し飛ばした。

Lv5()勇者(ブレイバー)たちでは受けることはできない、Lv6()の猛者でも相応の消耗を強いられる一撃。

残党のスパルトイも全て、砕かれた逆杭(パイル)ごと消滅した。

 

 

赫灼の毛皮で身を包む1匹の雄牛を除いて――

 

 

「大剣。これもフェルズに報告しなければいけません…ね。」

 

傷一つ、無い。

衝撃波で生じた風に煽られた赤毛が靡くだけで、擦り傷や打撲痕の一つも無い。

一連の動作を見た雄牛は最近知り合った黒い外套に身を包んだ者の姿を脳裏に過ぎらせるも、「今はいい。」と一度切り捨て、骸王に向かい合った。

 

「悪く無いですが、良くも無い。しかし、奇しき剣を見せてもらいました。礼です――受け取りなさい。」

 

ビシリ、と彼の足元の地盤が割れた。

赤毛が蒸気のようなものを放ち、剛筋が血管を浮かび上がらせながら隆起する。

 

「我が雷光を――」

 

巨槌を振りかぶり、放つ。

紅雷がバチリ、バチリと爆ぜて――破壊の熱波と衝撃波が階層全体を()()

 

「オオオオオオオオ――――――ッ!?」

 

音が無くなり、世界が白一色に染まる。

果たして、そこには――

 

 

 

 

「やってくれたな、フェレトリウス……っ!」

 

 

終わった戦場に姿を現したのは何体かの()()を連れた黒い外套の存在。

つい先程思い返した、フェルズその人である。

 

「人間を極力殺さないことを約束できるなら、深層でも下層でも『好きに活動していい』と許可は出したが……階層主を倒すのは『やめてくれ』と、この前も私は言ったはずだが?」

 

「反省はしています……だが、退屈すぎたのです。」

 

「お前の憂さ晴らしで済む話ではないのだ……っ!ゼウスとヘラが街から去ったとは言え――ロキやフレイヤは健在。それだけでは無い、本人らだけで挑む実力が無いとしても合同で作戦を組み、ここに遠征に来るファミリアはいくつかあるのだっ!」

 

()の指をフェレトリウス――とそう呼ばれた赤毛の雄牛に突きつけて言葉を放つフェルズ。

抱く懸念と問題はフェレトリウスが行った階層主(ウダイオス)殺しである。

 

階層主であるウダイオス討伐にはそれなりの冒険者が挑む。

多いのはLv3〜5ほどだろう。

徒党を組み、ファミリアで連携し、より上質な経験値を求めて、あるいは神々も認める偉業を果たすために多くの冒険者が戦いに臨む。

それでも、多いとは言えないが、ウダイオスに挑む冒険者やその所属するファミリアは都市でも強い影響力を持ったものが多い。

 

特にゼウスとヘラが都市から去った今は尚更、だ。

 

次の階層主(バロール)に挑む実力がない者もウダイオスに新しく挑戦する者も、今は特に多い。

だと言うのに――ギルドが表向き認知()()()()()別勢力である、フェラトリウスがウダイオスを討伐した場合どうなるだろうか?

 

そう、次産期間(インターバル)の問題が起きるのだ。

 

ウダイオスに挑むともなれば、ほぼ全てのファミリアで()()が必須となる。

冒険者たちが行う遠征には数日間もダンジョンの中で活動できるように、武器や食糧も含めて、膨大な物資が必要。

必然掛かるお金も莫大なものになる。

もし、冒険者たちが把握していない階層主の討伐によって次産期間(インターバル)と遠征の時期にズレが生じた時、誰も責任を取ることができないのだ。

 

ギルド側のフェルズとしても、見知らぬ者が倒したと公表する他無い。

未だ()()の存在は世に出すことはできないのだから。

その上、守銭奴にしてギルドの腐敗の象徴で在るロイマンが遠征の保険など出すはずもない。

 

当然、そうなれば冒険者たちから不況を買う。

そして、その責任は彼らの監督不行き届きとして、フェルズに来るのだ。

 

「フェレっちも反省してるみたいだし、それぐらいに――」

 

「出来るわけないだろう、リド!ウダイオスの次産期間(インターバル)は三ヶ月超だぞ!?大手のファミリアが遠征を予定していたらどうするんだ!?異端児(ゼノス)のこともまだ口外できないんだ!ただでさえ闇派閥(イヴィルス)の台頭で忙しいというのに――!」

 

赤い鱗を纏った武装した蜥蜴人(リザードマン)

彼の名をリドという。

 

その他にも無数の武装した怪物たちが周囲にいた。

種族もバラバラな彼らは、それでいて親しげに会話をしている。

 

彼らは、喋る怪物。

通称、異端児(ゼノス)と呼ばれる下界の未知そのもの。

秘密裏にウラノスがフェルズを使いにして保護したダンジョンのイレギュラーである。

明確な発生理由は判明していないものの、彼らには共通して『人間へ憧れ』というものが存在しており、武を追求するフェラトリウスですらある意味では同じものを抱いている。

 

現在はウラノスの使いであるフェルズを監督役として、ダンジョンの裏側で起きたイレギュラーを解決するため、もしくは新たな同胞を保護するためにダンジョン内を奔走していた。

 

「でも、とりあえず、上か隠れ里に行かないか?ここだと、フェレっちがいても落ち着かないだろ?長話になりそうだし、とりあえず、な?」

 

ここは深層。

集った異端児(ゼノス)の実力は平均してLv3程度だ。

ここにいる規格外を抜けば、最強格で在るリドはLv4ほどの実力であるが、それでも深層で易々と話を交わせるほどの余裕はない。

 

「戻れば説教だ、わかったな。」

 

「承知。」

 

「そう言って守る気はさらさら無いくせに……。」

 

憤慨する隣人と明らかに非がある友人にリドは苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

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